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割戸学園高校より
作:春野エックス



対決(7)


「あ、あの、今、調査しています。いいえ、二週間以上前から調査しているのですが、荻島哲夫おぎしまてつお、薬品管理の責任者の男の行方が分かりません。密かに売買していたのだと思います。
 極秘事項ですので警察沙汰にも出来ませんし、何とか私共の手で解決しようとしていた矢先の事でした。ミルクさんにも近々お知らせしようと思っていたのですが、……」
 ミルクの激しい剣幕に、舞は真っ青になってやっとそれだけ答えると、俯いてしまった。

「舞ちゃん、貴方がやったんじゃ無いでしょうね?」
 ミルクは疑惑の目を舞に向けた。
「ち、違います! 断じてそれはありません!」
「そう、それなら良いんだけど。他の人は兎も角、小寺井さんまで犠牲になったのよ。行方不明だと言って済まされる問題じゃないわ。何がどの位の量、売りさばかれたのか把握してるんでしょうね?」
「はい、例の痺れ薬だけです。致死量は一グラム。三キログラム紛失していました。三千人を殺せる勘定になります。量の加減によって、優秀な痺れ薬として使えます。
 微量なら薬にもなります。こんな使い方を、人間にされるとは思ってもいませんでした。前にもお話した事があると思いますが、本来は痺れ薬として、動物の生け捕りように使われていたものです」
「能書きは良いのよ、その荻島という男は何処に逃げたのか見当は付いているの?」
「はい、サンシティだと思います」
「サ、サンシティ! それは拙いわね。私の偽物の両親の居るところじゃないの」
「はい、彼はその人達に、かくまわれているようです」
「あいつ等が!」
 ミルクは悔しそうに体を震わせて絶句した。彼女は偽物と言ったが、法律上は本当の両親なのだ。彼らの支配している街ではミルクと言えども手も足も出ない。

「分かったわ、それじゃ売り捌き先は分かるのかしら?」
「残念ですが、割戸シティ周辺の、裏社会に流れたらしいという曖昧な情報しかありません。一部はサンシティに持ち込まれたものと思われます」
「裏社会。それにサンシティ。ギブアップだわ。十年前ならいざ知らず、今はこの街でさえも校長派がかなりの勢力を持っている。仕方が無いわね。でも、今度この様なことがあったら、残念だけど、朝日奈一族とは縁を切るわよ」
「分かりました。二度と起こしません。衰退したといっても、わが一族、現在三百余名、百年以上も前から割戸一族のお世話になっているのですから。
 特に大造氏には大変な援助をして頂いています。必ずやその恩義に報いる為に全力で努力致しますので、今回の事だけはご容赦下さい」
 舞は深々とミルクに頭を下げた。

「わ、わ、分かれば良いのよ。舞ちゃん、そ、そんなに頭を下げなくても。これからも良い友達でいましょうよ」
「はい、有難う御座います」
 こうして本当は主従の関係にあるミルクと舞の対決は無事に収まった。しかし明日からが大変であることを、二人共に覚悟しなければならなかった。何しろ対立する勢力の筆頭、あの校長の中山剛太郎がやって来るのだから。

 中山マンションの十八階の自宅に戻った光輝は短めの風呂に入ってから、こんな時の為に買い置きしてある、湿布薬を打ち身の酷い所に貼った。   
『あちこちあざになっているな。それにしても聞きしに勝る強さだ。うーっ、しかし、体を動かすのが少々おっくうだな。まだ相当に痛い!』
 光輝はハルカと会う約束をしていた事を、少し後悔した。大した距離ではないのだが、その短い距離でさえ、今は酷く遠く感じる。
『一眠りしよう。全てはそれから判断しよう』
 ベットの上で暫くうとうとしていたが、何時の間にか眠っていた。目が覚めると午後六時半を過ぎていた。

『ふーう! ああ、良く寝た。おお、体が随分楽になったな。これなら行けそうだ』
 光輝は夕焼け空を見ながらハルカの家へ行った。チャイムを鳴らすと直ぐハルカが出て来た。今か今かと待っていた様な感じだった。
「い、いらっしゃい。こ、光輝、晩御飯食べたか?」
「いや、さっきまで寝てたからね。ようやく痛みが引けて来たよ」
「じゃあ、一緒に食べようよ。そんな事もあろうかと、二人分作って置いたんだ。今日は牛肉のソテーと、ポテトサラダと、ご飯に味噌汁とお新香なんだけどそれで良いかな? ビールとか飲むか?」
「おいおい、一応未成年というか、高校生だからさ、外では飲まないよ。あははは、家でも飲んじゃいけないんだよな」
 話をしながら光輝はキッチンに通された。テーブルの上にはちゃんと二人分の料理が支度してあった。

「あ、そっちに座ってくれないか。今ご飯と味噌汁をよそうからさ。それは熱々の方が良いと思って、盛ってなかったんだ」
「ははは、まるで奥さんみたいだな。いや、今時だと奥さん以上かな」
「えへへへ、二人の新婚生活の始まりだったりして」
 ハルカは嬉しそうに冗談を言いながら、ご飯と味噌汁をお盆に載せて持って来た。
「バイトしているからか、様になってるな。ベテランの奥さんみたいだぞ」
「はい、貴方どうぞ」
 二人は冗談っぽく、夫婦を演じた。光輝はハルカの労力に報いる為に、ご飯も味噌汁もお代わりをした。普通なら少しは遠慮する所だが、さすがの光輝も気が緩んでしまったのである。ハルカはそのチャンスを狙っていたのだ。

 食事が終って、お茶も飲み終わると、
「あのう、こっちでお話しようよ。リビングのソファに座ってリラックスしながらお話した方が良いよ」
 光輝をそう言って誘った。
「ああ、じゃあそうするか」
 光輝は部屋に不釣り合いなほど大きなソファを見て、
「ヘーっ、立派なソファだな、高かったんじゃないのか?」
「う、うん。まあ、座ってくれよ」
 光輝が座った途端に、
「光輝、好きだ!」
 と言って、いきなり抱き付きキスを求めた。一瞬の躊躇いはあったが、心のこもった料理は、男の心を溶かす魔力がある。
「ははは、ハルカには負けたよ」
 と小さく言ってキスに応じた。熱烈なキスが暫く続き、それからハルカの期待通り、キス以上の行為に及んだ。勿論避妊具は着けた上での事だったが、とうとう最後の一線を越えてしまった。

 光輝の頭の中には、
『組織なんて幻だったのだ。とすれば、恋愛は自由だろう!』
 そんな思いがあった。しかし、
『俺は本当にハルカが好きなのか? 単に情にほだされただけなんじゃないのか?』
 何だかそう思えて来て仕方が無かった。












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