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割戸学園高校より
作:春野エックス



対決(6)


 まだ登校して来ていなかったハルカに出会わない様に、中本亜美は別の道を通って自宅の道場に帰った。勿論具合など悪くは無い。
「お父さん、大変な事になりました。ちょっとこちらへ」
 数少ないとはいえ、一応道場主として、弟子達に朝稽古をつけている最中の大元に、亜美はいきなりそう言った。かなり息を切らしている所からみて、余程の事だと察した大元は、娘の非礼を叱らずに稽古を打ち切った。

「分かった、では各自自由に練習していなさい。急用なので今はこれで失礼する。定刻になっても私が来なければ帰って宜しい」
「ははっ! 有難う御座いました!」
 七、八人の弟子達は声を揃えて、師匠に一礼し、了解の意思表示をした。父と娘は、普段は空き部屋になっている光輝を陥れた部屋に入って、立ったまま声を潜めて話し始めた。

「小寺井さんが、学校に来ました」
「な、何と。信じられん、よ、様子はどうじゃった?」
 今まで一度も失敗した事のなかった大元は、予想外の事にさすがに顔色を変えた。
「彼はお父さんを見張っていたみたいです。何処で見張っていたのか分からないけど、お父さんの朝帰りを知っていました。それに、ハルカさんに事情を話したらしいんです」
「事情を話した。ば、馬鹿な。そ、それで、それだけか?」
「もっと拙い事があります。私と小寺井さんが喧嘩みたいになって、やり合っている所を、宿直していた、恩田先生に見られてしまいました」
「一撃では倒せなかったのか?」
 大元は娘の実力を良く知っていたので、不思議に思って聞いた。
「はい、防具を服の下に着込んでいました。それでも相当のダメージだったと思うのですが、必死で堪えている所を先生に見られたんです」
 亜美は少し嘘を言った。光輝を殺そうとしたとは言えなかった。

「ううむ、恩田先生というと、国語の先生で年配の人だったよな」
「はい、生徒にとても人気があります。でも拙い所を見られました。どうみても私の方が強いと感じたと思います。小寺井さんは、何故だか格闘技の実践練習だと言って、防具を先生にも見せました。最初からそういう計画だったのかも知れません。彼はお金を払う積りは無いようです」
「く、くそう、小ざかしい真似をしやがって!」
 大元は一千万のお金がふいになった事が悔しくてならなかった。
『ええい、当分の間遊べると思ったのに、相手を間違えたか?』
 心の中ではそう思ったが、
「その、小寺井と言う男は何者なんだ?」
 冷静さを装って、実際にはそう聞いた。
「前にも言いましたが、校長先生の一派ではないようです。でも普通の高校生でもありません。特別な訓練を受けているって、本人がそう言っていましたから」
 亜美も内心は一生懸命だった。父親が警察に光輝を訴えないことを必死に願っていたのである。幸いにも大元は用心深い所のある男だった。

「ふーむ、正体の分からない男を相手にするのは少々危険過ぎる。ハルカも事情を知っていると言ったな?」
「はい、彼女は小寺井さんに協力したらしいです。その他に誰かいるとも言っていました」
「うーん、ますます拙い。当分は大人しくしていた方が良さそうだな。なあに、金ならまだまだある。しかしお前が困るじゃろ。転校するか?」
「ええっ! でも、私が転校したらお父さんの立場が悪くなると思いますけど。多分噂が広がって行くと思います。そうなったら大宇宙拳はどうなるんですか?」
「しかし辛いぞ。他の生徒の、ミルクさん達が黙っていない様な気がするが……」
「私は何も悪い事はしていないのです。小寺井さんは夢でも見ていたのでしょう? そうですよねお父さん」
「あはははは、確かにそうじゃ。事件なぞ何も無かった。警察に訴えたければ訴えればよい。……例の写真は今のうちに処分しておく。薬もな。そうすれば証拠は一つも無い。
 ハルカさんとの勉強の件は、都合が悪くなったので中止にしてくれんか。あの娘は元不良なだけあって、変に鼻の利く所がある。事情を知っているのだったらこの家に入れるのは危険だ」
「分かりました。私は明日からいつも通り学校に行きます。苛められるかも知れませんけど、耐え切ってみせます!」
 亜美は大元が警察に訴える事をせずに、当分大人しくしていると聞いて安堵した。その為に強気にものが言えたのである。
 こうして中本親子の対決は事無きを得た。しかし舞とミルクの間には微妙な風が吹き始めていた。

 その日の授業も終って、二人は一緒に例のリムジンで帰宅した。その車の中では、先ずは穏やかな話し合いが始まった。
「ふふふ、結局、量子さんと、中本さんと、小寺井さんの、英語の朗読は出来なくなりましたね」
 舞が思い出した様に言った。
「うふっ、そうね、とてもそういう状況じゃないし、明日から校長先生が来る事になったし、何処かへ吹き飛んで行ってしまったわね」
 ミルクは一応楽しげに話をした。しかし、
「ちょっとお話があるんだけど、家に寄って行ってくれないかしら?」
 そう話し掛けた気持ちの裏側を、舞は知っていた。
「今日でないと駄目ですか?」
「ええ、大事なお話なので。でも三十分もあれば十分だから」
「分かりました。寄らせて頂きます」
 車は間も無くミルクの館に着いた。二人は沈黙したまま、真っ直ぐミルクの部屋に向った。

 部屋に入ると一応ミルクは内鍵を掛けた。聞かれて拙い話の時には何時もそうしている。それから直ぐミルクは険しい表情で舞に話し掛けた。
「早速なんだけど、痺れ薬の事を聞きたいわね。今日のハルカさんの話からすると、素晴しい効き目の痺れ薬らしいわね。後遺症も無いみたいだし。
 そんな薬がそん所そこらにある訳が無い。持っているとすれば、貴方の一族ぐらいでしょう? 朝日奈一族に伝わる秘伝の痺れ薬がね。
 舞ちゃん、貴方知っているんでしょう? これは重大な違反事項なのよ! 場合によっては契約、打ち切りになるわよ!!」
 最初は穏やかだったミルクの口調が最後には絶叫になった。ミルクの怒りが爆発したのである。












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