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割戸学園高校より
作:春野エックス



対決(5)


「いや、お待たせ。おや、早退の二人を除いて全員いるんですね。いやー、皆さん友達思いだ。こんな重大な事があっても『私には関係ない』という生徒もいるんですが、人それぞれ事情がありますから、一概には言えませんが、このクラスはその点は何か、安心ですね」
 お昼のチャイムが鳴って五分とは掛らずに恩田先生はやって来てそう言った。勿論褒め言葉である。更に、
「授業じゃありませんので、出来れば後ろにイスを持って行って、車座に座って貰えませんか。なるべく対等にお話致しましょう」
 そう提案した。通常の状態なら、
『チェッ! 面倒だな!』
 そんな声が聞えて来そうなのだが、緊張感の高まっている教室の中では、そんな声は全く無く、皆小走りにめいめいの座っているイスを持って、後ろに行き、車座になって座った。
 恩田先生も空いているイスを持って行って、その中の一人になった。

「じゃあどういうことなのか、ハルカさんに先ずお話して貰いましょう。座ったままで良いですから。それから余り詳しいと、時間があれですから、ざっとで良いです。その後質疑応答としましょう。それじゃハルカさんどうぞ」
 指名されたハルカは少し照れ臭い所もあったが、優越感も感じながら話し始めた。
「最初に言って置くけど、光輝と約束があって、全部話す訳にはいかない。話せる範囲で話すからさ、……」
 ハルカは喋り過ぎが無い様に、慎重に事の経緯いきさつを更に詳しく皆に話した。ほぼ全員が目を丸くして、驚きの表情のまま、ハルカの話に聞き入っていた。

「……、まあ大体こんな所なんだけど、ミルクさん良いかな?」
 ほぼ話し終わったので、ハルカはミルクに話を振った。
「はい。それで私が、大元さんに頼んだのは、私の育ての親とも言える、生前のじいやと彼と大変親しかったからなんです。
 流派は違いますが、同じ格闘家として、深い親交がありました。私はじいやに格闘術を仕込まれましたが、大宇宙拳の道場へ稽古に行ったこともあったんです」
「へへへ、その繋がりで、アタシも道場に通った事もあったし、大元のオヤジさんとも顔見知りだったし、亜美とは師匠と弟子の関係みたいだったもんで、すっかり信用してた。それがこんな事になるなんて、……」
 ミルクの話しに繋げてハルカが話したが、
「今度はハルカさんも誘ったのよね。どうする積りだったのかしら?」
 清美が少し疑問気に言った。

「男の先生の前でこんな事を言うのもなんだけど、エッチな写真でも撮って脅す積りだったんじゃないのか?」
 ハルカは常識的な考えを言った。
「うーん、それは何とも言えませんね。ただ、小寺井君の言う通り、大元という人は、更に犯罪を繰り返す積りの様ですね。しかし厄介なのは、今の話を警察が認めてくれるかどうかです。
 これが十年前だったら、ミルクさんの育ての親の、じいやさんが一言言えば、警察もすんなり認めたでしょう。ところが今は事情が違います。例えミルクさんが直々に警察に言っても、すんなりは通らないでしょう」
 恩田先生の言葉は事態が容易でないことを示していた。

「どうしてですか? ミルクさんの他に、綾姫さんも言えば、それにココさんも言えば、大抵の事は通るんじゃないでしょうか?」
 少し間を置いてから、珍しく量子が発言した。
「ははは、量子さんはこの街に長く住んでいると思うのですが、まだちょっとお若いから、この街が、ミルク派と校長派の二つに分かれている事に気が付かないのでしょう」
「ええっ! この街は二つに分かれているんですか?」
 量子は驚いて言った。
「しかも、徐々にですが校長派が勢力を伸ばしつつあるんです」
「校長先生ってそんなに凄いんですか!」
 量子は更に驚いて言った。何も知らない様なので、何人かの生徒は苦笑した。

 後難を恐れているのか、皆が黙っているので、 
「校長先生が凄いんじゃなくって、そのバックが凄いのさ。ミルクさんの義理の両親がね」
 ハルカが仕方なさそうに言った。
「まあ、多分そうでしょう。ただその話に確証は無いのですよ。それでミルク様の義理の御両親派等とは言わずに、校長派と言っているのです。
 これは内緒の話ですよ。うっかりその事が、校長先生の耳にでも入ったら、私は左遷されかねませんからね。念の為に申し上げておくと、私は中立派で御座います。でもね、中立派は少ないのですよ。
 それでさっきの話に戻しますが、校長派が勢力を伸ばして来ている以上、大元さんがたとえ中立派だったとしても、ミルクさんの敵になれば、校長派と同じ事になるのです。
 つまり勢力を強めている校長派の警察官が多いので、校長派と同じ事になる大元さんに味方する事になります。本来あってはならない事なのですが、割戸シティとはそういう街なのです」
「ああ、分かった。そうすると、警察に訴えても駄目なんだ。でもそれじゃどうすれば良いのかな?」
 それが一番の問題なのだが、量子はやっとスタートラインに立ったようである。

 しばし沈黙が続いた後で、
「ところで、ミルクさんさ、痺れ薬に関して何か知っている事は無いか?」
 ハルカはかなり聞きたいことだったが、多少遠慮して聞けなかったことを遂に喋った。
「痺れ薬、……私は全く知らないわ。舞ちゃん、何か知ってる?」
 殆ど言葉を発しない舞にミルクは聞いた。
「わ、私は何も知りません。私は薬屋ではありませんから」
 舞は何故か少しうろたえている様だった。が、少し考えてから、
「むしろ、大元さんが警察に訴えた方が良いんじゃないのかしら?」
 と、大胆に思える発言をした。

「ええーっ!」
 何人かが、特にハルカが大声で叫んだ。
「それじゃあ、光輝が警察に逮捕されちゃうだろう!」
 ハルカが怒って言った。
「でもそうなれば、お金が取れないのよ。大元さんはお金が欲しいのでしょう? 警察に訴えても、仮に裁判にでもなったら、当分お金は入って来ないから、困る事になると思うけど。
 それにそこで証拠の写真を出したら、今度はその手を使えないわ。何度も同じ様な事があるなんて、絶対有り得ないもの。もしまたやったら、マスコミの餌食になるわよきっと」
 舞は冷静に反論した。筋がきっちり通っている。

「それよっ! マスコミの力を利用したらどうかしら? 大元にお金を脅し取られた人を探すのよ。週刊誌に匿名で投書する手もあるわ。何よりの証拠は、豪遊している事だわ。そうなんでしょう?」
 ココが大発見の様に言った。
「光輝もそれに気が付いて、大元の豪遊の証拠を捉まえようとしたんだけど、一人の力じゃ無理だったのさ。それで対決する事になったんだと思う。言い合いから、喧嘩みたいになったんだろうな」
 ハルカはココの考えを柔らかく批判した。

「そうねえ、騒ぎが大きくなれば、大元さん用心して動かないかも知れないし、お金を脅し取られた人は、校長派の人よ。そう簡単に名乗り出ないわよ。だって名乗り出たら今度は校長先生が怖いでしょう?」
 綾姫は見事に推理したが、しかしそれでは八方ふさがりである。結局妙案が出ないまま、
「ここは、舞さんの言うとおり、明日どうするか、大元さんの様子を見守る方が良いでしょう。もし警察に訴える様な事がありましたら、その時は皆で光輝さんを守ろうじゃありませんか。今日はここまでにしようと思うのですがどうでしょう?」
 恩田先生がそう締め括った。反対意見は無く、それで散会となった。午後の授業開始まで十五分ほど残していたので、昼食を食べる時間はあったが、明日どうなるのか、気の重い時が過ぎて行った。












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