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割戸学園高校より
作:春野エックス



モンスター組(5)


 光輝は教室をぐるりと見回した。精神的な余裕が殆どなく、教室の様子が余り良く分かっていなかった。
『机は縦横共に五つずつ、合計二十五。普通より少しサイズが大きくて、立派な机だ。イスにはクッションが付いている。
 それと、教室の後ろが大きく空いている。後ろの壁に二段重ねのロッカーがある。大きく番号が書いてあって一番から三十番まであるんだ。
 ああ、俺の机の番号は十七なんだな。キーが差し込んだままになっているということは、このキーとロッカーのキーが同じものなのだろう、キーにも同じ数字が書かれているからな。しかし退学になるから使うことも無さそうだ』
 ぼんやりそんな事を考えていると、
「自習したい人の邪魔にならない様に、関係者の方は後ろに集まって下さい。立ったままになりますけど、十分も掛らずに終ると思いますので我慢して下さい」
 相変わらず、涼やかな声でミルクが言った。

「私は、貴方の味方ですから」
 綾姫はかなりの決心を見せて言った。光輝はこくりと頭を下げて、微笑んだ。内心はもう覚悟している。多数決では勝ち目が無い。

 夢見ココの態度は一貫している。教室の後ろに二人と四人とが対峙したが、相も変らず光輝を見ない様に顔をそむけている。
「余り長く話し合っても無駄だと思いますので、小寺井さんに最後の弁明のチャンスを与えましょう。どうぞお話下さい」
 ミルクは冷徹に言った。

「うーん、そうですね、俺が校長先生の回し者ではないという事を証明すれば良い訳ですね」
「はい」
「しかし、俺が何を言っても、嘘だと言われればそれまでです。つまり圧倒的に俺は不利な立場にある。そこで提案ですが、俺が校長先生の回し者だという証拠はありますか? あるんだったら見せて頂きたい」
「また開き直った。ここに来る前に、校長室に立ち寄っただけで十分だろう」
 ハルカが苦々しそうに言った。

『見事に茶髪。穴だらけのGパン、おへその見えるノーブラのTシャツ、幾つものイヤリング、おへそにも付けている。すっかりヤンキーだなこいつは』
 光輝はハルカの言葉よりもそっちの方が気になった。
「何見てんだよ!」
 光輝の視線に気が付いたのか、ハルカはちょっと怒鳴った。
「静かに!」
 ミルクがまた注意する。ハルカは口をつぐんだ。

「あのう、お言葉を返すようですが、小寺井さんはこの街の事も、この学校の事も、この教室の事も余りご存知ありませんわ。少しお話してみて、直ぐに分かりましたもの」
 綾姫の言葉に朝日奈が即座に反論した。
「それだけ嘘が上手なのです。綾姫さん、騙されない方が宜しいですわよ」
 光輝は二人の話の内容よりも、言葉遣いの丁寧さに感心した。

『今時こんな会話は珍しいな。お陰でこっちまで丁寧に言っちゃうよ』
 光輝は何時になく丁寧な言葉遣いになってしまっている自分にちょっと苦笑した。
「ふふふっ!」
「何が可笑しいの。気持ち悪い笑い方をしないでよ!」
 下を向きながら、夢見ココは小さく怒鳴った。

「夢見さん、貴方の態度はちょっと失礼だわ。ちゃんと相手を見ながら話して欲しいわね!」
 少しきつい調子で綾姫はココに言った。ココは何も答えなかったが、ハルカが少し詳しく言った。
「ここに転校して来る奴には、二つのタイプがある。一つは校長の回し者で、ミルクさん目当ての奴。もう一つは、スーパーアイドル夢見ココさん目当ての奴だ。
 その顔じゃあ、どう見たってココさんに相手にされる筈が無い。とすればミルクさん目当てに決まっているのさ。それとも、その顔でココさん目当てなのか? 有名なんだぜ、面食いコ……」
「ハルカ!」
 ココがかなりの形相でハルカを睨んだ。
「夢見さん! お静かに!」
 ミルクは困った表情で注意した。

「これ以上の話し合いは無意味ですわね。仕方が御座いません、採決いたしましょう」
 ミルクは話し合いが余計な方向にそれ始めている事を懸念して、決断を下す事にした。
「あの、最後に一つだけ宜しいでしょうか」
 綾姫は何とか食い下がろうと必死だった。
「それで終わりにするのなら宜しいですわ。どうぞ綾姫さん」
 ミルクは綾姫の気持ちを察して言った。
『綾姫さん、小寺井さんに一目ぼれなのかしら? ちょっと気の毒だから聞くだけは聞いてあげましょう。私の気持ちはもう決まっていますけど……』

「小寺井さんは、光輝さんは私を笑ったんです」
 それがどうしたのか、皆不思議そうに綾姫を見た。
「今まで何人かいた転校生で、私を初対面で笑った人は居ません。一人もです。何故でしょうか?」
「笑っちゃ失礼だからだろう?」
 ハルカが当然とばかりに言った。

「いいえ、光輝さんは何も知らなかったからです。他の人は知っていた。だから心構えが出来ていた。だから私のこの珍妙な格好を見ても笑わなかったのです」
「へえーっ、一理あるな」
 ハルカは今までの転校生の事を思い出してみた。全員がすんなりクラスに溶け込んだ。こんな異常とも思えるクラスに、すんなり溶け込める方が少しおかしい。

 ミルクにもそれが分かった。確かに今までやって来た転校生とは違う。だが夢見ココにとっては単なる不快害虫に過ぎなかった。
「そんな事はどうでも良いのよ。早くこいつを、いいえ、小寺井さんを退学にして下さい。疑わしきは罰すべし、ですわ」
「私もそう思います。今までのやり方ではらちが明かないから、校長先生が方針を変えて来たのかも知れません」
 朝日奈は夢見に同調した。

 ミルクはチラッと自分の腕時計を見た。もう余り時間が無い。
「もう時間もありませんから、採決します。小寺井光輝さんを退学にすべきだと思う人は手を挙げて下さい」
「はい!」
 賛成したのは、ミルク、ココ、朝日奈だった。
「じゃ、じゃあ、は、反対の人は?」
 ハルカが賛成しなかった事に、ミルクは動揺した。

「はい!」
 反対は、光輝、綾姫、そしてハルカだった。
「ハルカさん!」
 朝日奈が顔をしかめて言った。
「別に疑いが晴れた訳じゃないけどさ、今の所何にもしてねえし、退学させるのには、証拠不十分じゃないのか?」
 ハルカの態度は公正だと、ミルクは渋々ながらもそう思った。

「ポロロロロローン!」
 一時限目の授業は終了した。
「仕方がありません。この件は一応保留にしておきます。もし疑うのに十分な証拠が新たに見付かったら、その時は容赦しませんわよ。宜しいでしょうか、小寺井光輝さん」
「はい、ボロを出さない様に気を付けます」
 光輝はわざと挑戦的な態度を取った。ココは相変わらず光輝を見なかったが、朝日奈とミルクは、きっ、と睨んでからその場を去った。
「ただの鼠じゃねえよな!」
 ハルカはにやっと笑って去って行った。
「いや、どうも、何と言ったら良いか、兎に角有難う」
 光輝は綾姫に本心から感謝してそう言った。












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