夢見ココの事情(1)
しかし舞が言った言葉に、ミルクは嫌悪感を見せた。険しい顔付になり、
「ちょっと済みません。舞さんと二人だけでお話がありますので、少しここで待っていてくれませんか。舞さん、食堂へ来て下さい」
「あ、は、はい」
舞の顔色も急に変わった。ミルクと舞は無言のまま食堂に入って行ってドアを閉めた。
「何なのかしらね……」
ココは不安げに言った。
「うーん、朝日奈村の消滅と関係がありそうだけど、良く分からないな。ココさん朝日奈村のこと知ってた?」
「いいえ、全然聞いた事が無い。私達中学の一年生からの仲良し三人組だったのに、二人との間にこんな秘密があるなんて、私だけどうして仲間外れなのかしら。……最初っから仲間じゃなかったのかも知れないわね」
ココはちょっと落ち込んだ。
「防音が徹底しているから、中の話し声は全然聞こえないね。喧嘩になってなきゃ良いけどね。ココさん、さっき中学一年からの仲良し三人組だって言ってたけど、ずっと同級生だったのか?」
光輝の最も知りたい舞の情報を得ようと、ココに色々話を聞いてみることにした。
「ずっとな訳じゃないけど、高校になってからはずっと同じA組だった」
「中学の時は?」
「一年の時と三年の時が一緒で、二年の時は別々だったわ」
「そのう、ミルクさんと舞さんは一緒だったのかな?」
「そうなのよ、二人はずっと一緒だった。小学校高学年から偶然に一緒だったって、言ってた」
ココは光輝が舞とミルクの事ばかり聞きたがっている事に気が付いて、不快だった。
「あのう、私の事はどうでも良いんですか!」
やや強い口調で言った。
「いや、そんな事は無いよ。ただあの二人が何時もべったり一緒なんで、何か変だと思ってね。ココさんもそう思わないか?」
「それはそうだけど、私の方を振り向いてくれても良いんじゃありませんか!」
二人きりの時間が長くなるにつれ、ココは段々自分の思いを光輝にぶつけ始めた。
「えっ、その、俺が嫌いだった筈じゃないんですか? 背が低いからだめなんでしょう?」
「……最初は大嫌いだった。でも何時の間にか光輝さんの事が気になって仕方が無くなった。自分で自分が信じられないんです。
イケメンの事とか身長の事とかどうでも良くなりました。スタジオにいる時でも、ちょっと間が空くと光輝さんのことばかり考えている。
何とか気持ちを切り替えようと思うんですけど、駄目なんです。せ、責任を取って下さい。私をこんな風にしてしまった責任を取って下さい!」
ココは光輝をじっと見詰めながら、そう言って迫った。
「お、俺は何もしてないだろう。あんた等の望み通り、フリータイムだって変えたんだから」
「それは本質的な問題じゃありません。……簡単に責任を取る方法があるんですよ」
「ええっ、ど、どんな?」
光輝はちょっと面食らった。
『夢見ココも立派にモンスター組の住人だな。言ってる事が普通じゃない!』
光輝はたじたじとなりながら、ココの責任の取り方について聞くことにした。
「私を本気で好きになれば良いんです。それで万事解決します」
「ああっ! そ、それは……」
光輝は呆れもしたが、なんという奇妙な愛の告白なんだろうと思った。
「そんな事を急に言われても、はいそうですかって出来る事じゃないよ。ついこの間まで俺はすっかり嫌われているんだなって思っていたんだから」
「分かりました。それじゃもう少し待ちます。でも私にもっと関心を持って下さい。例えば私の事をあれこれ聞いて下さい」
『舞さんとミルクさん早く来ないかな。ココさんのお守りはかなり大変だ……』
光輝は時間潰しにココのあれやこれやを聞いてみる事にした。勿論ココに興味があるのではなく、何か舞やミルクや割戸シティに関する情報が手に入るかも知れないと期待しての事だった。
「先ず聞きたいのはどうしてアイドルタレントになったのか、またなれたのかって事だ。まあよくあるのは路上でスカウトされたとか、タレントのオーデションに出てグランプリを取ったとかだけど」
光輝に聞かれるのを待っていたかのように、ココはかなりのスピードで喋り始めた。
「それ以前に私が何処の誰だか知ってる?」
「ええっ? だから夢見ココ、アイドルタレントだろう?」
「じれったいわね。夢見産業って知ってる?」
「まあ、名前だけは。一流企業だよね」
「ほんっとに何も知らないわね。夢見産業と言うのは、夢見企業グループの中核になっている企業で、年商数兆円の巨大企業なのよ。
そこの社長の五番目の末娘が私なのよ。私の父は夢見朔太郎。母は楓。母は父の三番目の奥さん。一人目は病死。二人目は離婚。母の楓の子供は私一人。二人の兄と二人の姉がいるけど、年も離れているし、母が違うので冠婚葬祭の時以外は殆ど会った事もないわ」
「へえーっ、凄い所のお嬢さんなんだな。それで今ふっと思ったんだけど、夢見ココって本名なのか?」
「そう、れっきとした本名よ。でも大抵の人は芸名だと思っているから、光輝さんが間違えるのもしょうがないわね」
舞とミルクの話は長引いているらしく、なかなか戻って来ない。光輝は止むを得ず、もう少し聞いてみる事にした。
「タレントには何時なったんだ? 最近は結構早いよね。小学生タレントだって、珍しくないからな」
「私がなったのは中学に入ってからなんだけど、それには悲しい理由があるのよ」
「ええっ! 悲しい理由?」
光輝はまたも面食らった。
『今時タレントになるのに悲しい理由なんてあるのか? 昔は貧乏で仕方なくやったこともあるらしいけど、今は聞いたことが無い。何たって大金持ちのお嬢さんなんだからな、仕方なしになんて有り得ないと思うけどな……』
さっぱり訳が分からなかった。
「あのね、私達中学の時、校内では有名な美少女トリオだったのよ。いいえ、校内だけではないわ。割戸シティ中で有名だったのよ」
「へえーっ、まあ何と無く分かるな。でも舞ちゃんは……」
「顔の赤いブツブツは当時は無かったのよ」
「そうなんだ、それなら納得だ」
「それでニックネームが付いたのよ」
「ほう、ほう!」
「マイ、ミルク、ココア」
「マイ、ミルク、ココア?」
「うん。マイは舞ちゃん、ミルクは勿論ミルクさん。ココアは私の事」
「何か美味しそうなニックネームだね」
「ふふっ、最初は私もただそう思っていたのよ。舞ちゃんもミルクさんもそう思っていたと思う。でもそれだけの意味じゃなかったのよ」
ココの表情は急に暗くなった。 |