モンスター組(1)
「ええと、村山先生はおられますか」
職員室に入った光輝は、近くにいた中年の女の先生に聞いてみた。
「ああ、貴方が噂の、ああ、失礼、小寺井光輝君ね。村山先生! 転校生の彼が来ていますわよ」
「ああ、今行きます」
他の先生と話をしていた村山信二先生は直ぐに話を止めて、やや緊張気味に走って側までやって来た。
「バッチとかは揃っているな。生徒手帳は持っていますよね」
「はい」
光輝は一応ポケットから出して見せた。
「ああ、良い、良い。有れば良いんだ。じゃあ後に付いて来てくれ」
「はい」
職員室は一階の中央辺りにある。ここには常に複数の教員がいるので、防犯上の理由から中央玄関に最も近い位置に配置してあるのだった。
A組は玄関から入って右の端の方にある。光輝が驚いたのはB組とA組の間に階段があって、しかも教室の作りがまるで違うことだった。
一階は宿直室になっていて、ここの作りはさほどではない。しかし二階からの教室は部屋の大きさは同じなのだが、一言で言えば大変に豪華だった。基本的な作りは同じでも外装も内装も立派で、他の教室とは比べ物にならないのだ。
「へーっ、A組は立派な作りなんだな……」
二階、三階と上がるにつれて光輝は思わず声を漏らした。だが村山先生は全く反応しなかった。妙な緊張感だけが伝わって来る。
「カラ、カラ、カラ、……」
滑りの良い滑車の音をさせて、高級な一枚板の彫刻まで施してある引き戸を村山先生が引いて開けた。光輝はその戸を閉めて鞄を床に置き、村山先生の隣に立った。
「起立! 礼!」
涼やかな女性の声が響く。
「お早う御座います!」
「お早う!」
光輝は一瞬目眩がした。
『これが教室? シャンデリアが下がっているぞ! 床には赤い絨毯が敷いてある! それに生徒の服装もまちまちだし、何よりも……』
光輝が教室に入って真っ先に感じたのは、
『女臭い!』
そう思えるほどの臭いであった。恐らくは化粧品か香水の匂いが混ざり合った香なのだろう。今まで様々な学校に入ったことがあるが、これほど変ったにおいのする豪華な教室は見た事が無かった。
「ええーっ、今日は転校生の紹介です。小寺井光輝君だ。五葉高校から転校して来たのですが、宜しくね。それじゃ小寺井君、自己紹介をしてくれないか」
「五葉高校から父の仕事の都合で転校して来た、小寺井光輝です。宜しくお願いします」
「どうせ、校長の回し者なんだろう! さっさと帰れ!」
光輝の自己紹介が終るか終らないかのうちに、窓際の席から、厳しい口調の声が投げ付けられた。
「ハルカさん、言葉が過ぎますよ!」
先程の涼やかな声の主が注意した。ハルカと呼ばれた女生徒とは反対に廊下に近い席に座っている女生徒である。
『多分あれが問題のミルクさんか?』
光輝の予想は見事に外れていた。
『もっと傲慢な感じの、女王様然としている生徒かと思ったけど、全然違うぞ。どうなっているんだろう? それに……』
光輝にとって不可解な発見が他に幾つもあったが、それ等を判断する前に、サッと手を挙げた者があった。校長室に行く時にすれ違った、顔の中心の辺りに赤いブツブツのある女生徒である。
「何だね、朝日奈君」
「はい、私はこの人が今朝ここに来る前に、校長室に入って行くのを見ました。先生はご存知でしたでしょうか?」
「あ、そ、それは、生徒手帳とかバッチを受け取る為に……」
「それは変です。普通転校生は担任の先生からそれ等を受け取る事になっている筈です。ミルクさん、そうですよね」
「その通りです。校長先生がそういう事をなさらない様にと、ご注意申し上げた筈ですが、村山先生、お忘れでしょうか?」
「ああ、ええと、ああしまった! 大事な用事を忘れていました。大変申し訳ないのですが、ミルク様、後は宜しくお願い致します。け、決してミルク様に逆らおう等とは思っておりませんので。で、では失礼致します」
村山先生は血相を変えて教室を出て行った。
「ちぇっ、また逃げやがった!」
「ハルカさん!」
「へーイ、済みませーん」
ハルカと呼ばれた生徒は仕方無さそうに従った。
「それでは先生が急用の様なので、私が代わりに、先程の件に付いての意見を、皆さんから伺いたいと思います」
涼やかな声の主は教室の前の教壇の上に立って、
「私はこのクラスの委員長をしております、割戸ミルクと申します。宜しく」
と、光輝に軽く頭を下げて自己紹介した。
「早速ですが校長先生とここに来る前に、どんなお話をされたのでしょうか? お聞かせ願いませんか?」
丁寧な言葉遣いが、尚更不気味な迫力となって襲い掛かって来る様に光輝には感じられた。 |