校長室での出来事(3)
「……、あはははっ!」
少し間を置いてから校長は笑い出した。
「そんな子供じみた、口から出任せが、通用するとでも思っているのか、オイッ!!」
口調がややヤクザっぽいものに変わり、凄い形相で光輝を睨み付けた。隠されていた本性が現れて来た感じだった。
「ここに点滅している、ハートのマークがあるでしょう?」
脅しに臆する事も無く光輝は左腕の時計を見せた。
「そんなものを見せてどうする積りだっ!」
校長の口調は激しさを増して行った。
「この点滅は俺の心臓の鼓動と一致させてあるんですがね。早くなり過ぎたり、遅くなり過ぎたりすると、あんたの足元に置いてある、鞄が爆発する仕掛けになっているんですよ」
「えっ、……、お、面白い、やって貰おうじゃないの、こうすればどうする!」
校長は一瞬、ビビりそうになったが
『ハッタリに決まっている!!』
そう確信して、光輝の胸倉を掴んで、服を絞り、間接的に首を絞めていった。
「ピ、ピ、ピ、ピ、ピピピピ……」
腕時計の中の点滅する小さなハートのマークが、緑色から赤い色に変わり、警告音らしい音を発した。
「シューッ!」
すると鞄の下の方から、黒い煙が猛烈な勢いで噴出して来た。
「ウワアーッ!!」
足元の煙に驚いた校長は半狂乱になって飛び退いた。
「バッターンッ!!」
勢いがつき過ぎて、座っていたソファを倒し、その後ろにひっくり返った。
「や、や、止めろ! 止めてくれ!」
校長は顔面蒼白になって、光輝に頼んだ。
「大丈夫です、もうドキドキしていませんから」
光輝は落ち着いた様子で、腕時計のハートのマークが緑色に戻っていることを校長に見せた。
「ああ、け、煙探知機のスイッチを切らないと!」
慌てて壁のスイッチを押した。それから窓を大きく開けて、部屋に充満しつつあった黒い煙を外に出しに掛った。
「ど、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ。あんただって死ぬかも知れんのだぞ」
落ち着きを取り戻して来た校長は、まだ少し疑いの目で見ながら、光輝に聞いてみた。
「ふふ、大きな失敗をすると、組織に消されるからですよ。ここで失敗したら、今日、明日にでも俺は処刑されますからね。こんな事位で驚いていられないのですよ。
言い忘れていましたが、俺が組織から命令されたのは、三年A組に転校して、一定期間、重大な犯罪行為が起きないようにする事、です」
「わ、訳が分からん。じゃあ、あんたの、相棒のオヤジさんというのは?」
険しい顔で確かめようとした。まだ少し疑念を持っている。
「彼は仕事の仲介役です。でももう日本にはいないんじゃないのかな?」
「それじゃあ、金は?」
「彼に請求して下さい。俺は一円も受け取っていない」
「だ、騙されたのか!」
「多分ね。本来なら報酬は組織が半分、残り半分を俺と彼とで折半する事になっていた。しかし全額持ち逃げされた。彼は組織からも追われる事になると思います。警察に届けますか?」
「ま、まさか、事が公になったら、私もただでは済まない……」
悔しそうに唇を噛んだ。
「他に用が無ければ、これで失礼します。……組織を甘く見ない方が良いですよ」
一言釘をさして、光輝は何事も無かったかのように、一礼すると、物騒な鞄を持って職員室へ向かった。担任の村山先生と一緒に教室に行く事になっていた。
『く、くそう! 馬鹿にしやがって! へへっ! あの鞄さえ無ければこっちのものだ。万一爆発したら他の先生達には気の毒だが、俺は無事なんだからな』
わが身が安全である事を良い事に光輝が校長室を出て行って、少し間を置いてから、
「ああ、中山だが、若井君を頼む」
職員室に電話した。
「若井君、例の教育問題コンサルタントの連中なんだがね、とんだ食わせ物でね、今そっちに一人、小寺井光輝という偽学生が向かっているんだが捕まえてくれないか」
「抵抗したらどうしましょう?」
「少々怪我をしても構わんから……」
「俺を捕まえてどうする積りですか?」
校長は凍りついた。何時の間にか光輝が戻って来ていたのだ。しかも話が筒抜けの様だった。
「わ、わ、若井君、今の話は無かった事にしてくれ」
「えっ、何にもしなくて良いんですか?」
「ああ、そうだ、何もしなくて良い。全部忘れてくれ」
「はい、承知しました」
「これが最後の警告です。さっき組織を甘く見るなと忠告した筈ですよ。この学校には俺以外にも組織の人間がいるんじゃないのかな。電話の一部始終は組織から送られて来たんですからね」
「ほ、他に、いるんですか?」
急に言葉が丁寧になった。
「多分ね。必要な情報は組織が逐一知らせてくれるんでね。俺以外の誰が組織の一員かなんて勿論俺も知らない。そういうシステムになっているんですよ。
命が惜しかったら少なくとも学校の中では大人しくしている事です。俺がこの学校にいなくなったら多分大丈夫でしょうが。それじゃあ、失礼しますよ」
光輝は笑みを浮かべながら校長室を出て行った。
『ううう、く、くそう! 舐めやがって! だ、だが、見ておれ! 私の言う事を聞けば、三年A組のあれやこれやをもっと教えてやったのに!
直ぐにも恐ろしさを知ることになるぞ! ははははっ! 三年A組、またの名を、モンスター組の恐ろしさをな! ははははっ!』
盗聴されているらしい事を知って、校長は心の中だけで、悔し紛れに叫び続けていた。 |