日本少し昔話 鎮守様の神隠し
あれは、昭和十七年の九月の話だよ。
爺ちゃんが国民学校の五年の時だ。
爺ちゃんが昔住んでいた、今はダムの底になっちまった村での出来事でね。
昔は稲刈りせにゃならんから秋休みがあってね、その最後の日でな。
忘れもしない、集落の鎮守様の秋祭りの日のことよ。
日中は空に雲ひとつ無く、風も全く吹いておらんかった。
それが日が落ち始めた頃からどうにもおかしくなってきた。
山肌を這うように北西から低い雲が津波のように這ってきた。
風は轟々と吹きつけて祭りもクソもなくなってしまった。
仕方がないので、翌日の片づけを前倒しで終えると三々五々、皆足早に家路に着いた。
爺ちゃんもすぐ帰って、母親の夕飯の支度を手伝いをしたり、兄弟の面倒をしたりして夕飯までの時間を潰しとった。
その間にも風は勢いを増して轟々と吹いて、しまいにゃ雨まで降り出してきた。
親父らは干してある稲束が気になったもんで田圃まで見に行ってしまった。
爺ちゃんらは、配膳もすんで親父が帰ってくればすぐ飯だと喜んどったが、親父の帰りが遅い。
二、三十分嵐に家の軋む音を恐ろしく聴きながら待っていると、血相を変えて親父が帰ってきた。
「カネゼンとこの息子がいなくなっちまった」
開口一番そう叫ぶと土間においてあった手ぬぐいで身体を拭き始めた。
母親は父親の雨具やらを片付けながら、何やら二人で話しておったが、俺ら子供には聞こえんかった。
俺はただ事じゃないと思ってソワソワしながら聞き耳を立てたが、嵐のせいで全く聞こえんかった。
カネゼンの息子というのは、幸蔵と言って俺よりも三級下の腕白でどちらかというと餓鬼大将といった風体の子供で溌剌としたギョロ目が印象的だった。
幸蔵の事は知っているには知っているが、同じ集落とはいえ何せ三つも違って仲が特に良いわけでもないから、何が好きだとかそういう事を知らん程度の仲だった。
そうこうするうちに親父が着替え終わると飯になった。
ちょうど、祭日だったから親父がブツブツと神様うんたらかんたらと感謝の言葉を呟いて、いただきますと飯を食い始めた。
親父は元来食べるのが遅いほうだったが、物凄い勢いで食い終わると、すぐに雨具を持ち出して外に出て行った。
そのすぐ後に集落の半鐘が狂ったように鳴り響いてきた。
母親は怯える爺ちゃんらを諭して風呂を沸かせて、その日はやることも無かったから風呂に入ってすぐに寝ちまった。
次の日の朝はすこぶる快晴で嵐が嘘のようだったが、父親はまだ帰ってきていなかった。
その日、学校に行くと幸蔵の話で持ちきりだった。
やれ神隠しだの天狗だの子攫いだのと噂が飛び交っとったが、見つかったと言う話は聞かなかった。
放課後になり、田圃の後片付けがあるもんで、家に勉強道具を置いて出かけると畦をヤマゴの親父さんとマルシチの親父が消防団の半纏を着て走ってきた。
ヤマゴの親父さんは、ひょろひょろと背ばかりが高く、マルシチの親父は反対にチビでデブでね、ヤマゴの親父の後をちょっと遅れてマルシチの親父が死にそうな顔で追いかけて行った。
俺は幸蔵が見つかったと思って、畑仕事を放り出してその後ろを追った。
ヤマゴの親父さんらは消防団の詰所に駆け込んで行き、入り口の前には若衆が棍棒をもって近寄らないように野次馬達にがなり散らしていた。
しかたなく爺ちゃんは、昔かくれんぼで入ったことがある、消防団の真裏にある藍澤國二郎商店と金倉鍛冶屋の隙間に入り込んで無造作に積まれたガラクタを掻き分けて進み、声が聞こえるところを探した。
俺は消防団の真裏に出ると耳を澄ましてみた。
すると、どこからか人の話し声が聞こえてくる。
抜き足差し足忍び足で行ったり来たりしていると消防団の建物ではなく、横に併設されている青年団の剣道場の方から聞こえてくる。
どこか中の様子が見えるところがないか探していると、廃材の陰になったところに小さな穴が開いているのを見つけた。
そこから慎重に覗き込むと剣道場で車座に大人たちが幸蔵を取り囲んでいた。肝心の幸蔵は反対側を向いているため顔は見えなかった。
車座に取り囲む面子は当時の村長をはじめとした偉い人がずらりと勢ぞろいしていて、皆神妙な顔つきで幸蔵の顔を見つめていた。
俺に見える範囲でわかったのは、当時の村長・出納役・郡役場の竹林のおじい・小学校の校長・爺ちゃんの親父・幸蔵の父親・マルシチの親父・材木工場の職工長をしていた清藤の彦佐と後姿で傴僂の助役と恰幅のいい右翼団体のカネテツ親方がいることがわかった。
俺はその中で、幸蔵の親父まで皆と同じような表情をしているのに違和感を覚えた。
幸蔵の親父の名は幸一と言い、郡役場の事務方で真面目一辺倒な男で集落どころか村内でも相当に有名だった。
優しい性格であまり人から嫌われるようなことはなかったが、算盤を弾くのが得意でここいらでは成金の一角としても知られていて、中には悪く言う人もいた。
まぁ、そんなことはいいんだ。
息子が見つかって喜ばしいはずなのに、幽霊のように青白い顔で何か言いたげに息子の顔を穴が開くほどに見つめている。
様子のおかしい親父を意にも介した様子を見せず、車座の中心にいる幸蔵は恐ろしい声色で怒鳴り散らしている。
その声は子供とは思えないゾッとするようなドスの利いたしゃがれた声と聞き慣れた幸蔵の声が二重になって聞こえるようだった。
幸蔵が大人たちに言っていることは、距離が少し離れていて聴き難かったことと、チンプンカンプンな難しい言葉ばかりで良くはわからなかった。
皆直立不動の姿勢で聴いており、助役などは頭を下げて「申し訳ありません」とはっきりと聞える大きな声で謝ったので俺は度肝を抜かれた。
平素、幸蔵が癇癪を起こしているを何度か見たことがあるが、そんな怒り方じゃなかった。
もっと、恐ろしく口調も少し時代がかった年寄りが話すような言葉遣いだった。
幸蔵に怒鳴られるたびに大人のうちの誰かが頭を深々と下げて頭をあげることが出来ない。
爺ちゃんの親父は丁度顔が見える方向にいて真っ青な顔をして直立不動の姿勢で幸蔵の言葉に聞き入っている。
爺ちゃんは見ちゃいけないものを見ている事に心臓が高まった、が、同時に拙いぞという直感のようなものが背筋を電気のように走り手先足先まで突き抜けて疲れてしまった。
話が一段落すると静寂が訪れる。
それは気まずい沈黙という奴で、一同何か心内にやましいことでもあるのか項垂れてしまい、当の幸蔵だけが身体を揺らして所在なさげにしていた。
重苦しい空気を打ち破るように村長が幸蔵に何事かを話しかけると、幸蔵が口を開いた。
瞬間、幸一の表情が一瞬のうちに憎悪を剥き出しにした歪な表情に変わった。
その醜悪な表情は筆舌に尽くしがたく、地獄の亡者にもそうそういる顔ではないと思われた。その変わり様に驚いて声が咽喉元を通りかかるが咄嗟のところで押さえ込んだ。
そして幸一は物凄い勢いで幸蔵の側面部を殴りつけると、道場の床に吹っ飛びうつ伏せに叩きつけられた幸蔵を更に馬乗りになって何発も何発も追い討ちをかけるように殴りつけた。
丁度、爺ちゃんから見ると、馬乗りになる幸一の背中に隠れてしまい、幸蔵がどこを殴られているのかは見えなかった。
しかし、限界まで腕を曲げて引き絞った鉄拳が振り下ろされるのと、耳を覆いたくなる不快音で酷い状況であることが容易に想像できた。
肺から空気を無理矢理抉り出したような聞き苦しい呻き声が幸蔵の咽喉から漏れ聞こえ、拳が小さな身体にめり込むたびに幸蔵の四肢がピクリ、ピクリ、と微かに震える。
ゴリッ、ゴリッ、と骨と骨が軋みあう鈍い音は壁を挟んで聞いている自分の耳にまではっきりと聞こえてくる。
メリッ、メリッ、と骨が潰れて皮膚内の組織が外部からの圧力に拉げていく生々しい音も聞こえてくる。
目を瞑って見なかったことにしたかったが、もし幸蔵の親父が不意に振り向いてこちらに気づいてしまったら、俺の視線とあのもの凄い悪鬼の相から発せられる狂気の視線とかち合ってしまったら、そんな事を考えるととてもではないが、視線を外すことなど出来なかった。
更に驚いたのは、村の顔役の誰もが目を見開いて微動だにせず、その様子を眺めていることだった。
やかましやの人格者として、近郷でも有名な校長ですら。口を真一文字にギュッとつぐんで黙りこくっていた。
子供がだいの大人に殴り殺されようとしているのに、もう死んでいるのかもしれないのに、誰一人として止める者がいないその光景は、異常としか言いようがなかった。
何度も何度も殴られて幸蔵の四肢は完全に動きを止める。
それでも幸蔵の親父は殴るのを止めない。
本能を過剰に刺激して止まない不快な音は断続的に続いて、ピカピカに磨かれた剣道場の板床に真っ赤な真っ黒な、独特のトロリとした液体が広がっていく。
ジワジワと同心円状に広がっていく赤黒いそれを見つめていると気が遠くなってくる。
爺ちゃんが眩暈にクラクラしている間に揺れる視界の中で幸蔵の親父は拳を振り下げるのを止めた。
幸蔵の顔は、顔のあった場所は、グチャグチャにメチャクチになっていた。
あまりの事に良くわからなかった。
良くわかっていたが、わからなかった。
まるで悪夢が覚めるのを自覚している時のような、そんな精神状態で俺は呆けてしまっていた。
幸一は幸蔵が動かなくなるのを確認してから村長に何かを言うと、村長は頷き皆に訓示するように大げさな調子で話すとカネテツ親方が部屋を出ていった。
すぐに親方は戻ってきて、脇に抱えてきた筵を幸蔵の亡骸にぞんざいにかけると皆一瞥もせず一言も話さずに部屋を出て行った。
爺ちゃんは怖くなって足音を忍ばせつつ裏道へと逃げ出した。
頭の中をグルングルンと幸一の顔が浮かんできた。
万華鏡のように散っては収縮し、収縮しては散っていく。
忘れようとしても忘れられず、あの光景が脳裏にちらつくままフラフラと畑に向かって歩いて行った。
やっとの体で畑まで戻ると心身ともに最低にまで疲弊した身体に鞭打って、後片付けをなんとか終わらせると家路に着いた。
秋の日暮れは幾分か歩を早めつつあった。
真向かいに堂々と大きく輝く日輪は山の端にもう半分ほど浸かっている。
この日ほど、夕暮れの畦が怖いと思ったことはなかった。
赤々と毒々しい極彩色の光が幸蔵の首先から流れ出る血液を思い出させた。
片手を日除けに翳しながら歩いていくと。御日様は徐々に寝床へ帰っていく。
眩しい輝きが山陰に落ちきって、申し訳程度の残光がいよいよ消え失せる頃に俺は家に辿り着いた。
家の戸の少し前で足がピタリと止まる。
遥か向こうを仰ぎ見て山の端の残光と家の戸を交互に見交わす。
あの残光を見れば無残に命尽きた幸蔵を思い出さずにいられず胸が震える。
そして、この戸の先には人殺しを黙認した父親がいると考えると手足が震えた。
爺ちゃんは、中々足を進めることが出来なかった。
あの光景を見ていたことが顔役連中や親父が知っていたら、次は爺ちゃんがああなる番だという現実が、更に重しとして乗っかかり、足を踏み出すことを許さなかった。
動くことが出来ず頬を額を冷や汗が滑り落ちていく。
長くて短い時が逡巡した。
不意に鴉が『カーカー』と二度啼いた。
はっとして、振り向き見渡せば通りは静か過ぎるくらい静かで人っ子一人いない。
妙にひんやりとした秋風が肌をさらりと音もなく撫で擦って去って行った。
今は夕飯時、いつもなら周りの家々から聞こえてくるはずの団らんの声はなく、鴉もそれっきり鳴かなかった。
異様な静けさに肌が粟立って、腹を決めると実家の木戸を引いた。
親父は家に戻ってきていて、母親も兄弟もちゃぶ台を囲んで俯き加減で座っていた。爺ちゃんは親父に帰宅が遅れたことを詫びて用意された飯の前に慌てて這い寄った。
変な緊張感で少し呼吸を荒くする爺ちゃんに「幸蔵は死んだぞ、狂死だぞ」と親父が冷たく言い放った。爺ちゃんは見ていたのがばれたのかも知らんと、顔から血の気が引くのがわかった。唇をわなわなと震わせていると、父親はいつもの調子で簡単に訓示をして、家族は飯を食べ始めた。その日はそれっきり何も無かった。
次の日には、通夜もなく葬式をして早々に荼毘に付し、幸蔵の祖父が作った一族の墓に納骨することになった。
普通は通夜もするし、四十九日待ってから納骨だが、なんのかんのと理由をつけて納骨となったそうな。
でだ、近郷のものが、ぞろぞろと列を成して墓に向かう。
親族はおろか親ですら泣きもしない、不思議な葬列だった。
墓に着くと集落のあった西の寺の和尚さんがお経を読み、納骨になった。
皆が取り囲む中で幸蔵の親父が骨壷に骨を入れようとして「あっ」と声をあげた。
大人たちがギョッとして、ざわめくと一斉に骨壷を覗き込んだらしい。
爺ちゃんは、大人に阻まれて見えなかったから何があったのかはさっぱりとわからない。
ガヤガヤと近郷の人間が騒ぐ中、無事に納骨は終わったようで、一同は精進落しをするために三田の蕎麦屋に向かった。
その時、幸蔵の親父は、腰が抜けたのかカネテツの親方に負ぶって貰って墓を離れた。
と、いうのが話の筋で、これじゃ何のことかわからない落ちのない話だし、ことの真偽もわからない。
でだ、爺ちゃんはウチの親父が死ぬ前に、親父が七十過ぎたあたりの頃に一度、事件の話をしたんだよ。青年団の道場で何が起きたのか知ってるよってね。
そしたら、親父は遠い目をしながら、少し頭を振りつつ当時を思い出すように話し始めた。
「あんときなぁ、幸蔵はなぁ、山師の集落跡の廃社におったよ。村の若い衆が昼過ぎぐらいに二里とちょっと先のところで見つけたんだと。膝を抱えて死んだように静かに寝ていてなー、一目見てこりゃなんだかエライことになっておると思ったそうな」
そういうと親父は煙草を一本吸いはじめてね……
「いくらおこしても目を覚まさないからさ、若い衆が負ぶって消防の詰所までいくと、パッチリと目を急に覚まして『顔役全員呼んでこい、申し伝えることがある』ってなことを言ったそうだ。若い者は吃驚して村の偉いのに話を伝えると大体の連中はかっ飛んで来て、場所を横の青年団の道場に移して、幸蔵の話に耳を傾けた。すると話が全く難しい話で四書五経の難しい例えがポンポンとでてくる。村長が慌てて幸蔵に何者か聞くと幸蔵ではなく幸蔵の親父の加十だと言い張る。加十という人は、随分とおっかない人で寺子屋で教えていた。村のお偉方はほぼ全員が加十の教え子といってもよかった。幸蔵こと加十が言うには、いつもは涅槃にいるんだそうな。それであの日は、鎮守様のお祭りだから下界へと降りてきたと。気分良く社のあたりをふらついていると鎮守の神様がやってきた。神様曰く、お前のウチの幸一が不義理なことをしているし、他にもこの村の連中はろくなことをしないと言ったそうな。それで神様は『ワシが人々の前に姿を現す事は出来んから、貴様がこの話を伝えて来い。自分の孫の身体なら入りやすかろう』と言ったそうな。そういうと神様は消えて、急に風が吹き雨が強くなってきた。加十さんは、混乱のドサクサに紛れて鎮守様にいた幸蔵の目の前に現れて、騙し騙し山の社まで連れて行って幸蔵に乗り移ったんだと」
ここまで言うと親父はまた一本煙草に火をつけて話し始めた。
「で、今は幸蔵の身体を加十さんが乗っ取って話しているんだという。みんな半信半疑の中本当かどうかわからないから、証拠を見せろと村長が言った。そこからが凄かった、村政の事や作付けの話、戦争の話や寺や神社への参拝についてと色々と注文をつけて、それぞれ各人の秘密の話をベラベラと詰る罵ると好き放題だった。時折、不正の話なども出て関係者は顔面が蒼白になり卒倒しそうになるものもいた。恩師の言葉に皆一同たじたじにやられて押し黙っているときに村長が不意に幸蔵に話しかけた。その頃、国道の費用分担の話で捻出した金額と帳簿の金額が逢わないって問題になったんだ。でだ村長はそれを言おうと思ったんだろう『近頃、ウチの村が捻出した……』ここまで言ったところで幸一が口を開きかけた幸蔵をおもいっきり殴打し始めた。で、あまりの急な出来事っと自分の保身を考えるのに手一杯で幸蔵を助けようとも思わなかった。で、幸蔵が死んだ後、ここで聞いた話はなかったことにするという事で一件落着となった」
苦虫を潰したような顔で紫煙を吐きながら、深く溜息をして続ける。
「で、お前が聞きたいのは幸一が納骨の時に何を見たかってことなんだろう?そうだろうよ。あそこに骨壷の中になかったんだよな。あれがな、加十さんの骨がさ。あの墓は、加十さんのために立てた墓で他の親族の骨は当然入っていないし、入れたはずの骨が逃げて消えうせるなんて事もない、そうだろう?でもなかったんだよ。それこそ二年前ぐらいに入れた骨がだよ、無くなってるんだ。でだ、道場で幸蔵が喚き散らしているときにこう言ったんだ、『俺は神さんと仏さんに救われたから骨は全部召し上げられた。嘘か本当か墓をあけて見てみろい』ってね」
親父はギリギリまで吸った煙草を煙草盆の灰にぐりぐりと捩じ入れると何とも言えない顔で言ったね。
「あの時、幸一が殺してくれて助かったよ。今だから言うが、ありゃ幸一と俺が公金を抜いたんだ。しかし、なんだ、幸一の小僧が神様の代わりにだとか抜かしたが、殺しちまって何のこともなくここまで生きてきた。たぶんありゃ悪い神様だったんだろう、祟りもなかったんだから。それか、戦争で忙しかったのか知れんね。まぁ、なんにせよ幸一も俺も今の今まで生きているんだ、時効だよ時効」
そういうと、親父は散歩をしに外へ出て行った。
親父は、享年八十二歳で逝った。