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「事件の時は、色々とお世話になったようで……本当にありがとうございました」

「そんな、とんでもないっ!!僕なんかはただ、付き添いで行っただけなんで」

レイモンドに心からの礼を言われ、逆にブランは動揺してしまった。
権力サイドの人間でありながら、全く偉ぶることのない態度は、さすがウォルターの息子といったところである。

「それで、お二人は何のご用でいらしたんですか??また何か事件でも」

「いえいえ、そうではないんですよ」

レイモンドがさわやかな微笑みを浮かべながら、もと座っていた椅子に腰かける。
と、同時に隣に座ったハートストンがもごもごと口を開く。

「実はですな、まあ依頼といえば依頼なのですが、先ほどレイモンド様がおっしゃったように、何らかの事件が起こったわけではなく、あくまでそれを事前に防ぐためのー」

「大丈夫、ハートストンさん。私からお話するから」

えらく時間がかかってしまいそうなハートストンの説明を笑顔で受け流し、レイモンドは本日の用件を簡潔に述べた。

「今日はアリッサさんに、フィンの議会付き魔道士になっていただきたく、お願いにあがったんですよ」

「ええっ!?」

思わずブランは驚きの声をあげた。

元々、フィン政府というのは、魔法や魔道に対して否定的な色が強く、公職としての雇用は、議会付き魔道士一名のみと法によって定められていた。
福祉産業を促進させ、周囲からとびぬけて近代化してしまったこの国家にとって、魔術などというものは、社会体制の秩序を揺らがす「不確かな要因」とみなされていたのだ。
ハートストンはこの二十年間、この職に一人細々とついていたが、実際は事務職を兼ねての採用であり、魔道士らしい仕事はほとんどしていなかったのが実情であった。

「父も非常に強く希望していることなので、必死の説得を試みたのですが、あっさり断られてしまいましてね」

そう言うと、レイモンドはアリッサの方に目をやり、苦笑を浮かべた。

レイモンドの父であるウォルターは、闇魔術師の一件がこたえたらしく、現在は「フィン魔道対策委員会」なるものを組織し、フィンの魔道政策の方針転換を図っている。
そして、議会の承認を得て最初に実行されたのが「議会付き魔道士」の増員であり、今まで一名だった定員が、十名となったのだ。
しかし、フタをあけて見れば、肝心の魔道士がいっこうに集まらず、現在の時点で新たに採用された者はわずか二名といった有り様であった。


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