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すぶぬれになりながらも、ようやく目を開けたブランの視界に飛び込んできたのは、湯船から立ちのぼる湯柱と、それによって自発的に外へと溢れ出して行く大量のお湯であった。

「これは……」

『水の精霊に、頼んだ』

ブランが、以前アリッサから聞いた話では、ブン・ラッハのような呪術師たちは、自分の呪力を自然に存在する精霊たちに分け与える事によって、その力を借りるのだという。

彼女に言わせれば「うまい飯を食わせてやるから、しっかり働け」という事らしいが、どうやら今回は、水に住む精霊の力を借りて、このような芸当を行っているようだ。

「ほお、これはすごい」

ポッテヌが感心した表情でブラン……というよりもブン・ラッハに近づく。

「ブン・ラッハさんは、生前かなり強力な術者だったようですな」

『ブン・ラッハの力では、ない。すべては、精霊の、力』

ミミやメディナはともかく、ポッテヌやフェルナンドにとって「魂の宿ったドクロ」は、そこまで驚くべきものではないようで、すでに親しげな会話が成立している。

「ほりゃ!!わしの言うたとおりじゃろう!!」

すでに七割がたお湯が抜けた湯船の一角をガンダルガが得意気に指差す。

そこには確かに、この部屋の入口にあった赤い扉と同じ雰囲気を醸し出す、金属製の青い扉があった。


「むうっ!!これで下に降りるんじゃな」

あらかたお湯が外にはけると、早速ガンダルガが、浴槽内の壁面に取り付けられた、等間隔に金属を打ちつけた梯子を発見した。

「ようし、それではまずワシがー」

「待ちなじじい、うかつに先走るんじゃないよ。まずは、この娘に行かせるんだ」

「むうっ……」

まるで悪役の女が発するような、アリッサの一言だったが、確かに理にはかなっていたので、ガンダルガはしぶしぶと引き下がった。

もし、ロジ・マジに託された、ニーゲルン長老頭の血筋でないものが先に扉に近づくと、何らかの魔力による罠が作動しないとも限らないのだ。

「まぁ、たいていの魔術師どもの手妻なら、あたしが感知してやるんだが……相手が相手だからな」

さすがのアリッサといえども、古の伝説に残る温泉魔導師の力には、敬意を払っているようだ。

以前、ブランが彼女から聞いた話によれば、古き時代には、それこそドルクロスの魔道大公達に匹敵するような、大魔導師が、世界のあちこちにいたようである。

ロジ・マジ像の地下にヴィシュメイガが封印されていたことを、アリッサほどの者が正確に感知できなかった事からして、ロジ・マジの力というのは、恐ろしく強力なものであるに違いない。

「ん、まてよ…」

ここでブランは、ひとつの疑問にぶち当たった。

そもそも、行きの馬車で聞いた話では、ヴィシュメイガは、二ーゲルンのはずれにある、「ユガルタの迷宮」の奥深くに封印されていたはずである。

それが、なぜ街の中心地にあるロジ・マジのほこらの下から出てきたのだろうか?

長い年月に口伝が繰り返されるうちに、その内容が変質してしまったというのだろうか?

「おっ、扉が開くよ」

「えっ??」

自らの思考に集中していたブランは、隣のメディナから声をかけられ、我に返ると、目の前の浴槽の底では、すでに青い鍵を使ったらしいミミが、固い金属製のドアを必死に開いていた。


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