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「あ、こんにちは」

ブランはいつも通りに声をかけたが返事がない。

「こんにちは!!アリッサさん!!」

もしや耳が遠くなったのではと、シーツのバランスを保ちつつ、今度は大きな声で呼びかけたブランだったが

「うるさい!!聞こえてるよ」

逆にアリッサに一喝されてしまった。
どうやら、彼女の虫のいどころは相当によくないようだ。

「なあ、ブラン」

不機嫌さの裏返しのように、アリッサの顔に皮肉っぽい笑みが浮かぶ。

「あ、はい!!」

「今回の温泉は、あたしら元冒険者は別の所に行くんだって」

「ええ。一応、ニーゲルンの里に行く予定です」

昼の職員会議で決まったことをもう聞きつけているとは、何たる地獄耳かと、密かに関心するブランであったが、無論それをそのまま口に出すような暴挙はしない。

「なるほど、あたしらみたいなうるさい厄介者は、ひとつにまとめて遠くへやっちまおうって腹かい」

「い、いえっ、そんなことは!!」

施設長ツールースのもくろみは、九割がたアリッサが指摘した通りなのだが、さすがにブランも施設職員として「はい、その通りです」と答えるわけにもいかなかった。

「そうかいそうかい。ここのやり方はよ〜くわかったよ」

不気味な満面の笑みを浮かべたアリッサが、その右手をスッとあげた次の瞬間…

パチッ!!

「うわあぁぁぁぁぁ!!」

彼女が右手の指を鳴らすと同時に、ブランが持っていたシーツが、噴水のように次々に空中へとふき上がったのだ。
その様子は、さながらカード芸を得意とする奇術師の手妻のようでもあった。

「まったく……冗談じゃないよ!!」

あたりに散乱するシーツの中心で尻もちをついて呆然とするブランに捨てゼリフをはいたアリッサは、そのままのしのしと廊下を曲がり階段を降りていってしまったのであった。

「ってわけで、それを片づけるのにどんだけ苦労したか……って、ちょっと!!」

ブランの苦労話は、目の前の二人から同情の気持ちを呼ぶ効果はなかったようで、反対に爆笑の渦に巻き込んでしまっていた。

「いやいや、相変わらず苦労してんなぁ」

「ホント!!かなりウケるし」

「……今の話に笑えるとこなんかひとつもないんだけど」

憮然とした顔で反論をしたブランだったが、そのままナップとミネルバは、過去にブランがアリッサからうけた仕打ちの数々を語って笑うというトークに突入してしまっていた。
仕方なく彼は、自分をなぐさめるため店員を呼び、いつもより強めの果実酒を注文したのであった。

翌日、ブランがその自己責任により二日酔いでの勤務に苦しめられたのは言うまでもない。


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