第二話 SACRAMINT(2)
☆アヴァンティチャーテ郊外(ビアンキ地区)☆
面妖な顔のシルヴァは、ミルクセーキにこう言った。
「ザガン市長って何故、『サクラミント』に殺されないのかな」
と。
−−な、何を怖いことを言っている、この女は。
とミルクセーキは思ったが、口には出せなかった。
「シルヴァ?」
「あいつさえ居なければ、この町は平和だったのよ。グラッセも殺されることは無かったのに!」
「グラッセ……」
4年前、シルヴァは一人の男性と結婚した。名はグラッセ・アリストリトス。彼は少々頼りないが動植物を大切にし、当然人々も大切にする心優しい「理想の男」で多くの女性がそんなグラッセと結婚したシルヴァを羨ましがった。
シルヴァも他の男性からは料理もうまく、家事をとことんこなす「理想の女」であり、まさに理想の夫婦であった。
家は貧しく、ドアもテーブルも無い家で暮らしていたが、それでも二人は幸せだった。
結婚して1年を迎えて子供も生まれ、これ以上ない幸せを掴んでいたのに……。
今から半年前グラッセは「暴行罪」の容疑で警察に捕まってしまう、あのザガンの言いなりになっている警察に……
7地区の決まりは厳しいことは先ほどもお教えしたが、「暴行罪」は「殺人未遂罪」に切り替えられてしまい、グラッセは冷たく暗い部屋に入れられた。その刑は「死刑」。グラッセの「冤罪」は「暴行罪」になり、「殺人未遂罪」になり、そして「死刑」。これほどまでに7地区の決まりは厳しいのである。
事の発端は、生肉を取り合っていた青年の喧嘩を抑えようとして二人の間を割ったことから、ちょうど警邏に当たっていた警察に見つかったというもの。「手で割って入った」ことが「手で両者を突き飛ばそうとした」として逮捕されたという非道、皮肉、残酷な「冤罪」となった。
ミルクセーキはその場所に居合わせたが、警察はもはや市の言いなり、何もすることが出来なかったことを激しく悔やんでいた。そして、誰よりも号泣した。
「あれから、半年がたった……」
「今思うと、何も出来なかった自分が憎いよ」
「ミルクさんが悪いんじゃな……」
「僕が捕まればよかったのに!!『見殺し』の罪で!」
「……」
「……」
タバコの煙はモクモクと、上に昇り消えていく。少しの沈黙は相当空間を重くした。
ミルクセーキは灰皿にタバコを押し付け揉み消す。
タバコの火を消し終わったとき、訪問者が顔をのぞかす。
「ミルクさんっ!あ、シルヴァも!大変だよっ!」
少々ビックリしたミルクセーキと、相当ビックリしたシルヴァはドアのほうへ顔を向けた。
「ジル。どうしたんだ?」
ジル・アクセルパーツ。ビアンキ地区に住む18歳の女性でシルヴァとはとても仲が良い。町でも明るい子で有名なのだが、今日は少し違う。なにやら深刻な顔をしている。そして、少し震えている。
「ジル?」
シルヴァの声にハッと反応して、
「ザガン市長が殺された」
「何!?ザガンが?」
ミルクセーキが立ち上がる。そしてすぐにコートを羽織り外に出る。
「ミルクさん?」
「シルヴァ、すぐに戻る。ここにいてくれ」
ミルクセーキはそういうと、ジルに道案内をさせた。
ミルクセーキの家からわずか3分走ったところにその死体はあった。
高級背広を身にまといながらも、その身体は無数の切り傷と刺し傷、おでこには……。
「警察だっ!どけ!」
後ろから二人を強く押し退けるのはアヴァンティチャーテ市警察局のグラン警部とオードリス巡査。そして、刑事課のメンバー4人ほど。
急いで「KEEP OUT」と書かれたテープが張られ、立ち入り禁止となった。
「ちっ、また『サクラミント』か」
「そのようですね。ん?」
「どうしたチャイルド?」
「警部、おでこ見てください」
「ん、これはっっ!」
「サクラミント」の特徴は無数の切り傷と刺し傷、そしておでこにアルファベット一文字。だが、今回は違った。無数の切り傷と刺し傷はあっているのだが、おでこにアルファベットがない。
「ん?」
チャイルドことオードリス巡査が何か思い出したかのように声を出し、振り返ってミルクセーキを見る。
「あ、貴方はもしや、ゼーキ・アードミクル殿では?」
オードリス巡査がそう聞くと、その場は一瞬沈黙した。 |