第六話 笠地蔵
1
昔むかし、ある所に、貧しさのどん底にいるお爺さんとお婆さんがいました。どれくらい貧乏かと言うと、今日は大晦日だと言うのに、ろくすっぽ年を迎えるおせち料理の準備も出来ない体たらくで、これは困ったということで、二人は一生懸命笠を作り、これを市場でお餅と交換してもらおう、と言う事にしました。
「それじゃあ言ってくるよ、婆さんや」
と言って、出来た五つの笠を手に持ち、ボロ屋を出発しました。すると、いつのまにか雪が降り出してきました。しんしんと、しかし結構な勢いで降り積もり、お爺さんは持っていた手ぬぐいを頭に乗せて、市場に向かうのでした。
年の瀬の市場は大変多くの人で繁盛していましたが、素人の二人の編んだ笠は余り造りが良くなく、日が落ちるまで待ちましたが、結局一つも売れず、お爺さんは仕方なしに家に帰ることにしました。雪はどんどんと降り積もり、視界も利かないぐらいで、お爺さんは家路を急ぎました。
「ったく、笠は売れないし、雪は降るし、切れそうになるのぅ。あーウザイ」
などとブツブツ言いながら、街外れの山道まで歩くと、そこに六体のお地蔵様が頭に雪を積もらせていました。お爺さんは、売れずに持ってかえる笠をかさばるだけで邪魔だ、と思っていたので、ちょうどええわいと言わんばかりに、お地蔵さんに被せていきました。すると、一個足りないので、どうせびしょびしょで冷たいだけじゃ、と持っている手ぬぐいを六体目にかぶせて、さっさと家路についたのでした。
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「お帰りなさい、売れましたか」
と、部屋を暖かくして待っていたお婆さんは、ショボイ顔をして首を振るお爺さんを見て怒り、晩御飯の雑炊の具を全部一人で食べてやる、と悪態をつきながら、ところで肝心の売れなかった笠は?と聞くと、
「ああ、あれは邪魔になったから道の地蔵にかぶせてきた」
と答えると、今夜の食事を抜きにされたくなければ取って来い、ドンだけ苦労して編んだと思ってるんじゃ、と大喝され、しぶしぶ吹雪の中を出かけようとした時、扉を叩く音が聞こえました。
「こんばんはー。お邪魔しますよ」
と、返事も待たずに扉を開けて入ってきたのは、驚いた事にさっきのお地蔵さんたちではないですか。お爺さんとお婆さんがおののいていると、
「おっ、雑炊が出来ておる」
「寒かったからさっそく頂こう」
「これ、婆さん。酒は無いのか酒は」
などと勝手な事を言って、計六体、笠をその辺に置くと、思いおもいに囲炉裏を囲い、壁に釣ってある漬物など取ってパクパク食べはじめる。
「さ、酒はありませぬ。ご馳走は何もありませぬ」
とお婆さんが答えると、六人は何事だ、酒もなしに年が越せるか、ああ、と嘆息し、一人が突如腰の袋からジャラジャラとさい銭を取り出し、
「福神来神、変化銭金」などと呪文を唱えると、瞬く間にそれは大判小判になりました。
「おい、六の蔵。これで酒、魚、餅、野菜などを買って来い」
とそれを手渡します。他の地蔵は浅ましく先を争って雑炊を取り合って啜っています。
「また僕ですか。いつも使い走りは僕だ。あーあ」
と言いながら、頭に手ぬぐいを乗せ、外へ出て行きました。
3
お爺さんとお婆さんが狭い家の隅で何も出来ずにいると、比較的すぐに六の蔵と呼ばれた地蔵が帰ってきました。
「いやーはは、僕が買い物に行ったらみんなが好奇の目で見るのなんのって」
そりゃ見るわ、と二人は同時に内心ツッコミを入れました。と同時に、山ほどもって帰ってこられたものを見ると、おいしそうな魚や肉の山で、思わずよだれをたらしました。戸口には樽が幾つか置いてあります。さっそく他の地蔵らが表を割って、酒をガブガブ飲みはじめました。お婆さんは料理に追われ、お爺さんは運ぶのに追われ、宴会を楽しんでいるのは地蔵どもばかり。浪曲などぶち始め、一人はどこからか三味線を取り出し弾きはじめ、一人は袈裟衣のような衣装を脱いで裸踊りをし、金太郎参る!などと言って横の地蔵相手に相撲を取りはじめ、まさに乱暴狼藉の限りがはじまりました。でも、料理も酒もお爺さんお婆さんにも振舞われ、旨いうまいと舌鼓を打っていると、一人の地蔵が出て行き、程なくして隣近所の評判の美女を二人ほど無理やり連れてきて、勺をさせはじめました。何がなんだかわからないが、逆らうと後が恐ろしそうなので、二人の麗しい女の人は、頬を染めている地蔵の盃に樽の酒を注いでやるのでした。一人の地蔵の浪曲が家に響き渡ります。
年は越せこせ、大いに越せ
どうせ越すなら 楽しく越せ
行く年来る年 ござんなれ
我ら歌わん 年の瀬の雪を
その合間に、はい、はいだのとまこと賑やかな合いの手が入り、年寄りのお爺さんお婆さんは、酒に酔い、気持ちよくなっていつしか眠りに就いたのでした。
4
あくる朝になったら、いよいよ新しい年です。鶏の鳴き声で目を覚ましたお爺さんは、あっと驚きました。部屋中にご馳走の残りが散らばり、酒樽は全部空になっており、昨日の出来事が夢でも何でも無かった事がわかったのでした。さらに驚いた事に、そこかしこに小判やら金塊やらと言った宝物が散らばっているではありませんか。
「笠地蔵さまからのご褒美だったんじゃのぅ・・・・・・」
雪のやんだ朝方の初日の出は大層美しく、お爺さんとお婆さんは二日酔いで痛む頭を抑えながら、笠地蔵のいる方角に向かって手を合わせて感謝したのでした。(終わり)
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