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第一話 桃太郎
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 昔むかし、吉備の国、現在の岡山県辺りの山のふもとの村に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは、昨日は畑を耕し、今日は山へ芝刈りと言った典型的農民の毎日を真面目にこなしていましたが、生来種無し野郎だったので、嫁を貰っても遂に子宝にめぐまれませんでした。その癖、男尊女卑丸出しでくどくどとお婆さんを責めたので、大層嫌われ、実際には同居離婚状態になっていたのでした。

 そんなある日、婆さんが自分の服は丁寧に、爺さんの服は足で適当に川で洗濯をしていると、上流からやたらでかい桃が流れてきました。

「おう、これはもうけもの。家に持って帰って独り占めして食べることにするか」
 お婆さんは川にドカドカと入り込み、スイカ並みの大きさの突然変異確定の巨大な桃をタライに入れて持って帰り、腐る前に、お爺さんの帰る前に全部食べてしまおうと、包丁で一刀両断にざくっと切ると、中から頬から血を流した赤ん坊が出てきたではないですか。
 お婆さんが腰を抜かしていると、お爺さんも帰ってきて、なんじゃこの子どもは、婆さん、遂にトチ狂って人さらいに堕ちたか、などと言っていると、その赤ん坊が
「ありえん。頬に傷がついた。ババァ、この落とし前は必ずつけるからなボケが」
 と、まだ動かない手足をバタバタさせながらしゃべったので、二人はますます腰を抜かしてしまいました。が、二人ともいい年なので、赤ん坊の悪態は特に気にせず、これは神様が子宝の無いわしらに恵んでくださったのじゃ、などと納得して、桃から生まれたので桃太郎と名づけよう、などと話を進めています。
「おい、そんなダサい名前は嫌だ。悪法太宏影にしろ」
 と抵抗しましたが、残念な事に0歳では実力行使も出来ません、赤ん坊は桃太郎と名づけられ、二人に育てられる事になったのでした。

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 桃太郎はすくすくと元気に育ちました。今日は隣の家のサッちゃんを泣かし、明日は村中の悪ガキを集めて戦争ごっこをし、人の家の柿を盗んで食べ、道端に落とし穴を堀り、お爺さんに叱られると、逆に投げ飛ばすと言う、救いがたい恩知らずのろくでなしに育ちました。頬にはヤクザよろしく斜めに傷跡があり、衣装は常に歌舞伎もののように派手で、髪の毛は長髪のざんばら、近隣の人々が恐れるに十分な風貌をしていました。そして十五歳、昔の侍なら元服できる年になったとある日も、隣村の子から取り上げたお金で、茶屋で饅頭など平らげていると、旅の商人がこんな話をしているのが耳に入りました。
「都の天子様が、鬼が島の鬼どもに懸賞金をかけたそうな」
「ああ、鬼が島の鬼を退治したらたんと褒美をくれるというあれか」
「でも、鬼にはさすがに勝てないよなぁ」
 桃太郎は耳を澄ませて会話を聞いていました。
「ほほぅ・・・・・・鬼退治をすれば褒美が山ほどか。今のままじゃ一生ゴミのような農民のままだよな。よし、いっちょやってみっか」
 そして、まず村の少年達に鬼退治をよびかけてみました。が、怖くて誰一人一緒に行くとは言いません。頭に来た桃太郎は、一人づつ蹴り倒した後、家に帰り、武装を固め、出発の準備をはじめました。こわごわその様子を見ていたお婆さんは、何処へ行くんだい、あんまり無茶すると奉行さんに捕まるよ、などと言うと
「いや、婆さんよ、俺は鬼退治をしにいくのだ」
 と、けなげやら恐ろしい事を言うので、内心鬼に殺されて二度と帰ってくるな、と思いつつ、餞別せんべつにきびだんごなど作って渡すのでした。

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 腰に二本の脇差を差し、さらに長槍を手に持ち、どこからか手に入れた駄馬にまたがる姿だけは、颯爽さっそうとした若侍風の桃太郎は、内海のとある場所にあると言う鬼が島に向かって出発しました。見送るお爺さんとお婆さんは色々な意味で泣いていたのでした。
 村を抜けていく途中、一匹の土佐犬に遭遇しました。
「コイツは勇敢そうだ。おい、きびだんごをやるからついて来い」
 犬は本来利口な生き物ですが、所詮畜生なのでだんご一個如きであっさり忠誠を誓うのでした。
 さらに行くと、森になりました。すると、そこではきじに出会いました。
「強そうなお侍さん、どこへ行くのですか」
「ふふ。悪い鬼を退治しに行くのだ。お前もついて来い。鳥は偵察に使えるな」
 このきじはだんごに騙されたというよりは、武士と言う権威に負けた、と言う感じでした。
 犬ときじを連れてさらに進むと、今度は猿が一匹目の前にあらわれました。猿はすばしこく左右に体を振り、隙をみて桃太郎の腰のきびだんごを奪おうとしました。が、動体視力のよい桃太郎は瞬時に見切り、ひじで猿の頭を打ちました。猿は道に倒れました。
「甘いわ外道が。死ねぇ!」
 桃太郎が止めをさそうとすると、犬ときじが殺すより部下にしてこき使ったほうがいい、と早速桃太郎の悪に感化された台詞を吐くと、それもそうだな、と納得し、猿を部下にして、いよいよ一行は海原に出て鬼が島に向かうのでした。

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「どうだった?」
 小船のへさきから様子を見ていた桃太郎は、偵察から帰ってきたきじに聞きました。
「どえらい数ですよ。百人ぐらい余裕でいます。どいつも金棒やらなにやら武器持ってましたし、体もエライでかいですよ。命が惜しけりゃ帰ったほうがいいです」
「ぬぅー!しかし俺は引かぬ!媚びぬ!顧みぬ!桃太郎に敗北の文字は無いのだ!」
 遠く視界の彼方に鬼が島がかすんで見えます。桃太郎は一計を案じ、きじに耳打ちしました。きじは口元を歪めにやりと笑い、さすがご主人様は悪ですよのぅ、と笑い、再び飛び立っていきました。
「桃太郎様、何を企んでいるんですかい?」
 と犬と猿が聞くと、桃太郎は不敵に笑っていった。
「戦わずして勝つ、それが俺のやり方だ。お前ら、首桶を用意しておけ」
 とだけ言うと、腰の徳利に入った酒をガブガブあおり、やがて寝てしまいました。
 日も暮れて、波が心なし高くなった頃、きじが再び帰ってきました。桃太郎はむっくりと起き上がり、きじに首尾を聞きました。
「大成功です。あいつら、片端からくたばっちまいました」
「よし、行くぞ。犬猿、こげ。後は首をかきあつめるだけだ。わはは!」
「一体何をなさったんです?」
 犬が小首を傾げると、きじが懐から小瓶を取り出す。
「こいつを鬼どもの料理に混ぜてやったのよ。どいつこいつもあっという間に帰らぬ人・・・・・・帰らぬ鬼になったわ。アーヒャハハハ」
 こいつ最初こんなキャラだったっけ、と桃太郎ですら思ったが、とりあえず万事上手くいったので、洋々と霧の立ち込める鬼が島に上陸したのでした。

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 本当に鬼は一人残らず倒れ付して死んでいたので、ともかく大将っぽい奴と、その他数人の首を獲って、馬の輿に結びつけ、桃太郎らは一直線に都に凱旋した。その道すがら考えた。
「手柄は独り占めするに限るな」
 と言う事で、まず最大の功労者のきじを寝てる隙に首をひねり上げ、きじ鍋にして平らげ、次に犬を消すために、歩いている時に骨を田んぼのほうに投げたら、犬が取りに行ったのでそのまま放置し、猿は歩いている時に後ろから当身を当ててそこへ放置し、無事一人で京の都に辿り着き、天子様に戦果を報告し、見事に山のような褒美をもらい、一生幸せに、ますますろくでなしのならず者として暮らしたのでした。(終わり)


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