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ランドシン伝記  (アーカーシャ・ミソロジー) 作者:キール・アーカーシャ

第2章  プロローグ、 魔王の系譜-編

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第43話  越えられない壁

 第43話  越えられない壁

 シオン達の穏やかな日常に影が落とされたのは、
真夏のある日だった。
 行商人が-ある情報をしきりに話し出した。
 それは、獣王という存在が、隣国のシュトネイに攻め込んだ
という話だった。
 数日が経ち、騎士達が戒厳令(かいげんれい)()きに-やって来た。
 どうも、このエストネア皇国(おうこく)にも、ゴブリン達が攻めて来た
という事だった。
 現在、ルネ島で騎士達とゴブリンの死闘が繰り広げられて
いるらしい。
 とはいえ、本土には被害はなく、戒厳令も第3級であり、
実質的には-いつもと変わらなかった。
 しかし、半年後、ルネ島がゴブリンの手に落ちた。
 この時の聖騎士、王立-騎士を(あわ)せた死者の数は2000人を
越えたという。
これは大体、2個-連隊に相当する損失であった。
 そして、第1級-戒厳令が敷かれ、シオン達の街にも、
民兵(みんぺい)が招集され出した。
 とはいえ、(いま)だエストネアの本土にはゴブリンは上陸して
おらず、徴兵(ちょうへい)も-人数は少なかった。
 むしろ、現状は、志願兵といった方が正しかっただろう。
 なので、シオン達には戦争は-直接は影響しなかった。
 とはいえ、万が一、ゴブリンが街に攻めて来た時に備え、
軍事教練が街で行われた。
 この時、騎士は不足しており、シオンの養父ガルンが代わりに
街の男達に剣や槍を教える事となった。
 そして、シオンとゼオスは-だいの大人に混じり、剣を
振るうのだった。
 しかし、シオン達の剣の腕は、この時、既に騎士に
匹敵するだけあり、大人達を驚かせた。
 そんな-ある日、ゼオスは剣を()めた。
 シオンは理由を聞くも、ゼオスは教えてくれなかった。
 ()わりにゼオスは商人の真似事(まねごと)を始めた。
 ゼオスには商才もあったらしく、すぐに家計は
うるおった。
 それを姉のコーリアは-とても喜んだ。
 今まで、シオン達は質素な食事しか摂っていなかったが、
ゼオスが働き出してから、毎日、新鮮な魚介類を含め、シオン
からすれば贅沢(ぜいたく)な料理が食卓(しょくたく)に並んだ。
 また、ゼオスはコーリアに流行の服を買ってやっていた。
 これに、コーリアは-いたく感激したようだった。
 一方、シオンは-この状況をつまらなく思っていた。
 その理由には、養父のガルンの件も-あった。
 ガルンはゼオスに剣士としての未来を期待していたのだった。
 なので、ゼオスが剣の道で無く、商売の道に行くのを非常に
()しんだのだった。
 もっとも、ガルンは-そのような事は、一言も()らさなかったが、
シオンには見て取るように分かった。
 最近、ガルンは-ため息ばかりだった。
 一方で、シオンは今まで以上に剣に打ち込んだ。
 そして、シオンは(おのれ)の実力に自信が持てる程に-なっていた。

 黄昏(たそがれ)の血のような空の下、ゼオスは東の海を(なが)めていた。
 その後ろ姿は何処(どこ)か神秘的であり、触れてはいけないモノを
思わせた。
シオン「兄さん、何を見てるんだ?」
 と、シオンは-ためらいがちに声を()けた。
 すると、ゼオスは振り返り、フッと微笑(ほほえ)んだ。
 最近のゼオスは、男の目からしても美しく成長していた。
 それでいて、線も細すぎず、まさに理想的な体とも言えた。
ゼオス「イカダを」
シオン「イカダ?あぁ、養殖用の?」
 海には貝類を養殖するためのイカダが、あちこちに浮かんで居た。
ゼオス「ああ。この港町ではカキの養殖をする時、
カキの貝殻(かいがら)を使っている」
シオン「そりゃ、そうだろ?」
ゼオス「でも、この白海(はっかい)を越えた先のサーゲニアでは、
    カキの養殖をホタテの貝殻でしているんだ」
シオン「へぇ、そうなんだ」
ゼオス「ああ。ホタテの貝殻の方が、形も(そろ)って居るし、
    種ガキが付きやすいらしい」
シオン「へぇ、そうなんだ。じゃあ、この街でも-やれば
    良いのに」
ゼオス「そう、養殖ギルドに提案したんだけどな・・・・・・、
    相手にも-されなかったよ」
シオン「なんで?」
ゼオス「新しい試みを人は嫌うモノだからさ。
    今まで通りで上手(うま)くいってるんだから、それで
    いい、という話さ。まぁ、それに-この街では、
    ホタテの養殖はしてない。もっとも、隣町では
    ホタテが-とれてるから、可能だとは思うが。
    まぁ、いずれにせよ、養殖ギルドは-やる気が無いのさ」
シオン「ふぅん。なんか、うにょん-とする話だね」
 とのシオンの言葉に、ゼオスは苦笑した。
ゼオス「お前は本当に面白いな、シオン」
シオン「え?そうかな?」
 そして、二人の間に沈黙が流れた。
 二人は-しばらく無言で海を(なが)め続けた。
 沈黙を先に破ったのはシオンだった。
シオン「なぁ、兄さん。どうして、剣を止めたんだよ。
    父さん、悲しがってたよ」
ゼオス「・・・・・・どうしても知りたいか?」
シオン「うん」
 と、シオンは-きっぱりと答えた。
ゼオス「そうか・・・・・・。なら、教えよう。
    ただし、聞いて後悔は-するなよ」
シオン「う、うん・・・・・・」
ゼオス「正直、剣の道は極めてしまったからだ」
 との言葉に、シオンは-きょとんとした。
ゼオス「騎士達が来ただろう。聖騎士達が」
シオン「う、うん」
ゼオス「見て分かった。彼らより今の俺の方が-(はる)かに
    強いと。それで、くだらなくなったんだ」
 との不敵(ふてき)かつ傲慢(ごうまん)な言葉に、シオンは体を震わせた。
シオン「そんな理由だったのかよッ。大体、そんなワケ
    あるものかッ!兄さんは去年、成人したばっか
    で、体も-騎士に比べたら大きくないしッ!
    それに、その騎士達が-たまたま弱く見えただけ
    かも知れないだろッ!」
ゼオス「・・・・・・かも知れない。ただ、父さんを見ても、
    もはや学ぶ事が無いと感じた」
シオン「今・・・・・・何て言ったんだよッ!兄さんッ!」
ゼオス「父さんは俺より弱い。そう言ったんだ」
シオン「ふざけるなッ!そんなワケがあるかッ!
    父さんは強いんだッ!すごく強くて、それでッ!」
ゼオス「あの人は、そんなに強くは無い。シオン、お前も
    そろそろ-あの人を抜かすだろう」
 とのゼオスの言葉に、シオンは怒りで肩を震わせた。
シオン「父さんをッ!あの人なんて呼ぶなッ!」
ゼオス「・・・・・・何が悪い。所詮(しょせん)、俺達は
    血が(つな)がってない。
    赤の他人だ。それが家族ごっこをしている。
    結局は本当の家族には-なれはしない」
シオン「黙れッ!それ以上-言うなッ!」
ゼオス「言ったら、どうする?」
シオン「剣を抜けッ!俺と勝負しろッ!その思い上がった
    性根(しょうね)を叩き(なお)してやるッ!」
ゼオス「お前が?面白い冗談だ。いいだろう。
    ただ・・・・・・そうだな、今のお前なら、
    これで十分だ」
 そう言って、ゼオスは砂浜に落ちていた棒きれを手にした。
シオン「どこまで、人を馬鹿にすれば」
ゼオス「馬鹿になどしていない。俺は冷静に実力を
    見極めているつもりだ。ただ、俺も万能では
    無い。故に、俺が間違って居る可能性もある-
    だろう。だから・・・・・・俺が間違って居るという
    のなら、それを剣で証明してみせろ、シオン」
シオン「ああ。そうしてやる」
 と言い、シオンは腰の木刀を構えた。
ゼオス「良い構えだ。成長したな」
シオン「黙れッ、行くぞッッッ!やぁぁぁぁッ!」
 と叫び、シオンはゼオスに突っ込んでいった。

 ・・・・・・・・・・
 砂浜には-アザだらけのシオンが横たわっていた。
 そして、ゼオスは息切れ一つ起こしていなかった。
ゼオス「言っただろう。これが実力の差だ」
 一方で、シオンは何も言い返せず、ただ、男泣きに
泣いた。
ゼオス「すまなかった・・・・・・。俺は、お前を家族に近い
    存在とは思っている。特に-お前だけは。
    だから、お前とは-こんな形でケンカしたくは
    無かった。でも、安心しろ。
    俺は、じきに出て行く。
    もしかしたら、南の都市国家群に行くかもしれない。
    もっとも、もう少し、戦況を見てからだが」
シオン「ッ・・・・・・姉さんは、コーリアはッ、どうするんだよ。
    コーリアは-お前の事が好きなんだよッ!
    知ってるんだろッ?!」
 と、シオンは半泣きで叫んだ。
ゼオス「ああ、知っていた。小さい時から。
    そして、お前がコーリアを愛している事も、
    だが、俺じゃ彼女を幸せに-してやれない。
    だから、シオン。お前が彼女を幸せにして
    やれ」
 と言い、ゼオスは背を向けた。
シオン「待てッ!待てよッッッ!」
 と叫び、シオンは立ち上がった。
ゼオス「驚いた。こんなすぐに立ち上がれるとは。
    耳を打ってやったのに・・・・・・」
 と、ゼオスは振り返り言った。
シオン「ッ・・・・・・頼むよ、兄さんッ、兄さんが居なきゃ、
    俺達の家族はバラバラに-なっちゃうんだ。
    そうさ、兄さんの言うとおりさ。
    俺達は所詮は赤の他人さ。血も繋がってない。
    だからこそ、絆が欲しいんだ。
    兄さんと-(ねえ)・・・・・・コーリアが結婚してくれたら、
    きっと、俺達の家族は上手(うま)く行く。
    なぁ、そうだろ?兄さん?」
 とのシオンの悲痛な声に、ゼオスは(うなず)いた。
ゼオス「確かに。だが、シオン。お前は間違っている」
シオン「何でだよッ!」
ゼオス「さっき、お前も言いかけただろう。
    そう、俺とコーリアは兄妹として育った。
    それを結婚?さぁ、言い直せよ、シオン。
    俺とコーリアの呼び方を。
    そして、誰と誰に結婚して欲しいって?」
シオン「ッ、俺は、俺はッ、兄さんと姉さんに結婚
    して欲しいんだよッ!悪いかよッ!
    だって、血が繋がってないんだから、
    問題ないだろ?それに、兄さんだって、姉さんの
    事、嫌いじゃないだろう?」
ゼオス「確かに。しかし、恐らく結婚しても上手く行かない
    だろう。それが俺には分かる。いや、表面上、良い
    夫婦を演じる事は出来るだろう。しかし、恐らく、
    子供が出来、それが俺に似てしまった時・・・・・・。
    まぁ、いい。ともかく、俺に-その気はない」
シオン「なんでだよ。なんでだ、兄さん。
    こんなに頼んでるのに」
ゼオス「シオン。お前は剣士だろう?なら、条件を付けよう。
    今から、俺に軽くでも一太刀を入れられたら、それで
    お前の勝ちにして、俺は-お前の言う事を聞こう」
シオン「二言(にごん)は無いなッ!」
ゼオス「ああ。《殺し》が入ってなくても、(ひと)太刀(たち)に入れてやる。
    さぁ、来い、シオンッ!」
 と言い、ゼオスは片手で棒きれを構えた。
 それに対し、シオンは破れかぶれになりながら、ゼオスに
突進していくのだった。
 しかし・・・・・・シオンは(ひと)太刀(たち)どころか、かすらせる事すら
出来なかった。

 ・・・・・・・・・・

+注意+
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