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ランドシン伝記  (アーカーシャ・ミソロジー) 作者:キール・アーカーシャ

第2章  プロローグ、 魔王の系譜-編

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第35話  子守り歌

 第35話  子守(こも)(うた)

 エストネア国の港町エーシェスには、船乗り達の為の酒場が
数多く存在して居た。
 その一角の古びた酒場に、一人の男が()(びた)っていた。
 しかし、その男は酒をほとんど飲もうとはせず、店主達を
辟易(へきえき)させていた。
 さらに、その男は黒いローブをしており、わずかに見える
顔からは、くたびれ-やつれた風貌(ふうぼう)が見て取れた。
 すると、その男が急に立ち上がった。
 それを見て、不思議に、酒場は静まりかえった。
男「俺の名はゼスと言う。かつて、傭兵をしていた」
 との-しわがれた声には、どこか有無を言わせぬ気迫が
こもっていた。
 さらに、その男-ゼスは金貨の()まった袋をテーブルに置いた。
ゼス「今日は、皆に好きなだけ(おご)ろう。金だけは有るからな」
 との男の言葉に、皆は()き立った。
 それを男は手で制した。
 酒場には再び、沈黙が()りた。
ゼス「その代わり、少しで良い。俺の話を聞いて欲しい。
   それ程、長くは無い。あれは、俺が獣魔-戦争に従事
   していた頃だった。そして、俺はカーチェス(はく)(ひき)いる
   艦隊に護衛として乗り込んでいた。そして・・・・・・」
 それから、ゼスは淡々(たんたん)とした口調で、その島での話を語り出した。
 酒場の屈強な男達は、その物語を固唾(かたず)を飲んで聞き入った。
ゼス「そして、俺は-その奇妙な生物、ニュウという名前だったか、
   が島に泳ぐのを見ている事しか出来なかった。
   しかし、その黒いスライムが-あちこちで海まで広がって
   いくのを見て、少しでも島から離れようとした。
   そして、島から少し離れた時だ。巨大な何かが島に出現
   したんだ」
 と言ってゼスは体をブルッと震わせた。
ゼス「今にして、思えば、それはニュウに良く似ていた。
   その大きさこそ違えど。もしかしたら、ニュウが
   巨大化した姿だったのかも知れない。
   そして、その巨大な何かの頭上に、天使のような輪が
   出現した。
   しかし、それは天使の輪なんて生々しいモノじゃ
   なかった・・・・・・」
 そこまで言い、ゼスは言葉を区切った。
ゼス「その光り輝く輪は広がり、島全体を覆う程になった。
   それを見て、俺は叫んだ。『伏せろッ!』と。
   そして、俺は甲板に伏せて、ロープに(つか)まった。
   それから、目を閉じていたハズなのに、目に光が
   飛び込んできた。
   そして、恐らく、大きな爆発が起きた。
   とはいえ、その規模からして見たら、船には
   大した爆風は来なかった。船に来た揺れなんて
   時化(しけ)に比べりゃ大した事が無かった」
ゼス「しかし・・・・・・その光を直視した奴は目が(つぶ)れた。
   甲板の上で目を押さえて(もだ)え苦しむ船員達、
   彼等(かれら)を手当てするよう(めい)じて、俺は先程の爆風で
   海に投げ出された奴が居ないか、確認しようと
   した。
   しかし、ふと、俺は島の方を振り返ってしまった。
   そこでは、キノコのような形をした煙が浮かび上がって
   いた」
ゼス「・・・・・・それで、ふと我に返り、点呼(てんこ)をとらせようと
   した時、鼻血が出てきた。それは俺だけじゃ無い。
   船員の半数以上が-ほぼ同時に鼻血を出したんだ。
   それを見て、俺は薄ら寒いモノを感じた。
   確かに、戦闘で鼻血など良く有る事だが、同時に、
   それに顔に衝撃を受けていないハズなのに、船員の
   半数以上が鼻血を出すなど-あり得ない。
   しかし、そんな事を気にかける余裕を俺達は失う
   事となる」
 そこまで言ってゼスは水を飲んだ。
ゼス「さて、その時だった。キノコ雲の奥で何かが(うごめ)くのを
   俺は見た。煙が晴れ、段々と、俺は-それが何かを理解
   した。それは、あの黒い粘体(ねんたい)だった。奴は-まだ生きて
   いたのだ。
   しかし、その形は、以前のように平べったくは無く、
   縦に盛り上がっていた。
   そして、その粘体は咆哮(ほうこう)をあげた。
   ゾッとしたよ。
   その時、島からは少しは距離が離れていたから、
   黒い粘体のスピードからすれば、追いつけるワケ
   が無い。それでも、(くび)()っこを(つか)まれたような、
   嫌な感覚が俺達を縛った」
ゼス「しかし・・・・・・その時、もう一体、巨大な何かが現れた
   んだ。それは、先程よりも、さらに巨大化したニュウ
   だったのだと思う。そして、粘体とニュウのそれぞれ
   の前に、巨大な魔方陣が-ほぼ同時に展開された。
   その時、歌が聞こえた。
   それはニュウの歌だったのだと思う。
   優しい歌だった。
   それは-さながらに・・・・・・子守(こも)(うた)のようだった」


 その時、ニュウは残りの力を振り絞っていた。
 そして、ニュウは自身の寿命が尽きようとしているのを
感じた。
 しかし、目の前の粘体を何としてでも倒さねばと、ニュウは
覚悟を決めるのだった。
 そして、最後の魔法を構築するのだった。
 ニュウは無意識の(うち)に口ずさんでいた。
 それは、娘のニョモに、良く歌って聞かせたメロディーだった。
 歌詞は思い出せなかったが、その旋律(せんりつ)はニュウの心に
刻まれており、我が子をあやす時に、口ずさむのだった。
 ニュウの瞳からは涙が-あふれていた。
ニュウ(・・・・・・ニョモ、ごめんね。一緒に居てあげら
    れなくて。お母さんを許してね)
 そして、無慈悲にも魔法の構築が完了した。
ニュウ『ばいばい・・・・・・』
 次の瞬間、極大魔法が発動し、黒い粘体を襲った。
 しかし、一瞬、遅れて、粘体の大規模-魔法も発動し、それを
(むか)()った。
 二つの強大な魔力が共鳴を引き起こし、虹の光が生まれた。
 その光の中で、ニュウは人間だった頃の記憶を断片的に
思いだした。
 そして、夫であった-その竜人の顔が浮かんだ。
ニュウ(あなた・・・・・・)
 次の瞬間、ニュウは世界から消滅した。


 酒場では奇妙な沈黙が降りていた。
ゼス「・・・・・・それから、再び、爆発が起きた。それは虹色の光
   で、先程の光とは別の力に感じた。
   だが、その力は、前の光より怖ろしい出来事を引き起こした。
   空が割れた。
   (くも)が割れたんじゃ無い。
   空が割れたのだ。
   そして、空はヒビ割れ、ガラスが砕けるような音が
   響いた。
   さらに、そのヒビは広がり続け、見渡す限り、上空は
   ヒビ割れていた。
   そして、(うず)が起きた。
   そのヒビへと何もかもが吸い込まれていった」
 と、ゼスは手を震わせながら、言うのだった。
ゼス「しかし、奇妙な事に、島と-その周辺だけには、(うず)
   発生しなかった。つまり、島から離れた部分が空へと
   吸い込まれていったのだ。
   遠くでは、先に逃げ出した船が空へと-なすすべもなく
   落ちていくのが見えた。
   恐らく、あの場で生き残ったのは、俺達の船だけだろう。
   現に、エストネアに戻ったのは、俺達の船だけだった」
ゼス「とはいえ、実際に生き残ったのは、俺だけだった。
   俺達は命からがら、エストネアに戻ろうとした。
   しかし、船員達は原因不明の病で倒れていった。
   船員達は次々と嘔吐(おうと)し、血便(けつべん)を流し、
   死んでいった。
   最初は食中毒か熱病かと思ったが違った。
   何かが違った。
   そして、俺以外の皆は死んだ。
   もちろん、俺も-その病に苦しめられていた。
   とはいえ、俺は生きていた。かろうじて、生きていた。
   生きてはいたモノの、一人で船を動かす事など出来る
   ハズも無く、俺は全てを諦め、船内で-ひたすら横たわっていた。
   最後の方は意識を失っていた。
   それが(こう)をせいしたのか、気づけば俺は、漁船に保護
   されていた。俺を運び移すや、俺が乗っていた船は音を
   たてて、沈んでいったそうだ・・・・・・。
そうして、何とか、俺は生き残る事が出来た。
   とはいえ、見ろ。これが、その末路(まつろ)だ」
 そう言って、ゼスはローブを取った。
 そこには、悲痛な姿が-あった。
 彼は-まだそれ程-年では無いハズだが、その姿は痛ましい老人
にしか見えなかった。
 ゼスは再び、黒ローブで顔を隠した。
ゼス「・・・・・・話は-これで終わりだ。金は置いていく。
   後は、この金で好きに飲んでくれ」
 そう言い残し、ゼスは寂しげに去って行くのだった。

 ・・・・・・・・・・

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