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ランドシン伝記  (アーカーシャ・ミソロジー) 作者:キール・アーカーシャ

第2章  プロローグ、 魔王の系譜-編

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第33話  兵器

 第33話  兵器

 それは-もはやスライムと呼ぶには、あまりに膨大(ぼうだい)
広がっていた。
その黒々とした粘体(ねんたい)は、今や島の半分を埋め尽くしていた。
さらに、徐々に-その範囲を海にまで伸ばしていた。
兵士「マズイ・・・・・・。チッ、出航だッ!早くしろッ!」
 黒い粘体が港に迫るのを見て、その兵士は部下達に船を
出すように命じた。
 そして、船乗り達は係留索(けいりゅうさく)を急ぎ取り、
桟橋(さんばし)から離した。
兵士「すまねぇな・・・・・・先生。俺達も生き残らなきゃ
   いけないんだ」
 すると、後ろで騒ぎが起きていた。
兵士「何の騒ぎだッ!」
 そして、後ろを振り返ると、ニュウを船乗り達が囲んでいた。
 ニュウは我が子を抱えながら(おび)えていた。
船乗りA「ゼスさん、こいつは不吉だ。こんな化け物、
     乗せたら、船が沈んじまう」
船乗りB「そうだッ!だ、大体、こいつは何なんだ?
     あのスライムの仲間なんじゃないのかッ!」
 との言葉に、船乗り達のパニックは一気に増した。
兵士「お、おい。お前等(まえら)、落ち着けッ!」
 しかし、船乗り達はニュウに今にも襲いかかろうとした。
 とはいえ、それはニュウに対する恐怖からであり、今の所、
誰もニュウに手を出そうとはしていなかった。
 しかし、いつ誰が抜剣しても-おかしくない状況だった。
 それに対し、ニュウはオロオロとし、(いま)だ島から戻らない
ロイス達を思い、島の方をチラッと見るのだった。
 島は今や、大半を黒い粘体に覆われていた。
ニュウ(あ・・・・・・ああ)
 一方で、『化け物ッ、化け物ッ!』との声が掛けられた。
 その時、ニュウの脳裏に記憶が蘇った。

 大雨が降っていた。
 そこに、竜であり人である男が立っていた。
 彼は竜人であった。
 対して、皇帝の衣装(いしょう)をまとった男が目をぎらつかせながら、
何かを叫んだ。
 そして、二人の男による最上級-剣技が、ぶつかりあった。
 次の瞬間、周囲の雨は吹き飛び、雲すらが割れた。
 雲が弾け、一気にスコールが降り注いだ。

 戦いは熾烈(しれつ)を極めた。
 しかし、気づけば、皇帝は-ほとんど傷を負っていなかった。
 対する竜人の男は、全身から血を噴き出していた。
 そして、竜人の男は-こちらに顔を向け、結界を張った。
 それに対し、皇帝はギョッとした顔を見せた。
 次の瞬間、竜人の体内を波動が駆け巡り、閃光が生まれた。

 声が聞こえた。
『皇帝陛下の御容体(ごようだい)は?』
『・・・・・・何とか(いち)(めい)は保たれたが、もはや
 時隠(ときかく)しの鎧なしでは活動は(かな)わぬだろう』
『それ程か・・・・・・』
『ああ。エヌの力。伝説のモノとばかりと思っていたが、実在する
 とは・・・・・・』
『貴様等、何を無駄口をきいている。皇帝陛下の御病状は
貴様等のおもんばかる所では無いのだぞ』
との女性の声が響いた。
『も、申しワケありません・・・・・・』
『まぁいい。それより、この女、意識があるぞ』
 との女性の声と共に、ノイズが走った。

『私を覚えているか?』
 目の前には、全身を完全に(よろい)(かぶと)で固めた皇帝の姿が-
あった。
『まぁ()い。今、こうして-お前と話している光景を奴には
 見せている』
 と、(かぶと)を通した-くぐもった声が、響いた。
『案ずるな。奴を殺しはしない。()のエヌの力を解き明かす
 まではな。しかし、裏切りに罰は必要だ。
 その罰と罪を夫の代わりに-お前が受けるのだ。
 ・・・・・・やれ』
 そして、激しいノイズが走った。

 雨が降っていた。
 そして、私は次々と迫ってくる船に向かって光を放っていた。
 自分の体が-元とは違う事は何となく分かって居たが、
頭がフワフワして何も考えられなかった。
 すると、私の体に衝撃が走った。
 それは魔法の攻撃だった。
 そして、私は海へと落ちていった。
 何か、とても大切な事を忘れてしまっている気がした。
 でも、それを私は思い出せなかった。

『これは、フハハッ、最高の生体兵器が完成した。
 皇帝陛下も-さぞやお喜びになるであろう。
 ああ、サーゲニア帝国に栄光あれ』
 その嫌な声しか思い出せなかった。

 ニュウの意識は現実に戻っていた。
ニュウ(ああ・・・・・・そうか。そうだったんだ。私、私は
    兵器だったんだ。そして、この子も・・・・・・。
    もはや、私達に居場所は無いんだ)
 そして、ニュウは船を飛び降りた。
兵士「オイッ!」
 しかし、兵士の呼びかけを無視し、ニュウは我が子を大切に
抱え、島へと泳いでいった。
 それを兵士は見つめる事しか出来なかった。
兵士「何て事だ・・・・・・」
 との(つぶや)きのみが、海風に消えていった。

 ・・・・・・・・・・
 ロイスとリコリスは島の神殿にて軽い結界を張っていた。
ロイス「奴の(コア)をここから破壊する。不幸中の幸いだが、
    既に奴の(コア)には、恐らくヒビが入っている」
リコリス「ええ。それは私も感じるわ。司令方(しれいがた)の決死の
     攻撃のおかげでしょうね・・・・・・」
 と辛そうに言った。
ロイス「恐らく、あと一撃を与えれば、恐らく奴に致命傷を
    与えられるハズだ。この神殿の力を利用し、遠距離
    魔法で奴を仕留める。もっとも、ここはゴブリンの
    古き神殿で、人間の私達に上手く使えるかは微妙な
    所ではあるが」
リコリス「それでも-やるしか無いわ。私が結界と索敵(さくてき)
     (おこな)うわ」
ロイス「ああ、私が攻撃を担当しよう。じゃあ、詠唱を
    始めよう」
 そして、二人は手を繋ぎ、詠唱を開始した。

その魔力を粘体は察知した。
 粘体は-その二つの魔力を脅威(きょうい)と認定し、襲いかかった。

 今、結界を覆うように粘体がまとわりついていた、
 結界はギシギシときしみ、今にも壊れそうであったが、
リコリスは必死に結界を(たも)ち続けていた。
 しかし、これ程の結界を強く持続し続ける事は、リコリスに
とっても相当の負担であり、リコリスは口から血を漏らしていた。
ロイス「リコリスッ?!」
リコリス「大丈夫・・・・・・大丈夫だから。あなたは魔法の構築に
     集中して」
ロイス「・・・・・・分かった」
 そして、ロイスは魔法の構築を再び開始していった。
 しかし、ロイスの体にも同じか-それ以上の負担がかかりつつあった。
 神殿の力を利用するとは、逆に言えば、己の力以上の力を
使う事であり、体への負荷は大変なモノであった。
 だが、ロイスは歯を食いしばり、その全身に()かる負荷を
耐えた。
 一方で、リコリスは辛そうに、息を(あら)くしていた。
ロイス(あと少し・・・・・・あと少しだ・・・・・・)
 そして、ロイスはリコリスの手から伝わってくる(コア)の位置を
魔法に組み込み、天から雷の遠距離-魔法を発動した。
 激しい光と共に、雷は(コア)を上手く-貫き、(コア)を消滅させて
いった。
 そして、一瞬、遅れて落雷音が響くのだった。
 それと共に、粘体は力を失ったかのように、結界から
ずり落ちていった。
 それを見て、リコリスは一瞬、気を抜いてしまった。
 次の瞬間、粘体は結界に次々と爆発を放った。
リコリス「キャアアッ!」
 今、結界は砕け、リコリス達も反動で地面を転がった。
ロイス「馬鹿な・・・・・・確かに、奴の(コア)を破壊したハズ
    なのに」
 その時、ロイスは-あり得ない魔力反応を感じた。
 粘体の体のあちこちから、先程の(コア)と同じ反応を感じた
のだ。
ロイス「まさか・・・・・・」
リコリス「そんな・・・・・・(コア)は一つじゃ無かった・・・・・・?」
 もはや、二人の間には絶望しかなかった。
 粘体の核は最低でも数十個、存在していた。
ロイス「嘘だ・・・・・・」
 うなだれるロイスをリコリスは抱きしめた。
 そんな二人を嘲笑(あざわら)うかのように、粘体は神殿へと侵入して
きた。
 そして、粘体が一気に二人を飲み込もうとする瞬間、
光が粘体を襲った。
 神殿に侵入した粘体は、その光を受け一気に蒸発していった。
ロイス「ッ・・・・・・なんだ?」
 すると、何かが空から降ってきた。
 それは我が子を抱えたニュウだった。
リコリス「ニュウッ!なんで?」
ニュウ「すみません。でも、もう大丈夫です。あとは私が
    戦いますから」
ロイス「何を言ってるんだ。ニュウ」
ニュウ「私、記憶を取り戻したんです。
    私・・・・・・兵器でした。
    サーゲニアの兵器だったんです」
リコリス「何を言ってるの、ニュウ?」
ニュウ「ロイスさん、リコリスさん。私とこの子は、人間の
    世界には行けません。きっと、サーゲニアの追っ手が
    私達を回収しようとするハズです。ですから、
    どうか・・・・・・どうか、この子をお願いします。
ニョモを。私の可愛い子を守ってあげて下さい」
 そう言って、ニュウはニョモをリコリスに渡した。
リコリス「ニュウ?事情は良く分からないけど、追われている
     なら、みんなで-この島で暮らしましょう。ね」
ロイス「そうだ。私達は家族なのだから」
 との二人の言葉に、ニュウは辛そうに首を横に振った。
ニュウ「ごめんなさい・・・・・・。もう、限界なんです。
    多分、奴と戦えば、兵器としての私が覚醒
    してしまう。そうしたら、もう、私は戻れ
    なくなります。だから」
ロイス「馬鹿な事を言うなッ!お前を犠牲にするなど
    ありえないッ!お前は、私達にとり、子供
    みたいなものなんだぞ。それに、ニョモは
    どうする?母親が居なくては」
 との言葉に、ニュウは-わずかに黙った。
 すると、神殿の外から、再び、粘体が慎重に侵入して
来た。
 それを見て、ニュウはハッとした。
ニュウ「すみません。私の代わりに、ニョモを育てて
    ください。ただ一つだけ、お願いが-あります。
    その子には、力を使わせないで-あげて下さい。
    どうか・・・・・・」
リコリス「ニュウ、やめて、そんな-お別れみたいな事を
     言うの」
 とのリコリスの言葉に、ニュウは辛そうにした。
ニュウ「私、人間だった頃、両親の顔を知りませんでした。
    でも、二人と会えて、本当の両親に会えたみたいな
    感じでした。
    だから、最後に言わせて(くだ)さい。
    ありがとう、お父さん、お母さん」
 と言い、ニュウは、ロイスとリコリスとニョモの3人を
守護する絶対防御の結界を張った。
 そして、ニュウは3人に背を向け、
粘体に向かい、駆けだした。
「ニュウーーーーーッッッ!」
 とのロイスとリコリスの声が、結界の(うち)(むな)しく
響くのだった。

 ・・・・・・・・・・

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