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ランドシン伝記  (アーカーシャ・ミソロジー) 作者:キール・アーカーシャ

第0章  輪廻-編

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 第Ω話  再誕 ①

 第Ω話  再誕 ①

 剣の時代は終わりを告げ、炎の時代が始まりを(きず)いてより、しばしの時が過ぎ去っていった。
 しかし、その最中(さなか)、はるか深淵(しんえん)に葬り去られたはずの暗黒が亜大陸ランドシンに(よみがえ)ったのだ。

 魔王とその配下にある三体の不死の王。
 彼らの(ひき)いし異形の軍勢は、亜大陸の国家群を炎と硫黄(いおう)にて土へと帰し、無数の骨と(しかばね)の上に闇帝国を打ち立てようとしていた。

 絶望と恐怖が人々の心を(むしば)む中、女神アトラは最後の希望を、ある冒険者達に(たく)すのであった。
 その冒険者達は今、女神アトラより(たまわ)りし聖なる使命(クエスト)遂行(すいこう)せんとしていた。

 そう、かつて伝説の冒険者であるクル・フィネスが魔の力により砕け散った神性水晶(クリスタル)の断片を、亜大陸の全土を巡り、人生の全てを(ささ)げて集めたように。


 ・・・・・・・・・・
 さびれた闇の神殿にて老司祭がその冒険者達を待ち構えていた。
この神殿の(まつ)りし闇の大精霊は、魔王やその眷属(けんぞく)と何ら関わりは無かったが、どうも連想されてしまうのか、その信仰は薄れつつあるのであった。

「ようこそおいで下さりました、冒険者(ぼうけんしゃ)様方(さまがた)。セティア大神官様より、全てにおいて協力するように(おお)せつかっております。それで・・・・・・」

 と、老司祭は言いよどんだ。
 それに対し、団長である冒険者ウィルは緊張を見せた。

「あ、あの。どうかなされたのですか?」

「いえ・・・・・・(うかが)って居たギルド名なのですが本当に?」

その老司祭の言葉を聞き、ウィルは全てを察した。

「はい。私達のギルド名は・・・・・・ヒヨコ(まめ)-(だん)です」
 と、ウィルは恥ずかしげにそれでいてキッパリと答えるのだった。

「ヒヨコ豆-団・・・・・・」

 その場に居た神官達は神妙な顔をして、その言葉にいかな
深遠なる意味がこめられているのかを、真剣に考察していた。

「なんか帰りたくなってきた」

 と、冒険者の一人、背が高く細身のダーク・エルフの
トゥセはぼやいた。

「我慢だ、トゥセ。世界の危機なんだぞ」

 そうトゥセを(いまし)めるのが、トゥセと兄弟同然に育ってきた
(きた)()かれた格闘家であるアーゼである。

「そうだよ、トゥセ。今、この瞬間も大勢の人が・・・・・・」

 と、トゥセやアーゼと一緒に育った小人族(こびとぞく)の人形使い、
美少年とも言える外見を有するモロンも言うのだった。

「分かってるさ」

 トゥセは普段の陽気な表情を(かげ)にひそめ、そう答えた。
 それから、ため息を吐き続けた。

「いや、でもさ。マユツバだぜ。女神様の神託か何か知らないけどよ。俺は見てないしさ」

「この馬鹿トゥセ!何て恐れ知らずな事を口にするんだ!」

 とアーゼに(しか)られ、トゥセは肩をすくめるのだった。

 一方で、そんな彼らのやり取りを聞き、老司祭は《本当に彼らに世界の命運(めいうん)(たく)して大丈夫なのだろうか?》と、心の中で迷いを見せていた。
 しかし、大神官よりの(めい)を思い出し、顔を左右に振り雑念を飛ばした。

「コホン。ではヒヨコ豆-団の皆様。どうぞ、こちらへ。
案内いたします」

 そう告げ、老司祭は冒険者達を地下へと先導するの
だった。

 ・・・・・・・・・・・

 暗く湿った階段を老司祭とヒヨコ豆-団の一同は一歩ずつしっかりと踏みしめて進んで行った。

「しっかし、離ればなれなった(みんな)は無事にしてるんですかね?」

 とトゥセは団長のウィルに問いかけるのだった。

「信じて進むしか無いさ。だが、トゥセ。万一の時は取り乱したりはするなよ」

 そのウィルの現実的な言葉に、トゥセはため息を吐いた。
 すると、小人族のモロンが口を開いた。

「大丈夫、トゥセ。僕、感じるよ。みんなの魂が無事なのを。リーゼも」

 最後に付け加えられた女性の名を聞き、トゥセは
うろたえを隠せなかった。

「べ、別にあいつの事なんか心配してねーし」

「ハハ、素直じゃないな」

 と言うアーゼの顔からは久方(ひさかた)ぶりの笑顔が(うかが)えるのであった。
 そんな彼らの会話を聞き、ウィルもわずかな微笑(ほほえ)みを見せるのであった。


 一同(いちどう)と老司祭はそびえ立つ石の扉に辿(たど)り着いた。
 その扉には古代文字と象形的(しょうけいてき)な壁画が刻まれており、所々を(おお)(こけ)からも(はる)かな時が感じられた。

「では開きます」

 そう告げ、老司祭は扉に仰々(ぎょうぎょう)しく手を重ねた。
 次の瞬間、扉には魔方陣が浮かび上がり、突如として縦に線が入り、二つに分かれて扉は開かれるのであった。


 その内の暗闇を、老司祭とヒヨコ豆-団の4人は粛々(しゅくしゅく)と進んで行った。
 中は完全なる闇であったが、老司祭の周りだけボウッと幽炎(ゆうえん)(ごと)くに光が(おお)っていた。

「決して私の傍を離れませぬように」

 との老司祭の言葉に、一同は素直に従うのであった。
 仮に老司祭が何も言わなかったとしても、誰もがそうしただろう。
 それ程、周囲を満たす暗黒は深い恐れを(いだ)かせるのであった。
 数多(あまた)の冒険を()危機(きき)察知(さっち)()けている彼らにはなおさらであった。


 方向の感覚が前後左右だけでなく上下さえも分からなくなる
錯覚(さっかく)(おちい)る程に闇を進むと、老司祭は突如として立ち止まるのであった。

「着きました」

 その一言で、ウィル達は安堵(あんど)の表情を浮かべるのであった。
 しかし、それも(つか)()、突如として前方より禍々(まがまが)しいオーラが、一同に吹き付けるのであった。
 それは常人ならば即座に発狂して、(うつ)ろなる闇へと逃げ出したくなる衝動に駆られただろう。
 しかし、老練なる司祭と、数知れぬ死線(しせん)を乗り越えてきた
ウィル達にとり、この程度の精神攻撃をこらえるのは雑作(ぞうさ)
無いと言えただろう。
 弱冠(じゃっかん)、一名を除き。

「あ、やべ。トイレ、行きたくなって来た」

 そう身をブルッと震わせ(つぶや)くのは他でも無いトゥセであった。

「お前、こんな時に・・・・・・」

 とのアーゼの声には(あき)れを通り越して(あわ)れみが混じっていた。

「う、うっせぇ。我慢すりゃいいんだろ。我慢すりゃあ。この鉄の膀胱(ぼうこう)と呼ばれたトゥセ様を()めるなよ!」

 そんなトゥセを無視し、老司祭は言葉を続けた。

「では、闇の宝玉(オーブ)をお渡しいたします。皆様もご存じでしょうが、このオーブには魔王アセルミアの心の臓が封じられております」

 との老司祭の説明を一同は固唾(かたず)を飲んで聞き入った。
 さらに老司祭は続けた。

「オーブの外側には結界を施してあります。結界(けっかい)()しなら大丈夫ですが、くれぐれも闇のオーブに直接、手を触れられませんよう。封印されているとはいえ、オーブからは魔王の波動が漏れており、長時間、触れれば死に至ります」

すると、ウィルが疑問を(たず)ねた。

「もし、結界が何らかの力により砕けてしまった時、闇のオーブを運ぶにはどうすれば良いのですか?」

「結界自体は簡易なモノで構いません。どなたか結界術を新たにオーブの周囲に張ってくだされば問題ありません。直接、触れない事が肝心(かんじん)なのです」

 との老司祭の返答に納得したウィルであったが、すぐにある事実に気づいた。

「しまった。今、結界術を使えるメンバーが居ない・・・・・・」

 そのウィルの言葉に皆、黙りこんでしまった。

「え?パーティに結界術を使える方がおられないのですか?」

 老司祭の声は不安で震えていた。

(大丈夫なのか、本当に?)

 老司祭は段々と心配になってきていた。

「い、いや。居るには居たんですが、ちょっと色々とあってパーティの大半とはぐれてしまって」

 とウィルは()(わけ)がましく答えるのだった。

「えぇ?魔王城へ向かわれるのにパーティが(そろ)っておられない
のですか!」

 老司祭の疑念は確信に変わりつつあった。

「い、いや(ちが)いまして・・・・・・」

 ウィルは何とか上手(うま)い説明、もとい()(わけ)を考えたが、なかなかパッと思いつくモノでも無かった。

 一方でトゥセ達も困っていた。

「なぁ、アーゼ」

「なんだ?トゥセ」

「俺達、魔王の心臓の前で、何やってんだろうな?」

「さぁなぁ」

 とアーゼは悲しげに答えるのだった。

 すると、突如として足音が暗闇から響いてきた。
 それに老司祭は体をビクリとさせた。

「そ、そんな。この暗黒空間には、何十年と精神修行を積んだ司祭しか入れないはずなのに」

 との老司祭の言葉を聞き、ウィル達は臨戦(りんせん)態勢(たいせい)に入った。

 その時、「待って下さい」との男の声が、闇から()けられるのであった。
 この声をウィル達は良く知っていた。

「お前・・・・・・カシムか?」

 そうトゥセが問いかけるや、暗闇から男の姿が浮かびあがった。
 彼こそ、ヒヨコ豆-団の一員であり仙人術の使い手である神秘的な様相(ようそう)(たた)えるカシムだった。

「はい。お久しぶりです。トゥセ、アーゼ、モロン。それに団長も」

 突然の再会にウィル達は顔をほころばせるのだった。

「カシム。お前、今までどうしてたんだ?」

 とのウィルの問いに、カシムは語りだした。

「いえ。あの後、気づいたら()暗闇(くらやみ)の中に居まして、それでずっとさまよい続けていたんですが、ある時に団長達の気配を(かす)かに感じまして。急ぎその気を頼りに進んでたら、ここに着いたんです。苦労しましたよ。飲む物も食べる物も無くて、一人数ヶ月を過ごしていましたから。まぁ、正確にはどれ程の時間が経過したか分かりませんが」

 さらにカシムは続けて語った。

「でも、ここに飛ばされるのが私で良かった。私以外のヒトがここに飛ばされていたら、もっと大変だったでしょうから。私は一応、仙人術を(おさ)めていますので、何とかなりました」

 との説明にウィル達は(うなず)くのだった。

 一方で老司祭は驚愕(きょうがく)を禁じ得なかった。
「し、信じられん。常人なら数分と()たずに発狂するというのに、数ヶ月も?あ、あなた様は一体・・・・・・」

 と、老司祭は思わず口にするのだった。

「あ、申し遅れました。私の名はカシム。大仙人であるヨルン師の弟子なんです」

 その言葉に、老司祭は(さら)なる驚きを見せた。

「ヨ、ヨルンッ!あのマスター・ヨルン殿ですか?
エストネアの元-聖騎士団長であり、その後、仙人と
なられたという」

「あ、はい。そのヨルンです。私にとっては父親代わり
のヒトでして」

 すると、老司祭は忽然(こつぜん)に深々と頭を下げだした。

「申しわけありませんでした、ヒヨコ豆-団の皆様。私は何と言う愚かな勘違いをしていたのでしょう。自分が恥ずかしい。正直に申し上げますと、私は皆様の事を疑っておりました。本当にこの(かた)(たち)に闇のオーブを(たく)して良いものかと。このオーブは諸刃(もろは)(つるぎ)です。正しく使えば魔王アセルミアの力を抑える事が
出来ますが、一方で封印が解ければ魔王の力は取り戻されてしまいます」

 さらに老司祭は言葉を続けた。

「しかし私は今、確信いたしました。あなた様達ならば、このオーブを正しく使いこなして下さるに違いないと。どうか、お受け取り下さい。女神アトラに選ばれし冒険者(ぼうけんしゃ)様方(さまがた)

 そう告げ、老司祭は暗闇に手を入れ、一つの禍々(まがまが)しい宝玉を採りだし、それをウィルに重々しく手渡すのであった。

 その時、オーブより魔王の思念がウィルに流れ
こんだ。

《ついに、そこまで辿(たど)()いたか。無名の英雄達よ!》

 との魔王の(するど)い声が、ウィルの脳を(むしば)み鳴り響いた。
 しかし、ウィルは心を(くう)にし、魔王の精神攻撃を無効化した。
 それから、泉の精霊より(たまわ)りし聖なる布にて闇のオーブを包むのであった。

「確かに頂戴(ちょうだい)いたしました」

 とのウィルの威厳(いげん)に満ちた答えに、老司祭も満足そうに(うなず)くのだった。


 ・・・・・・・・・・
 神殿の貴賓室(きひんしつ)に戻って、ウィル達は語らっていた。

「しかし、他の皆も無事でしょうか?」

 と、カシムが心配そうに言うのだった。

「まぁ、あいつらもそれなりの修羅場(しゅらば)をくぐり抜けて来てる。そう易々と死にはしないさ」

 そのウィルの言葉には妙な説得力があるのだった。

 するとモロンが口を開いた。

「ティアも無事だよね、団長」

「あ、ああ。ティアに関しては心配してないよ」

 と、ウィルは()()なく答えるのだった。

「とか言ってるけど、本当は夜も眠れぬ程、心配してたんだぜ」

 そうトゥセが意地悪く言うや、ウィルは珍しく
そっぽを向いてしまった。

「こら、トゥセ。お前なんかデスゲイズの残党の所に居た(くせ)に」

 とのアーゼの言葉に、トゥセはバツが悪そうにするの
だった。

「本当なんですか、トゥセ?」

 カシムは細い目をわずかに見開き、(たず)ねるのだった。

「え?ああ、まぁな。奴らと一緒にしばらく異形(フリークス)と戦っていたのさ。って、この話はいいんだよ。クエルトの野郎の事はあんまし思い出したくねぇし。まぁ、あいつらはあいつらなりに戦ってんじゃねぇの?」

 そう答え、トゥセはため息を()いた。

 すると、突然に外から轟音(ごうおん)が鳴り響いて来た。
 それは窓ガラスがガタガタと揺れ出す程であった。

「な、なんだぁ?」

 と、トゥセは()頓狂(とんきょう)な声をあげ、ガタッと立ち上がるのだった。
 ウィルが窓を開け外を(のぞ)きこむと、空にて巨大な飛行機械が浮遊しているのが分かった。
 飛行機械は爆音をとどろかせながら、荒野に着陸せんとしていた。

「て、敵なのか?」

 とのアーゼの(つぶや)きは、飛行機械より発される風切(かざき)(おん)などに()()されるのだった。
 一方で、この突如の飛行体の出現に、神殿の人々も(おび)戸惑(とまど)っていた。

「ともかく行こう」

 そして、ウィル達は飛行機械の着陸地点へと急ぎ向かうのだった。


 ・・・・・・・・・・
 ウィル達が急ぎ駆けつけた頃には飛行機械は停止しており、轟音(ごうおん)()んでいたが、(かす)かな鳴動(めいどう)が響いてはいた。
 その偉容(いよう)な機械をウィル達は見上げるのだった。
 すると、突如(とつじょ)、飛行機械のハッチが開き、中からタラップが地面に()かっていった。

 さらに、ドワーフ達が内から出てきて、タラップを通り地面へと降りてきた。
 突然に現れた小柄で筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)なる訪問者に、ウィル達は互いに顔を見合(みあ)わせた。

「敵じゃないみたいだな。多分」

 そうトゥセは首をかしげながらも言うのだった。
 すると、仰々(ぎょうぎょう)しい(よろい)(まと)った一人のドワーフがタラップを駆け()りてきた。
 彼はウィル達に気づき、手を振りながら近づいて来た。

「おーーーーいッ!団長ーーーー!それに、皆ッ!」

 と、叫ぶそのドワーフこそ、ヒヨコ豆-団の一員であるドワーフのギートであった。

「ギートッ、無事だったのか!」

 ウィルは叫び返した。
 そして、ウィルとギートはドワーフの習慣から固く抱擁(ほうよう)し合うのだった。
 ギートはもちろんモロンやトゥセやアーゼとも抱擁(ほうよう)()わし合った。

「いやぁ、団長達の(うわさ)を聞き、急ぎ参上したんじゃよ。ガッハッハ!」

 と、ギートは豪快に笑い声をあげるのだった。
 そのいつもの光景に、ウィルは微笑(ほほえ)むのだった。

「そうか。いや、でも本当に無事で良かった」

「ハッハッハ。この筋肉に加え、オリハルコンの鎧がある限り、そうたやすく-やられはせんわい!」

 そう誇らしげにギートは答えるのだった。

「しかし、どうしたんだ、その機械?ギートが動かしてたのか?」

 とアーゼは素朴(そぼく)な疑問を(たず)ねた。
 それに対し、ギートはニヤリと笑みを浮かべた。

「これは古代機械じゃよ。遺跡に眠ってたヤツを何とか起動させたは良いモノの、色々と動作が不安定でな。何度、墜落(ついらく)しかけたか分からん。もしかしたら、そろそろ寿命かもしれんのう」

 ギートは振り返り、しみじみと言うのだった。

「とはいえ、今しばらくは動かせそうじゃから問題ないじゃろう。天高くそびえる魔王城に行くのも、これを使えば良いじゃろう」

 とギートは振り返り、告げるのだった。

「おお、ギート。お前って奴は、なんて(すご)素晴(すば)らしい奴なんだ」

 ウィルは感極(かんきわ)まってギートの両肩をポンポンと叩いた。
 それに対し、ギートは誇らしげに胸を張るのだった。

「ところで、団長達は今まで何を?」

「ああ。魔王の心臓が封じられている闇のオーブを司祭様から(ゆず)り受けたんだ」

 とのウィルの言葉に、ギートは驚きを見せた。

「オオッ、なんと。さすがは団長。まさか魔王打倒のためのキー・アイテムを既に手に入れているとは!」

「ま、まぁな。ともかく、今回ばかりは絶対に失敗が出来ない。必ず成功させるぞ、(みんな)!」

 と告げるウィルに対し、一同は《オー!》と声をあげるのだった。


 ・・・・・・・・・・

 それからウィル達はその飛行機械《飛翔(ひしょう)(てい)》に乗り、いざ魔王城を目指すのであった。
 この時、飛翔艇にはウィル達やドワーフ達だけで無く、まさに出発時ギリギリに駆けつけた狂戦士ロー(ひき)いる大隊も乗り合わせていた。

この時、ローは一人駆けつけながら『おーい。待った、待った。待ってくれー』と叫び、飛翔艇に乗り込むウィル達を呼び止めたのだった。
 その後ろをかなり遅れて、部下達が汗水(あせみず)たらし必死に追いかけて来たのだった。

 ちなみに狂戦士と呼ばれてはいるが、普段のローはしゃべらせなければ気品のある騎士に見えない事も無かった。それこそ薔薇(ばら)似合(にあ)う・・・・・・。


「いや、しかし間に合って良かったよ。まさか、わずかなドワーフ達と合わせて数十名で魔王城に向かおうとしてたなんて」

 との狂戦士ローの言葉に、ウィルは苦笑した。
 それから真剣な面持(おもも)ちに()()え、答えるのだった。

「あまり皆を巻きこみたく無かったんだ。恐らく魔王城に
行った者のほとんどが戻ってこれない」

「だとしても、魔王の心臓が敵の手に渡ってしまう事も
ありうるわけで。不用意な突入は禁物だ」

 しかし、ウィルは首を横に振った。

「最悪、霊剣(れいけん)の力を解放して、俺の体ごと闇のオーブを
破壊するつもりだった」

 とのウィルの説明に、ローは得心(とくしん)がいったようだった。

「霊剣・・・・・・か。エヌの力にも匹敵する虚無の力。
確かに魔王城で解き放つのが最上かもしれないな」

「ああ。だけど、もしかしたらその波動に皆を巻きこんで
しまうかもしれない」

 すると、ローは笑い出した。

「気にする必要ないさ。私を含め皆、命を捨てる覚悟はとうに出来ている。最悪の時は私達に構う事なく虚無の力を発動してくれ。それよりも、やるからには手を抜いたりせず、魔王を闇のオーブごと葬ってくれよ。中途半端にやられて私達だけ死んで魔王が生き残ったんじゃシャレにならないからな」

 とのローにウィルは(うなず)いた。

「分かってる。ありがとう、ロー」

「照れるね」

 そして、二人は水杯(みずさかずき)()()わすのだった。


 ・・・・・・・・・・

 暗雲が晴れ、遠方ではあるが魔王城の尊容(そんよう)(かす)かに(うかが)えた時、突如として無数の点が飛翔艇に向かい迫って来た。
 それらの一つ一つの点は強大なる邪竜であり、飛翔艇に襲いかからんとしていた。

「おいおい、やばいんじゃねぇの。あれ!」

 艦橋(かんきょう)にて、トゥセが叫んだ。

「安心せいッ!全門、発射準備ッ!」

 とのギートの命令に『オオオオッ!』とドワーフ達は答え、急ぎ()に魔石と(まき)をくべていくのだった。
 そして、飛翔艇から蒸気と魔力が噴き出していき、発射準備が(ととの)っていった。
 さらにドワーフ達は砲弾を詰めだしていった。

「トゥセ、甲板に上がるぞ」

 とのウィルの言葉に《了解》とトゥセは答えるのだった。

 急ぎ甲板に出れば、そこには既に狂戦士ローとその部下達が配置していた。
 飛翔(ひしょう)(てい)の周囲には結界が張られていて風は弱められているが、それでも常人ならば風圧と寒さでまともに顔を上げられない状況であった。
 しかし、ローや部下達は一糸(いっし)(みだ)れずに隊列を組み、上方より迫りつつある邪竜を(するど)見据(みす)えていた。

「ロー、銃器は使わなくて良いのか?」

 とのウィルの疑問はもっともであった。
 騎士達の持つのは剣と弓矢のみであり、遠方を攻撃するのに最適な銃は持ち合わせていなかった。

「いやぁ、彼らの弓の方が威力が高いからねぇ」

 ローのさりげない言葉には、弓兵達の血のにじむような努力が(うかが)えるのだった。

「さて、と」

 そして、ローは弓兵達に向き(なお)った。

「これより飛翔艇の砲撃の後、我らは一斉(いちせい)(しゃ)(おこな)う。ただし、敵を十分に引きつけてから合図をするのでくれぐれも邪竜に(ひる)むなよ!」

 との風の中も響き渡るローの声に、弓兵達ははやる心を押さえながら『了!』と答えるのであった。


「撃てッッッ!」

 ギートの張り裂けんばかりの号令と共にドワーフたちは一斉(いっせい)に砲撃を開始した。
 砲弾達は飛翔艇の魔導力を得て、すさまじい初速で撃ち出され、その速度をほとんど落とす事なく保ちながら遠方の邪竜へと吸い込まれていった。

 その威力は圧巻(あっかん)の一言であり、邪竜達の肉は(はじ)けるのでは無く、(えぐ)(つらぬ)かれていった。
 当たりようによっては、砲弾は数体の邪竜を貫通していき、邪竜達は体に()いた大きな穴を見つめ首を(かし)げながら、力無く海に墜ちていくのだった。

 始め戸惑(とまど)うことしか出来なかった邪竜達も次第(しだい)に何が起きたか理解し始め、混乱(パニック)を起こし出した。
 得体(えたい)の知れぬ恐怖が邪竜達を包む中、一際(ひときわ)大きな老成せし(りゅう)咆哮(ほうこう)が響き、邪竜達は正気に返り、再び飛翔(ひしょう)(てい)に突撃しだした。
 さらに()の悪い事に、第一(だいいち)(せい)(しゃ)は終了していた。

「ええい。次弾(じだん)装填(そうてん)、急げッ!」

 ギートの声が艦橋(かんきょう)に響くも、ドワーフ達は既に最善を尽くし発射準備に取りかかっており、それでもあと数分次の砲撃まで、どうしてもかかってしまうのだった。

「さて、出番かな」

 近づくにつれ次第(しだい)に大きさを増す邪竜の群れを見つめ、ローは(つぶや)くのだった。
 ローは邪竜をひたすらに引きつけた。
 トゥセは思わずカードを放とうとするも、ウィルに制され、手を止めるのだった。

 一方で弓兵達は筋肉を限界まで隆起(りゅうき)させ、渾身(こんしん)の力をこめて弓を()(しぼ)るのだった。
 そして、邪竜の牙すらはっきりと見える程となった時、『放てッ!』とのローの怒号(どごう)が響き、魔力まといし疾風(しっぷう)(ごと)き矢が一斉(いっせい)に放たれた。
 それらは邪竜の(うろこ)隙間(すきま)に正確に突き刺さり、もしくはその眼球を(えぐ)っていった。

 いずれにせよ、邪竜の飛行と隊形は大いに乱れていった。
 しかし、それでも邪竜達は個別に飛翔艇に対し炎弾を放って来た。
 とはいえ、それらの炎弾は飛翔(ひしょう)(てい)の結界に(はば)まれ、虚空(こくう)に散っていくのだった。
 これを受け、邪竜達は直接、結界の中に潜りこむのだった。

 飛翔艇に張られた結界は魔力的な攻撃を(おも)(はじ)くものであり、物理的な接触に関しては強くなかった。
 なので、多少、体が傷つくのを(いと)わなければ結界の内部に入りこむのは可能なのであった。

 その結果、結界と飛翔艇の間の空間では激戦が繰り広げられていった。
 甲板の上では弓兵達が次々と邪竜を狙い撃ち、側面などでは飛翔艇の機銃が火を()いていた。
 邪竜達は次々と結界の中で()ち、その底には邪竜の青い血だまりが出来ていた。

 とはいえ、弓兵達の被害もゼロでは無く、時折、特攻してくる邪竜達の攻撃を受け、弓兵達は徐々にその数を減らしていった。

 狂戦士ローは甲板で事切(ことき)れている邪竜の(しかばね)を蹴り飛ばし足場を作り、そのままに怒り襲い来る邪竜に対し剣撃を放っていった。

「やれやれ、キリが無いねッ!」

 と叫び、ローは一気に跳躍(ちょうやく)し、空中の邪竜の首を同時にいくつも切断していくのだった。
 その上、空中にて無防備(むぼうび)(すき)(しょう)じないように切り倒した邪竜を足場に次々と跳躍し移動していったため、邪竜もそのトリッキーな動きに対応できず、ただただ(ほふ)られていくのであった。

 一方で活躍を見せているのはローだけでは無く、ウィルも邪竜の放つ炎弾を次々と斬り裂いていき、弓兵達を守護しているのだった。

 その働きは敵を倒すのと違い、あまり華々しく無かったが、彼こそ真に騎士であると言えただろう。
 もちろんローもまた十分に騎士であったが、なにせ彼は狂戦士なのだから。

 ただし、邪竜からするとウィルの存在こそ非常に厄介(やっかい)であり、邪竜達はウィルから殺そうと攻撃を仕掛(しか)けるのだが、その背後から狂戦士たるローが刃を突き立てるのであった。
 これもまたウィルとローの一種の連携と言えただろう。

 さて、この時、ダーク・エルフのトゥセは甲板には居なかった。
 ウィルやローという強者の居る甲板と違い、飛翔(ひしょう)(てい)の側面は邪竜の攻撃にさらされつつあるのだった。
 そんな中、トゥセは重力を感じさせない動きで壁を駆けながら、カードを邪竜に向けて放っていくのだった。
 この突然の乱入者に邪竜達は戸惑(とまど)い動きを止め、飛翔(ひしょう)(てい)の銃撃の前に散っていくのだった。

 トゥセが本気を出せば、カードであっても邪竜を貫く事は可能であったが、今は手数を優先し、こめる魔力をあえて抑えていた。
 その結果、カードは邪竜の体に浅く突き刺さり軽く爆発する程度だったが、飛翔(ひしょう)(てい)による後方(こうほう)支援(しえん)がある今、一瞬でも敵の動きを止めれば十分なのだった。

 そして、トゥセは飛翔艇の側面を何周も何周も回りながら、邪竜達を翻弄(ほんろう)していくのだった。


 ・・・・・・・・・・

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