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続 僕の住む場所〜カケラを追う者〜

「交流サイト 小説喫茶企画」参加作品です。
「我々は、天使である!」

 光り輝く月をバックに、柔らかそうな短髪がふわりと揺れ、胸を張った少女が不敵に笑う。
 古い一軒家。今にも壊れそうな木製の縁側に立つ二人の少女は、実に対照的だった。
「……枝毛みつけちゃったんだけど」
 長髪を風に揺らし、もう一人の少女は小さくため息を吐いた。

 僕は突然現れた彼女たちに、どこからツッコミを入れればいいのか思案する。
 ツッコミどころは、存在すべてだと言っても過言ではなかろう。
 なんだか突発的状況に慣れつつある自分に、嫌悪すら感じるが、とりあえず三十路の男としては冷静な対応をとらなくてはならない。

 天使ってなんだ、ただの不法侵入者だろ。とか。
 なにゆえ巫女服!? とか。
 頭に着けているウサギの耳、今時の萌えとか狙ってんの? とか。
 いや、そう決めつけるのもカワイソウかもしれない。きっと罰ゲームかなんかなのだろう。
 たまたま目についた電気のついている家をターゲットしただけに違いない。
 それは長髪少女のやる気のなさが、十分と言っていいほど物語っているではないか。

 とにかく、アブナイヒトだ。

 そう認識した上で、なるべく刺激を与えないように、僕は苦々しげに口を開いた。
「あのさ、なんつーかその、分かったから。もう帰ってくれる?」
「なに!? なんて純粋な! 天使と言えば『願いを叶えてみろよ、オラオラ』とか言う不埒な人間が多い中、なんと無邪気な!」
「……そこのボク、ハサミない? 出来れば髪の毛を切るためだけに存在するハサミが良いわ」
 短髪少女は、自らの頭を抱えて大仰に振る。
 ハサミは前に壊れたから、家にない。と言えば、長髪少女は鼻で笑い、僕から目を逸らした。どう見ても、僕のほうが年上だろう、などとは口にしない。
 今時の若い奴らは、どこでどうキレるかなんて、わかったものじゃないからな。
 いや、だからといって僕だってまだ三十になったばかりだけど。

 ってか、どうしたらコノヒトタチは帰ってくれるのだろう。

 この古い一軒家――賃貸だが――を手に入れてから、どうにもおかしな人間が尋ねてくる気がしてならない。
 僕を初対面でパパと呼び、ほぼ毎日呼び鈴を嵐のように鳴らしまくってくるご近所の少女とか。
 大家もその被害で一軒家を賃貸にしたというのは、すぐに分かったけど、逃げ出せる資金が僕にはない。
 これもその一環なのだろうか。僕はひとつため息を吐き、見知らぬ彼女たちを見た。
「あー。あのさ、なにが望みなのかな? この家には金目の物なんてないし、酒だってさっきビール空けたから、残ってない」
「なんと! 酒で我らをまつろうと思ってくれたのか! 古き良き時代を分かっている若人よ。お前は、素晴らしい!」
「ハサミすらない貧乏人が、金目の物など期待せぬわ」

 もちろん、古き良き時代は大好きだ。
 だからこそ、こだわり抜いてこの昔ながらな物件を手に入れたんじゃないか。
 なのになぜだ! 悪いが僕の萌え属性は、ウサ耳じゃない!
 巫女姿は、なかなかそそられるものがあるけどな。

 心の叫びがおかしな方向に傾いた気がしたが、心の奥にしまい込む。僕の奥底など、たかが知れてるが。
 笑顔を作った。引きつっている事など、自分にも彼女たちにも、この際関係なかろう。
 こういう類の罰ゲームならば、僕からなにかしらの言葉を引き出した時点で終わりになるはずだ。
「……そうだな。萌えか、萌え。すごいなー、リアルでウサ耳見たの初めてだよー」
「ほぅ、お前も我らをそう称えてくれるのか。崇め恐れるが良い」
「……ワンパターンなクズどもが」
 長髪少女の言葉に、さっきから違和感と怒りを覚えるが、ここは酔っ払いなのだからと大人な気構えで接する。
 これを本当に『出来た人間』というのではなかろうか。
 とにかく、帰宅ワードを探さねばならない。彼女たちの言葉から、なにか重要なポイントがあったはずなのだ。

「じゃあアレか。ベトベトさん、先へお越し。とか、そういう類の」
「我は、そのような名ではない。どうした、目がうつろだぞ?」
 声を発する事をも放棄したのか、長髪少女は枝毛探しに夢中になっている。
 とにかくも、妖怪追い払い系ではなさそうだ。じゃあなんだ。
 僕の苦悩をよそに、彼女たちは土足で踏み込んでくる。
「おい! 靴脱げよ……って、なんで巫女姿でハイヒールなんだよ! もっとこー、配慮ってもんがあるんじゃね?」
「我らのする事に、逆らうと言うのか!」
「……着こなしという言葉を理解出来ないだけよ。見なさい、あの当たり障りのない格好。ちんけな家具。良いのは間取りだけね」
「あのさ、他人の家に上がり込む前に。言うべき事があるんじゃないか?」
 怒りを抑えながら言う僕の言葉に、眉をひそめ見つめ合う少女たち。
 ひとつうなずき、こちらを見て口を開いた。

『茶ぐらい出したらどうだ?』

 見事なハモりに、僕は気分良くうな……ずくわけあるか!
「帰れっ! 不法侵入で、警察に通報してやる!」
「なにを騒ぐ必要がある? 我らは天使だぞ。バチが当たりたくなければ、茶くらい出しても良かろう」
「お前らの帰宅ワードなんぞ、知るもんか!」
 携帯を取り出す――圏外。そんなバカな。近くに電波塔が建ったばかりなんだぞ。
 線をひいてる電話など、この家には存在しない。
 歯噛みして、彼女たちへと振り返る。
「……茶葉なんかねーよ」
「なに? 今時の人間は、そこまで困窮しているのか。つまらん世の中だな」
「……貧乏人が」
「だから、出てけって! そうだ、どうせこの家の大家さんの知り合いだろ? 今から新しい住所教えるからさ、そっち行ってくれよ」

 この際、倫理とか人道などクソくらえだ。

 パパ女のように、また大家が黙っていた一つに違いない、と踏んだのだが、短髪少女はノートの切れ端に書き出した住所を見る事なく、正座をし、厳しい声を出した。
「お前は、他人の情報を簡単に垂れ流すのか! それは卑しい所業だぞ、お前らしくもない。気をつけよ!」
「あ。はい、すみませ……って! 犯罪者に言われたくねーよ! いいから、かーえーれーっ!」
 地団駄を踏む僕を見つめる彼女たちは、呆れている。
 ここはちゃんと月々の家賃を払っている僕が正しいはずなのだ。
 さすがに夜は、静かな時間を過ごせているのに。

「なにが目的で、入り込んでるんだよ」
「なにと言われてもな」
 少しだけ困った顔で、短髪少女が呻く。
「月のカケラを勝手に奪いおって、今すぐ返さんか」
 こちらを見ようともせず、苦々しげに吐き捨てる長髪少女。
 ハサミがなかっただけで、そこまで? とも思うが、僕ははたと動きを止めた。

「……月の、かけら?」
「そうだ。お前が許可なく飲み込んだ月のカケラだ。さあ、返してもらおうか」
「ちょっと待ってくれ。意味がわからん」
 正座のままにじり寄ってくる短髪少女に、僕は立ったまま後ずさった。
「覚えてないのか。若くしてカワイソウな男だな」
「それもちょっと待て! お前らの常識と、一般常識を一緒にするなよ!」
 聞き捨てならないセリフに、さすがに声をあげた僕だったが、脳内はフル回転だ。
 古い文献や民話などに、似たような話があった気がする。

 それは、杯に満たした酒に満月を映し、それを呑んだとされる話だった。
 風流な話だと思い出して、たしかにビールだったが真似をした。あの話の他にも逸話があったのか?
 どう考えても、ウサギ耳の巫女服女が出てくる話など聞いた事はない。

「さあ、返せ! 月が頂きを過ぎる前に!」
「月を酒に映して、もういちど呑めばいいのか?」
「わかっているのなら、とっとと準備せぬか!」
「そんな事言っても、もう酒なんかないぞ」
「……貧乏人が」
 長髪少女のつぶやきになど耳を貸さずに、とりあえず茶碗を洗った。
 杯なんて大層な物、この家にはない。
 似たような形といえば茶碗だろ? と、急ごしらえだが杯に見立てる。
 それに水道水を入れて、呑み終えたビールの缶を逆さに振って数滴水に落とした。
「アルコールも一応入ってるという事で。これで、なんとかならないか?」
「難しい所ではあるが、やってみせよ」
 あくまで尊大な態度を崩さない彼女に対して生まれた、理不尽への言及も噛み潰し、縁側から空を仰ぎ見る。

 僕は茶碗を差し出したまま、固まった。
 ここぞとばかりに蚊にくわれているが、気にならない。

「雲が……」
「なに! お前がモタモタしていたからだ!」
「このクズが」
 ちょっと待て! と、声をあげる気にもならない。
 もしこのまま、月が出る事なく夜が明けたらどうなるんだ?
 そんな疑問が、頭をよぎるどころか、グルグル回る。
 体中に力を入れたまま、ゆっくりと振り返った僕に、長髪少女が毛先を丹念に調べながら、はっきりと声にした。
「役立たずめ」
「お前ら、天使だったら天候ぐらい、なんとかしてみろよ!」
 いきり立つ僕に、短髪を整えるように手をあてた少女は仁王立ちで胸を張った。
「気象を操る天使に、友人などおらん」
「基本的に、私たちに友人なんていないわね」
「あー、そーでしょうとも」

 雲は厚く、闇夜に目をこらしても切れ間は見えない。
 このまま月が出なかったら。
 この二人の少女は、次の満月まで居座り続けるのだろうか。
 振り返れば、勝手に水を飲んでいる少女たち。
 頭についているウサギ耳が、ピコピコ動く様さえ腹立たしい。
「あと一分ね」
 のどを潤し、満足そうに長髪少女が声をかけてくる。
 僕は窓に張り付いた。

 ――これ以上、おかしな連中が増えてたまるか!

 *

「僕は晴れ男なはずだっ!」
 自分の大声に目が覚めた。
 まさかの夢オチかよ。と、独りごちながら窓を見る。
 開け放していたはずだが、網戸は閉まっている。無用心極まりないが、こんなボロ屋に入ってくる泥棒などいないだろう。
 悲しい事実など関係ない。何度も言うが、金目の物など一切ない。
「網戸なんて閉めて寝たか? ってか、どこまで夢だよ」
 小さな混乱に、寝癖だらけの頭をかきむしる。
 毎朝、同じ時間にけたたましく鳴る呼び鈴が、今日もまた鳴り響く。
 ぼんやりとした頭で、渋々立ち上がれば、目の端を頭に異物をつけた者たちが駆け抜けた。
 玄関の引き戸を威勢よく開ける音に続き、脳天を刺す呼び鈴が怒声に変わる。

 僕は走った。短い距離が、やたら遠い。
 玄関までたどり着き、恐る恐るのぞけば、僕をパパと呼ぶ少女――川田寛子――がものすごい剣幕で二人と対峙している。
 僕が顔を出すやいなや、ウサ耳少女たちを指差して、怒号をあげた。
「あ、パパ! なによこの女たち!」
「我らは、昨日の夜からこいつに世話になっておる」
「せ、世話っ!?」
 目を剥いて僕を信じられない目で見てくるセーラー服の寛子。

 朝の出勤で、道を行き交う誰しもがこちらを見た途端、目をそらし足早に通り過ぎていく。
 そりゃあ滑稽だろうよ。ウサ耳巫女服女とセーラー服だ。
 どれだけ好きモノだと思われてしまったのか、寛子に係わりたくないだけなのか……出来れば後者だとまだ肩身が狭い思いをして住む事はないのだろうが。
 なんだか怒りなのか憔悴なのか、わからない感情が僕の中で充満している。

「立ち話なぞ風情に欠けよう。中に入るが良い」
「望むところよ! あんたたちみたいな、いかがわしい奴らなんて追い出してやるから!」
 招きいれようとする短髪女に、当然のように入ってこようとする寛子。
「……お前らっ! みんなまとめて、出て行けぇっ!!」
 僕はひっくり返った悲痛な叫びとともに、彼女たちをまとめて玄関から押し出した。
 引き戸を勢いよく閉め、鍵をかける。
 驚きに引き戸を叩いていた彼女たちであったが、すぐに静かになった。

 あきらめたのか。

 僕は、引き戸を背にふつふつと笑いがこみ上げる。
 やってやったのだ。平穏な日常を確保するためには、実力行使も必要なのだ。
 とてつもない喜びに、腹を抱え、身をよじって笑い倒した。
 そんな時、中からひょこりと見覚えのあるウサ耳短髪の女が、凍るような冷たい目でのぞいてくる。
 僕の顔は、笑う形で固まった。

「おい。早く客人をもてなさんか」
「……は?」
 あんぐりと口をあけたまま、僕は真っ白になった頭で考えようとする。
 少しばかり時間がかかったが、網戸のままであった事実を思い出す。
 居間をのぞけば、土足ハイヒールの二人と、神妙な顔で座布団に正座し、はいていた靴を自分の横に置いている寛子。
「おじゃましてます」
「おま……靴底を床につけてちゃ、意味ねーだろ! ってか、学校行けっ! 戻ってくるな!」
「実の娘に対して、そんな言い草ってないよ!」
「そうだ。親しき仲にも礼儀ありだぞ」
「親しくなんかねーよ!」

 ああ、僕はどこで間違ってしまったのだろう。誰か変わってほしい。切実に。

 頭を抱え、うめき声をあげる僕に、誰も同情の声をかけてはこない。
 これだけ朝から騒いでいても、近所からの苦情もこない。
 寛子にも、そしてつきまとわれている僕にも極力係わりたくないのだろう。
 その時、サラサラの長髪の一束を片手に、長髪女が寛子へとたずねた。

「ちょっとお嬢ちゃん、あなたハサミ持ってない?」

 彼女たちの長居は、次の満月まで続くようだ。
 僕は、大家さんのナイスミドル林さんの言葉を思い出す。

 家を壊さない、木を切り倒さない、庭の草むしりをする、掃除ゴミ捨て忘れない。

 最後の二つは関係ないが、暴れたい衝動をいつまで耐える事が出来るのか。
 僕は、とてつもない物件を手にしてしまったのだろうか。
 ひょっとして、この事態もナイスミドル林さんは知っていたのではないのだろうか。
 僕の心は疑心暗鬼に囚われる。
 しかし、このままでは家を乗っ取られるという焦りに、僕は踏みとどまり虚勢を張った。

「ここは僕の、僕だけの家だ! お前らは不法侵入者だ! 出て行かないと警察を呼ぶからな!」
「そうよ! 出て行きなさいよ。警察を呼ぶわよ」
「お前もじゃーっっ!!」

 僕の悲鳴は、閑静な住宅街にただ虚しく響き渡った。

読んでくださって、ありがとうございました!
これからも頑張っていきます。
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