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第77話 思わぬフラグ

お、遅くなりました。


仕事で人が減り、自由な時間(休日)が・・・

「す、少し、考えさせてください」


「「はい?!」」


 そう言うと俺は2人を置いて店を出た。


 キュルケとか言う女神、なんか危険な香りがする。


 俺の居場所をピンポイントで神託するなんてストーキングも甚だしい。


 神様のストーカーとか、笑えない冗談だ。


 もし着拒してからずっとって事なら、ひょっとしてトイレの最中も覗かれてたのか?


・・・


 想像するだけで発狂しそうになる。

 こ、これはいけない、考えるのはやめよう。

 精神衛生上良くない。


 そう思い、深呼吸を数回繰り返して心を落ち着かせる。


 さて、問題は対話に応じるか否かだが、どうしよう。


 正直な話、あまり関わりたくないけど、このまま無視をするには相手が悪すぎる。


 逃げ隠れする事もできない上、これ以上ストーキングを続けられても困る。


 ここは1つ、後腐れない様に気合を入れて対話に臨むしかないか・・・


 とりあえず宿屋に戻ってから対話しよう。


 そう決意して街中をフラフラと彷徨った。











「ハハハハハ、どうしたどうした! かかってこーい!」


 俺はそう言いながらマッチョな冒険者の顔面を鷲掴みにして持ち上げると、ロープに無造作に投げつけ反動で戻ってきたマッチョな冒険者に1蹴り入れて乱闘場から吹き飛ばした。


「さて、次は誰だぁ!」


 そう言うと今度はドワーフ2人と冒険者風の男が1人乱闘場へと入ってきた。


「ぬう?!」

「え?」

「ん?」


 3人が顔を見合わせるとお互いが主張し始める。


「今度こそワシがラクを倒すんじゃ!」

「いやいや、俺っちがラクの兄貴と遣り合うんすよ!」

「ここは譲ってもらえないか?

 俺には冒険者達の意地が掛かってるんだ」


 そう口々に言い合って埒があかない。

 全く、仕方ない。


「全員纏めて相手してやるから、かかってこい!」


「なんじゃと?」

「いいんすか?」

「貴様、愚弄する気か?」


「ここは乱闘場なんだろ?

 なら、つまらん口喧嘩は後にしな!」


 そう言って俺は3人にフライングボディアタックをかます。


「「「ぐあ!」」」


 悲鳴を上げて3人が倒れるが、ドワーフの白髭の方はすぐに起き上がる。


 俺はまだ倒れているドワーフの両足を掴むと振り回し、ジャイアントスウィングをお見舞いし、徐々に立ち上がろうとしている冒険者風の男に近付いていく。


「め、目が回るっすぅぅぅ」


「ま、待て!ちょっと待て!待ってくれ!」


「闘いに待ったなんてあるわけないだろう?」


 俺は良い笑顔で言い放つと振り回していたドワーフを叩きつけ、ドワーフごと冒険者風の男を乱闘場から吹き飛ばした。


「さぁ、残ったのはおまえだけだぜ?」


「こ、ここまで実力に差があるとは・・・ええい!

 破れかぶれじゃ、行ったるわい!」


 白髭のドワーフが特攻して来るが俺は敢えてそれを受け止める。


「ハハハハハ、まだまだ足りないぞ!ドッセーイ!」


 受け止めた上で弾き飛ばし更に挑発する。


「どうしたどうした!さっきの威勢はどこ行ったんだ?

 悔しかったらかかって来んかーい!」


「ち、ちくしょー!」


「ウハハハハ」


と言う感じで乱闘場で楽しくなってきた頃、悪魔の使いが現れた。


「ら、楽太郎さん?」


「あぁ? あ!あぁ、そのぅ・・・」


 威嚇、驚き、挙動不審。

 何故こんなところにいるんだ?


「何をされているのですか?」


「・・・乱闘を少々・・・」


ドウシテコウナッタ?











 『山の女将』亭を出た後、街中を無意味に歩いていたが、中々宿屋に足を向ける気にならなかった。


 戻ればキュルケとの対話が待っている。


 はぁ、気が重い。嫌な事をしようとすると、どうしてこんなにヤル気が無くなるのだろうか。そんな適当な事を考えながら公園のベンチに座っていたら声をかけられた。


「ラクの兄貴じゃないっすか!何やってんです?」


 どこかで見た顔だな、ドワーフって事は乱闘場の酒場でのした奴かな?


「何って事もないよ、少し休んでるだけですよ」


「それなら今お暇ですかい?」


「まぁ、何もしていませんからね」


「なら、少し助けちゃもらえないですかね?」


「助ける?」


「ええ、実は・・・」


 そう言って彼からの説明を受けたんだが、どうやらあの冒険者達は中堅どころでも有望株だったらしく、それを伸した事で冒険者達のプライドを(いた)く傷付けたようだ。


 その所為か冒険者ギルドの威信を懸けて力自慢の猛者を乱闘場に送り込む事になっているらしい。


 その情報をいち早く手に入れたので助っ人として俺に助けて欲しい。と言う感じだった。


 まぁ、俺も冒険者なんだけどこの街のギルドには一度も顔を出していない余所者だ。


 時間を潰せるし、ストレス発散・・いや、これも人助けだ。仕方ない、一肌脱ごう。


 俺は二つ返事で了承した。


 決して宿屋に帰らなくて済む口実ができた事を喜んだわけではないよ?







「と言う事なんですけど・・・」


 俺は対面に座ったリディアーヌとルインに言い訳をしていた。


「・・・人助け、ですか」


「えぇ、その通りです」


 俺はなんとか頑張って作った笑顔で返事をすると、相手のため息が聞こえてきた。


「そう言う事情でしたら仕方ないですね、今回は目を瞑りましょう」


 なんで上から目線で責められてるんだ俺?


「それよりも早くキュルケ様との対話をお願いします」


 それが億劫だからこうして遅滞行動を取っていたんです。なんてことは言えない。


「私もそろそろ限界なんですよ?」


 リディアーヌからそんな言葉が漏れたがどういう事? 限界? 何が?


「どういう事です?」


「わ、私も一応、その、年頃の女の子なんですよ? なのにキュルケ様からの神託を受けると白目向いて倒れて痙攣しているそうじゃないですか?!そんな事が続いて噂にでもなったら・・・恥ずかしくてここにはもう居られません! それに・・・結婚も出来なくなっちゃうじゃないですか」


 ・・・女の子としての何かが終わってしまうのは確かかも知れない。


 この子も可哀想に・・・ 神の犠牲者と言う訳か。

 そう思い、原因の一端に自分がいる事に気付いてしまう。


「それは・・・申し訳ありませんでした」


 素直に謝罪の言葉を口にする。


「ですから、楽太郎さんにはすぐにでもキュルケ様との対話をお願いします!」


 涙目でそう言われると罪悪感も絡み合い、断れそうにない。


「わかりました。これから宿に帰りますから、帰り次第女神キュルケと対話します」


「本当ですか! ありがとうございます」


 俺の言葉にリディアーヌは感激したかのように大声でお礼を言って来るが、ここでルインが余計な口を出す。


「リディアーヌ様。この男の言動を信用するのは危険です。昼間の件でも嘘を言ってキュルケ様との対話を避けております」


 むぅ、心外だ。俺は昼間のお話し合いで『対話する』なんて一言も言ってないぞ!

 ちょっと腹が立ったが、直ぐに閃いた。

 これを利用してちょっとからかってやるか? 俺の中の悪魔が囁いた。

 よし、やってみよう。


「ルインさん? 一言言わせて頂くと、私は昼間のお話で一言も『女神キュルケと対話する』なんて言ってませんが?」


「な?!」


「私があなた達と別れた際、私はなんと言いましたか?」


 そう言ってやると、

2人はしばし考えた後、声を出す。


「・・・『少し考えさせてください』」


 そこでルインの表情がハッとなる。


「その通りです。考えた結果、対話しないという選択肢も私にはあった訳です。それをルインさん。あなたが勘違いしただけで私が嘘を言ったと出鱈目を言われるのは心外ですよ?」


「くっ!」


 ルインは悔しそうな顔をするが、プライドが高いのか謝る事が出来ない人種なのか謝罪の言葉は出てこなかった。

 ふむ、なんか雲行きが怪しくなってきたな。まぁ、もう一押ししてみるか。


「それに初対面で為人(ひととなり)も知らない赤の他人からの『突然のお願い』を見返りもなくされている立場なのに、その相手から信用できないなんて言われるのも心外ですね。信用していないなら最初からお願いなんてしなければ良いじゃないですか? 昼間にも言いましたが私が(・・)あなた達を信用していないんですよ? こんな悪しざまに言われるなら前言を撤回し、女神キュルケとの対話は断固拒否させていただきます」


「そ、そんな?!」


 慌てたのはリディアーヌだ。

 信じられないと言った顔をした後、ルインを睨みつける。

 うむ、良い流れだ。これで謝れば適当な条件を付けて了承するか。

 そうだな、『今後女神キュルケの信者を俺に関わらせない』とか、良いかもしれない。

 こっちの宗教関係者はヤバそうなのしか見ていないからな。うん、是非そうしよう。


 だが、リディアーヌに睨みつけられたルインは焦りの表情を浮かべるが、言葉を発しようとしない。

 なにかおかしくないか? 普通なら「ごめんなさい」とか「申し訳ない」とかあるべきじゃないのか?


 こうなると俺も拒否した手前、女神キュルケと対話するわけにいかなくなる。

 うーん。それは困る。今後も女神キュルケ(知らないおんな)に俺の生活(トイレや1人プレイ等)を覗かれるとか、発狂するわ!


 ま、まぁ、交渉が決裂した場合は後でコッソリ女神キュルケの着信を受けてオ・ハ・ナ・シして奴等に適当な罰を与えてもらうか。


 そんな事を考えつつ俺は冷め切った表情を作り、捨て台詞を告げる。


「大体、そちらからの頼みごとに私が応じる義務なんてないでしょう?」


 そう言って席を立とうとすると、リディアーヌに止められた。


「ま、待ってください! このことについては謝罪します。ですから、どうか対話に応じてください!」


 そう言って必死に引き留めようとするリディアーヌだが、ルインは悔しそうな表情をするだけだ。

 普通に謝れないとは、思った以上に(こじ)れた性格なのかもしれない。少し挑発もかねて厭らしく言葉を発しよう。


「嫌ですよ。 それに謝罪する必要があるのはそちらのルインさんでは?」


 そう断るが、リディアーヌはなおも食い下がってくる。


「どうか、お願いします。ルインも謝ってください!」


 リディアーヌに促されるもルインは動かない。いや、動けないのか?

 まぁそんな事は関係ない。


「お断りします」


 俺はリディアーヌの謝罪を断る。

 あくまで謝る必要があるのはルインの方だからな。


「そんな?! 女神キュルケ様からの神託なんですよ?」


「そんなの知りませんよ。私と言う人間と交渉するにあたって対応を間違ったのはあなた達でしょう? それなのに当人が謝罪できないなんておかしくないですか? ひょっとして私を舐めてるんですか?」


「?!」


 俺の台詞に言葉を失う2人にさらに厭らしく追い打ちを掛けよう。


「それにお願いをする相手が発した言葉を真摯に受け止める事も出来ず、その挙句相手を悪しざまに罵ったんです。せっかく女神が下手(したて)に出て交渉しようとしていたのに、その信者が上から目線の発言をしていたら女神の意向が台無しでしょう? 己の信奉する女神の言葉を足蹴にする様な事をしたあなた達が聖職者を名乗るなんて烏滸(おこ)がましいと思いませんか?」


「「な?!」」


 厭らしい笑顔で言い切った。

 正直、自分が同じことされたら殴ってる自信がある。

 まぁ、自分ならその前に謝ってるだろうけどな。

 リディアーヌは絶句しているが、果してルインの反応は?


「ま、待って頂きたい」


 声が小さくて聞こえない。ので、そのまま立ち去ろうとすると、もう一度大声でルインが言葉を発する。


「待って頂きたい!」


「はい? なんです?」


 惚けた表情で振り返る。


「不躾だが、あなたに決闘を挑む!」


「は?」


 正直、間抜けな声が出た。

 なんでそうなる?


 俺が考えていたのは2パターン。

 1つ目は悔しがりながらもルインが謝罪の言葉を述べる。

 この場合、俺はもちろんその言葉を一応受け入れ、先程の条件を追加して再交渉。


 2つ目は悔しがりながらも何も言えないルインを尻目にそのまま帰る。


 だったんだけど、ドウシテコウナッタ?


 そう思いルインを鑑定する。





----------------------------------------

名前 :ルイン

性別 :女性

年齢 :21

職業 :神官戦士

称号 :護衛(ガーディアン)

レベル:47


ステータス

 HP : 1091/1091

 MP : 528/528

 STR : 668

 VIT : 574

 INT : 480

 AGI : 574

 DEX : 433

 MND : 480

 LUK : 62


特記事項






 なるほど、かなり強い。

 これなら武力でゴリ押ししようと考えてもおかしくない。

 と言うか、こいつ、俺の事を相当下に見ているんじゃないだろうか?

 確かに体型を見ると普通の人よりちょっとふっくらしているけど、それだけで見下しているのか?


 しかも自分の失言を武力でゴリ押しして有耶無耶にしようとする考えは気に入らない。

 いいだろう。乗ってやる。

 俺は不敵な笑みを浮かべて返事をする。


「いいですけど、決闘方法や条件はどうするんです?」


「決闘を申し込んだのはこちらだ。決闘方法はそちらに任せます」


 決闘を受けてもらえてホッとしている様だが、決闘方法を俺に任せるとは・・・

 やはり俺を相当下に見ているな?

 くくく、俺を舐めた代償は高くつくぞ?


「でしたら、丁度良いのであそこの乱闘場で闘う事にしましょう。ルールは武器の持ち込み、使用は禁止。勿論魔法も禁止です。使用するのは己の肉体のみ。素手での闘いになりますので、あなたが腰にぶら下げている武器も外して貰いますが、大丈夫ですか? 自信が無いなら止めてもいいですよ?」


 説明しつつ挑発する事も忘れない。


「大大丈夫だ! 問題ない!」


 ルインは少し苛ついている様だが、こちらとしては想定通りの反応で嬉しい限りだ。


「了解しました。勝利条件ですが、勝利条件は3つです。1つは対戦相手を場外に出す。もう1つは対戦相手に負けを認めさせる。最後の1つは相手を気絶させたり立ち上がれない状態にして戦闘不能にしたら勝ちです。あと殺すのは禁止です」


「良いだろう。それで条件の方だが、私が勝ったらキュルケ様と対話して貰う。いいな!」


 こちらを見下しながらルインがそう宣言する。

 うーん。本性がまる見えになってる。

 少し残念だ。昼間話した感じでは普通の人に見えたんだが、勘違いか?


「私が勝ったら?」


「まずありえないが、あなたが勝ったら私はあなたの奴隷にでも何にでもなろう」


 見下すような笑いを浮かべてルインが言う。

 わかり易いな、今までため込んでいたのかもしれないが、もう少しからかってみるか。


「その奴隷とはどういった奴隷ですか? 夜伽などの性行為も含まれる奴隷ですか?」


 そう言うとルインは顔を真っ赤にして驚きを露わにする。


「一応、どの程度の奴隷になるのか、あなたの覚悟が知りたかったのですが?」


 そう言ってニンマリと厭らしく嗤う。

 うーむ、リディアーヌがこっちを見てドン引きしてる。

 ち、違うからね? 演技だからね? オッサンそう言う趣味は・・・あるかもしれないけど、勘違いだからね?


「か、覚悟だと?! よし、わかった。私が貴様に負けたら一生貴様の性奴隷にでもなんにでもなってやる!」


 ・・・売り言葉に買い言葉ってやつか? 思いの(ほか)簡単に釣れたな。もう少し葛藤とかあった方が溜飲が下がったんだが・・・

 と言うか、釣って良かったのかな? 何となく後々面倒な事になりそうな気がしてきたが、ここまで来たら引っ込められない。

 突き進むしかない。


「それでは始めますか?」


「待て、正式な決闘なんだ。後で有耶無耶にされては堪らない。正式な書類を作る」


 そんな事をルインが言い出すと、今度はリディアーヌが止めに入る。


「ま、待ってください! 幾らなんでもそんな条件は無茶ですよ!」


 リディアーヌが仲裁に入るので俺はルインに意見を求める振りをして挑発する。


「お仲間はこう言っておられますよ? 私もやめておいた方が身の為だと思いますが、どうします?」


「リディアーヌ様、今回は私にお任せください。必ずや対話をさせて見せますので」


「で、でもぉ、負けたらあなたの人生が大変な事になるのですよ?」


「大丈夫です。私はあのような軟弱な口だけの男になど負けません」


 ・・・軟弱と言うのは当たってるけど、口だけではないからね?

 そんな台詞をぐっと飲み込み、堪える。


「それで決闘の書類と言うのはどういうものなんです?」


 俺がそう言うとルインは羊皮紙とペンを取り出し、条件を書き付けて行く。

 そうして署名欄を3つ作るとその内の1つに自分の名前を書き、ナイフを指に刺すと血が出ている指を羊皮紙に押し付け判を押す。血判かよ!

 そう思っていたら、その紙とナイフを俺に突き出してきた。


「・・・どういう事です?」


「署名して判を押せ」


「あなたと同じように血判でですか?」


「怖じ気付いたか?」


「いや、普通に嫌なんですけど・・・」


「決闘を始める前に負けを認めるのか?」


 そう挑発されたが馬鹿なの? としか思えない。これだから脳筋は・・・

 そう思うが仕方ない、闘う前に負けたとか言われるのも心外だ。

 1つ溜め息を吐くとナイフを軽く布で(ぬぐ)い、火魔術で熱消毒してから覚悟を決めて血判を押した。


 リディアーヌとルインは俺が火魔術を使ったことに少し驚いた様だが、直ぐに気を取り直したようだ。


「では見届け人はリディアーヌ様に「ちょっと待った!」」


「リディアーヌさんはあなたの仲間でしょう。八百長なんてされたら困ります」


「何を言う! リディアーヌ様はキュルケ様の巫女なのだぞ!」


「最初から言っているでしょう。私はあなた達を信用していないと」


「くぅ・・・」


 ルインが黙り込むと、そこにタイミングよくボコポが店に入ってくる。

 お、丁度良い。ボコポに見届け人になって貰おう。

 そしてついでに巻き込まれてもらおう。面倒事には1人より2人ってね。


「丁度良い人物が見つかりました」


「誰だ」


「あそこにいる人物ですよ。すいませーん。ボコポさん! ちょっといいですか?」


 そう言うと空いているテーブルに向かおうとしたボコポが振り返り近寄ってくる。


「どうしたラク。なんか用か?」


「実はこの2人に絡まれまして、決闘をする羽目になったんですよ。なので見届け人になって貰えないですかね?」


 内容は大分端折ったが、ボコポには通じたようだ。


「ふむ、見届け人になるのは別に構わねぇが、リディアーヌの嬢ちゃんが絡んだのか?」


 おや、知り合いだったのか?


「え? いえ! 絡むわけ・・・絡んだことになるのでしょうか?」


 即座に否定しようとしたが、客観的事実を考えたのか、迷っている様だ。


「ふむ、ってことはルインが絡んだのか?」


「・・・」


 沈黙した事で既に回答になっている。


「えーと、そちらも知り合いなら彼が立会人で問題ないですね?」


「異存は無い」


 ルインがそう答える。


「じゃぁ、お願いします」


 俺がそう言うとルインが血判状とナイフをボコポに渡す。

 しばらく内容を吟味していたボコポだったが、ルインを見て聞く。


「内容が滅茶苦茶だ。ルイン。本当にこの内容で良いのか? 止めておいた方が身の為だぞ?」


「いえ、問題ありません。私が勝ちますので」


 頑なに自分の勝利を信じているようだが、ボコポは心配そうにルインを見た後、俺の方を見た。


「ラク、この条件は酷くねぇか? 一生(性)奴隷だぞ?」


「その条件は私が出したわけではありませんよ? そこのルインさんが自分で決めたんです」


「マジか・・・」


 そう言ってルインを見ると、ルインは首肯するように首を縦に振った。


「はぁ、まったく。どういう行き違いがあればこうなるんだかわからねぇ。わからねぇがこれも縁って奴か。わかった。俺が見届け人を務めてやる」


 ふむ、ボコポ。物分りのいい男だ。が、内心では止めて欲しかった。

 俺は性奴隷なんて欲しいわけじゃ・・・欲しいわけじゃ・・・ほしい。そりゃ、男として欲しいと思うじゃんね?

 けど、こういう形で欲しいんじゃないんだ・・・ わかるかな? わっかんねぇ~よなぁ・・・


 そう思い羊皮紙を見詰める。

 正直こんな手書きの書類で効力があるのか疑問の残るところだが、まぁ、俺がルインをおちょくりながら勝利を収め、溜飲を下げたところで適当に条件を有耶無耶にして俺に関わらない様に持って行けばいいだろう。

 それよりも性奴隷の文言がなんか心にグッとくるような、心が痛いような、何とも言えない感情に襲われる。


 そんな事をしているとボコポの署名と血判も終わったようだ。


 その後、ボコポが乱闘場に向かい、決闘の旨を酒場の奴等に伝えると一旦全員が乱闘場から立ち退いた。

 そして俺とルインの前に道が出来る。


「そんじゃ、始めるぜ?」


「「お願いします」」


 俺とルインが乱闘場に上がるとボコポが決闘の宣誓をする。


「戦いの女神ナシスよ!」


「ブフゥ?!」


 初っ端で噴いた。

 な、なんだってぇ?!


「どうした?」


「い、いえ、その、決闘ってその女神が必要なんですか?」


「正式な決闘をする場合は戦いの女神ナシス様に認めてもらう必要がある。そして女神に認められるとその決闘での条件の履行は神の強制力によって履行される。つまり誤魔化しや不履行等はできないものと知れ!」


 な、なんだってぇぇぇ?!

 お巫山戯で性奴隷とか調子に乗っていたら、本当にそうなるのか?


 な、なんか、面倒なフラグを立てちまった気がする。


 これは失敗したか?


 ま、まぁ一旦奴隷にしてそのまま解放すれば問題ないだろう。


 わざと負けるのだけは絶対にしない。


 あの糞女神に俺の行動が強制されるなんて御免だ。


 ルインには申し訳ないが本気で俺は勝ちに行く!


 ガチの力を思い知れ!



また斜め向こうの展開になっちゃいました。


ドウシテコウナッタ?

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小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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