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恋した人々
作:皿尾 りお







 競争社会で勝つためには、競争していてはだめだ。何も仕事だけに限った話ではない。生きていく上においては、それはすべてにあてはまる・・・・。
 会議後のエレベーターの中で由香里はそう漠然と思う。
いつまでもここに居てもいいのだろうか、それとも・・・・。
何も外資系証券会社での今の仕事に不満があるというわけではない。給与も同年代の女性とは比較にならないくらい(当然、男性ともだが)もらっている。ただ、今のままではだめだ。ここは自分にとっては、本来、居るべき場所ではない。いや、そもそもが居るべき場所なんてあるのだろうか?
 そう考えているうちに、エレベーターがゆっくりと止まり、扉が開く。
「なんだ、浮かない顔をして?会議、うまくいかなかったのか?」
敏行だ。瀬川敏行とはもう四年来の付き合いになる。由香里がこの会社に転職してきた当初、敏行は同じ課に属しており、同年代だということもあり、色々と事細かに世話を焼いてくれた。だが、時折見せる空虚さは、由香里に同種の人間だと感じさせ、気が付けば、ただ時間を埋めるためだけに、一緒に酒を飲み、意味も無く抱き合う関係になっていた。
あいかわらず高価なスーツをそれとなく上品に着こなし、控えめな香水の匂いが、かすかに香る。いつも、朝、妻との軽いキスを済ませた後、もう5歳になる娘にかけてもらうのだという。
「あら、あなたに人の気持ちがわかるなんて驚きだわ。」
と、一種、救われたような微笑みで答えると、一拍置いて、
「今日、一杯付き合えよ。いつものところで待っている。」
と、他の女性社員なら誰でも喜んで連いて行くような笑顔を残して、エレベーターに乗り込んでいった。
 もちろん、会議はうまくいった。
自分のオフィスに戻り、皮製の椅子に腰掛け窓の外を眺めながら、考える。窓の外には、競い合ったようにひしめき合ったガラス張りの高層ビルが立ち並ぶ。初夏だということも手伝い、ガラス窓には青い空が整然と並んでいた。
会議では、前回より由香里が提案していた案が採用されたが、そんなことはどうでもよかっ
た。仕事に不満はない。ただ、今のままではだめだ。

―由香里さんって、欲が無いよね。―

もう、八年も昔の話しだ。
八年。その、長さに驚き、同時に、それを引きずる自分に嫌気がさし、しかし、まだ引きずっている自分は、何かに間に合う気も、由香里はした。
今日の夜、敏行にこのことを話してみようか?きっと、驚くだろう。
そう思うと少しだが、心が軽くなったような気がした。
窓の外ではもう、少しずつ日が落ち、高層ビルはもはや空を映し出さずに、そこで働く人々のせわしなく動く姿を見せ始めていた。












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