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かまきり

作者:ねこ
 殻を割る。何百もの兄弟とともに、私は外へと出た。
 風に乗り、草木を伝い、周囲へと散らばる。そうして別れた私たちは、同じく生まれたばかりの小さな虫を見つけ喰らった。

 小さな箱庭。強敵はいないが、食糧も少なく、いつしか食べるものを失い、互いに喰らいあった。まだ成長しきれていない、小さい体ではこの箱庭からの移動もままならなかった。体が大きくなる。冬眠から覚めた天敵、子供の食糧を調達する強大な敵が増えてくる。少し大きくなった体を葉の裏に隠し、餌を待った。この時兄弟達はもういない。皆死んだか、喰らわれたか、あるいは脱出したのだろう。自然は厳しい。喰らいあったこともある。だが、少しでも生き残っていることを願った。
 少し大きくなった鎌で獲物を捕らえる。鎌は刻むものではない。捕らえる網である。素早く、確実に捕獲すると、捕らえた獲物を舌と顎で抉り取った。生きるためには奪うしかない。
 人間が来る。人間は明確な敵ではない。こちらから干渉しなければ、向こうから殺しに来ることはない。だが、人間は隠れ家を奪う。
 巡る季節は草木を増やし、私たちはそれに溶け込むようにして敵の目、そして獲物の目を欺く。人間はそれを根こそぎ刈り取っていく。その過程で命を奪われることもある。災害のような相手だ。人間を刺激しないように静かに移動した。

 さらに体が大きくなる。移動を始める。次の代を残すため、番う相手を見つけるのだ。どこまで行けばいいかわからない。だが、最後の旅になるだろう。住み慣れた箱庭をぐるりと回り、腹ごしらえに獲物を狩る。
 日が落ち始めた黄昏、ゆらりと動き出す。一番の天敵たる鳥類は夜にあまり動かない。その隙にある程度移動をしておきたい。草木を伝い移動する。草木が途切れると、灰色の壁や黒い地面を歩く。一瞬光が弾け、頭上を豪風が吹き荒れた。必死に耐える。何とか飛ばされずに済む。少し伏せ、何もないことを確認し、移動を開始した。途中の草木に獲物を見つける。ゆっくり、ゆっくり近づいていく。獲物がサッと移動した。立ち止まる。おそらく、まだ気づかれていない。そのまま接近を続け、鎌を振るった。
 着いた先は私が元々いた箱庭より小さな箱庭だった。草が青々と茂り、獲物の気配が多く感じられた。住みやすいかもしれないが、番いがいないのであれば意味はない。一時の休息の場所として足を休めることにした。
 恐ろしい敵がやってきた。敵はしゅるしゅると草をかき分けている。逃げられない。じっと動かず、敵が去るのを待った。細長い敵はゆっくりと動き、時折、何かに喰らいつきながらもこちらには気が付かずに去っていった。私は生命を繋ぐのだ。早々にこの場所を離れることにした。
 また黒い地面や草花を伝い、移動する。移動する。急に大粒の水滴が叩きつけるように落ちだした。近くの葉の陰で凌ぐ。揺れる葉の裏で少し休んだ。

 植物が山のようにある場所についた。見渡す限り草木が生えている。ここならば、番って産卵に困ることはないだろう。獲物を狩り、番いを待った。
 しばらくして、一匹の同族がやってきた。やっと、旅が終わる。
 番った同族を喰らった。私にはあまり力がない。命を残すためには、これが一番であると分かっていた。栄養のある腹から喰らう。臓腑を削り取り、羽までを喰らった。だが、これ以上体力を使いたくない。硬い鎌や顔は葉から落とした。
 節を探す。命を残すために。やっと見つけた程よい木の節で私は産卵した。
 役目はすべて終わった。少し目の前が暗くなる。だが、生きるために獲物を喰らった。
 動きが鈍り、獲物を捕らえられなくなってきた。繋いだ命はある。いずれ来る死を待った。
 天敵がやってくる。逃げることもできない。啄まれ、解体される。喰らわれていることもわからず、小さな命はかき消えた。

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