挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

91/289

とある鬼人族の一日 朝から昼から夜



 村長が家の中を見回り、決められた場所に居る者が挨拶と報告をする。

 気を抜いている訳ではないが、朝食までは特に私に仕事は無い。

 無いが油断は出来ない。

 村長が家を見回り、気にした所を覚えておく。

 後でアン様に報告する為だ。

 私には気にした理由がわからなくても、アン様ならわかるかもしれない。

 物覚えの悪い私には厳しいが、ここは頑張るしかない。


 村長が食堂に向かえば、朝食が即座に並べられる。

 私が村長の位置を、要所要所で他の者に伝えた結果だ。

 それに満足しながら私は食堂横の厨房に入り、厨房にある小さなテーブルで急いで食事を開始する。

 食事中の村長のお世話は料理当番がしてくれるので、その間に私は食事を終わらせなければいけない。

 村長当番が二人の時は交代で食事が出来たので、食事中もお世話が出来たのに少し悔しい。

 悔しいが、食べないと倒れてしまうのでしっかりと食べる。

 うん、今日の朝食も美味しい。


 村長が朝食を終えると、畑の見回りに行く。

 私は家で村長を見送った後、急いで村長を追跡する。

 以前は堂々と同行していたのだが、気を使うと村長に言われたので隠れて付いていくようになったのだ。

 もっとも近い位置には、クロさんとユキさんが居るので安全かもしれないけど、傍に居させて欲しい。


 隠れて村長の追跡だが、この時の距離感が難しい。

 村長に気付かれる、気付かれないではなく、先客が居るからだ。

 クロさんの子供達が二頭~三頭。

 ザブトンさんの子供達が……結構な数。

 そして、ハイエルフが一名。

 村長の周囲に隠れている。

 目的は同じだ。

 村長の護衛。

 今でこそ、この数だが、前はもっと多かった。

 村長に秘密の事前会議での話し合いによって、数が制限された成果らしい。

 クロさんもザブトンさんも協力してくれて良かった。

 ともかく、村長を大事に思う気持ちが同じ。

 他の者に被らないように、しっかりと村長を見守る。


 クロの子供の一頭が、私達に合図を送った。

 ザブトンの子供を見ると、足の一本が村の一方向を示す。

 大きめの魔物か魔獣が、その方角から近付いてきているらしい。

 私は用心の為、村長の傍に移動する。

「村長、畑の様子はどうですか?」

 いざと言う時、身を挺して守る為だ。

 まあ、村長の目に触れる前に、クロさん達かハイエルフ達が倒してしまうのだろうけど。

 油断はしない。

「少し虫が付き始めている。
 悪いが、手伝ってくれるか?」

「はい。
 お任せください」

 私は昼食まで、村長と一緒に畑仕事をした。

 村に近付いていた大きな魔物か魔獣は、ゲートボアと呼ばれる大きな猪だった。

 クロさんの娘婿のウノさんが、倒したとの事だ。


 昼食は、村長と一緒に食べる。

 メイドが主と一緒に食事をするのは避けるべきなのだが、村長に誘われたのを断るのはもっと避けるべき。

 誘われたから仕方が無い。

 いや、村長当番の特権とか思ってないから。

 その証拠にちゃんと役目を果たす。

「村の南西ですが、住居と森の間が近いので、もう少し広げて欲しいという意見を聞いています」

 物覚えの悪い私でも、内容が内容なだけに間違えない。

 村当番の者から聞いた話だが、森が近い所為で虫が多く寄ってくるらしい。

 寄ってきた虫はザブトンさんの子供達が捕まえているので被害は無いのだけど、巣に捕まっている虫の多さに獣人族の子達が泣き出してしまったのだ。

 私も一度見たけど、あれはトラウマになる。

 うん。

 早急になんとかして欲しい。

 ザブトンさん達なら平気で、他の虫なら駄目というのも変なものだけど……

 昼食も美味しかった。


 昼食後、今日の村長は戦闘訓練だ。

 物作りになると、手伝える時と手伝えない時があるので訓練はありがたい。

 私も鬼人族として、それなりに戦える。

 武器は剣。

 防具は盾。

 一般的なソードマンスタイル。

 さあ、村長。

 私と一緒に訓練を!

 とか思っているのに、邪魔な者達が多い。

 戦闘訓練は数少ない村長と接する機会だ。

 人気がある。

 こういった時、メイドとして村長の傍に居やすい鬼人族は一歩引く事をアン様から命じられている。

 村社会で生きていく為の術だ。

 術なのはわかるけど、悔しい。

 ううっ、私も村長と模擬戦したかった。

 仕方が無い。

 私は文官娘衆の一人に相手して貰おう。

 向こうが何か嫌がっている気がするけど、気のせい気のせい。

 さあ、ファイトだ。

「よろしくお願いします」

「鬼人族相手に勝てるわけないじゃない!
 いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 彼女は頑張ったと評しておこう。


 日が沈み始めたので家に戻る。

 長いようで短い一日だった。

 いやいや、これからが本番だ。

 夕食。

 朝食と同じように、厨房にある小さなテーブルで食べる。

「ぶふっ!」

 痛烈な味が口内を襲った。

 噴出さなかったのを褒めて欲しい。

「なに、これ?」

「新作なんですけど……どうも上手くいかなくて」

「それ、失敗作って言わない?」

「認めなければ、失敗ではありません」

「ほほう。
 では、自分の食事はこれだけでも不満は無いと?」

「私は味見でお腹いっぱいです」

 くっ。

 今日の料理当番は、料理下手とは聞かないから油断した。

 朝、昼と大丈夫だったのは偶然?

 ひょっとして、朝と昼はアン様が見張っていたのかもしれない。

「そのお皿以外は、いつも通りだから安心してください」

「できれば、全部をいつも通りにして欲しかった」

 食堂の村長は大丈夫だろうか?

 村長の事だから、無理して食べるんだろう。

 ……

 私には無理だ。

 失敗料理以外を美味しく頂いた。


 夕食後はのんびりタイム。

 村長はアルフレート様やティゼル様との団欒を楽しむ。

 良い光景だ。

 あの中に、私の子供が居たりしても……

 妄想が膨らむが、振り払う。

 まだ仕事中。

 気を抜いてはいけない。


 私は家当番の者に村長を任せ、村長のお風呂道具を用意する。

 同時に私の分も。

 気合が溢れそうになるが、まだ抑える。

 まだだ。

 ふふふ。

 村長が家族との団欒を終え、お風呂に向かうので即座にお風呂道具を渡す。

 本来はメイドが持つべきなのだが、村長がそれぐらいは自分で持つと言って譲ってくれない。

 まあ、これぐらいは許容範囲だ。

 私は村長の後ろを歩きながら、お風呂に向かう。

 いつも使っている女性風呂ではなく、村長専用のお風呂。

 村長の背中を流す為に。

 村長当番の特権の一つだ。

 お風呂場にライバルは多いが、ここはみんな譲ってくれる。

 それをありがたく受け取り、村長の背中を洗い、お湯で流す。

 流石に前は洗わせてくれない。

 背中も昔は洗わせてくれなかったが、鬼人族メイド一同による嘆願の成果だろう。

 日々、コツコツと努力したのが実ったのは嬉しいし、無駄にはしない。

 村長の背中。

 普通だ。

 普通の男性の肉体。

 鬼人族の男性に比べれば、貧相と言っても良いだろう。

 しかし、この背中に重責が圧し掛かっているのだ。

 私がその一助になれればと思う。


 お風呂から上がれば、一気に緊張感が高まる。

 村長がお風呂から出た情報は、あっと言う間に広がっているからだ。

 村長には秘密の会議で、順番が決められているのだが、暴走する者は当然いる。

 最近は獣人族の娘達も油断できない。

 鉄壁のガードで、村長を安全にお部屋にまでお連れする。

 それが私の使命。

 それが村長当番の目的。

 そして、今日の私の仕事は、そこまで。

 村長をお部屋にお連れした後は自由だ。

 ふふふ。

 お風呂場から村長の家までが、とても長く感じる。



 翌朝。

 いつも通りに日の出前に目が覚める。

 急ぎ、身体を清めて身支度を整える。

 温かいお湯とタオルを用意し、軽く村長に挨拶をして連絡板のある場所に移動する。

 今日の当番表は見なくてもわかる。

 村長当番の後は、休み当番だ。

 でも、一応確認。

 連絡板に何も無い事を確認し、朝礼を待つ。

 今日一日はお休み。

 逆に言えば、何をしても良い日という事だ。

 つまり、働くのも可。

 何をするかは決めていないが、とりあえず村長の部屋の清掃を手伝わせて貰おうと思う。

 忘れ物があったら恥ずかしいから。


 今日も一日、頑張ろう。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ