村長の一日 昼から夜
昼食が終わった後の俺の行動は大きく三つ。
一つ、朝と同じく畑の見回り。
これはまあ、朝に見回れなかった分と、村の様子を見るためだ。
……いや、散歩かな?
クロたちを引き連れ、村の内外を見回る。
主に道を整備したり、雑草の駆除、荒れた地面を耕して芝生にしたり、目隠しに植えた植物を刈り込んだりする。
雑用?
管理人みたいな仕事だろうか?
まあ、仕事に不満はない。
一つ、村人からの頼みで、何かを作ったりする。
主に建築資材の調達、小物製作。
変化球としては、料理研究だろうか。
頼まれなくても作るのが、玩具系。
【万能農具】のお陰で、ほぼ素人の俺でも……いや、製作するようになって数年経ってるから素人に毛が生えた感じかな?
改めて神様に感謝する。
そして、最後の一つ。
戦闘訓練。
農業に戦闘の訓練が必要なのだろうか?
そんな疑問を横に置いて、村人たちからの強い勧めで行っている。
もちろん、一人ではない。
グランマリアやリザードマン、ハイエルフに鬼人族、それに文官娘衆たちも参加する。
全員参加ではなく、手の空いている者だけを対象にした希望参加なのだが、それなりに数が揃う。
妙に生き生きしているのは気のせいだろうか?
戦うことが好きなのかな?
それとも、体重を気にしてとか?
おっと、余計なことを考えた。
まず、武器の握り方、構え方、使い方を再確認。
次に、防具の付け方、構え方、使い方を再確認。
そして一人で素振り。
次に誰かと組んで。
最後に多人数対多人数で行う。
武器は布を巻かれて怪我しにくいようになっているが、当たれば痛い。
俺は何度も痛い目にあった。
【万能農具】を使えばそれなりにできるが、いざと言う時のことを考えれば普通の武器が使える方が良いのだろう。
だが、村長としては、武器を使ったり使われたりする前になんとかするべきだと改めて思う。
俺に武器は向かない。
ちなみにだが、【万能農具】は槍や斧、鎌にはなるが、剣にはならない。
小刀にはなるのに、普通の剣にはならない。
槍にはなるのになぜだろうか?
【万能農具】の槍を改めて見る。
どう見ても普通の槍だ。
装飾は皆無。
長い木に槍先を固定した普通の槍。
見たイメージでは、貧乏な戦士の持つ槍だ。
うーむ。
これでワイバーンを落としたとは思えない。
でも、これでワイバーンを落とした。
……もう使うことが無いといいな。
日が沈み始めると、作業を終了して家に戻る。
村に街灯なる物はなく、日が完全に沈むと真っ暗になってしまう。
空は星空と二つある月が見えて綺麗だが、地上は幾つかの建物からもれる光ぐらいだ。
夜に出歩く時は手に灯りを持つようにしているのだが、街灯を考えた方が良いだろうか?
街灯……固定の松明かな?
問題は燃料?
一日の消費量は少なくても、毎日となると積もり積もって凄い消費量になる。
魔法に頼らないと駄目かな。
要検討だな。
夕食は家の食堂で食べる。
メンバーは朝食や昼食の時よりも多い。
フローラ、ハクレンが確実に居るのもあるが、フラウやラスティが参加するからだ。
また、場合によってはリアやダガ、ヤーなどが参加する。
席に座ってから食事が並ぶまでの時間で、フラウ、ラスティはその日の報告をする。
一応、彼女達は村の代官と村の外交担当で、俺は村長だからだ。
まあ、フラウはともかく、ラスティから何か報告されることは珍しく、普通に夕食を食べに来ているだけに思える。
リアやダガ、ヤー達が居る時も何か報告があるからだろう。
良い報告だと良いのだが、悪い報告だと夕食前に勘弁してほしいと思う。
まあ、食後に報告されても危機感が薄れるか。
現状が正しいと思おう。
夕食はそれなりの料理が並ぶ。
俺には普通の食事なのだが、村の村長レベルの普段の食事としては破格の豪華さと量らしい。
他の村の村長は、どんな食生活を送っているのだろうか?
考えると怖いので、考えない。
食料に関してはできるだけ公平に分けているので、村の他の家でも同程度の食事をしている。
これも全て【万能農具】のお陰。
感謝の気持ちを忘れずに、食事を楽しむ。
料理の中に、見たことが無い料理があった。
「アン。
この料理は?」
「今日の料理当番の新作メニューです」
「自信は?」
「二割だそうです」
「前から言っているが、できれば五割を超えてから出すようにしてくれないかな?」
「食材は無駄にはできません」
「……確かに」
俺は頑張って、食事を楽しんだ。
食後は、のんびりとする。
主にアルフレート、ティゼルとの触れ合いタイムだ。
愛でる。
アルフレートは、片言ながら喋れるようになっているので、言葉を伝える。
「日々、努力だ」
「ひび、どりょく?」
俺の息子は天才だ。
ああ、娘よ。
お前も美人になるに違いない。
親馬鹿タイムを楽しむ。
しばらくしてアルフレートやティゼルは鬼人族メイドに預け、風呂に向かう。
風呂は家の外の、俺専用の風呂だ。
一応、家に風呂を設置する案もあるのだが、村に俺専用の風呂がある状態なので遠慮している。
俺は食後に風呂に入る派なので、他の者もそれに合わせている。
気にせずに入ってもらいたいのだが、大勢で入る方が良いらしい。
……
俺専用の風呂は、それほど広くないのだが……
賑やかな入浴になる。
家に新しい風呂を作るとデカくなりそうなので、遠慮している一面もあったりする。
風呂上りは、まったりタイム。
ではなく、この辺りから緊張感が漂い始める。
わかっている。
流された俺が悪いのだ。
手を出した俺が悪いのだ。
手を出したからには、最後まで責任を取ると決めたのだ。
なんだかんだで楽しんでいる自分が居るじゃないか。
ははははは。
俺が自由なのは風呂から家に戻るまでの短い間。
先のことは考えないようにする。
それが俺の精神を守る術だ。
【健康な肉体】をくれた神様。
ありがとう。
貰えて良かったと思います。
朝、目が覚める。
家に居る時、俺は寝ると思って寝た記憶が無い。
いつの間にか寝ている。
……
日の高さで時間を確認し、まだベッドから出てはいけない時間だと認識する。
わかっているが、ベッドから出る。
そして、多分、鬼人族メイドの誰かが用意してくれたのであろうお湯とタオルを確認。
お湯がまだまだ温かいので、本当に置いた直後のようだ。
感謝しつつ、身体を洗う。
そして、用意された服を着て、軽いラジオ体操のような運動。
気付けばベッドから出ていい時間。
また、一日が始まる。
「今日も頑張ろう」