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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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マイケル



 私の名はマイケル。

 マイケル=ゴロウン

 シャシャートの街を代表する商人の一人だ。

 幸いにして商売は順調。

 資金も豊富なので私と取引をしたがる者が多く、取捨選択に困る。

 最近はもっぱら接待ばかりで、商談が少ないのが寂しい。

 私は酒や食事よりも、金の方が好きなのだ。

 もっと儲けさせて欲しい。

 などと思っていたある日、突然の来客があった。

 アポも取れない田舎者かと思って居留守を使おうかと思ったが、何か嫌な予感がしたので出迎えた。

 予想通りの田舎娘が一人。

 見た目は良いが、私には関係無い。

 愛する妻が居るからだ。

 色仕掛けなどしてきたら、叩き返してやろう。

 そう思ったが、考えを改める。

 先入観は損をする。

 何が金になるかわからないのだ。

 話を聞いてからにしよう。

 しかし、主導権は渡さん。

 まずは強気に出てビビらせ……何か嫌な予感がしたので丁寧に応対する。

 正解だった。

 田舎娘は、クローム伯爵の娘、フラウレムお嬢様だった。

 危なかった。

 クローム伯爵家の権勢は、魔王国の支配下に置いては絶大だ。

 逆らって無事でいられる筈がない。

 その娘も、ただの小娘でなく、王姫のご学友で文武両道の女傑。

 王姫のご学友に選ばれる時点で、次代の幹部候補生だ。

 今の時点でも、私の生命を自由に出来る相手。

 良かった。

 自分の予感を無視しなくて良かった。

「前に一度、会った事があるのだけど覚えているかしら」

「は、はい。
 もちろんでございます。
 あれは王姫殿下のお誕生日を祝うパーティーでしたね」

「ええ。
 あの時、商談があれば是非と言ってたのを思い出して来てみたの。
 迷惑じゃなかったかしら」

「迷惑なんてとんでもない。
 フラウレムお嬢様のお話なら、姿勢を正して聞かせて頂きます」

「そう。
 良かったわ。
 さっそくだけど、買い取って欲しい物があるの」

「はい。
 どういった物でしょうか」

「作物よ」

「作物?
 フラウレムお嬢様、残念ですが領地で収穫された作物を、御用商人を通さずに買い取るワケには参りませんのですが」

 大体、大きな家には御用商人が居る。

 要は縄張りだ。

 フラウレムお嬢様の頼みでも、流石にそのあたりを無視できない。

「ああ、実家の領地の作物じゃないから大丈夫よ。
 まだ御用商人はいないから」

「そうなのですか?」

「ええ。
 とりあえず現物を見てもらえる?
 悪いけど、店前に運ばせているから」

 私はフラウレムお嬢様に従い、外に出た。

 外が騒がしい。

 何か事件でもあったのだろうか?

 周囲の視線がこっちを向いているが、なんだ?

 頭をかしげながら店の前に行くと、荷物が山のように積み上げられていた。

 正直、商売の邪魔で迷惑だ。

 もう少し場所を考えて欲しい。

 あと、私が買い取りを拒否した場合はどうするのだ?

 しかし、驚かされたのは荷物を護衛している者達だ。

 リザードマン。

 魔王領でも珍しい種族で、その戦闘力は人間十人分とも言われる。

 それが護衛?

 うーむ、流石はクローム伯爵家の縁者。

 もう一人、娘が居るが……

 見た感じ、真面目そうな村娘。

 村娘?

 あれ?

 頭に角が……尻尾もあるし……あれ?

 私が周囲の者に助けを求めたら、バッと目を逸らされた。

 それだけでなく、距離を取られた。

 関わりたくない、近付きたくないという事か?

 だろうな。

 うん、私もそう判断する。

 しかし、私は逃げられないので確認する。

「あの、フラウレムお嬢様?」

「ああ、彼女はラスティよ。
 ドラゴンだから怒らせないでね」

「は、はぁ」

 ラスティ。

 聞いた事が無い。

 うん。

 似た感じで聞き覚えがあるのがラスティスムーン。

 北の門番竜の娘で、各地で暴れた凶暴なドラゴンだ。

 鉄の森を縄張りにしていた獰猛なワイバーンが姿を見せなくなったのも、ラスティスムーンが殺ったからだと噂されている。

 ラスティスムーン……ラスティ。

 姉妹?

 親戚?

 ただ名前が似てるだけ?

 なんにせよドラゴンだ。

 下手な対応は死に直結する。

 というか、なぜドラゴンが居るのだ?

 ワケがわからないまま、荷物を確認する。

 ……

 一目でわかった。

 これは最近、王都で話題になっている作物だ。

 それが店の前に山のように積み上げられている。

 圧倒的な金の匂い。

「これを買い取って欲しいのだけど……」

「言い値で買いましょう」

 即決だ。

 ここで逃がすような真似はしない。

「他にもありますか?」

「今回、持って来たのはこれだけだけど……」

「まだあるのですね」

「え、ええ……村になら」

「帰りに同行させて頂いても構いませんか?」

「いいけど、こっちの買い物もあるから」

「必要な物をお申し付け下さい。
 ご用意致します」

 これは商機。

 逃してはいけない。

 逃してなるものか!


 今、ドラゴンの背中に乗ってます。

 ……あの商機は逃がすべきだったのだろうか。

 あまりの恐怖で景色を見る暇はなかった。


 今、門番竜の巣に居ます。

 あの商機は逃がすべきだったと思う。

 寝るに寝れなかった。


 今、死の森の上を飛んでいます。

 諦めの境地です。

 こうなれば、何が何でも商機を掴む。

 そんな覚悟を決めた。


 吸血姫、殲滅天使、皆殺し天使、インフェルノウルフ……

 大丈夫。

 怖くない。

 もう何も怖くない。

 怖くないのだが、一番最初に紹介されたこの人間はなんだ?

 村長?

 ここのトップ?

 インフェルノウルフの頭をワシャワシャと撫でているが……

 しかも、腰が低い。

 やばい、頭を下げねば。

 ああ、寝不足からフラフラする。

 親切に宿に案内してくれた。

 小さな村だと思っていたが、不似合いなぐらいに良い感じの宿だ。

 ……

 あれ?

 このベッドのシーツ、デーモンスパイダーの糸で……カーテンのシーツも?

 深く考えないでおこう。

 とりあえず、明日だ。

 明日の話し合いで頑張る。

 とりあえず、まずは寝て……ぐー。

 すっきり。

 夕食?

 もちろん、頂こう。


 見た事の無い料理が並んだ。

 美味しかった。

 料理方法がまるっきり想像できない。

 しかし美味しい。

 私の語彙はこの程度だったのだろうか。

 だが、貴族のパーティーでもこれほどの食事は出ないぞ。

 私の為に準備してくれたのだろうか?

 明日の交渉は尚の事、頑張らねば。

 ところで、これには何の肉が使われていたのだろうか?

 キラーラビットの肉とゲートボアの肉?

 どっちも滅多に手に入らない高級肉なんですが……

 ワインも美味しかった。

 うん、虜になる。

 これ、絶対に欲しい。

 おかわり。



 タフな交渉だった。

 でも、私、頑張った。

 吸血姫相手に、頑張った。

 ドラゴンを使った輸送が可能となれば、一気に国の商売を握れると夢見たが駄目だった。

 まあ、可能であればのレベルだ。

 それより作物は手に入ったが、ワインが少量しか入らないのは痛い。

 くっ。

 あの味だから、欲する者が多いのは予想できるが……

 昨日の夕食にそれなりの量を村人に振舞っていたから、楽勝と思っていたのに。

 え?

 今晩の宴会?

 お酒は……出る。

 飲ませて貰いましょう。



 私の名はマイケル=ゴロウン。

 ゴロウン商会の会頭で、シャシャートの街の有力な商人の一人。

 後に魔王国を代表する商人となる予定の男。



「子供?
 ええ、息子が二人。
 成人してますよ。
 両方共、もうすぐ孫が生まれる予定なんです」

 孫の誕生を祝われつつ、なぜかガッカリされてしまった。

 なんだったのだろうか。


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