税金を持っていかれる
冬前。
ビーゼルが税の徴収に来た。
なんだか疲れた顔をしている。
大丈夫だろうか。
とりあえず、税分として取り分けておいた作物をまとめておいた倉に案内した。
「ここにある物で全部ですか?」
一割との取り決めだが、年に何度も収穫しているので正確な収穫量はわからない。
きっちり払う気はあったが、一日で全部を収穫できるワケでもなく、また収穫した量を数えるのも大変で……サボったとも言う。
なので、各作物の一回の収穫の二~三割ぐらいの量を渡すことに決め、集めておいた。
「リンゴだけは別の場所にある。
一緒にすると、他の果実が駄目になるからな」
「リンゴとは、前に頂いた果実ですよね。
そうなのですか?」
「ああ、リンゴだけな。
持ち帰った後、注意した方が良いぞ。
しかし……一人で来たのか?
持ち帰れるのか?」
一回の収穫の二~三割とは言え、畑を増やしたのでそれなりの量だ。
八畳ぐらいの倉に満載とはいかなくてもそれなりに入っている。
一人で運べる量ではない。
「ご安心を。
絨毯がありますから」
「絨毯?」
ビーゼルが手を叩くと、デカイ絨毯が現れた。
「空飛ぶ絨毯です。
ここに載せていただければ、持ち帰れます」
「わかった」
さすがに絨毯に載せる作業をさせるわけにはいかなかったので、ダガたちが運んでくれる。
その間、俺はビーゼルと軽い食事を行う。
情報収集をすべきとのティアたちからの指示だ。
「最近、どうですか?」
しかし、情報収集のスキルなんて俺にあるわけがないので、無難なことしか聞けない。
「人間との戦争は相変わらず膠着状態です。
ただ、勇者一行が各地で暴れて面倒なこと、この上ないです」
無難なことを聞いたつもりが、重いことが返ってきた。
魔王って人間と戦争をしていたのか。
そうか。
魔王だもんな。
あと、勇者が居るんだ。
へぇ。
……
「そういえば、かなりお疲れのようですが……」
「ははは。
ここに来る前に少し問題が発生しまして」
……問題。
掘り下げない方が良いかな。
他に話題を……思いつかない。
俺が苦労しているのを察してか、ビーゼルの方から話を振ってくれた。
「そうそう。
今回頂いた税を確認した後になると思いますが、いくつかの作物を金銭で買い取りたいと考えています」
「金銭で?」
「はい。
前に頂いたリンゴの評判が良く、きっと他の作物も期待できると。
今、頂いている料理も美味しいですしね」
社交辞令なのかもしれないが、作った物が褒められて嬉しくない者など居ない。
思わず、頬がニヤけてしまう。
「おーい、ビーゼルさんにお酒、追加~」
「え?
あ、いや」
「遠慮せずにどうぞ。
ははははは」
チョロイと言いたければ、言うが良い。
そのまま宴会に突入し、ビーゼルが帰ったのは翌日だった。
魔王の城。
「ビーゼル、帰ったか。
どうだった?」
「……誰でしたっけ、貴方は?
ああ、思い出した。
村に行くのを直前でキャンセルした四天王筆頭のランダン君でしたか」
「あ、あれは、その、急に仕事が入ってだな。
ほら、西の方で勇者が出たから。
嘘じゃないぞ。
ちゃんと報告書もある」
「ふーん」
「そんな目で見るなよ。
悪かったって。
で、どうだったんだ?」
「どうとは?」
「村の様子だよ。
グレートデーモンスパイダーは居たのか?」
「はははは。
確認しました。
グレートデーモンスパイダーは居ませんでしたよ」
「おおっ、そうか。
やっぱりな。
そうそう居るヤツじゃないよな」
「グレートデーモンスパイダーは、全長が二十メートルを超える大型のクモです」
「ん?
知ってるぞ」
「グレートデーモンスパイダーがさらに成長すると、どうなるか知っていますか?」
「……え?
さらにってそれが最終形態じゃないのか?」
「グレートデーモンスパイダーがさらに成長すると、イリーガルデーモンスパイダーになります」
「イリーガル?」
「はい。
イリーガルになると、これまで大きかったサイズが急に小さくなります」
「……」
「大体、二メートルから三メートルぐらいでしょうか」
「まさか」
「それなら居ました」
「……」
「子沢山でした」
「そ、それはそれは……幸せな家庭を築いたのかな?
ははははは」
「ははははは」
「やっぱり辞める。
お世話になりました」
「逃がしません。
絶対に逃がしませんよぉっ!」