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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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緊急対応


 従業員も手馴れたもので、店内の清掃は順調。

 一部、お客も手伝ってくれている。

 ありがたい。

 そんな風景を見ながら、俺は厨房で反省していた。

 ミスった。

 大きくミスった。

 混乱を収める為、カレーを無料と言った事は大きなミスだ。


 俺は店の規模を勘違いしていた。

 俺はこのでっかい屋根の店が、商業施設的なものだと思っていた。

 その中で、一つのブースをマルコスとポーラが借りてお店をやっているのだと。

 しかし、実際はこのでっかい屋根の店、全てがマルコスとポーラの店だった。

 デカ過ぎるだろう。

 困惑しつつも、俺はマルコスとポーラにこれまでの働きを褒めた。

 従業員が多いのも納得。

 しかし、年齢が低くないか?

 まあ、その辺りも事情があるのだろう。



 中央の四面あるカウンターのうち、三面を封鎖しているのは対応できる限界がそれぐらいという事だ。

 屋台に毛の生えた程度の小店をイメージしていたのに、そりゃ食材が足りなくなる。

 ライスを出さず、パンに切り替えたのはナイス判断だ。

 業務用の大釜でも設置しないと、米を焚くのが間に合わないだろう。

 パンは近所のお店数件に頼んで焼いてもらっているらしい。

 カレーの食材は不足しているが、今回持って来た分でなんとかなる。

 均等に不足していたわけではなく、一部が切れただけだからな。

 補充を信じて他を作り続けて……

 この大鍋の数、正気か?

 これでも不足していると。

 なるほど。

 ……

 無料と言ったのはミスだが、いまさら訂正は出来ない。

 まずは今日、乗り切る。

 俺は始祖さんを見る。

 先ほどまで怪我人の治療にあたっていたが、今は終わっている。

「始祖さん。
 悪いが村に送ってくれないか」

「急にどうしたんだい?」

「援軍を連れて来る」

「ははは。
 それは私だけで行こう。
 連れて来る者の名を教えてくれるかな」

「いや、俺が戻った方が早いだろ」

「そうかもしれないけど、村長はここで指揮をしないとマズイんじゃないかな」

「うっ」

「ちゃんと連れて来るよ。
 えーっと……厨房の奥に部屋があるんだよね。
 今回はそこを転移先にさせてもらうよ」

 転移は街や建物内に直接入らないのがマナーだったか。

「わかった。
 よろしく頼む」

 俺は援軍として数名の名前を告げた。



 次に……マイケルさん。

「お呼びですか?」

「混雑に巻き込んで申し訳ない」

「いえいえ。
 見事に治めましたね。
 流石です」

「ははは。
 えーっと、確認だけど、この建物は全部うちの管理下って事で良いのか?」

「はい」

「どう使っても構わないのか?」

「もちろんです」

「そうか。
 ……悪いが、何人か人を貸してもらえないか。
 交渉に長けた人が良い。
 あと、街のルールに詳しい人。
 物資の調達も頼みたい」

「では、私と息子で」

 マイケルさんがマーロンと共に前に出る。

「……良いのか?」

「今日の予定は全てキャンセルしていますから。
 なんなりと」

 マーロンも問題は……なさそうだ。

 そしてマーロンがティト、ランディ、ミルフォードを巻き込む。

 助かるけど……商会の方は大丈夫なのか?

 いや、遠慮している場合じゃないな。

「必要な物を仕入れてきて欲しい」

 まず、食器類が足りなくなる事が予想される。

 今使っている食器類に似た物を大量に。

 次に椅子とテーブルを。

 こっちは形には拘らない。

 椅子やテーブルに使える樽でも良い。

 あと、長いロープ、木材、板、大きな布。

 大きな布は……三メートル四方ぐらいで。

 これらをたくさん。

 特に大きな布は多く。

 最後に、油と小麦と鶏肉を。

 俺の指示にマイケルさん達全員が動こうとしたので、マイケルさんとマーロンを止めた。

「マイケルさんは俺の傍で、俺のやる事を見張って欲しい」

 俺が街に迷惑を掛ける事をしてたり言ってたら、注意してもらいたい。

 なにせ、俺は街の事情を知らない。

 やらかす可能性は十分ある。

「わかりました」

 マイケルさんの返事に感謝。

「マーロンには悪いけど、一番キツい仕事を頼む」

「え?」

 マーロン、すまない。




「村長。
 指示をお願いします」

 見れば、マルコスとポーラ、そしてその後ろに清掃が終わった従業員達が並んでいる。

「よーし……っと、その前に」

 従業員の後ろの方に、従業員とは違うだろう男性陣達を見つける。

 大半はお客だろうが……

 数名、お客っぽくない人がいる。

 雰囲気がその、危ない感じの人達だ。

「彼らは?」

 俺の疑問に、一人の男性が一歩前に出る。

 特に顔が怖い人だ。

 それをマルコスが説明してくれた。

「紹介します。
 彼はゴールディ。
 混雑対応をお願いしています」

「今回の騒動は、俺達の初動が遅れた所為だ。
 すまない」

 理由を聞くと、別の場所で揉め事がありそっちに気を取られている間にカウンター付近で発生したそうだ。

 混雑対応はゴールディを中心に十人ほど。

 この広さに対して……不足ではあるが、対応できないわけじゃない。

 となると問題は配置と意識か。


 よろしい。

 俺は周囲を見渡す。

 お店は大きく、四つのエリア、北東、北西、南東、南西に分かれている。

 東西、南北の大通りの角に面する南東を飲食エリア。

 北東をミニボウリングが設置された遊戯エリアになっている。

 北西、南西エリアは何も置かれていない。

 飲食エリアの外周部にテーブルや椅子が設置されているが、普通に配置されただけだ。

 人の動きが考えられていない。

 俺は手が空き始めたミノタウロス、リザードマン達に指示を出し、椅子とテーブルの位置を変更。

 大小の人の通り道を確保すると同時に、テーブルをブロック分けする。

 十テーブルぐらいを一つのブロックにして、そこに一人づつ、混雑対応の責任者を配置する。

 誰をどこに配置するかはゴールディに任せた。


 次に従業員。

「今回の混雑を乗り切る為、今日だけの特別シフトでやる」

「え?
 あの、混雑は乗り切ったのでは?」

 従業員の一人が素直に疑問を口に出した。

「……無料でカレーを配るって言っただろ。
 それを聞いた人達はどうすると思う?」

「ここに……来るかな」

「どれぐらいの人数だと思う?」

「……いっぱい?」

「だろ。
 混雑はこれからだ。
 全員、一丸となって対応していこう」



 まずは列整理。

 これまで、カウンターで注文を受け付けている子達の前に列を個々に作っていた。

 これだと、カウンターで料理を受け取ってから運ぶまでに人と何度もすれ違わなければならない。

 それなりに混雑していた。

 これを解消する為に、料理を受け取ったお客様の帰り道を用意しなきゃいけないのだが……

 今回は後回し。

 なにせ今回は無料だ。

 お金のやり取りの必要はなく、配るだけ。

 なので列はこのまま。

 受け付けの子の間隔を広げ、列と列の間に隙間を作れば良いだろう。

 ああ、カウンター係というのか、了解。

 他の係は?

 結構あるな。

 ポーラに適した従業員を選んでもらい配置していく。


「村長。
 連れてきたよ」

 始祖さんの転移魔法で援軍が到着。

 鬼人族メイド五人、ドワーフ二人、ハイエルフ四人、山エルフ六人、獣人族十人。

「忙しいところ呼び出して悪いが、少しこっちを手伝って欲しい」

 俺の頼みに、援軍のみんなはしっかりと頷いてくれた。

 まず、鬼人族メイド三人。

「マルコス、ポーラと共にカレー作りを頼む」

 残った鬼人族メイド二人には別の料理を作ってもらう。

 これは無料カレーへの注目を減らす為だ。

 カレーを配る南東エリアのカウンターの端にスペースを確保する。

 さらにその横で、ドワーフ二人には酒を売ってもらう。

 細かい注文は無しで、一杯分づつの販売。

 そんな販売だからドワーフじゃなくても良いのだけど、ドワーフは酒好きというイメージは普通にあるらしい。

 なので、その酒好きのドワーフが売る酒という事で人目を引けるだろう。

 獣人族には、その鬼人族メイド二人の料理の販売と、ドワーフのお酒販売を中心にしつつ、万が一に備えてもらう。

 万が一は、マルコスとポーラのお店が人手不足になった場合だ。

 今日だけなのだから最初っから手伝わせても良いが、それだと今いる従業員達のプライドを傷つける事になる。

 やる前から失敗すると言われて手伝われるより、失敗してから手伝ってもらった方が素直に受け入れられたりするものだ。

 そんなもの関係無いと思うかもしれないが、その辺りをしっかりしないと後々のシコリになる。

 面倒事はごめんだ。

 それに、余剰戦力があるのとないのでは心の余裕が違うからな。



 ハイエルフの四人には、エリアの仕切り作りをお願いする。

「北東、北西、南東、南西の四つを区切るのですよね。
 壁を作った方が早いのでは?」

「それだと万が一の移動に困る。
 仕切りはエリアを視覚的にわかるようにする為だ」

 なので床に設置し、移動できるように。

 高さもそれほどなくて良い。

 材料は……ちょうど、ティト達が運び込んできた。

 商会の人間も呼んだのか、二十人ぐらいで次々と荷物が運び込まれる。

 一旦、北西エリアにおいてもらおう。

 しばらくあそこは資材置き場だ。


 山エルフ達には、遊戯エリアになっている北東エリアのテコ入れ。

 現状、北東エリアにはミニボウリングのレーンが設置されている。

 数は十。

 ただ、それだけでは北東エリアは使い切れていない。

 なので、新しい遊具を作ってもらう。

 作ってもらうと言っても、そう難しくはない。

 新しい遊具は輪投げと射的だ。

 輪投げはロープの輪を投げてもらう。

 ロープの輪が引っ掛かれば、その景品を貰える。

 射的は本来、鉄砲を使うのだろうけどそんな物はないので弓を使ってもらう。

 ただ、危ないので玩具の弓矢でだ。

 本物にすると、素人だと怪我をするからな。

 その輪投げと射的のスペース作りを頼んだ。

 慌てなくて良い。

 こっちは今後の集客の為だ。

 何か新しい事をやりそうだと思ってもらえたら、それで良い。

 ……

「ガルフ。
 ちょっと頼まれてくれ」

「?」

 輪投げや射的には景品が必要だ。

 特に目玉景品が。

 前にお土産で買ってきてもらったのが丁度良いと思う。

「わかった。
 買い占めてくる」

「買い占めなくて良いから、種類を多く。
 それと景品にする事をしっかりと伝えてくれ。
 それでも売ってくれる所から買うように」

「そりゃ構わないが……金を払えばどうしようが勝手じゃないか?」

「金だけの為に商売している人ばかりじゃないだろ。
 お前が案内してくれた武器屋。
 あそこで買った武器を景品にしたら怒られるとか思わないか?」

「確かに。
 わかった。
 しっかりと伝えてから買ってこよう」

 俺はガルフに金を……手持ちが少なかったので、マイケルさんに借りて渡した。

 マイケルさん、申し訳ない。

「まだ払っていない代金分をお渡ししただけですから。
 それよりも、あの大量のロープと大きな布はどうされるので?」


 ロープは列を整理する為に使う。

 ロープを這わせるポールは俺がさくっと作ろうと思ったが、何か手伝いたそうなお客がいるのでお願いする。

 清掃を手伝ってくれたお客達だ。

 軽くどうして手伝ってくれるのか聞いたら、さっきの騒動を反省していたらしい。

「カレーは美味いからな。
 この店が潰れられると困るだけだ」

「そうそう。
 今更、カレーを取り上げられたら怒るぜ」

 俺がポールの見本を作り、その量産を任せた。


 後は大きな布だが……

 俺の予想通りなら必要。

 予想が外れれば不要になる。

 現状はまだ必要ではない。


 お店の外には人が集まり始めていた。

 オープンな店なので、入ろうと思えば入ってこれる。

 入って来ないのは、まだまだ作業中の空気を出しているからだ。

 ……

 とりあえず、床にロープを置いて道を作ろう。

 解放するのは飲食エリアの南東、遊戯エリアの北東。

 残りのエリアは封鎖。

 立ち入りも禁止。


 テーブルの移動を終えたミノタウロス、リザードマン達にお客を一定の場所に留めてもらう。

 まだ準備出来ていないからな。




「マルコス、ポーラ。
 カレーの方はどうだ?」

「大丈夫です。
 パンの方も先ほど、買い込んできました。
 追加も頼んでます」

「提供する量は大と普通の二種類。
 お客のリクエストには応えてやりたいが、今回は混雑を避ける事を優先する」

「はい」

「食器回収係は、食べ終わった人から食器を回収してもらうが……慌てて回収する必要はない。
 特に、食べ終わった直後に回収はしないように」

「え?
 駄目なんですか?」

「それだとかされている感じがして落ち着けないだろ。
 席を立った場所を最優先。
 テーブルの上に汚れた食器が残っている状態を避けてくれ」

「わかりました」

「それと水だが……」

「はい。
 村長に言われた通り、水は無料で提供しています」

 俺の中では無料が常識だが、この街では常識じゃなかった。

 反省。

 しかし、今更値段は付けられない。

 ならば徹底する。

 現在、カレーを渡す時に水の入ったコップを一緒に渡している。

「それとは別に、配る者が何人か欲しい。
 大人相手でも物怖じしないのが良い」

 ポーラが五人ほど選ぶ。

 背は低いが、要求通り物怖じしなさそうだ。

 ワゴンに水を入れたコップを積み、各テーブルを回ってもらう。

「欲しいと言った者に渡してやってくれ。
 その際、飲み終わったコップがあれば回収を頼む」

「わかりました」

「鬼人族メイドの料理、ドワーフの酒はもう少し後で販売を開始する」

 飲食エリアのカウンターの端の方で、鬼人族メイドとドワーフが準備している。

 目先を逸らす為だが、最初は相手にされないだろうからな。

「そろそろ……一時間だ。
 お客を呼ぶぞ。
 各自、身嗜みをチェックした後、配置に」

 列を整理するポールは、間に合わせている。

 作業をしてくれたお客の中に、本職の大工が何人かいるらしい。

 流石だ。

 各エリアの仕切りも……大丈夫。

 遊戯エリアはまだまだだが、それは当然。


 俺はお客を押し留めているミノタウロス、リザードマン達に合図を送り、お客の移動を開始させた。

 列の先頭に、スタッフと大きく書かれた服と旗を持った者を数名配置している。

 作業を手伝ってくれたお客達だ。

 悪いが、最後まで手伝ってもらう。

 なに、ちゃんとバイト代を現物支給する。


 始祖さん。

 悪いがまた声を大きくする魔法を頼む。

「慌てず、走らないでください。
 カレーは十分にあります。
 決して走らないように。
 まずは一列でお願いします」

 俺は声を上げながら、やってきた人の数にちょっとビビッていた。

 これは……追加の食材と援軍が必要かな?

 あー……やっぱり無料はやり過ぎだった。

 反省。


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