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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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一村の女性 ポーラ


 私の名はポーラ。

 自分でつけた名前だけど、なかなか気に入っているわ。

 本当の名前?

 それは言っちゃいけないの。

 だから私はポーラ。

 路地裏で生活していた女よ。



 街の路地裏での生活は苦しかったわ。

 楽しい思い出なんてほんの少し。

 楽しい思い出の大半はマルコス絡みね。

 出会った時のマルコスは私と同じぐらいの年齢の少年。

 でも路地裏生活では先輩かな。

 今は私の夫。

 彼と出会っていなかったらと思うと、本当にゾッとする。


 そんな私とマルコスの転機は、フーシュ様との出会い。

 子供をさらっているとの噂を聞いていたから、あの時はもう駄目だって思ったわ。

 でも、集められたメンバーをみて一安心。

 路地裏のリーダー格であるジャックがいたんだもの。

 マルコスも頼りになるけど、ジャックはもっと頼りになる。

 彼がモルテに惚れてなかったら、きっと狙っていたわね。


 フーシュ様は私達に移住の話を持ちかけて来てくれた。

 家も貰えるって。

 そんな上手い話があるわけないわ。

 私達を無知だと思って馬鹿にし過ぎじゃないかな。

 でも、コーリン教の偉い人が嘘を言うかしら?

 私は用心するけど、他のみんなも……うん、用心してる。

 そうよね。


 でも、私達はフーシュ様の提案に乗ったわ。

 逆らえなかったというのもあるけど、提案された事があまりにも魅力的だったの。

 私が一番魅力を感じたのは、移住までの間に色々と教えてもらえる事。

 しかもタダで。

 文字も計算も礼儀作法とかも教えてもらえるなんて、感動だわ。

 それに、移住話が嘘でも、教えてもらった事は財産になる。

 計算ができれば、働き口も見つけやすくなる。

 しかも、文字が書ければお給金にも期待できる。

 礼儀作法は……いらないと思ったけど、貴族に無礼を働いて斬られたという話は珍しくない。

 覚えておいて、損はないかな。

 忙しくて大変だったけど、充実した半年だったわ。



 移住の話は本当だった。

 大樹の村から少し離れた場所に、一村いちのむらという場所があり、そこで家をもらえ、仕事も与えられた。

 食料も十分に用意されていた。

 そして、そこで住民として生活をする事を望まれた。

 周辺環境がちょっと怖いけど、しっかり守ってももらえる。

 路地裏での生活を考えれば、ここは天国だ。

 与えられた仕事をきっちり……

 と思ったけど、駄目だった。

 でも、怒られたり、追い出されたりはしなかった。

 村長……ああ、村長は大樹の村の村長の事ね。

 一村には村長はいなくて、代行と呼ばれる人がいるだけ。

 その村長は、ゆっくりと自分に合った仕事を見つけて欲しいと言ってくれたわ。

 ありがとう村長。

 同じように駄目だった他のみんなも、力強く頷いている。

 村長の為にも頑張るわ。


 そして私達は少しずつ村での生活に慣れていった。

 農作業、紙作り、油搾り、砂糖搾り、塩作り。

 ちょっとずつだけど、やれる事を増やしていったわ。

 豚を預けられた時、ちゃんと育てられるか少し悩んだけど、みんなで頑張ったわ。

 まあ、男性陣がちょっと感情移入し過ぎちゃったけど……

 そうそう。

 その男性陣。

 この一村に来た時は、森に入る事も出来なかったけど、今は入れるようになったの。

 ジャックなんて牙の生えた兎を一人で倒したんだから。

 本当に凄いわ。

 マルコスも頑張っているけど、まだ無理みたい。

 でも、無理しないでね。

 危ない真似はやめてよ。

 ほら、クリッキーだって用心しろって言ってる。

 クリッキーは村を守ってくれるインフェルノウルフという犬……じゃなくて狼の名前。

 私が付けたの。

 最初は怖かったけど、村を守ってくれているのがわかったし、時々、森で狩った獲物を持って来てくれる。

 感謝を伝えようと思ったけど、名前を知らない事に気付いたの。

 村長に聞いたら、インフェルノウルフの群を見せてもらったわ。

 うん、全部に名付けるのは無理ね。

 なので私が名付ける事に。

 ちゃんと村長の許可ももらったので、クリッキーも喜んでくれたわ。

 クリッキーは他の村にも行ったりするから会えない時もあるけど、一村に来た時は挨拶に来てくれる。

 そんな仲のインフェルノウルフ。

 マルコスもクリッキーがいう事には逆らったりしないけど……妻である私の言葉より聞くのはどうなのかな?



 移住して一年が経過したわ。

 冬の寒さも、十分なマキが用意されていたので大丈夫だった。

 時々、大樹の村や他の村から見回りも来てくれて、食料の心配もなかったわ。

 もちろん、私達も家に篭って遊んでいたワケじゃないの。

 竹を加工して、小物をたくさん作ったわ。

 自慢はカゴね。

 軽くて丈夫。

 デザインも頑張ったわ。

 一番、出来が良いのは大樹の村の村長に献上しないとね。


 年の初めの種蒔きが行われ、私も日々の生活に追われてあっと言う間に夏前。

 そうそう。

 空に浮かぶお城って見た事ある?

 凄いわよね。

 よくあんな大きなのが飛んでるものだわ。

 そのお城も村長の物だって言うんだから驚きよね。

 あ、急に空に浮かぶお城の話になったのは、そのお城の位置で季節を感じる事が出来るから。

 冬の間は北で、春に西と大樹の村を中心に、一年掛けて回っているんだって。

 だから南に近い今は夏が近いって事。

 そんな頃に、村長から一村移住者にお話があった。

「シャシャートの街……ですか?」

 聞いた事がない。

 でも、魔王国の中でも大きな商業都市、港町らしい。

 私達が時々食べているお魚の大半を、そこで購入しているんだって。

 へー。

 村長のお話では、そのシャシャートの街で商売をしている方から、お店を出さないかと誘われているそうだ。

 村長としては引き受けたいけど、任せる人がいないという。

 そこで私達に声が掛かったらしい。

 私達が読み、書き、計算、そして礼儀作法が出来るからだそうだ。

 披露する機会はなかったけど、知ってくれていたのだと嬉しくなる。

 そして、フーシュ様。

 ありがとうございます。



 村長のお願いなら、全力でやりましょう!

 しばらく一村から離れる事になる?

 構いません。

 マルコスも良いわよね。

 私達が返事をする前に、他の者達も手を上げている。

 気持ちはみんな、同じって事ね。

 負けないわ。

 大勢で行っても仕方が無いから、一組の夫婦という事で。

 ジャックも希望していたけど、彼は私達一村移住者のリーダーだから自動的に除外。

 残り九組。

 幸運の女神が微笑んでくれる事を祈ったわ。




 ありがとう、幸運の女神様。

 今回の出店が上手くいけば、褒賞メダルをもらえるみたいだから、それで幸運の女神様の像を作ってもらおうと思います。


 さて。

 まずはシャシャートの街へ移動しなければいけないから、引っ越しの準備……

 と言っても自分の物はほとんど無いわね。

 クリッキーには、しばらく留守にする事を伝えたし……

 一村の残る人達にも挨拶はしたわ。

 大丈夫ね。

 私とマルコスはまず、大樹の村に移動。

 ここで一ヶ月、出店の準備というか勉強。

 忙しいのに村長が直々に教えてくれるみたい。

 頑張るわ。


 村長が出そうとしているお店は、飲食店。

 複雑な事はしなくて、料理を一品だけを出す店。

 となると、その料理が大事よね。

 私でも作れるかしら?

 大丈夫でした。

 一村に移住してから、一週間に一度は作っている料理。

 なるほど。

 さすがは村長。

 あの料理なら人気間違いなしですね。

 ……

 あれ?

 じゃあ、今から勉強するのは?

 人の雇い方?

 接客?

 衛生?

 税金の計算?

 ……

 覚える事が一杯で大変でした。

 マルコスは……うん、頑張ってる。


 あ、勉強中に気球で空に浮かぶお城に行ったのは、村長が気分転換にと勧めてくれたからよ。

 決して、遊びじゃないわ。

 楽しかったけど。

 初めて空を飛んだけど、気持ちよかった……

 ちょっと寒かったかな。

 次は厚着しよう。



 一ヶ月の勉強期間が終わり、シャシャートの街に出発。

 魔王国のお偉いさんが、転移魔法で送ってくれるとの事。

 村長が凄いのは知っていたけど、本当に凄いなぁ。

 そんな村長のお店です。

 絶対に成功させて見せますから!

 マルコスもわかっているわよね。

 良い笑顔。

 さすがは私の旦那様。



「あの、村長?
 これは?」

「出店資金だ。
 無いと困るだろ」

「そうですけど……えっと」

 まず、お金を預けて頂ける信頼、感謝します。

 そして、次になのですが……

 金貨の入った袋、マルコスが抱えきれていません。

 シャシャートの街の物価は、私が予想しているよりも高いのでしょうか?

 また、用意された荷車に大量の作物。

 お店で出す料理の食材ですが……

 こんなに料理できるでしょうか?

 いけないいけない。

 弱気は禁物。

 全部、料理してみせましょう。

 なに、料理はカレーです。

 ふふ。

 あの料理の虜にならない者などいません。



 
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