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異世界のんびり農家 作者:内藤騎之介
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オブライエン


 俺の名はオブライエン。

 今年で三十のオッサンだ。

 生まれた家は貧乏だった。

 だから、多少の裏道を通る事もあったが、本気でヤバイ犯罪には手を出していない。

 親の教えが良かったのだろう。

 子供の頃はウザいと思っていたが、今は素直に感謝できる。

 俺の職業は神官戦士。

 神官戦士と聞けば、一般のイメージは回復魔法を使う戦士だろう。

 残念ながら俺は回復魔法は使えない。

 コーリン教の教徒ではあるけどな。

 どちらかと言えば、コーリン教に所属している戦士って方がしっくりくるだろう。

 実力は……一番とは言えないが、上位だと自負している。



 さて、そんな俺だが……危機を力だけで切り抜けてきたワケじゃない。

 場合によっては知恵を使うし、敵わない相手には逃げたりもする。

 幸いな事に、俺は一つの武器を持っている。

 ああ、腰に携えている上質のロングソードの事じゃない。

 俺の目の事だ。

【弱者の目】と呼ばれる特殊な目。

 相手の力を見る事ができる目だ。

 見る事ができると言っても、感覚的なものだ。

 色や数値とかで出てくれれば解りやすいのだが、世の中はそんなに都合よくはない。

 だが、この目のお陰で俺はこれまで命を繋いできた。

 だからこそ、俺のこの目に対して絶大の信頼を置いている。

 朝晩とちゃんと目薬を差すし、目に悪い事は極力避けるぐらいには。

 なのに今、俺はその目が信じられないでいた。



 話は三日前に遡る。

 そこそこ大きな仕事を終えた俺は、しばらく休暇を与えられる予定だった。

 休暇だからと馬鹿正直に休んでいたら、イザって時に困る。

 訓練に勤しむか、個人で仕事を請け負うかが普通だ。

 幸か不幸かその日、俺は一人のお偉いさんから仕事を個人的に依頼された。

 俺はコーリン教の神官戦士。

 そのお偉いさんなんだから、当然コーリン教関係者だ。

 金払いは悪くないので、素直に詳細を聞きに行った。



 その日に、俺は後悔した。

 雇い主はコーリン教の司祭の一人。

 それはいい。

 依頼内容。

 コーリン教の大司祭であるフーシュの仕事の手伝い。

 仕事の詳細は、とある集団を移動させる際の護衛。

 これもいい。

 問題はその依頼を聞いた後、依頼主からこっそりお願いされた事だ。

 そのお願いの内容は、フーシュの行動を監視するものだった。

 フーシュ。

 あの悪辣フーシュだ。

 知らない人がいないと言っても言い過ぎじゃない超大物。

 しかも、悪辣フーシュはコーリン教最大の戦闘集団のトップだ。

 簡単に言えば、俺の所属している部隊の上の上の上ぐらいに位置するエリート集団の頭だ。

【弱者の目】で見るまでもなく勝てない相手。

 それを監視?

 どんな罰ゲームだ。

 てか、どうしてそんな仕事を俺に振るんだ?

「オブライエン君。
 君の目には期待しているよ」

 依頼主の言葉に、背筋が凍る。

 俺の目の事は誰にも言ってないのに、バレてるなんて……

「なに、悪い事をしようとしているんじゃない。
 君はフーシュ大司祭の仕事を手伝うだけ。
 そのついでに、どれだけの力量の者がいるか調べて欲しいだけだよ」

 いわゆる、断れないお願いというヤツだ。

 ため息を我慢しつつ、俺は依頼とお願いを引き受けた。





 フーシュの仕事はシンプルだった。

 二十人ぐらいが移動するので、その護衛だ。

 転移魔法での移動らしく、情報遮断の為に目隠しさせられた。

 流石の俺の目も、視界を塞がれると意味がない。

 素直に装着する。

 しかし、転移魔法か。

 転移魔法の使い手は極僅か。

 使い手が狙われる危険があるので、目隠しをさせられたのだろうが……

 そんな貴重な転移魔法を使ってまで運ぶ人達か?

 普通の家族に思えたが?

 護衛も、俺以外に十人もいる。

 しかも、フーシュも同行。

 どこに向かうのやら……




 目隠しを取って良いと言われて、見た場所は森だった。

 少し先に畑……村がある。

 ん?

 妙に大きい屋敷があるな。

 ここからでもわかる。

 貴族の別荘かなにかな?

 俺は周囲を確認する。

 ……

 護衛対象の二十人ぐらいは、一般人だ。

 多少、戦える者もいるが……全員で俺に掛かってきても相手にならない。

 その程度だ。

 俺以外の護衛は流石だ。

 十人いるが、誰とも戦いたくない。

 全員が俺と同じか、俺よりも強い。

 猛者ってヤツだろう。

 目立つのはフーシュ。

 俺が戦いたくない護衛の十人が束になっても勝てないだろう。

 ……

 出発前と同じ判断。

 俺の目は正常なようだ。

 目隠しの後遺症でもあるかなと思ったが……

 そうじゃないようだ。

 つまり……

 森を見て、目が無理って悲鳴を上げているのは……正しい判断って事だよな。

 すまない。

 疑って。

 信頼しているぞ。

 だが、普通の森に見えるから……

 普通じゃないって事か。



 フーシュは俺の困惑など知らずに村に向かって歩き出す。

 村からは出迎えが来ていた。

 天使族だ。

 珍しい。

 しかも、装備から見て戦えるヤツだとわかる。

 それがフーシュと挨拶し、笑っている。

 凄いなフーシュ。

 そいつ、お前の何倍も強いぞ。

 フーシュを超える強さの者がいるとは思わなかった。

 まあ、天使族ならありえるか。



 村は化け物揃いだった。

 ハイエルフ?

 エルダードワーフ?

 鬼人族?

 リザードマン?

 ハーピー?

 ミノタウロス?

 ケンタウロスまで?

 なんだ、色違いのエルフまでいる。

 ヤバイヤバイヤバイ……

 どれもこれもさっきの天使族並だ。

 フーシュが一般人に見える。

 本気でヤバイ。

 ハイエルフがいるって事は、ここは悪名高い死の森か?

 人類未踏の地だろ。

 そんな場所に何しに来たんだ?

 人を運ぶ?

 生贄か何かか?

 俺はそんな事の片棒を担がされたのか?

 俺の依頼主は、この事を暴きたかったのか?

 さらにヤバイのが来た。

 最初に見た天使族よりも遥かに強い天使……

 その横に立つ女も同じぐらい……

 ありゃ吸血鬼だ。

 俺がガキの時に見た事がある。

 ルールーシー。

 ここはアイツの家か?

 死の森の中にアイツの家があるとは……

 目が見る事を拒否した。

 え?

 あれ?

 この反応……見ちゃ駄目なのに無理矢理に見た。

 普通の女じゃない。

 あの角、尻尾……ドラゴンだ。

 駄目だ。

 無理矢理みたから俺の目がどうにかなってしまったようだ。

 ドラゴンの女よりも強いのがその横にいる。

 そんなのがいるのか?

 そいつもドラゴンか?

 女。

 ……近づいちゃ駄目な女だ。

 なのに、その女とイチャついてる男……何者だ?

 村長?

 あのでっかい屋敷の主?

 え?

 じゃあ、ルールーシーは……

 いや、ルールーシーよりも強いドラゴンがいるから……え?

 もうパニックだ。

 何がなんだか……

 何がなんだかなんだが……村長の強さが見えない。

 一般人?

 いや、これは……神を僅かに感じる?

 どういう事だ?

 あの村長がここの連中を従えているのか?

 俺の目がおかしくなったのか?

 それとも計りきれないだけか?

 ……

 駄目だ。

 完全に俺の目が壊れたようだ。

 ただの猫に、ハッキリとした神を感じる。

 俺にできるのは、素直に気を失う事だけだった。





 気付けば出発した場所に戻っており、仕事は終わっていた。

 依頼主からどうだったと聞かれたので、関わらない方が良いとだけ答えた。

 どう言っても信じてもらえないだろう。

 報酬?

 いらない。

 俺は役立たずだ。

 あそこに送り込まれた二十人が気になるが、悪い事にはならないだろう。

 その確信はある。

 なにせ俺が気を失う最後に見た光景。

 漆黒の狼に乗って現れた少女。

 それは黄金に輝く英雄。

 大英雄だ。

 彼女がいる場所が悪い場所のはずがない。

 伝説の大英雄ウルブラーザも、あんな感じに見えたのだろうか。


 俺は剣の習練を始める。

 死ぬまで鍛えても間に合わないかもしれないが……

 彼女が一軍を率いる時、その軍の一員として働く為に。


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