川
手押し車による探索は、思った通りに俺を道に迷わせてくれた。
だが、クロたちのお陰で寝床に戻る事が出来たので、俺の移動範囲は格段に広がった。
そうして探索して五日目ほど。
俺は川にあたった。
川は岩がゴロゴロしているザ・上流、沢といった感じの場所だ。
幅は五メートルぐらいか?
上流を目指して川沿いを少し歩くと、大きな岩壁とそこを流れる滝を発見した。
滝と言っても垂直落ちではなく、60度ぐらいの崖を勢い良く流れているような感じだ。
しかし、高さはなかなか。
七、八メートルぐらいある。
壮大な風景だ。
美しい。
片手で流れる水を受け止めてみたが、なかなか冷たい。
そして、綺麗な水だ。
後は飲めればいいのだが……
今日のお供のクロがガブガブ飲んでいるから、大丈夫そうだ。
俺は水を飲み終わったクロに寝床の方向を聞く。
クロは迷わず、頭を向ける。
俺は【万能農具】の手押し車をクワに変化させ、その方向に向かって振るい始めた。
寝床と滝を道で繋ぐために。
とりあえず、日が高い間はクワを使い、暗くなりそうになると手押し車にして寝床に戻った。
クロに聞けば、滝の方向がわかったので、翌日からは寝床方向から耕す。
他にも色々とやったので十五日ほど掛かったが、なんとか開通した。
滝は寝床から西方向に五キロぐらいの場所にある。
結構遠い。
滝を含む川はグネグネと曲がっているが、全体的には北から南南西に向かって流れているようだ。
下流に行けば、何かあるだろうか。
まあ、後の話だ。
俺が滝までの道を作ったのは、水を確保するためだ。
飲料水や畑用の水として井戸の水を使っているが、低い位置にあるので運ぶのが大変なのだ。
だが、滝はそれなりの高さがある。
つまりは、滝の高い位置から水路を作れば、大量の水を確保できるというワケだ。
畑の水撒き用、水田用。
そして、風呂。
風呂は前々から考えていたが、人が入る量の水を井戸から運ぶのは大変だったので後回しにしていたのだ。
しかし……
水路をいきなり寝床にまで引くのは厳しい。
クロたちがいるとはいえ、森には危険な動物も多い。
堀と丸太柵の上に水路を作ると、その水路を渡って侵入される可能性がある。
なので、畑を囲う丸太柵と堀の外に、大きなため池を作る事にする。
サイズは畑四面分ぐらいの100×100メートル。
深さは中央に向かって深くなる逆ピラミッド。
といっても、最深部で五メートルぐらいだ。
これも他の作業をしながらだったので、十日ほど掛かった。
次は、排水用の水路を地面に掘る。
これは川の下流側に向けて作るだけなのでそう難しくはない。
時間は掛かるが。
数日後に開通。
ため池と水路の間に木の水門を挟み、後は水路を作るだけだが……
どう作ろうか。
滝の上の方から水を取らないと、水が流れない。
つまり、高さのいる物を作らないといけない。
案一、木を加工して作る。
メリット、多分、作りやすい。
デメリット、壊れやすい。
駄目だな。
木の加工は【万能農具】でできても、組むのは自力だ。
しかも、木の水路はできても、固定するための足場を作るための釘やロープは無い。
実現不可能だと判断すべきだろう。
案二、石を加工して作る。
メリット、壊れ難い。
デメリット、作り難い。
これも厳しいか。
岩を並べた後、水が流れるように掘ればいいだけなのだが……
滝からため池まで岩を並べるのが現実的ではない。
なにせ、耕す前は森だったし、耕した後は平らな地面だ。
大きな岩が無い。
俺が石材として使用している岩も、なんだかんだと言っても高さは一メートルも無い岩ばかりだ。
約五キロの距離を水路として高さを維持することは厳しいだろう。
案三…………土?
土で作って固めるのはどうだろうか?
【万能農具】のハンマーで叩けば、土がコンクリート並に固くなる。
これか!
土はそこらにあるし、排水用に掘った水路の土もある。
凄く良い考えに思えた。
そして実行した。
長い事業の始まりだった。