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時間との戦い


 収穫はかなり早いペースで行われた。


 冬までの時間が勝負だ。


 いつ寒くなるかなんて、誰にもわからない。


 収穫した物は文官娘衆によって数えられ、倉庫に納められる。


 今年は売却を控えようかとも思ったが、付き合いがあるのでそうもいかない。



 まず、ハウリン村との交易という名の交換市に参加する。


 この時、これまで村にいたガルフたちも同行し、向こうへ帰る。


「世話になった」


「そうか?

 ほとんど娘たちの家に居ただろ?

 俺はあまり世話した覚えがないぞ」


「ははは。

 そうだが、食べ物とか酒とか貰ったからな。

 うん、良い村だ」


「……別れは済んだのか?」


「ああ。

 名残惜しいが村で妻や他の娘が待っているからな」


「村に居る限り、娘の面倒は見るから心配するな」


「わかっている。

 娘を……いや娘達を引き受けてくれたこと、感謝している」


「まあ、余裕ができたらまた来てくれ」


「ああ。

 遠慮しないぞ」


 ハウリン村との交易は、ティアとラスティが担当。


 頑張ってもらった。



 次にドライム、ドース、ライメイレンの場所へ収穫物のお裾分けという名の季節の贈り物。


 食糧に不安があるのになぜと思うかもしれないが、今回は販売の意味が強い。


 お礼を期待しての贈り物だ。


 お礼を期待して贈り物をするなんてと思うが、背に腹はかえられない。


 作物を手っ取り早く現金や宝石に換える。



 ビーゼルとの取引も同じだ。


 食料を売って現金を受け取る。



 そしてシャシャートの街のマイケルさんの所にも作物を持っていき、売ったお金やこれまで貯めたお金で食料を買い付ける。


 事前に話を通しているので、食料は用意してくれている。


「食べ物を売って、食べ物を買うなんて変な気分です」


 マイケルさんの所にまで買い付けに行った文官娘衆の一人がそう言うが、今回は質よりも量が必要だからな。


 と言っても気持ちはわかるので、穀物類よりも魚介類を多めにしてもらっている。


 目標は、全員が無事に冬を乗り越えること。


 来年以降は、各村で農作業をしてもらうから大丈夫。


 ……あれ?


 ミノタウロス、ケンタウロス、ニュニュダフネは農業できるのか?


 いや、ここに来るまで生活していたのだから大丈夫だろう。


 ……農業をしていたとは聞いていないな。


 無理か?


 ニュニュダフネは無理っぽいなぁ。


 合わない作業をさせても非効率だしな。


 今度、それも相談しよう。




 村に食料がドンドンと運び込まれていく。


 食料を保存するための倉を作りたいが、後回し。


 簡単に作れる地下室を増やして納めていく。



 収穫と売買が終われば、手の空いた者から急いで二村に向かって建築作業。


 ミノタウロスたちが住むための大きな家を建てていく。


 ミノタウロスたちが住むサイズでの二階建ては厳しいので、全て平屋。


 内装は後回し。


 とりあえずは屋根。


 次に壁。


 そして冬に備えての防寒対策。


 この建築作業にはミノタウロスたちも参加できたので、かなりのハイペースで進んだ。


 俺も二村に行っては井戸とトイレの建設をする。



 俺は大樹の村に戻るが、建築作業をしている者の大半が二村で寝泊りしている。


 なんだかんだで大樹の村と二村の距離があるので、その時間を短縮するためだ。


 そして、作業をする者達の護衛にクロやザブトンの子供たちもそれなりの数が二村周辺に移動している。


 お陰で、大樹の村が少し寂しい。



 ミノタウロスの大人たちは二村に住みながら建築しているが、ミノタウロスの子供たちは大樹の村に居る。


 その世話をしているのがケンタウロスたち。


 ケンタウロスたちは、その姿から予想できるように走るのが得意だった。


 得意の戦い方も、速度を上げてからの突撃や、殴って逃げる機動戦、距離を保ちつつ一方的に殴る遠距離攻撃と足を使うものだった。


 最初、グルーワルドたちが森の中で兎相手に苦労していたのは走れなかったからと判明。


 彼女らは走れる道上では、かなり強かった。


 そこで、大樹の村と二村の間の輸送、連絡要員を頼んだ。


 途中で遭遇する魔物や魔獣を倒す必要が無く、逃げていいとなれば、グルーワルドともう一人だけでなくケンタウロスの大人全員が協力できた。


 大体、五人ぐらいでチームを作り、走っている。


 大樹の村から一村を経て、二村まで三十分ぐらい。


 速度的に四十キロといった感じだろうか?


 聞けばもう少し速く走れるとのことだが、無理はしないでほしい。


 でも、最速を知りたいのでチャレンジしてもらったら、大樹の村から二村まで二十分ぐらいだった。


 凄い。


「あの村長。

 牧場に馬が居ましたが、乗馬をされるのですか?」


「ん?

 ああ、するが……まあ、乗せられているだけだ。

 なかなか言うことを聞いてくれない」


 ひょっとして、グルーワルドは馬と会話ができたりするのだろうか?


 なら、俺の言うことを聞くように言ってもらえないだろうか?


 いや、馬に不満があるなら聞こうじゃないか。


 ひょっとして付けた名前が気に入らないとか?


 ネーミングに関しては、自信が欠片も無いからなぁ。


「その、村長。

 私に乗ってみますか?」


「え?」


「お話ができますので、馬よりは乗りやすいと思いますよ」


「え、えっと……」


 グルーワルドの下半身、馬の部分を見る。


 うん、馬だ。


 馬の背中部分を見る。


 乗れそうだ。


 乗れそうだが……


「俺が乗ってもいいのか?」


「はい。

 どうぞ」


 グルーワルドが両足を曲げてしゃがんだので、俺は素直にその背中に跨った。


 グルーワルドが立ち上がる。


 高い。


 馬に乗った時の高さだ。


「歩きます」


 グルーワルドがスタスタと歩く。


 お尻を置いている背が上下に揺れる。


 うん、馬に乗った時と変わらない。


「少し、速く歩きます」


 おおっ。


 乗馬してる。


「走ります」


 ……


 ビビるほど速かった。


 鞍とか鐙が無いと危ないと思う。


 この後、俺が二村に行くのにグルーワルドが運んでくれるようになった。


 グランマリアたちが少し嫉妬の目でグルーワルドを見ていた。


 あと、クロたち。


 グランマリアたちはわかるが、クロたちに乗ったことは無いぞ。


 ついでに、馬が拗ねた。


 いや、すまない。


 お前をないがしろにする気はないんだ。


 だが、言うことを聞いてくれないだろ。


 機嫌を直させるのに少し苦労した。


 グルーワルドに乗る時は、なるべく馬の目にふれないようにしよう。




「村長。

 水車の試作六号ができました。

 今度こそ上手くいきます!」


 山エルフたちの水車作りは、順調とはいかなかった。


 試作一号、二号は上手く回らず、失敗。


 三号は回転したが、水が上手く汲めなかった。


 四号は回転、水汲み共に上手くいったが、数日後に回転が歪み、壊れた。


 また、汲める水量が少ないのが問題にされた。


 五号は耐久性を追求したせいか、重くなり過ぎて上手く回らなくなった。


 そして六号。


 上手くいった四号を基礎に、水車の軸を鉄製にすることで耐久度をアップ。


 汲み上げる水の量を増やすため、かなりの大型水車になった。


 直径は三メートル超。


 かなり軽量化しているが、水車を設置場所に運ぶのにドラゴン姿のラスティに協力してもらった。



 川には水車を固定するための台を作り、設置している。


 こちらも試作が三回ぐらい作られた。


「位置確認、問題なし!

 水車、降ろします!」


 山エルフたちがほぼ総出で、水車を見守っている。


 ガゴッと水車が降ろされ、設置している台の所定の場所に軸が嵌る。


 そして……


 川の流れに押されてゆっくりと動き出した。


 湧き上がる歓声。


 だが、汲み上がらない水。


 失敗かと暗い空気が漂った。


「あっ!」


 水車の向きが逆でした。


 汲み上がらなくて当然。


 時間を掛けて正しく設置し直し、改めて動作チェック。


 予定している水量の汲み上げに成功した。


「良かった。

 本当に良かった」


 山エルフたちが涙を流した。


「見た感じ、楽勝とか思って舐めてました」


「木の重さまで考えないと駄目だったなんて……」


「ううっ。

 でも、楽しかった」


「改善点、まだ三つぐらいあるけど」


「ともかく、良かった」


「で、後、これを二つでしたっけ?」


 農作業をするかどうかはわからないが、川の水が引けるのは今後の役に立つ。


 頑張ってもらおう。




 収穫が終わってから四十日ほどで、大きな平屋が二十五棟ほど完成した。


 ミノタウロスたちも平屋が完成する度に住み始めているので、問題点はすでに洗い出されて改善している。


 これでミノタウロスたちの寝床問題は解決したと結論。


 冬の間、北のダンジョンで暮らしてもらう案は、そのままケンタウロスたちにシフトした。


「できれば、冬の間もこちらでお世話になりたいです」


 グルーワルドの希望を叶えてやりたいが、冬の寒さは厳しい。


 一人二人ならなんとかなっても、ケンタウロスたちは子供を含めて百人以上だ。


「三村の建設を急ごう」


 冬が来るまでに、できる限りのことはする。




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馬本当に役立たず
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