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やりたい事をやる為に 作者:千月 景葉
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94. 視察の準備と剣草

お読みくださりありがとうございます。
久し振りに不思議植物の登場です。
少し毛色が違う草です。
騎士のテオが自らの失態(?)に恐縮しながら一晩シェルビー家で世話になり、子供達、又大人達とじゃんけんぴょん大会等をしながら楽しく過ごして、翌朝州都にとんぼ返りしてから1週間が経った。


「時間が無いわ!早くしないと!貴方達、今言われた自分が割り当てられた掃除に早く掛かりなさい、良いわね!」
 コレットが家族全員に号令を掛け、家中をピッカピカに磨き上げる。
 毎年恒例(?)ジェラルドの視察前大掃除である。
 昨年もアナスタシアを同行して来たが、今年もオーウェンが同行者としてやってくる。コレットとしては昨年同様、出迎えるための準備に手を抜けないのだ。
 先ずガルシアは昨年同様、滞在中のジェラルド達が使う部屋3部屋の準備だ。ベッド等を随行者分も全て物置などから運ぶ。ライリーはその手伝いだ。
 コリンとクロエは家の周りの草抜き。初めはコリンだけだったが、1人は淋しいとコリンがポツンと溢したのを耳にしたクロエが
「アタシ、コリンお兄ちゃんと草抜きする!小さくても草抜きなら出来るよね。母さん良いでしょ?」
 とコレットに許してもらったのだ。
 因みにジェラルド達が来るのは3日後だ。
 コレット自身は1週間前からあちこちを磨き始めていた。客用のファブリック等を洗ったり、色々とやることは沢山あるのだ。
 ミラベルもコレットに付き従い、客用の食器を用意したり、客間の掃除を手伝う。
 ディルクも手伝おうと申し出たのだが
「とんでもありません!先生はご自身の事だけしてくだされば充分です!」
 とコレットに却下された。
 で、今日からジェラルド達が到着する前日までの2日間は、最後の仕上げ掃除に家族全員で掛かっているのだ。
 因みにディルクは、邪魔をしてはならないと小屋に引っ込んでいた。


 家周りの草抜きをコリンとクロエは黙々と頑張る。
 コリンが草を抜きながら
「……クロエ、もしかして僕に気を遣ってくれたの?
 僕が1人は淋しいって言ったの聞こえた?」
 とばつが悪そうに聞く。
 クロエも草をブチブチ抜きながら
「うん。だってお兄ちゃんの気持ち解るもん。
 アタシも1人は淋しいよ。皆家の中の作業なのに、お兄ちゃん1人だけ外での作業ってやっぱり気になるから。
 あ、気を悪くしちゃった?」
 とアッサリ認め、コリンの気持ちを気にする。
 コリンは首を横に振り
「ううん、ありがと!
 やっぱりクロエって優しいな。ちゃんと僕の事見てくれてたんだね。
 僕もしっかりしないとな……いつも助けてもらってばっかりだから」
 と照れ臭そうに礼を言う。
 クロエがフフッと笑い
「お兄ちゃんは充分しっかりしてるよ?アタシはお兄ちゃんを頼りにしてるし。
 アタシは倒れたりとかして、お兄ちゃんや皆に面倒見てもらってるもの。
 だからたまにはアタシがお兄ちゃんの役に立ちたいじゃない。今回のはその“たま”だよ。だから気にしないで?
 ……でも草って案外抜くの大変だよね~。これなんか全然……んーっ!ぬ、抜けないーっ!」
 とクロエが1本の草を両手で掴みながら、全身を使って抜こうとするが、草が根深くてビクともしない。
 コリンがああ、と言って
「クロエ、それじゃ抜けないよ。貸して?コレで土を解して、草をゆっくり回しながら……」
 とクロエが格闘した根深い草をいとも簡単に引っこ抜く。
 クロエは目をパチクリして
「……お兄ちゃん、上手いね~。凄いなぁ、この手強い草が簡単に抜けちゃった!
 やっぱり畑で鍛えられてるだけあるね。
 アタシなんかよりよっぽど凄い!アタシこそお兄ちゃん見習わないとダメだね~。頑張らなきゃ!」
 と頷くと、気合いの入った顔で別の草に取り掛かる。
 コリンはクロエの言葉を聞いて、嬉しそうに笑いながら
「クロエは本当に褒めるのが上手いな~。だから僕、クロエと一緒に居るのが楽しいんだ、エヘヘ!
 よし、僕も頑張ってもっと綺麗にしなくっちゃ!
 クロエも無理したら駄目だよ?クロエの皮膚は柔らかいから、草の種類に因っては……」
 とクロエにアドバイスしようとしたら
「あつっ!……いた……」
 とクロエが小さな悲鳴を上げて、草から手を離した。
 コリンが顔を強張らせて
「クロエ!どうしたの!手を見せて!」
 とクロエの手を見る。
 すると引き抜こうとした草の葉が鋭利なものだったのか、スパッと両手の3ヶ所が切れて血が出ていた。
 クロエが顔をしかめて
「……やっちゃった。鈍臭いなぁ……アタシ」
 と溜め息を吐く。
 コリンが真面目な顔で
「ごめん、先に注意すべきだった!早く手を治療しなきゃ!え~と、母さんは今大変だから……うん!ディルク先生の所に行こう!
 大丈夫?歩ける?」
 と立ち上がりながらクロエに聞く。
 クロエも頷き
「そうだね、母さんは準備に忙しいし、先生の所へ行った方が良さそう。
 大丈夫歩けるよ、お兄ちゃん」
 と彼女もスクッと立つ。
 案外深く切ったのか、地面にポタリと血が落ちた。
 コリンが服を脱いで
「布無いからコレで手を押さえて?後から母さんに僕謝るから。手を貸して!」
 とクロエの手に自分の服を押し付けて、何とかぐるりと巻く。
 クロエが顔をしかめて
「お兄ちゃん、ここまでしなくても……。本当にごめんね、却って迷惑掛けちゃった」
 とコリンに謝る。
 コリンは首を横に振り
「何言ってんの!早く行くよ。痛いけど我慢して?」
 とクロエの肩を抱いて小屋に向かう。
 クロエも頷いて一緒に小屋を目指す。



 それほど離れていないので、程無く小屋に着いた2人。
 コリンが扉をノックし
「先生!コリンです、開けてください!」
 と中にいる筈のディルクに声を掛ける。
 ディルクが直ぐに扉を開けた。
「コリンか、どうし……何で服を着とらん?
 ん?クロエの手がどうかしたのか?」
 とコリンの服でぐるりと巻かれたクロエの両手に気づいた。
 コリンが焦った顔で
「クロエと草抜きをしていたんです。でも鋭い草の葉でクロエ、手を切っちゃって……。
 でも母さんは今手を離せないから、先生なら治療してくださると思って……」
 と事情を説明した。
 ディルクは頷いて
「わかった、とにかく入りなさい。手を洗浄して、傷を見よう。コリンも何か羽織らなければな。
 さ、早く」
 と2人を小屋の中に入れた。
 直ぐに勉強部屋の隣のリビングに2人を通し、洗い場へクロエを連れていき、傷を洗う。
「いたっ!し、滲みる~!」
 と顔を歪めるクロエに、コリンがオロオロする。
「だ、大丈夫?そんなにひどい怪我なの?先生、どうなんですか?!」
 とディルクに泣きそうな声で聞くコリン。
 ディルクが少し顔をしかめて
「ああ、こりゃ痛いわ。スッパリ入ったな。結構深い。3ヶ所切れとるが、1ヶ所深いのが有る。
 ……消毒だけでは駄目だな。治癒術をするか。待っとれ、準備する。
 コリン、儂の服だ。羽織りなさい。羽織ったらクロエの手をこの布で押さえてやってくれないか?
 クロエは治癒術を受けたら暫く動けなくなるからの。体が怠くなるんでな。ソファに寝転びなさい」
 と指示をして、治癒術の準備に入った。
 クロエはディルクの言う通りソファに寝転び、コリンは横に座って手を布で押さえる。
 布はみるみる赤く染まる。
 コリンは焦った表情で
「先生、クロエの手から血が凄く出てます。早く止めてあげてください……!」
 とディルクに訴える。
 ディルクが直ぐやって来て
「子供の手は柔らかいからのう。フム、コリンの言う通り早くしようの。
 これでは、小さな体には良くない。
 消毒するんでピリピリするが、我慢するんじゃぞ」
 と言って、クロエの傷に消毒薬を振り掛ける。
「いっ!……っ、くう~っ!」
 とクロエが歯を食い縛って我慢する。
 コリンが泣きそうな顔で
「が、頑張れ、クロエ」
 と励ます。
 ディルクが薬を綺麗に拭うと、指先から魔力を流して治癒術を施す。
 クロエの傷を指先で撫でていくと、指先がポワ~と光り傷口が光の筋で塞がっていく。
 ディルクは口で何かをブツブツ言っているが、意味は全く解らない。
 やがてクロエの3ヶ所の傷は全て光の筋で塞がった。
 ディルクは指先の光を消すと
「取り敢えず塞いだが、ここからじゃ。
 クロエ、其方自身の力で傷を治すから、どっと疲れが来る。魔術はきっかけを作るのみだ。
 今光ってるのは治癒術そのものだ。これが其方の体に働きかけ、傷の治癒を促進する。体力を全て傷の治癒に回すから、体が一気に疲れる。暫くは寝てなさい」
 とディルクが言ったと同時にクロエはクラッとしたのか、ソファでぐったりした。
 コリンが慌てながら
「ク、クロエ?!
 先生クロエがグッタリしちゃったんですけど?!
 大丈夫なんですか?又寝込んだりしませんか?!」
 とディルクにしがみつく。
 ディルクが苦笑しながら
「ああ、この傷なら夜には問題なく体も動くだろう。一寝入りするだけだ。大人なら座って暫くすれば大丈夫じゃが、未だクロエは小さいからの。じゃが、昼には未だ起きれんな。
 コレットには儂が説明してこよう。コリン、其方が付いていてやってくれ。
 さて、行ってくるか」
 と腰を上げた。
 コリンは
「先生、僕が母さんの所に行った方が……」
 と立ち上がりかけたが
「いや、儂が行ってくる。
 あの傷を見ると、剣草が生えとるようじゃ。あれはコリン、其方の手でも危ない。あれは子供だけで抜かせてはイカン草じゃ。
 コレットとガルシアに注意した方が良さそうだ。知らずに素手で掴むのは危険じゃからな。
 コリンや、どの辺に生えとった?少し確認しておこう。最悪、火を使わんとイカンかもしれん」
 とディルクがコリンに確認する。
 コリンは家の外回りの草を抜いていた場所を教える。
「多分クロエの血が落ちてるので、わかる筈です。
 でも、そんな草知らなかった……。畑で見たこと無かったから。
 森には多いのですか?」
 とコリンが尋ねる。
 ディルクは首をかしげ
「いや、非常に珍しい草なんじゃよ。儂も知ってはおるが、見たことがない。
 しかしクロエの傷が余りに鋭いのでな。あの傷は剣草以外では考えられぬ。
 あんな希少な草がこんな近くに生えとったとはな。
 除草ついでに採取しておくとしよう。
 ではコリン、クロエを頼むぞ」
 と話すと、彼はコレット達に報告するため出ていった。
「お兄ちゃん……ごめん。役立たずだね……アタシ。
 アタシ1人で大丈夫だよ?お兄ちゃん、家に帰って手伝いして上げて?」
 とコリンに小さな声でクロエが言う。
 コリンは直ぐにクロエの横に戻り
「馬鹿な事言ったら怒るよ、クロエ?掃除よりクロエのが大事に決まってるだろ?
 大事な妹が怪我して寝てるのに、置いてなんていけないよ!
 さあ、体がだるいんでしょ?少し寝た方が良いよ、僕が付いててあげるから」
 とクロエの頭を撫でる。
 クロエは微笑んで
「お兄ちゃん……ありがと。いつもいつもこんな心配ばかり掛けてごめんね。
 じゃ……少し寝るね、おやすみなさい……」
 と言うと目を閉じた。
 コリンはクロエの頭を撫でながら
「もっといっぱい勉強しなくちゃ……。草なら全部わかってるつもりだった僕のせいだ。
 僕がもっとしっかりしないとクロエを守れない。
 僕はお兄ちゃんだもの、このまんまじゃ駄目だ……」
 と妹の顔を見ながら、自身を反省するコリン。
 その後もコリンの手は、優しくクロエの頭をずっと撫でていたのだった。


 ディルクは森の家に行くと直ぐにコレットを捕まえ、事情を話した。
 コレットは顔色を変え、直ぐ様ガルシアを呼ぶ。
 ディルクと共にコリンとクロエ以外の家族全員で、家の外回りを調べる。
 すると玄関の周りは2人が綺麗に草を抜いていたが、玄関から少し離れた壁際に抜いた草の塊が有って、そこから向こうは未だ草抜きの途中の状態に見えた。
 皆でその場所を見ると、ガルシアが
「去年はこの草は生えていなかったぞ?……何て鋭い葉だ!……確かにこれは危険だ。先生、この草が?」
 とディルクに聞く。
 するとディルクが答える前に
「ここよ!父さん、血が落ちてる!……この草だわ、こんな刃物みたいな草、クロエの手なんて直ぐ切れてしまうわ!可哀想に、こんなに血が……」
 とミラベルがそこから少し進んだ家の壁際の地面を指差し、顔を強張らせた。
 鋭い葉の草の周りに、確かに血がポタポタ落ちていた。
 ライリーが屈み込み
「畑で見たことがない草だ。コリンも知らない草だよ。……これが剣草なのか。
 確か植物の図鑑に載っていたけど、こんな草の絵じゃ無かったよ!あの絵じゃ解らない、クソッ!」
 と吐き捨てた。
 コレットが顔色を青くして
 「アタシがあの子達に頼んだから……。アタシったら確認もしないで、こんな危ない目に合わせてしまったわ。2人に謝らなきゃ!」
 と震える声で呟く。
 ディルクが静かに
 「剣草は本来こんな場所に生える草ではない。
 これは武器に転用できる草だ。しかし一定の条件下でなければ生えぬし、そもそも種が何処から……。
 ……調べた方が良さそうだな。土と草を採取する。……後、この壁の向こうは何の部屋だ?」
 と唐突にコレットに聞く。
 するとコレットより早くミラベルが
 「この向こうはアタシ達の部屋です!ほら、あのカーテン。先生見たことあるでしょ?」
 と窓を指差す。
 確かに窓越しにミラベルとクロエの部屋のカーテンが見えた。
 ディルクが目を鋭く光らせ
 「……フム、なるほどな」
 と呟いた。
 その後ディルクが必要な土と剣草を採取すると、ガルシアが火の魔力行使で剣草を燃やした。
 しかし不思議なことに、その場所以外では剣草を見つけることは出来なかった。
 昼食までガルシアはひたすら、家の周りの草を焼いて回ったのだった。






次話は明日か明後日投稿します。
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