レクティファールに先行し、〈グラッツラー伯国〉に入国した者たちがいる。
皇国外務院中原総局に属する外交官だ。
その中に、後々の歴史にまで名前を刻む男がいた。
「――ヘイス・ド・フィア・ロッゾです。以後、見知り置きください」
そう言ってグラッツラー側の政府高官に手を差し出す若き外交官。
相手は皇国の外交官というだけあって単に見た目が若いだけかと考えたが、実際の年齢は、レクティファールと同じであった。
「アイヴァー・セッジレイ。こちらこそよろしく」
グラッツラー側が用意した交渉相手は、こちらも若い外交官だった。
しかし、若いとはいえヘイスよりはいくらか年長で、伯爵家に連なる名家の出身だ。そして、ヘイスと共に後世まで知られる人物となる。
「それと、こちらは私の手助けをしてくださる」
「デイヴィス・カーツマンと申します。セッジレイ家の俊英にお会いできるとは、老体に鞭打った甲斐がありました」
デイヴィス・カーツマン。
先代のリヴェイラー伯爵である。現在は隠遁して公職からは離れていたが、レクティファール直々に外務院への出仕を請われ、特に重要な交渉に同行するようになった。
その際にリヴェイラー時代の名前を返上し、主家から新たに名を下賜されている。
「いえ、先代リヴェイラー伯といえば、幾度もそのお名前を聞く機会がありました。こうしてお会いできて光栄です」
アイヴァーはデイヴィスのごつごつした手を両手で包み、満面の笑みで歓迎の意を伝える。
その言葉と行動は本心からのものであったが、皇国側がこの交渉にどんな価値を見出しているのかは未だに分からなかった。
単なる摂政訪問の事前協議ではない。もっと別の意味がある。
アイヴァーは自分と共に交渉に臨む腹心を紹介した。
「彼は私と共に伯爵家に仕えている者です。今回、同席させて頂きます」
「レキ=アズルト・ファーグンと申します。政府外交部東部一課に席を置いております。以後、長いお付き合いとなるでしょう」
グラッツラー外交部東部一課は、皇国や連合方面での渉外を担当する部署だ。
今後もグラッツラーと何らかの交渉を続けるならば、レキ=アズルトがその窓口になるということだろう。
アイヴァーは今回の交渉はあくまでもグラッツラーに住む神獣の引渡しに関するもので、国家間の交渉として前座に過ぎないと考えていた。本番は、レクティファール本人がグラッツラーを訪れてからになる。そう思っていた。
しかし、彼の予想は大きく裏切られた。
「では――」
◇ ◇ ◇
〈グラッツラー伯国〉へと特使として赴く前日、ヘイスは摂政レクティファールに直接目通りを許された。
それは外務院総裁マルファスのヘイスに掛ける期待の現れとも、レクティファールの気まぐれとも考えられた。
外務院で下馬評に上るレクティファールの話題など、決していいものではない。
軍を優遇し、国内の安定を優先した結果。その皺寄せを外務院に押し付けているという評が少なくなかった。
ヘイスの抱いている摂政像というものはまた少し違い。端的に言えば、若さと無知によって国を引っ張る指導者。
現在の皇国が置かれている状況であれば、ある意味で『正解』の摂政だろう。
「外務院二等外務官補ヘイス・ド・フィア・ロッゾ。摂政殿下のお召により罷り越しました」
秘書官にそう伝えて通されたのは、執務室ではなく皇城内の厩舎であった。
厩舎といっても摂政の竜である銀竜が一頭飼育されているだけの混凝土造りの建物で、皇都の一般的な家屋の三倍以上の大きさであった。
装飾の少ないその厩舎の一角で、レクティファールは愛竜の鼻先を撫でていた。
「クルゥ?」
銀竜がヘイスの顔を見、首を傾げる。
敵とは看做されていないようだが、気分はあまりよくなかった。竜族はたとえ亜種であっても、ヒトより強い。それも圧倒的な強さを持っている。
生命力、強靭な身体、膨大な魔力。そのいずれも、普通のヒトでは百人揃えても伍することはできない。
「殿下、御前に」
「うん、ご苦労」
膝を突き、胸に手を当てるヘイス。
頭上から「では、歩きながら話そう」と言われ、彼はレクティファールに続いて厩舎を出た。
冬の晴れ間の澄んだ空気の中を、二人は歩く。
「〈イペイラポス〉殿には私から言い含めておいた。その名をもって約してもらった以上、移動中に気紛れを起こすことはない」
「はっ、殿下のお気遣い、ありがたく」
〈イペイラポス〉の移送の手筈は外務院が担当した。
グラッツラー側からも担当者が付けられ、極秘裏に、慎重にグラッツラー本国へと移送されることになる。
神獣は戦略兵器だ。下手に外部に情報が漏れれば、それだけで両国にとって打撃となる。
「彼はそれなりに物分りの良い部類に入る神獣だ。中にはこちらの言い分など何一つ聞かない者もいると聞く。それに較べれば、多少頭が固くとも意思の疎通ができるだけましというものだろう」
「――殿下なればこそ、ということもございます」
ヘイスが同じことをしようとしても、話をするまでに消し飛んでしまう。
レクティファールのように人の身を大きく外れた力を持つ者だけが、神獣と意思を交わすことができるのだ。
「それもそうか」
レクティファールはゆっくりと歩を進めながら、庭の風景を眺める。
黒の飾り気のない外套を纏ったヘイスと、灰色の外套を着たレクティファール。
対照的な色合いの二人は、余計な言葉を交わすことなく遊歩道を行く。
「マルファスから聞いている。論文も読ませてもらった」
「恐悦に存じます」
「『国家の寿命』だったか。君が論文で何度も取り上げていたものは」
国家にはそれぞれ政体や地理的条件、時代的条件によって寿命がある。
帝国は短命な人間種主体で、軍事力に多くを傾けているために常に外へと膨張することでしか国を保てない。
連邦は新たな価値観である人民主権を謳っており、それによって総ての動きが慎重であり、緩慢である。しかし、それ故に安定性に長けている。今後の周辺国の動静次第では長い寿命を得られる可能性も否定出来ない。
都市同盟は複数の都市国家の集合体で、同業者組合の力が強い。そのため、利益を第一とする考えが浸透しており、それによって他国との認識に差が生まれ始めている。しかし、自国民への正当性の誇示に関してはどの国家よりも優れている。
イズモはそれそのものが歴史であり、そもそも遺跡戦艦を有する『帝』の専制以外に国を纏めることは難しい。現在はその補佐役を宰相として国を纏めているが、国内外の状況が大きく変動しない限り、『帝』制が崩れる可能性は低い。
「色々参考になった。――我国は、皇王制度なくして生きられないというくだりもな」
「は……」
皇国と皇王は運命共同体であり、皇王制度が潰えた瞬間に皇国も消滅する。それだけ危うい均衡の上に、皇国は建っている。
ヘイスは恐縮したように顔を伏せ、しばし後にレクティファールに問うた。顔を上げたヘイスには、怜悧な外交官としての表情がある。
「殿下、自分はグラッツラーで何を為せばよろしいのでしょうか」
「マルファスは何と言っていた」
「グラッツラーの神獣を返還し、我国の神獣奪取の疑いを晴らす。そして、神獣による皇都襲撃を不問とする代わりに、我国との共同歩調を約束させる。その見返りとして、グラッツラー伯の姫君を殿下の妃として迎え入れ、同時に中立国としてのグラッツラーの立場を保証する」
皇国がグラッツラーに求めるものは少ない。
中立国として大陸の各国に顔の利くグラッツラーを無理やり味方に引き込む必要はない。そんなことをすれば、未だ旗色を明確にしていない各国の不安を煽るだけだ。
それに、グラッツラーには中立国以上の価値が殆ど無い。
軍事力は他国頼み、自国内の需要を満たす程度の資源しかなく、山岳国であるために流通の中心とも成り得ない。
同じ中原国家である〈ガイエンルツヴィテ〉とは違い、〈グラッツラー伯国〉はその文化によって中立を維持してきた。
他国の干渉を受けないために鎖国をするのではなく、他国に積極的に近付くことで中立を守るという方法を選んだ。
武力を持たず、良き隣人として、利用価値のある弱小国として存在することで、どの国にも支配されずにいる。
「彼国は、我国にとってどれほどの価値があるのでしょう。安全保障会議の中枢として利用するだけでも、あちらには大いに益がある。我国を裏切るような真似はしないと愚考いたします」
グラッツラーは自国の価値をよく分かっている。
下手に力を持ち、資源を持てば狙われる。だからそれらを持たず、常に誰かの味方であることでその他の総ての国を牽制し続けてきた。
最近になって金融の国として名が知られるようになってきたが、それも他国に自らを売り付けるときに幾らかの付加価値を与えるためだと考えられている。
中立国の銀行であれば、資金洗浄などに用いるには都合がいい。
本来であれば決して繋がらないはずの国の仲立ちをしている。グラッツラーに対する皇国の評価とはそんなものだ。
「価値か」
レクティファールは立ち止まり、ヘイスを振り返った。
無表情に同年齢の外交官を見詰め、レクティファールは訊ねた。
「ヘイス。我国の寿命は如何ほどだ」
ヘイスは虚を突かれたように口篭ったが、ただ、一瞬で計算を済ませてその答えを口にした。
「このまま帝国との争いが続くなら、百年と保ちません」
「そうだな、私もそう見る。場合によってはもっと短くなるだろう」
他大陸の動きが予想よりも早い。
既に皇国内に複数の国の工作員が潜入している。
おそらく、他の国にも入り込んでいるだろう。
「外務院の対外調査部、裏の外事諜報局……色々面倒な話を持ってきている」
「は……」
ヘイスは自分が聞いてもいい情報なのかと訝んだが、レクティファールは構わず続ける。
「ウォーリムは千年戦争を終えて統合の機運が高まり、イズモへの領土的野心を隠しきれていない。ついにイズモを射程に捉えた地点に軍港と基地を建造し始めたとも聞く。エリュシオン大陸とオルコス大陸を治める超大国も誕生し、トランもいつまで静観しているか分からない」
「二〇〇〇年、よく保った方だと」
「その通りだ。だが、もう保たない」
レクティファールは外套の物入れから何かを取り出し、それをヘイスに手渡した。
恭しく膝を突いてそれを受け取るヘイスに、レクティファールは言葉を重ねる。
「ちょっとした仕込みだが、それなりに役立つだろう」
「これは……記録晶」
一片が五サンチほどの薄い晶盤は、それだけで記録と投影が行える。
実用化されたのはつい最近で、未だ普及しているとは言い難い。
「それに他大陸の情報を入れてある。必要なら使え」
ヘイスはそこに至り、レクティファールが求めているグラッツラーでの成果が、マルファスの言うそれとは別種のものであることに気付いた。
「殿下は、グラッツラーに何を求めておられるのです」
「中立。ただ、向こうの堅持したい中立とは別のものだろう」
ヘイスは立ち上がり、なお訊ねた。
「それは、我国にとって都合のいい中立――我国の代理としての中立ですか」
「その通り」
レクティファールは再び歩き始め、若き外交官はそれを追った。
寒い風がヘイスの頬を掠め、痛みを引き起こす。
「殿下は!」
叫ぶように、ヘイスは主君の背中に疑問を投げ掛ける。
ヘイスは何故マルファスが、今回の交渉の全権特使に自分を任命したのか分かったような気がした。
眼の前の主君は、自分と近い価値観を持っている。
この国は滅ぶ、と。
「この国を何年生かしたいのですか」
延命。
そう言ってもいいかもしれない。
皇国は今のままでは生きられない。
今のまま生きるというなら延命をさせ、それでも足りないのなら、皇国そのものを作り替える必要がある。
「少なくとも、あと二〇〇〇年は生かすつもりだ」
「――それが可能だと?」
「可能にするのが、君らの仕事だ」
レクティファールは振り返らず、足元の枯葉を拾う。
その枯葉に火が灯り、一瞬で燃え尽きる。
「そしてその仕事を達成させるのが、私の仕事だ」
再度ヘイスに向き直ったレクティファールは、小さく笑みを浮かべていた。
どこか得意げに、面白そうに。
「マルファスにはこう言った。『二〇〇〇年先の皇国の姿を想像できる者は居ないか』とな」
「――!」
ヘイスは背筋に雷が走るという経験を初めて味わった。
二〇〇〇年!――遠い未来を想像しようとし、心の奥底から歓喜が滲み出るのを感じた。
「遠いか」
「いえ、経ってしまえば一〇〇年も二〇〇〇年も変わりません。それに、近いか遠いかは問題ではないと考えます」
ヘイスは歴史を学ぶのが好きであった。
そして、皇国の歴史を知り、他国の歴史を知り、その歪みに気付いた。
外務院に入り、他国の情報を集め、この国が百年耐えられないという結論に達した。
間違っていると思った。自分の考え、計算が間違っているのだと思った。
だが、何度も考えを組み換え、思考を繰り返し、計算をやり直し、やはり皇国の滅びが避けられないことを認めた。認めるしかなかった。
「ヘイス、私は二〇〇〇年後を想像する。妻たちが過去となった私の悪口を言い、子や孫がそれを聞いて目を輝かせ、笑う光景を」
いずれ死ぬのだ。
跡形も残さず、〈皇剣〉によって塵に還る。
だから、大切なものが増えるたびにその想いは強くなった。
「二〇〇〇年後の子孫に、皇国という国を遺す。二〇〇〇年の想いが込められたこの国をもう二〇〇〇年続けるために、貴様の総てを寄越せ」
外務院の外務官はその思想まで調査される。
その調査で、マルファスはヘイスの性格から未来への渇望まで、その総てを知ることができた。
いつかレクティファールと引き合わせようと考え、それが今だった。
「はッ」
ヘイス・ド・フィア・ロッゾについて書かれたあらゆる文献が、彼の名外交官としての始点として〈グラッツラー伯国〉訪問を挙げている。
そして彼がレクティファールという君主に忠誠を誓った理由として、この会談に臨むヘイスを深く信頼したからだと考えた。
それは正しく、同時に間違っている。
彼ら二人を結びつけていたのは友情や忠誠ではなく、未来への大いなる欲望であった。
◇ ◇ ◇
「これを我国に飲めと仰るかッ!」
アイヴァーの咆哮は至極真っ当なものだった。
皇国側が提示した要求は最初こそ穏当なものであったが、後半に移るにつれアイヴァーたちの神経を鑢で撫で上げた。
ヘイスが当初求めたのは、神獣の返還とそれに伴う諸経費の補償。皇都に与えた損害の補填。皇国が被った諸々の被害に対する賠償。
対してグラッツラーは神獣の奪取に関する調査について皇国側の全面協力を求め、その証として伯爵家から正妃を一人後宮へと上げることを要請した。
「さして問題のある内容ではありますまい」
続いて皇国は、今後の両国の友情を育むためとして、グラッツラー側に幾つかの要請を行った。
一つ、後宮へと上げる妃の候補に関しては、皇国摂政レクティファールの意向を最大限汲むこと。
一つ、グラッツラーは大陸安全保障会議の中枢として、国内に会議場を建設すること。
一つ、グラッツラーは皇国と敵対関係にある国家との交易に関し、その上限を設定すること。
「皇国は我国を属国とするおつもりか……!」
「いえ、貴国には常に中立であっていただく」
皇国のために――ヘイスは無言でアイヴァーを見詰め、レクティファールから手渡された記録晶を差し出す。
アイヴァーとレキ=アズルトはそれを不思議そうに見、ヘイスは二人がそれに集中したところで中の画像を投影した。
皇国や大陸の様々な港で撮影された写真は、総て他大陸の間諜や工作員を捉えたものだった。
「全部で七三九名分の画像が入っております。これは貴国に差し上げましょう」
「は……しかしこれは……」
アイヴァーはそれが他大陸からの招かれざる客の姿であると予想したが、その膨大な数に自分の予想を疑ってしまった。
まるで世界総てからこの大陸に工作員が集まっているようではないか。
「この大陸が置かれている状況、これでお分かりになられますな」
デイヴィスがアイヴァーに追い打ちをかける。
「裏付けが必要でしょう。お持ちください」
ヘイスがそう言って晶盤を押しやると、アイヴァーはそれを震える手で受け取った。
アイヴァーも他大陸の動きは知っている。だが、ここまで多くの関心を集めているとは思っていなかった。
「貴国はこれまでと同じように、多くの国との繋がりを保てばよろしい。我国はその後ろ盾となりましょう」
「しかし、それでは中立が……」
レキ=アズルトの言葉は、グラッツラーの中立に誇りを持つが故のものであった。
それは尊いものだろう。誰にも与せず、誰も害さない。素晴らしい国の形だ。
ただ、それは状況による。
「中立とは、複数の国家があってこそのものです」
「――――」
アイヴァーはヘイスのその言葉に黙り込んだ。
それは『中立』という概念の根幹をなすもので、その存在意義でもある。
「ですが、いずれの他大陸国家がこの大陸に手を伸ばしたとき、今のこの大陸のどの勢力がそれに対抗できましょう。相手は遠征軍、所詮は余所者と侮りますか?」
そんなことをすれば、間違いなくアルマダ大陸は他大陸軍に蹂躙される。
それだけの国力差があるのだ。
「〈統一帝國エリュシオン〉の国力がどれほどかご存知か?」
「いえ……」
アイヴァーが言い淀む。
続けて、レキ=アズルトに訊ねた。
「〈ウォーリム〉は?」
「この大陸総てよりも多い、としか」
そんなことを気にせずにいられたのは、単に幸運だっただけに過ぎない。
無理に手を出しても利益より損害が多いと判断されたからこそ、これまでアルマダ大陸は他大陸からの侵略を受けずにいた。
その前提が崩れつつあるのだ。
「では、我国が知る限りの情報ですが――前者はこの大陸総ての国家のそれを合わせた七倍。後者は五倍です」
「そこまで……!」
アイヴァーたちが驚くのも無理はない。
しかし、大陸内部で争っている間にそれだけの差ができてしまった。
彼らが育つ時間を与えたのは、アルマダ大陸の国々だ。
「彼らは大陸を統一し、国内の安定を図っている最中です。それが終われば、もっと差は開くかもしれない」
レクティファールがもっとも恐れている相手は、帝国ではなく他大陸の超大国であった。
帝国相手であれば戦いようはある。強敵ではあっても勝つ方法を見出せる。
しかし、他大陸の勢力がそれに介入した場合、皇国の手には負えない。
「既に複数の国々に同じ情報を送っております。多少なりと先が見える国ならば、それだけでこちらの意図を察する」
「先ばかり見て、足元を掬われてはかないません。皇国は帝国を甘く見ておられる」
アイヴァーの言葉にも一理あった。
未来ばかりを見て今を蔑ろにすれば、その代償はあまりにも大きくなる。
「帝国との戦いは、既に勝機を見出しました。だからこそ、その勝機をより確実なものとする策を練っているのです」
「勝機とは?」
アイヴァーの疑問は尤もだ。皇国と帝国の間には埋めきれない軍事力の差がある。
安全保障会議が未熟な組織である以上、勝機などと口にできるものではない。
「皇国が開戦を決意する。その時点でその戦争は我々の勝ちです」
ヘイスの自信に満ち溢れた言葉に、アイヴァーたちの目が点になる。
「勝てるかわからない戦争などにかまけている暇はないのです。我々は勝敗を決するために戦争をするのではない。勝利するために戦うだけです」
皇国に勝敗の分からない戦争は許されない。
勝つ戦争をする。戦争をするからには勝つ。それだけだ。
「もう一度言います。貴国の求める中立とは、揺れ続けることですか。それとも、屈さぬことですか」
アイヴァーの答えは無かった。
ただ、持ち帰って協議をするという言葉が、弱々しく発せられたのみだ。
皇国が摂政の訪問と同時期にこの協議を持ち掛けてきたことは、それだけでグラッツラーを重く見ている証でもある。
アイヴァーはそれを感じ、自分の両肩に自国よりも大きな何かを背負ったような気がした。
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