それは8月で、今から2年前の事だった。
照りつける日差しが暑くて、目がくらくらした。
その年の夏私と家族は、父の母、要は祖母のうちに夏休み泊まりに来ていた。
私は無駄に縁側で寝転び、音の鳴る風鈴を見つけていた。
強い日差しはガンガン肌を焼いて、汗がダラダラ出ているのに
私の体は良く分からないけど、何故か冷えたような感じがしていた。
祖母が来てスイカを出してくれた
「千夏ちゃん、スイカ切ったから食べん?」
私は祖母と一緒に、真夏の日が照る中で、スイカを貪った。
「これこれ、そんな早く食べなくてもいいでしょうにね」
そういって祖母は笑っていた。
キラキラしたような笑顔を私は見た。
私が普段住んでいる東京ではそういうキラキラしたものには
なかなか出会えないものだと私はそっと思っている。
皆何かどこかに間違ったものを抱えていて
なかなか人と笑顔をキラキラして見えない。
そう思う。
母と弟と父はどこかに出かけた。
私はあまり出かけたい気分ではなかったから、一緒に行かなかった。
ただ、この目でこの縁側から見える景色とかをただ焼き付けたかった。
私のふてくされた心にしみこませたかった。
そして縁側に居る祖母のキラキラした笑顔を焼き付けておこうと思った。
夕方になると蚊がひどくなって縁側から私は退散する事にした。
それでも見える景色は夕方の赤紫を出していたし
赤紫が終われば、薄く濃い青が広がっていく。
私は網戸にへばりついて外を見ていた。
「いつまであんたそんな網戸みへばりついて外見てるの?ご飯よ」
そう母に呼ばれて、私はしぶしぶご飯に行った。
たとえ網戸越しでも、空気やそれを伝える何かは
この田舎にしかない事を私は知ってる。
次の日も私は祖母と2人だけだった。
私は昨日と変わらず、祖母の出すスイカを貪っていた。
「ばあちゃん、スイカおいしいね」
私はそうつぶやいた。
祖母はキラキラした笑顔で私を見た。
「うん。そうだねぇ。私が作ったスイカだから格別でしょね」
そうとてもうれしそうに微笑んでいた。
それから1週間後私は、祖母の居た、田舎を家族と離れた。
夏休みが終わったのだ。
そしてそんな2年前を思い出しながら、私はまた田舎に来ている。
さらにしわが増えた祖母が
またキラキラした笑顔で私を出迎えた。
今年の夏は、私1人で来たのだ。
とにかく私はいろんなことにつまずいていた。
恋愛も、仕事も。とてもダメだった。
私は、キラキラしたものに触れたかった。
だから、1ヶ月前に辞表を出して、3日前に会社を辞めた。
周りは皆反対した。
でも、私の心にキラキラをしみこませなきゃならない事を
私は知っていた。
とにかく1番ダメだったのは私の心なんだ。
私は好きな縁側に居座っていた。
縁側の花壇は2年前と違ってアジサイが咲いていた。
薄い青の夕方がすすんだ空の色だった。
祖母がスイカを出してきた。
「千夏ちゃん知ってる?スイカってヲーターメロンって言うんだって。
千夏ちゃんがスイカ好きって言ってたでしょ?
スイカって西の瓜って書くのよ。チョット変でしょ?
だから今のコよく英語使うじゃないだから
おばあちゃんね、辞書でスイカを調べてみたら
水メロンって言うっていうから面白いと思って
ヲーターメロンって言うんだって千夏ちゃんに教えたくてね。」
そうひどくうれしそうに祖母は
スイカの話をした。
少し発音の悪いヲーターメロン。
そして祖母の作ったスイカとキラキラした笑顔。
私は、そんな場所に戻ってこれた事にひどくうれしさを覚えた。
|