岩
その部屋には岩があった。大きさからすれば石とも呼べそうな岩だった。丁度成人男性が膝を抱えて丸くなったぐらいの大きさだった。岩は殺風景な、真っ白の、ともすれば監獄のようにも見える、他に床と壁と天井しかない部屋の中央に鎮座していた。
今は何もない部屋の中にも、人が居た時期があった。その人は目立った特徴のない男だった。岩はその時椅子だった。決して大きいとは言えないような男の体を支える椅子だった。言っちゃあ悪いが、男の尻はでかかった。よくはみ出しているのを見て、椅子は内心笑ったものだ。とは言え、椅子は岩なので、口どころか顔すらない上抱える腹すらないから笑えやしなかったのだが。
ある時岩はベッドだった。椅子の件と同じ男が床に寝るのに飽きてきた頃、岩は椅子からベッドに変わった。ただ残念なことに、変わっていたのはたった三分間だった。三分間だけ待ってやる、の世界か。岩がそう思ったことなど、岩のごつごつとした肌で背を痛めた男には判らなかった。
またある時、岩はデッサンの材料だった。着の身着のみしか持っていないと思われたまた同じ椅子とベッドの件の男も、数枚の紙と鉛筆だけは持っていた。岩は寝そべる男の手によって、部屋と同じ色をした紙に分身を作った。だが残念なことに、分身とは言うもののそれは薄っぺらな二次元のものだったが。動けないのは本体と同じなのであまり問題はないのだが、本体の岩よりもほんの少しばかり男前だったのが気に食わないと岩は思った。
またまたある時、岩は机だった。またまた同じ男が家族に手紙を書く際に、岩の平らな部分を机として利用したのだ。そして男は紙にさらさらと文字を書いた。その目は遠目で見ても近場で見ても判るほど窪んでいて、今にも隈に喰われそうだった。岩が覗き込んだ手紙の内容はこんなものだった。
『母さん、元気ですか。おれは元気です。元気ですが大丈夫ではありません。おれは一体どうなってしまうのでしょうか。
高額アルバイトのちらしにつられたのがいけなかったのだと今なら判ります。わけも判らず白い部屋に入れられて、ドアが見えなくなるゴーグルをかけさせられて、しかもゴーグルを外したら時給はないとか言われて。……とにかくおれは長い長い間ずっとこの場所に閉じ込められました。
こういう状況で人間の体にはどんなストレスが生じるのか、とか色々なことを計測するそうです。一体おれは何日こうしているんでしょうか。一体あと何日耐えればいいんでしょうか。
ああ、目の前の岩になってしまいたい。母さん、母さん、かあさん、かあさんかあさんかあさんごめんなさいおれいわになる』
「×××さーん、6時間経ちましたー。お時間でーす!」
殺風景な、真っ白の、ともすれば監獄のようにも見える、他に床と壁と天井しかない部屋の中央に鎮座する岩は、いつからか二つになっていた。岩は思いがけず増えた仲間に寄り添い、含み笑っていた。
--END
私はとても影響されやすい人間です。
この文章を執筆する数分前まで何を読んでいたか、勘のいい方なら簡単に判ったのではないでしょうか。
シュールギャグを書くのは初めてなのでちゃんとしたシュールさを出せたかどうか心配ですが、綺麗に纏めれたような気がしたので満足です←自己満足
……ところでこれはジャンル的に何に分類されるんでしょうか?
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