挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ゼロからやり直す魔王軍生成術 作者:茶虎の猫

0章

1/26

魔王召喚①

 物語に終わりがあるように、人生にもまた終わりというものが存在する。

 ある者は寿命による老衰。
 また、ある者は事故や病に犯され、突然その生涯の幕を降ろすこともあるだろう。

 さて、かく言う俺の場合は後者にあたる。

 病に犯されたと言うわけでも、事故に遭ってしまっているわけでもない。

 俺は、赤の他人による凶器を胸に突き立てられ、生涯を終えようとしているのだ。

 何故自分が殺されなければならないのか。
 そんなこと、深く考えるまでもなく知れたこと。

 俺が魔王で、剣を突き立てた存在が勇者であっただけのことだ。

「——まさか、俺の野望が潰えることになるとはな。人の身でありながら、俺をここまで追い詰めるとは見事なものだよ」

「えぇ。そうね。あんたは強かったわよ。ここまでくる間に倒した魔王四天王なんて目じゃないほどに。本当に強かった」

「ふっ、その俺を君は倒したんだ。もっと誇ってもいい」

 自分が強いことは生まれながらに知っていた。

 しかし、いくら自分が他の誰よりも優れていようと慢心してはならぬと努力を積み重ね、他の追随を許さぬ境地に至ったのも事実。

 部下の多くにもその考え方を植え付け、歴代の魔王軍をはるかに凌駕した精鋭部隊を作り上げた。

 だと言うのにもかかわらず、目の前の勇者なる人物は俺の作り上げた部隊をことごとく粉砕し、あまつさえ俺をも瀕死に追い込んだ。

 全く、なんて存在が現れたんだろうな。

「この世界に生まれ落ちて、五百年。よく生きてこれたもんだな……。名残惜しくもあるけど勇者ちゃん、悪いが俺に終止符を頼むよ。――出来れば、その胸の辺りにある果実で俺の顔を包み、……圧迫死なんてのが嬉しいんだけど?」

「――なッ!? こ、この変態魔王がッ! 最期の最後に告げる言葉がソレ!?」

 魔王様からのアドバイス。
 時に男とは、死よりも本能に従うべき時があるのだ。

 自身の腹部にまたがり、美しい瞳でこちらを見据える美少女が目の前にいたのなら、本能の赴くままに口を動かしましょう。

 けど、魔王様との約束だよ?
 絶対に、こちらに殺意を持つ相手にそのようなことは言わないこと。

 口にしたら最後――

「――照れ隠しで殺される、事でしょう……」

「誰が照れ隠しだッ!」

 勇者と交わした言葉はそれだけだった。

 瞬間、胸に突き立てられていた剣が他ならぬ勇者の手によってより深く胸に沈んでいく。

 不思議と痛みは感じない。

 しかし、志し半ばで野望が潰えたことにたいして、俺はどうしようもない虚無感を感じた。

 俺のような奴に命を預けて共に歩んでくれた部下達。
 アイツらにあの世で再び合間見えた時、俺はどのような顔をしていれば良いのだろう。

 おそらくはみんな呆れたことだろうな。

 結局、俺の野望は実現しなかったのだと、あの世で笑われるに違いない。
 いや、もしかしたらラミアとかセイレーンが俺の告白を受けてくれるかもなんて期待もしてみたり?

「——もしも次があるのなら、今度こそは我が野望……果たしてみせる! 全ての国の女性は……俺の物だァァァッ!」

「いい加減にくたばれェっ、この変態魔王がァっ!」

 その言葉を最後に、俺の意識はブラックアウト。

 自身の命の灯火が消え、魔王たる俺の生涯が終わったのだと悟り、俺は考えることをやめた。

 はずだんだのだが、その声は突然脳内に響き渡ってきた。

『——ユーリの名の下に顕現せよ! 悪しき魔物どもを駆逐せん歴戦の戦士よ!』

 それは美しい女の声だった。
 うん。声の高さ、質からしてまだ幼い子供だろうか。

 あともう少し幼かったならば範囲外に違いなかったが、この声は俺好みの美幼女に違いない。

 昔、俺がまだ残った幼子だった頃に、寝かしつける為即興で昔話をしてくれたセイレーンのそれにも似た美声。

 彼女らセイレーンの子守唄には何度助けられたことか。

 ——んふふ、奴ら寂しくて俺を迎えに来たということか。気が早すぎるだろ? 俺はまだ完全に死んじゃいないんだからな……

 それにしても、あの世にやって来た俺を迎える歌が子守唄って、随分と面白い真似をしてくれるじゃないの。

 確かに幼子の頃はセイレーンの昔話を期待していた時期もあったが、今はすでに成人を迎え良い大人になっているんだぞ?

 今更彼女の昔話を聞いても懐かしさくらいしか感じはしないというのに——

「それに加え……何だ、その……変な子守唄、は……。眠くなるどころか……痛みが増している……じゃないか」

 苦笑を漏らし、閉じていた瞳を開ける。

 すると、目の前に映り込んで来た光景は、魔王たる俺の死を迎えてくれる今は亡き部下達の笑みではなく、全く知らない人間の幼女の姿だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ