第3話
「ねぇ、あの子に店任せて平気なの?」
俺の横でアリアが言う。まだシュウが信用されてないことがわかって俺は少し不機嫌になった。
「俺はシュウを信じてるからね。」
カイはのんびりとした口調で言った。
さすが俺達の保護者。シュウのことよくわかってるじゃねぇか、と俺はカイを見直した。
「おしゃべりは此処までにしよう。そろそろ目的地だ。」
来た――
この瞬間から俺は感情を押し殺す。
勿論アリアとカイもだ。
目の前には雑居ビル。
此処に俺達の運ぶモノがあるわけだ。
「はぁ…。」
「見苦しいわよ、いい加減慣れたら?」
盛大なため息にアリアの文句が出る。
「…こんな仕事に慣れたら人間じゃなくなる。」
俺の気持ちは店に置いてきたシュウに向いていた。
何も起きてないといいけど…。
「アオ、行くよ。」
「…了解。」
飴が入っていたのとは逆のポケットから鉄の塊を取り出す。
弾が入っているか確認をして、カイに合図を見せた。
「よし、Ready…go!!」
「…割りとあっけなかったな。」
体中に鉄の錆びた臭いがつく。でも俺はそんなもんには慣れた。
「で?モノはどれ?」
返り血を持っていた布で拭うアリア。その顔は今十数人の人間を殺した奴の顔ではない。
「うーんと…ああ、そこに積み重なってる山の一番下の奴だ。」
「…アオ、やってよ。」
「はぁ?何で俺が…」
積み上げたのは他でもないアリアなのに。
「女は体力が無いの。」
…こういうときだけ性別を使うのは理不尽だと思う。
「しょうがねぇな…」
そこで言うことを聞く俺も俺だが。
「良いよ、首から上があれば良いから。後は俺がやる。二人はいつもの店に行ってから戻ってくれる?」
「わかった。」
俺とアリアはカイの言うことに従い、ビルから離れた。
この仕事は運び屋。
そうシュウには教えたけど、そんな楽なものじゃない。依頼人から要求されたモノを必ず運ばなければいけない。…勿論それが人間の死体でも。
運び屋の仲間になってから、俺は黒い服しか着なくなった。
返り血をわからなくするためだ。乾いた血液は黒くなる。
「こんちはー。」
「…まーたあんた達かい。今日も血の臭いさせて…」
俺達が来たのは古ぼけた銭湯。その番台に座っているのはミサばあちゃん。
年寄りのくせに鼻は良いみたいで、仕事終わりの俺達を見ると必ず顔をしかめる。
「仕事終わりなんだよ。」
「…人殺しが仕事とは悲しいこったね。」
ミサばあちゃんの言葉に何も返せず、俺とアリアはそれぞれ男湯と女湯で別れた。
「ふぅ…極楽極楽。」
湯に浸って俺は体に付いた血を洗った。
周りには人がいないので叫ばれることもない。
血の臭いを消してから、俺は番台に立つ。
「臭う?」
「いんや。うちの風呂はいつも綺麗にしてるから大丈夫さ。」
「嘘言え、風呂の湯変えるの三日に一回って聞いたぜ。」
「…仕方ないじゃないか。此処等はそんなに来る人間はいないんだから。」
ミサばあちゃんが言うように俺達の住む街は貧しい人間が多い。というかほぼ貧しい人間だ。
この国はそれなりに面積があり、二十の街でわかれている。一番街は金持ちや政治家が暮らし、二十番街は犯罪者達が暮らす。
つまり街の番地の数が多いほどにその街の治安が悪くなる仕組みだ。
俺の街は十六番街。まぁ悪い方だ。だから多少事件が起きても誰も驚いたりしない。
「お待たせ。」
「おぅ。」
アリアと一緒に家…もとい店に戻る。
「まだシュウのこと疑ってんのか?」
「…甘すぎるよ、皆…。」
そう言って店の扉を開けるとシュウがソファで眠っていた。
「アリア、店が綺麗になってる。」
「…。」
「シュウが一人で掃除したみたいだな。」
何も言わずにアリアは二階から毛布を持ってきてシュウに掛けてやった。
「…んー。」
ムクリとシュウが起き上がった。
「おはよーシュウ。」
「アオ…おかえり。」
フニャと寝惚け気味にシュウは言った。
「…ただいま。」
おかえり、なんて久しぶりに言われた気がする。正直少し照れ臭い。
「帰ったのはアオだけ?」
「いや?アリアも一緒。」
俺が後ろを指差すとシュウの視線がそっちに動く。複雑そうな顔をしているアリアの姿に。
「その毛布もアリアが掛けたんだぜ?」
後ろから殺気がするがそこはあえて気にしないことにした。
「…ありがとう。」
シュウはヘニャリと頼りなさそうに微笑む。
「…別に。」
そっぽを向いてアリアは答えた。素直じゃねぇな。
「あ、お客さんが来たんだよ。」
「客?」
俺とアリアは顔を見合わせた。
それを気にする風でもなく、シュウは封筒を差し出した。
「お爺さんが持ってきたんだ。仕事の報酬だって。」
「…そっか。」
依頼人――
その単語が頭によぎる。
「何か言われた?」
アリアが尋ねた。こいつが興味持つなんて珍しいな…
「ううん。特には…」
俺は少しホッとしていた。…関わらせたくないのかもしれない。シュウはまだ汚れを知らないから。
「ただいまー。」
「カイさん、おかえりなさい。」
「デネさんが来たんだって?」
「デネさん?」
シュウは知らないだろうが、俺やアリアはよく知っている。依頼人の常連で一番街に住む金持ちだ。
「封筒を渡してあるって聞いたけど…」
「これ。さっきシュウから渡された。」
カイは中から札束を出して数え始めた。
「うん、ちゃんとあるね。シュウ。」
「はい?」
「留守番ご苦労様。今から君は本当に俺達の仲間だ。」
…今から?
「おい、カイ!!シュウを信用してなかったのかよ!!」
「いや?ただお金を盗まれてたら仲間には出来ないからね。」
確かにそうだけど、納得がいかない。俺が口を尖らせていると――
「僕、皆と仲間になれたんだね。」
「ああ、そうだな…。」
「良かった!!」
笑顔のシュウに怒りも忘れてしまった。
「よろしくね、アオ。」
「…おぅ!!」
こうして、俺に仲間がまた一人増えたんだ。
|