第13話
シュウが、家を飛び出した。アオと喧嘩して以来だ、なんて頭の片隅で思う。
「クソ…ッ!!」
「アオ待って。」
カイがアオの腕をつかんだ。
「止めんなよカイ!!」
「じゃあ聞くけど、行って何て言うの?」
「そりゃ……」
アオは口をつぐんだ。
確かに、追って言うべきことが私にもよくわからない。アオも同じ気持ちなんだろう。
「…今から今日あったことを全部アオに話す。手短に言うからちゃんと聞いてくれよ?」
「……わかった。」
「アリアは先に探してて。」
「え……」
見つけたあとに言うべきことがわからないのに?私はそう表情で語っていただろう。
「大丈夫だよ。いつものようにシュウと向き合えば良い。」
カイが私を気遣ってくれた。
「…わかった。」
その思いを踏みにじるわけにもいかず、傘をさして外へ出た。
とりあえず私は前にシュウが家出したときに見つけた銭湯に向かうことに。
「ミサばあちゃん。」
「なんだい?また仕事帰りかい?」
「違うよ。ねぇ、シュウ見てない?」
「シュウ?見てないよ。」
「そう…。」
これで宛てがなくなってしまった。
「何だい、また喧嘩したのかい?」
「…そんなとこ。」
「早く仲直りしなさいよ?」
「……うん。」
お礼を述べてから私はまた捜索を開始した。
「シュウの行きそうな場所……。」
まったくわからない。
盛大にため息をつくと、背後にふと違和感を感じた。
「……。」
私が後ろを振り向くと電柱付近で何かが慌ただしく動いた。
まさか――
「…シュウ?」
呼び掛けた瞬間、シュウは私のいる方とは逆方向に逃げ出した。反射的に私は彼を追いかける。
「ハッ…ハァッ…」
どちらのものともとれる荒い息遣いが雨の中聞こえる。
それなりに長い間走っていたようだ。
シュウは傘をさしておらず、服はびしょ濡れだった。
雨に濡れても平気なのは本当なんだと走りながら実感する。傘をさしたままだと走りづらいということも……
「あ…っ!!」
勢いよくシュウが転んだ。私の足は加速した。
「シュウ大丈夫?」
「――っ平気。」
逃げるのをあきらめたのか、廃墟の方に歩き出した。私もそれについていく。
「いつから私の後ろにいたの?」
「…銭湯出たところから。」
すねたような口調でシュウが答える。
「…何で?」
「アリア一人じゃ何かあったとか困るかと思ったの。」
私に背中を向けて、膝を抱えて丸くなった。
「そっか。」
自然と口元がゆるんだ。
「……何で探してくれてたの?」
「何でって…」
「僕人間じゃないよ?」
少しだけ冷たい、拒絶を表す声。
それを聞いた瞬間、何かが崩れる音がした。
「…わよ。」
「…アリア?」
「知らないわよそんなの!!」
「えっ、アリア…」
戸惑うシュウをよそに、私の感情は勝手に動く。
「人間だろうが人間じゃなかろうが関係ないでしょ!!」
人前で…というか生まれてからこんなに怒鳴ったのは初めてかもしれない。
「……私達仲間じゃないの?」
生まれた家で懐かしい人に会ったせいなのか、昔に置いてきた私の感情は止まらない。
珍しく泣きそうになった。
「仲間で、いてくれるの?」
シュウの丸い目は少し濡れていた。
「当たり前。それに、シュウが人間じゃないって話はまだ確かなことじゃない。」
「?」
首を傾げる彼に近寄って膝を地面につける。
「アリア…?」
シュウの左胸に手を当てる。
「ちゃんと心臓がトクトクいってるし……」
左胸から左手へ私の手を移動させる。
「こんなにあったかいんだから。」
私はニッと軽く笑みを浮かべた。
「……帰ろ?シュウ。」
立ち上がってシュウへ手をさしのべた。
「…うん。」
私の手をとって二人手を繋いだまま並んで家に帰る。
「いつも僕を迎えにくるのはアリアだね。」
「そういえばそうだね。」
「あのね、仲間って言ってもらえて嬉しかった。」
「……うん。」
唐突な感想に私は頷くしかなかった。
「だからね、もう逃げないことにした。」
「……そっか。」
シュウにとっての大きな決意。否定する必要がないから相槌を打った。
「今度もしアリアが逃げたら僕が迎えに行くね。」
「…楽しみにしてる。」
手を繋ぐと少しだけ違う体温が伝わってきて、それがなんだか凄く嬉しい。
だからシュウに気付かれない程度に手を強く握り締めたんだ。
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