またまた牛丼の吉野亭に行ったときの話だ。牛丼が嫌いな諸君は読まないでくれたまえ。
夜の十時半ごろ。仕事を終えたオレはいつも通り、豚キムチ丼の特盛に卵をつけて味噌汁もつけてポテトサラダもつけてリッチに食っていた。
隣のおっさんが、ぶつぶつ言いながら、定食を食っていた。
よくよく聞いてみると、「なんでやねん。なんでやねん。オレ、牛皿定食を頼んだのに」
でおっさんの前を見てみたら。
豪華サーロインステーキ。
「えーーーーーーーーーーーーー!!!!」
ナイフとフォークを持って、おっさんはうろたえていた。
よくよく聞けば、「くそゥ。くそゥ。めっちゃ請求されたらどうしよう。どうしよう」
オレはなんか気の毒になってきた。おっさんはみすぼらしい格好でとてもステーキ代を払えるようには見えなかったからだ。きっと、警察につかまるだろう。
注文を間違えた店員が悪い。しかし、ちょうど今の時間、バイトはマッチョな黒人が三人。きっと文句を言ったら殺される。
しかし、なぜサーロインステーキ? メニューにはないではないか。
オレは頼んでみようと決心した。給料日だったので気前がいい。
「すみません」
「ハーイ。ナンデショー」
カタコトの日本語だ。
「あの、サーロインステーキを追加で」
と言ったら、黒人の店員が笑った。
「ハハハ。オ客サーン。ウチハ、ギュードン屋デスーヨ。ステキーナンテ、置イテマヘーン」
むゥ。やはりか。しかし。
「でも、あのおっさん食ってるやん」
「ハハハ」
また笑った。
「オ客サーン。ジョーダンハ、ホドホードニー」
「冗談もクソもないよ。現に食ってるやんけ!」
オレはイラついた。おっさんの泣きそうな顔を見てると余計、その黒人に対して憎しみが沸いてきた。
「いいかげんにしろよ。お前らあれか。おっさんを苦しめて平気か」
オレは正義感に燃えていた。
すると、今度は黒人がイラついてきた。
急に流暢な日本語でしゃべる。
「あのねェ、お客さん。いいですか? 本日はサービスデイです。お一人様に限りサプライズでステーキを無料でサービスすることになってるんです」
「ほゥ。そんなシステムが」
オレは感心してしまった。すげえな。確かに吉野亭に来る客は貧乏な人が多い。たまにはこういうのがあってもいいかもしれぬ。
しかし、おっさんの方に目をやると、ちっとも食が進んでない。警察に捕まることを想像しているのだろう。
黒人が言った。
「だといいんですけどねェ」(了)
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