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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

ロボットの中

作者:旅人
 ――わたしは人間のある目的のために造られてくる。そのわたしが意識を持つということはわたしは存在する目的を探し始めていかなければいけない、ということである。そうだとすると人間達はわたしをロボットと言い切れるのだろうか――

 太陽が砂を照り付ける。そのせいで砂は温度を上げていく。ここはそんな砂だらけ。残念ながら心休まるオアシスなどもない。他には人が隠れることができる位の大きさの岩がぽつぽつとあるくらいだ。そんな場所をロボット三体は隊を作ってゆっくりと進んでいた。そのロボット達はアンドロイド型であったが、大きさは人間の倍以上はある。ロボット達は目的地の半分ほど差し掛かる。その時、どこからか大きな火薬の音がした後、弾頭がロボット達に向かってやって来る。そのことに一体だけが気づいた。
 やばい。
 そう思い電波で他のロボット達に知らせようとする。だがそう思った時には砂漠特有の乾燥した砂ぼこりがわきあがってくる。砂ぼこりが落ち着いた時には破壊された二体のロボットの金属片が砂漠の上に落ちていた。
 残ったロボットは熱探知器センサーを動かす。すると逃げている二人の人間がいることがわかる。
 ロボットは反応している地点に大急ぎで向かいながら、ロボットが持ち運んでいるキャリーバックのような箱からアサルトライフルを一つ取り出す。それを軽々と持ち上げながら、一呼吸置くようにしてから何度も銃弾を反応している地点へたたき込んでいく。
 そうすると、おそらく弾頭をぶっ放したであろう人間の悲鳴があがっていた。
 これで壊れたロボットは何体目だろうか。そして、ロボットが人間を殺したのは何人目だろうか。こんな辛い思いをするなら、感情なんていらなかった。自分はロボットにも人間にもなれないのか。
 生き残ったロボットは太陽を見上げた。

 この世界での戦争のきっかけは極端な地球温暖化による国連で決めたいろいろな条約だったのかもしれない。いろいろ盛り込まれていたが、そこで国同士の反発が生まれて、どんどん強くなっていった。それを懸念した国連は戦争を起こすなといろいろな国に強く言った。しかし、戦争なんてものはそんなことはお構いなしに起きてしまう現象だ。結局、それを起こしている地域に国連は軍隊を送り込むはめとなってしまった。そして、長い時間が経つにつれ、そんなことは忘れ去られて、いつの間にか対立構造が変わった。いつの間にか、国連軍対戦争地域の連合国となっていった、なんてある本にはそんな馬鹿げたことが書かれていた。

 そんな中、国連軍は二足歩行のロボットを作り出した。いざ戦場に実戦投入してみると高い効果をあげた。 そのため、国連軍が一気に試合を終わらせてしまうかに見えたが、整備不良のまま実践投入したことや長く戦場にいるため、プログラムにバグが起こってしまうなどの理由で、実際には多少有利になった程度であった。

 ――例えば現在わたしが見ている夢というのは潜在意識であって、簡単に言うと過去に見たつぎはぎの映像なのである。
 人間は夢を見るが意識を持ったわたしは果たして本当に夢を見ているのだろうか。とにかくわたしは情報を構築していかなければいけないのだ。それが現在の存在意義なのである――

「やっと出来た」
 そう言って博士はタバコをくわえる。
「タバコはだめですよ。ここは禁煙ですから」
 助手は博士がくわえていたタバコを取り上げる。
「少しくらい、いいじゃないか」
 箱からタバコを一本取り出そうとすると、助手が今度は箱ごと取り上げて、
「だめです。それにしてもやっと人口知能に擬似人格プログラムを組み込むことが出来て、しかもそれを応用してロボットに人格を作ることに成功しましたね」
 博士は大きくため息を吐く。
「まぁな、しかし個人的には複雑な気持ちだよ」
「何故です?これは凄いことなんですよ」
「いや擬似人格というのは人間と似た人格だ。確かにロボットよりも判断は良いだろうし、さらに持っている性能も使いこなせるだろうよ」
「なら、いいじゃないですか」
「人間に限りなく近い人格を持ったものを戦場に送り込むというのは不安でしかたがないよ。下手したら人間みたいに発狂でもするんでないかとね」
「はぁ、考えすぎじゃないですかね」
 助手は不思議そうに首を右に傾ける。
「確かにそうかもしれないが、だいたい戦場に行くのに人格なんてもんはいらんと思うがね。元々、こんな研究も国を誇示するためだけのものだ。まぁ、こんなことは作り出した本人が言うことではないがね」
 助手は席を立って、
「そういえば、名前はどうするんですか?あ、コーヒーをいれてきますね」
「名前か、アイザックでいいんじゃないか」
 助手はコーヒーを書類でいっぱいになっている机に置く。
「何故、その名前なんですか?」
「アシモフだよ。例えばロボット三原則なんか実際には矛盾があるじゃないか、人を守るために人を攻撃しなきゃいけない時はどうするんだ?そのロボットがこいつなんだから。まぁ、現実には三原則という概念も存在しないも当然なんだが」
 助手はコーヒーを飲もうとカップに手をやる。
「いろいろ考えても実際に使ってみないと分かりませんよ」
 それを聞いて博士は首を捻る。

 暑い、と人間だったら思うのかもしれない。
 炙るような日差し。こんな暑さだと自分の身体で肉が焼けるんじゃないかと思いながらアイザックは一体だけで砂漠の中をずっと歩いていた。この砂漠の中のある村に某国の大臣が亡命した、という噂があり、その目標達成するため。つまりその大臣を肉片にするまで、アイザックは大臣を探し続けなければならないのだ。
 アイザックの精神が蝕まれていく。それも無理はない。同じ意思を持ったロボットではないといえ、何度も破壊される場面を見ているの面白くはないものだ。それに、たくさんの人間を殺したのである。おまけに今、どこまでも続くと錯覚するような砂漠の中たった一体だけで探し歩いているのだから。
 また、来た。
 誰かが遠くで狙っている、というよりセンサーでは五メートルという近さである。今まで気づかなかったのが不思議だ。しかし、敵らしきものは見当たらない。
 あれっ?
 アイザックがふいに下を見ると、小さい岩陰から一人の少年が出てきた。
「あああぁぁぁぁっ」
 少年は自分の背丈よりも大きなAKを構え、玉砕覚悟でアイザックに銃口を向けて叫びながら銃弾をぶっ放す。
 だが、残念ながらアイザックには大きなダメージは与えられない。確かに人間だったら即死ものだろう。が、ロボットとなると話は別だ。アサルトライフルでもダメージは受けないことは無い。しかしロボットはそこらの装甲車レベルとまではいかないがそこそこの防弾力があり、最低でもグレネードランチャークラスのものでないとロボットを少ない弾数で仕留めるということは難しいのだ。
 まだ子供じゃないか、この子を殺すのか?
 少年兵というのはアイザックも知識としては知ってはいたが、初めて少年兵に会ったこともあり、回路内が混乱した。何の感情もないロボットなら即座にこの少年を殺していただろう。しかしアイザックには感情というものが植え付けられている。アイザックは少年に銃口を何度も向けようとしたが、結局それは出来なかった。
 少年のほうもすぐ殺されるものだと思って、地べたに尻餅をついたままである。しかしまだ銃口をアイザックに向けていた。
 アイザックは金属で出来た手を差し出して、
「敵ではありません。大丈夫です。あなたに危害は加えません」
 少年は丸い目をさらに大きくして動かなかった。

 アイザックは少年を肩車しながら、人口知能内に埋め込まれたGPSを頼りに近くの村を目指す。
「放せ、放せよ」
 アイザックの頭をぽかぽかと少年は殴る。
「君が腰を抜かしてしまったからでしょう。ほら、村が見えてきましたよ」
 殴られることなど全く気にせずにアイザックは呆れるように言う。
「……」
 少年は黙ったまま村を見つめる。
 村といっても、ここらへんの地域はもはや廃墟に近いものとなっている。村が戦場になっているんでは当たり前なのだが。
 そんな場所に不似合いな高い建物がぽつぽつとある。大昔はここもずいぶんと大きな都市だったらしい、高い建物というのはその名残が今でもまだ残っているのだろう。
「君の家はどこだい?」
「家なんかないやい、このロボット野郎!」
 少年に強く言われて、アイザックは驚いた。
「親は、」
 そう口に出そうとした瞬間、少年を見ると唇を強く噛みしめながら俯いていた。
 それ以上は口に出さないほうがいいのだろう。
 アイザックは話すのをやめ、しばらく沈黙が続いていた。そんな時、
「お兄ちゃーん」
 小さな木造式の建物から少女が出てきてアイザックと少年のいるところへ走ってくる。
「クレア、とまれっ!」
 少年はアイザックから飛び降りて、少女のもとに駆け寄ってアイザックを警戒するように木造の建物に二人は入っていく。おそらく昔はしっかりとしていた建物なのだろうが、今では雨風をしのぐだけしか出来なくなっている。
 まぁ、無事に送り届けたからいいか、とアイザックは踵を返そうとした時、
「おい、待てよ。そこのロボット野郎」
 少年は再び建物から出て、少し緊張した声を出す。
「なんですか?」
 その声にアイザックは足を止めた。
「なんで、あのとき俺を殺さなかったんだよ。普通なら、ロボットならすぐに殺すはずだろ?」
 少年はアイザックに尋ねる。
 少年が尋ねたくなるのもわかる。俺は他のロボットと違う行動とったんだから。
「逆になんで、私が殺すと思ったんですか?」
「ロボットは敵でも味方でも人間なら容赦なく何百人も殺す悪魔だって、昔、父さんに聞いたんだ。実際に友達も近くのおばさん達も……父さんも母さんもロボットの奴らに殺されちまった。俺たちはあいつから逃げて、逃げて、ここに。だから……」
 少年は言葉に詰まって、声を出せなかった。
 戦場にいるロボットってのは、基本的には人間を殺すためだけに作られた人形にしかすぎない。そんなことはここだけってことではなく、いろんな場所で同じようなことが起きてるのだから。
 ロボットは人間に恨まれても仕方がないのだろうな。悪魔なんて言葉はぴったりなのかもしれない。この子の場合なんかなおさらだ。私は親の仇と同類なんだから。
 アイザックは神経回路の中で自嘲しながら、感情のないロボットというものがグロデスクに、そしてロボットの存在に疑問さえ思ってしまった。
「私はまだあなたが死ぬのは早い、そうあの時、私は結論を出したからです」
 そうは言ったが、正直なところアイザックはその答えを出せていないままだった。ただもうあんな光景を見たくなかったのかもしれない。
「まったくわからない」
 少年は納得できない様子で、そしてアイザックを睨みつけながら、建物に戻る。

 さて、今日はどうするか。ここで休もうかな。
 アイザックに限らずロボットは太陽光エネルギーで動いている。もちろん、夜でも蓄電してエネルギーが残っていれば、しっかりと動けるのだが、この日のアイザックにはエネルギーはあまり残っていなかったのであまり動かずにこの村で休むことにした。
 しかしアイザックは別に人間のように寝るわけでもなく、案山子みたいに突っ立っていた。その近くの壁には「死苦」とうっすらと書かれていた。その前にも文字が書かれていたみたいだが風化していて読めなくなってしまった。アイザックはそれはどのような意味があるのかずっと考えていた。

 月が少し欠け静かな夜にどこからか叫び声が聞こえた。アイザックはどこからか来た音かを瞬時に判断する。すると先ほど少年がいた場所ではないかアイザックは思わず音の出どころに駆け出した。アイザックが勢いよく建物の中に入ると、
「金はどこだ、早く教えろ。ないなら食料でもいいぞ」
 汚らしく伸ばした髪と髭の男がいた。それはまさしく汚物の塊であった。汚物の塊、つまり浮浪者は飯ほしさにここを襲ったのだ。しかし、こういったことはここでは別に珍しいことでもなくよくあることなのだ。
「いやだ、いやだぁ」
 クレアはそう泣き叫んでいて少年はぼこぼこに殴られたのか目が腫れていた。そして唇を切っており少年は口から血が垂れていた。それを見たアイザックはなんだかわからない怒りに襲われて、その場で浮浪者に向かってハンドガンの撃鉄を落とそうとした時。机に不安定に乗っかっていた花瓶が落ちる。その割れた音を聞いて、何故か持っていたハンドガンがぶれてしまった。
「ロボット!? なんでこんなところにいるんだよ! 殺されちまう」
 そう言って浮浪者はアイザックのことを認識した瞬間、一目散に逃げてしまった。
 アイザックはそれを追いかけるわけでもなく、はぁ、と一息吐く。
 正直、殺せなくてなんだかほっとした気分だ。これ以上人間を殺すのは嫌だ。自分も感情のないあのロボットみたいになってしまう気がするから。
「大丈夫ですか?」
 アイザックは二人に尋ねる。
「大丈夫だよ。こういうのは慣れてるから、って、なんでお前がここにいるんだよ」
 少年はアイザックを見つめる。
 アイザックは一呼吸置いてから、
「なんでしょうね。でもあなた達が生きていてくれてよかったです」
「よくわかんないロボットだなぁ、お前。人間に生きていてほしいなんていうロボットなんて聞いたことないぞ」
「私がいますよ」
 そうアイザックが言葉を返す。
 するとクレアが近づいて来て、
「いいロボットさん、ありがとね」
 ぺこり、とクレアは頭を下げる。
「まぁ、ありがとな」
 少年も続いてアイザックに言った。
「あのさ、ずっと気になってたんだけど、なんで俺とコミュニケーションを取れるんだ? 実はその中に人間とかが入ってるんじゃないだろうな」
 少年は冗談まじりに言う。どこか警戒心が解けたように見えた。
「残念ながら私はロボットですよ」
 アイザックは笑いながら言った。
「お前の名前は?」
「アイザックです。あなたは?」
「エレールだよ。よろしく」

 エレールは朝早く起きて、料理をしていた。しかし、料理とはいっても、芋をつぶしてまるめたものとトウモロコシを軽く焼くぐらいなものであった。
 エレールはそれを大皿に乗せるとクレアは起こしに行く。
「料理ができたよ、起きて、クレア」
 両手で大きな石を二つ持ってかんかん、とクレアの耳に近づけて鳴らす。
「うーん」
 のそのそと起き上りながら、目蓋をこすりながら大皿の前に座る。
「アイザックもこっち来て食べなよ」
 そう言ってエレールは手をひらひらとさせる。
「いや、私は食べなくてもエネルギーを取ることが出来るので大丈夫です」
「そういうことじゃなくて昨日のお礼をしたいんだよ」
「しかし、」
「いいから、ここに座れよ」
 アイザックも大皿の前に座ることにした。
「では、今日も無事を祈って……」
 二人は手を合わせてぶつぶつとなにか言っている。
 二人は何をしているんだ?
 そうアイザックは疑問に思いつつも、手を合わせることにした。
「いただきます」
 二人はそう言って、勢いよく食べ物に手を伸ばしていく。
 アイザックはその食べる速さに驚いていると、
「ほら、食べないとすぐに無くなっちまうぞ」
 エレールはアイザックに芋を渡す。
「ありがとうございます」
 アイザックはそれを口に入れる。もちろんロボットなので味を感じることは残念ながらできないのだが、人間に認めてもらえたという嬉しさをアイザックは噛みしめることが出来た。
「残りは二人で食ってくれ」
 エレールはそう言って立ち上がる。
「どうしたんですか?」
「仕事だよ、壊れたロボットの金属片を集めて、軍の人達に渡せば食料が支給されるんだ」
 笑いながら言った後、エレールはAKを背中に担ぐ。
 その集めた金属片からまたロボットが生み出されることはエレールは知らないのだろう。
「お兄ちゃん、また行くの?」
 今にもクレアは泣きそうになりながら、言う。
「しょうがないだろ。ほら今日はアイザックもいるし、寂しくないだろ」
 エレールはクレアの頭を撫でてやる。
「戻ってくる?」
「大丈夫だよ」
 エレールは頷いて答える。
「いきなりですまないけど、ここを任せてもらってもいいか」
「大丈夫ですよ」
 アイザックは今日はなるべくゆっくりして、エネルギーを充電しようと思っていたので、その言葉に頷いた。
「じゃあ、頼むわ」
 エレールは建物から走って出て行った。

 なんでこんなことをしてるんだろう。目的はここの地質調査なのに。
「ねぇねぇ、つぎは何するー」
「まだ何かやるんですか?少し休憩しましょうよ」
「えーっ」
「少し休憩したらまたやりますから。それに雲行きもあやしくなって来ましたし」
「わかった」
 つまらなそうにしながらクレアは答える。
 これでは、エネルギーの充電どころではない。
 アイザックはクレアと一緒に鬼ごっこから始まって、かくれんぼ、だるまさんが転んだ、そしてまた鬼ごっこ、というのを何回もやらされていた。子どもは元気だとアイザックはしみじみと思う。
 アイザックが休憩している間、クレアは何か編み出した。
「何編んでるんですか?」
「ミサンガだよ。アイザックのも作ってあげるね」
 クレアは編む手を休めることなく言う。
「ありがとうございます」
 アイザックは人間にここまでしてもらったことがとても嬉しかったし、何だか人間に近づけたようにも思えた。
「ふふーん」
 クレアはミサンガを編むことに夢中になっていて、アイザックは暇になった。なのでふらっ、と外の空気を吸おうと思い外に出た時、
 頭の中でセンサーがアイザック達にとって最悪の音を鳴らす。
 それは三体のロボット達がアイザック達へと向かって来る。人間を見つけたら、確実に攻撃してくるだろう。つまりクレアが見つかってしまえば襲われるということだ。ロボットというのはそういう風にできているのだ。
 だが幸いなことに旧型のロボットで熱探知機センサーなどはついていなかった。要するに隠れていればロボットに気づかれることもないのだ。
 絶対にあの子を家から出してはいけない。
「絶対に家から出ちゃいけませんよ!!」
 アイザックは語気を強めて言う。
 それにクレアは何がなんだかわからない、といった顔しながら頷く。
 アイザックはロボット達にここはもう見た、と電波でメッセージを送る。
 それを受けてロボット達は踵を返して戻っていこうとしていく時、
「アイザックー出来たよー」
 子供にしかできない、あどけない笑顔をしながらクレアは建物から飛び出してしまった。
 あっ、飛び出したら。
 ロボット達はすぐに味方ではない人間と認識するといなや、銃口をクレアに向けて撃つ。見事に頭に二発、左胸に一発ずつ当たっていた。
 アイザックは突然の出来事にどうすることも出来なかった。
「クレア、大丈夫ですか」
 だがその声にクレアは反応せず、即死であった。
 あの時、アイザックはばれないだろう、と心のどこかで思っていた。
 自分がもっとしっかりしていれば……。
 アイザックは悔みながら、ロボット達を見ると何事もなかったように戻っていく。
 それを見て、やり場のないアイザックの怒りが爆発した。
 ロボット達に向けて、AKなどの小銃よりも威力のあるM203グレネードランチャーをぶっ放す。
 すると、そこら中が花火のように爆発して砂ぼこりが起こる。一体がこなごなになったが、他の二体は間一髪で近くの岩陰に逃れた。
 殺りそこねたか。
 そう思った瞬間、アイザックのセンサーがノイズやさっきまで認識していたはずの場所がたえまなく動いて、相手がどこにいるかわからなくなる。
 くそっ。
 異変を感じたアイザックも今にも崩れそうな廃墟ビルにもぐり込む。
 二体のロボット達は今のでアイザックのことを敵とみなした。
 その証拠にロボット達はアイザックにジャミングをかけている。
 アイザックの方も一回修正してから相手にかけ返す。アイザックは今相手がどこにいるのかわからない。それは相手も同じことで、おそらく次の先手が打てるかですべてが決まるだろう。双方、何度も情報を修正しながら相手の反応を待つが動かない。
 しばらく、硬直状態のままであったが、アイザックが相手よりも先に動いた。
 アイザックはハンドガンを外に放りなげてみると、相手はアイザックの予想通り、ハンドガン目掛けて撃ってきた。
 よし。
 撃つ時はさすがにジャミングをかけられない。なので、その隙にアイザックは銃弾の方向から敵がいる場所を見つけ、廃ビルから出てそのまま敵がいる場所まで一直線に走っていく。
 相手は馬鹿の一つ覚えみたいにアイザック目掛けて弾を放っていくが、こんなものはアイザックの想定内で、大きく跳躍してそれを避ける。そして相手に向けてM203を撃とうとした時にエレールの姿が見えた。アイザックと相手の性能にもずいぶん差があったのでアイザックはすぐに片づけられると楽観的に考えていた。
 こんなタイミングで……。あそこでは巻き添えもあるかもしれない……。
 アイザックは動揺して撃つのをためらってしまった。エレールが戻って来ていたのだ。一体がエレールに近づいていた。エレールも逃げるわけでもなく親の仇などの怒りからか無謀にも立ち向かっていく。また死なせたくない、と思いアイザックは急いで強烈なジャミングを与える。
 これならしばらく安全だ。
 アイザックがほっとするのも束の間で、アイザックは急いでジャミングしたためにもう一方を忘れていた。
 なんとか避けようとアイザックは身をよじるが弾頭を避けきれずに右腕がもぎとられてしまった。
 跳躍していたアイザックは地面に叩きつけられながら、いくつものエラーがアイザックの中で吐き出されていく。
 もう、だめかも。
 アイザックのほとんどの回路がエラーの状態になっていてまともに動かなかった。壊れても、それは今までの罰であってそれは仕方のないことだと、アイザックがそんなことを考えていた時、ふと思い出した。
 でも、まだエレールが……。
 もはや気持ちだけであった。左腕だけでM203を持ち上げる。
 気持ちのすべてを豪快にぶっ放してやった。
 薬莢が飛び出ていった時には、もう相手はこっぱみじんとなっていた。
 アイザックは危ないと思い、急いでエレールのもとに駆けつけるが、もう一体のロボットはラッキーなことにさっきのジャミングの影響でどこかおかしくなったのか自分がどこにいるのか認識できないまま壊れた人形のようにふらふらと遠くに行ってしまった。
 エレールはクレアの死体をぼんやりと見ながら、
「なんで、なんでだよ。俺なんかより強いだろ。守ってくれなかったんだよ」
 エレールは涙を流し続けながら、やり場のない感情をアイザックにぶつける。
「すいません」
 そう言ってアイザックは泣くという行為は出来なかったが、うつむいたまま心の中では泣いていた。
 その後しばらく長い沈黙が流れ、二人は時間が止まったようにも思えた。

 翌日、クレアに墓を作ってやってから、クレアが天国に行けるように二人は十字を切って祈った。
「このミサンガはクレアだと思って付けるからね」
 エレールはそう言って立ち上がる。
「ほら、これはアイザックの分だ」
 アイザックは驚いた表情をしながら受け取る。
「いいんですか?」
「これはアイザックのために作ったんだから、お前じゃないと意味が無いんだよ」
「分かりました」
 アイザックは右手にミサンガを付ける。
「これからどうするんだ?」
「えーと、どうしましょうかね。あんなことした後ではもう施設に戻れないですしね。それにさっきので命令系統も壊れたし、もう自由に行きたいところ行けるんで、とりあえずいろいろ世界を見てきますよ」
 アイザックは微笑みながら言う。
「俺も連れてってくれよ」
「それは、本気ですか?」
 その言葉は冗談ではないことがすぐにわかった。なぜならその青い目は真剣にアイザックを見ていたから。
「分かりました。でも理由だけ聞かせてください」
「一人は嫌なんだ。それに俺も他の世界を見てみたい」
 アイザックは朗らかな声を出して、
「私もです。では行きましょう」
 自由をつかんだ二人は時間を動かすために、見果てぬ場所を目指して砂漠を歩いていく。

 人里離れた森の中にぽつんと施設が建っている。そんな建物の一室には机とその上にタブレットとコンピュータが置かれていてその回りにはコンピュータとタブレットを繋がっている。後はたくさんのコードが散らばっているくらいでそれ以外には何にもない部屋。そこで二人はコンピュータのディスプレイを見ていた。
「で、これがコンピュータの夢なのか?」
 眉を潜めながら老人が尋ねる。
「信じられないでしょうが元々、夢は潜在意識です。その夢を人間と同じように見ていることからコンピュータが意識を持っていることは確かです。まぁ、こんなにつぎはぎの情報を構築して、まさかこんなストーリーを作るとは思いませんでしたが」
 白衣を着た研究員風の男は苦笑しながら答える。
「その物語は現在の平和な世の中じゃありえないな。それと質問だが、これは私達のことを認識しているのか?」
 老人は一度頬を緩ませてから、長い髭を触って興味ぶかくコンピュータを見つめる。
「いえ、眠ったままです。それに、夢といっても人間と同じように過去の記憶を混ぜた映像ではなく、今まで入って来た情報を混ぜたというもので正確には人間が見る夢とは別物なんですがね」
 机に手を置きながら白衣の男はその問いに答える。
「これが実用化されるのはいつ頃になるんだ」
 白衣の男は頭をぽりぽりとかいて、どこか答えにくそうに話す。
「あの、こいつが起きたらすぐに実用できるんですけど、起きるのはいつになるかわからないんですよ」
「そうか……」
 老人は残念そうに声を出す。
「まぁ、他にも案内しますよ」
 二人は扉を開けて部屋を出て行った。
 すると、周りの景色が変わり始める。この建物の周りにあった森は消え、砂漠に変わっていく。そして遠くから銃声が響く。
空想科学祭FINAL

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