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そして私は○○○○を手に入れた

作者:七草
なんか一話で綺麗に完結するお話書いてみたいなーと勢いだけで突っ走りました。
設定とか全く作りこまずに書きなぐり、ほとんど推敲してないので雑です。
5つのころまでは、この国の王妃になるのだと信じていた。
まわりもそう言っていたし、私はこの国の王子の婚約者だった。

それがいずれ終わる夢だと、唐突に気付いてしまったのだ。
私がここ数週間ずっと見続けている夢が、前世の私の人生だということ。

ここが前世の記憶の中の、とあるゲームに酷似していることに。
そして私がそのゲームの中の、6人いる攻略対象者の中の王子ルートのライバルキャラ、エルフェミア・アンスバード侯爵令嬢その人だったことに。

まぁお決まりの文句ない家柄の嫌みな令嬢、というわけではなかった。
ゲームの中の私は、高い身分と権力にふさわしい美貌と、知性と人徳を兼ね備えていた。

親が決めた婚約者の王子に恋をし、ヒロインに嫉妬して苦しんで、最後にはヒロインに涙と悲しみをぶつけた、ちょっと背伸びをした等身大の可愛い女の子だった。

メインの王子ルートのライバルキャラが普通にいい人ってどうなの?とか、実はいい顔してるけど裏ではえぐい策略とか練ってるんじゃ?とか、プレイしながらいろいろ邪推したけれど、少なくともゲームでうかがえる彼女は、貴族としての誇りと自分の恋心と、そして王子の幸せについて悩み苦しむ女の子だった。

王子と結ばれたラストシーンよりも、彼女との最後の対決イベントの方が涙したぐらいだ。
ヒロインと二人きり、彼女の心をそのまま映したような大雨の中、ドレスも髪もびしょぬれになりながらの彼女の慟哭。

『どうして!どうしてわたくしではなくて貴女なの!?なんで…なんで王子は…わたくしを、愛してはくださらなかったの…っ!!』

彼女の葛藤を垣間見た後での、あのシーンは本気で泣いた。あそこからの王子の隣に立つ覚悟、王妃になるということの覚悟を問われるシーンは鳥肌ものだった。
彼女にあれだけの覚悟で迫られ、そしてそれを乗り越えて王子を愛すると誓ったからこそ王子とのラストシーンの感動もひとしおだった。



そんな彼女に、私は生まれ変わったのだ。


「やばい…!!エルフェミアの知性と人徳を、私は体現できるかしら…?」

私が記憶を取り戻して、一番に思ったことがこれだった。
別に私の魂が前世の魂に乗っ取られたわけではない。ただ、純粋培養の幼い私にとって、前世の記憶が衝撃的すぎて影響を受けすぎたのだ。
悪い大人の行動ほど、小さい子供は真似したがる気がする。あの心理に近いと思う。そして決め手に、この世界がゲームに酷似していたことだ。
だって大好きな、もうお前が王子とくっつけよと何度も思った、あのエルフェミアが今の私なのだ。
ここがゲームの世界だとは思わないし、私はあのエルフェミアではないのだけれど、酷似しているのだ!私が!あのエルフェミアに!!
彼女を穢してはならない!
私は王子の婚約者として…違うな、未来の王妃として……いいえ、ゲームの中の彼女にふさわしく努力した。
美貌は両親から譲り受けている。手入れを欠かさず、体型維持に努めればいい。知性?あいにく私の頭はそれほど優秀ではないけれど、家に著名な家庭教師をたくさん呼んで、幼いころから徹底的に勉強し、教養を深めた。勉強なんて大っきらいだ!軽くノイローゼになりかけたわ!
問題は人格だが…私はそれほど自分が素晴らしい心根の持ち主だとは思っていないし、事実そうだろう。ゲームの中の彼女が聖人すぎた。
楽しみにしていたおやつをひとつ、父親に食べられた程度で3日は根に持つ器の小さな私は、人格者とはとても言い難い。
そこは仕方ないので、ひたすら淑女の仮面をかぶり、どんなに内心で怒り狂っていようと常に微笑みを浮かべ、むしゃくしゃしても激昂せず、理性的に冷静に対処するように訓練した。
偽善者でいいよ、偽善者で。それでも周りからは慕われ、尊敬され、愛されるのだから。
ここまで努力して誰もが認める国一番の令嬢、未来の王妃にふさわしいと謳われるようになった私は、改めてゲームのエルフェミアを尊敬した。
あのエルフェミアも私みたいに泣きながら勉強したり、ピアノやダンスのレッスンをしたのだろうか?もしかしたら私よりずっと出来がよかったのかもしれないが、それでもこれは辛いよ…。並大抵の努力じゃないからね!?
はっきり言おう。これだけ努力して王子にふさわしくあって、しかも恋心まで抱いていたのだ。
これを振ってヒロインを愛した王子の目は腐っていたのか?
これだけ可愛い彼女が努力して、素直に気持ちを伝え続け、幼いころから許嫁としてそばにいたのに心が動かなかったってどういうことなの?
そりゃあ彼女の取り巻きだって、陰で勝手にヒロインに嫌がらせするわ!すんごい取り巻きの気持ちがわかる。

まぁ、そんなエルフェミアに似た存在として、私は生まれ変わったのだ。
そしてここがゲームに酷似した世界なのだ。
もちろん私は王子の婚約者で、未来の王妃と目されている。中身が私でも、外面は完璧な人格者だ。同じ令嬢達はみんな私に憧れるし、社交界で一番の令嬢といわれている。
そして私は王子の傍で微笑んでいる。ずっとそうしてきた。
初めはただゲームの中の彼女を穢すものかと、なんとなくで目指していた完璧な令嬢、未来の王妃だった。
けれどここはゲームに似ているだけの、ちゃんと私達が生きている世界なのだ。私は高位の貴族の令嬢として生まれ、与えられた権力と地位に恥じないふるまいをしなくてはならないのだ。
それが貴族の誇りであり、私はこんな性格で性根だから、せめて外面と行いだけは、この国の民に恥じない人間でありたいと心から思ったのだ。


そして私が16歳のある日、目の前でその時間が終わりを告げた。




「シュリウス様…?」
「エル、すまない。…俺はお前を、最後まで愛することが出来なかった。俺は将来、王になる。きっと今以上に孤独になって行くのだろう。その時、せめて俺の隣に立つのは愛する女性であってほしいんだ。」

あぁ、このシーンすごーく知ってる。何回見たと思ってるんだ。セリフなんて全部空で言えるわ!
王子のそばにはヒロインがいる。血筋の確かでない、明るい笑顔と優しい心が取り柄の身分の低い令嬢。
ゲームと変わらず可愛いね。貴女も前世の記憶を持っているのかな?
まぁ、あんまり関係ないけれど。

私は持っていた扇をぐっと握りしめて、顔だけは努めて柔らかくほほ笑みながら告げた。

「まぁ…。殿下の御心は伺いましたわ。けれど彼女の心はどうでしょうか?わたくしと彼女を二人きりにしてくださいな。女同士でお話したいことがございますの。」

私の言葉を聞いて、ヒロインのそばにいた王子と、なぜか一緒にいたヒロインの逆ハーメンバー達が出て行って、その場には私とヒロイン二人だけになる。
ヒロインは、私に何を言われるかわからないからか、ちょっと肩を強張らせている。
この辺はゲーム通りだね。場所が違うし、大雨も降ってないけれど。
私はぱんっと扇をたたみ、微笑みを消して彼女に向き合った。

「貴女と直接会話するのは、これが初めて…かしら?」

我ながら静かな威圧感がすごいなぁ…。

「は、はい…。」
「まずはわたくしの派閥の者たちが、貴女に対して嫌がらせをしていたことを謝らせてちょうだい。派閥の者たちがした仕打ちはわたくしの指図ではなかったのだけれど、そう取られても仕方がないことをしたと思っているわ。辛かったでしょう。」

言葉に謝罪の意を込めながら、しかし頭は決して下げない。この辺が、身分ってめんどくさいなぁと日本人的な感覚の強い私は思うのだが、そういう社会でそういう文化なのだから仕方がない。私は自分より低い身分の人に、頭を下げちゃだめなんだから。せめて、気持ちだけはいっぱい込めといた。伝わるといいんだけど…。
ヒロインは私から謝罪がもらえると思ってなかったのか、ちょっとびっくりしたような顔をしている。

「い、いえ!エルフェミア様がなさったことだとは思っていません。」
「そう言ってもらえると有難いわ。…そして本題なのだけれど。貴女は本当に殿下を愛してらっしゃるの?」
「…はい。心からお慕いしております。」

私は少しその言葉を吟味するような間をおいて、問いかける。

「口だけならばなんとでも言えるけれど、はたしてそれは本当かしら?」
「ほ、本当です…!!」
「貴女、ずいぶんと殿方に慕われているようじゃない?それも令嬢達の憧れの貴公子ばかりが、貴女に夢中になっている。先ほども何故か少し離れた場所で事の成り行きを見守っていましたわね。」

まぁ、ヒロインが攻略対象に好かれるのはゲームとしては自然の摂理なんだけど、現実的にはなかなかシュールだ。国で一番を争うような人気の貴公子6人が、みんな一人の女性に夢中になっているのだから。

「中にはわたくしの弟、次期アンスバード侯爵もいたのだけれど御存じ?姉のわたくしが言うのもなんだけれど、弟は性格も容姿も身分も、殿下に劣らない素晴らしい貴公子だと思うわ。そして一途に貴女を想っている。…わたくしの弟は振られてしまったのかしら?」

っていうか振られたのは知ってる。ある時、弟がびっくりするほど落ち込んでいたから、大変心配したのだ。私に似ず、出来た自慢の弟なのだから。
そしてさっきはスルーしたけれど、さりげなくさっきの逆ハーメンバーのなかに弟の姿もあった。あいつ何しに来たのさ?
ヒロインを心配してきたのか、私を案じてきたのかどっちだ…?弟よ…答えによってはお姉ちゃん、静かに怒る準備があるぜ?

「エルフェミア様の弟君…アル……いえ、アルフェルド様には申し訳ありませんが、私がお慕いしているのはシュリウス殿下です。
確かに分不相応にも、私は何人かの人たちからお心をいただきました。ですがすべて丁重にお返しいたしました。私が心を捧げるのはシュリウス様だけです。先ほどは…皆様があまりにも心配だとおっしゃって、一緒にいて下さいました。」

あらやだアルフェルドったら、将来自分の妻になる女性にだけ許す愛称をヒロインに許していたんだ。本気だったんだな…。
うーん、今のところは王子だけって感じだけど、他の攻略者の好感度もあげてるみたいだし、いまいち内心がわからないなぁ…。試してみようかな?
私は、ゲームとは違った言葉を紡ぎ出す。

「実を言えば…わたくしは殿下を愛しているわけではありませんの。」
「え…?だってあんなに…」
「何かしら?」
「シュリウス様を優しそうなまなざしで見つめていました。隣に立つのは自分だと、そうおっしゃるようなたたずまいでした。」

ゲームの中では愛してるって言ってたじゃん、とか言ったらぶっ飛ばしてるところだった。

「もちろん。隣に立つのに、わたくしほどふさわしい立場の人間は他にいないと思っています。わたくしはその様に生まれ、立場にふさわしく振舞っていましたもの。
殿下のことは愛してはおりませんでしたが、一人の人間として慕っておりました。
この方の妻となり、この方を支え、共に人生を歩み、叶うことならばその御心に巣くった忌まわしい闇を、祓って差し上げることが出来ればいいと願いましたが、わたくしではそれは叶いませんでした。」

ゲームのエルフェミアが無理だったのに、なんちゃってエルフェミアの私がなんとかできるわけないじゃんか。身分と権力とエルフェミア自身のスペックでたいていの問題は簡単に解決できるんだからな!
私だって、出来ればちょっとでも心の闇を取り除いてあげたいとは思っていたのだ。愛してなくても、幼馴染で婚約者だ。ゲームでは一番好きなキャラだったし。
攻略者達の心の闇を祓うのはヒロインしか出来なかったのだ。

「殿下やわたくしの弟にしたように、他の方々の抱える心の闇も解いて差し上げたのでしょう?それは素晴らしいことだと思いますわ。けれど、わたくしには貴女が、とても移り気な心の持ち主に見えてしまいますわ。」

だってそれルートを攻略してるんだからな。そりゃあ好感度も上がるよ。そして逆ハーレムの出来上がりですね。

「令嬢憧れの貴公子達を侍らせて、楽しかったかしら?」

エルフェミアならこんな言い方はしないだろう。ぶっちゃけ私、今悪役っぽい。ヒロインも泣きそうだし。

「ち、違いますっ!私はただ、彼らの心の救いたかっただけ!それ以上のことなんて何もしてません!私は彼らに思わせぶりなことを言ったり、接触したりはしませんでした。むしろ避けるように行動していたのに…。」

それはそれで奴らは泣くぞ…。

「まぁ、たいそうな志をおもちのようですわね。それで聖女の様な貴女は、殿下の心も善意で救って差し上げたと?」
「いいえ…シュリウス様だけは……私に慕ってほしいと願う下心がありました…。」

おっと、ヒロインのセリフとは大きくそれたな?こんなセリフはなかったはずだ。
ヒロインは、うるんだ眼を隠すように俯いた。それは逆に涙が落ちないか?

「私は…幼いころからシュリウス様や、他の方々が心に闇を抱えることになると…なんとなく、わかってたんです…。だから、傲慢な考えかもしれませんが、もしそれが事前に防げるならば…あるいは少しでも、その負担を軽くして差し上げられるのなら、何とかしたいと思っただけなんです…。」

おや、この言い方をみるに…この子私と同じ前世の記憶持ちか!はたから見れば何言ってんのってなるけど、同じく前世の記憶を持つ私には彼女の言いたいことがわかる。
しかも私と同じように、少しでも心の闇を、しかも全員分何とかしたいとあれこれやった結果、逆ハーのような状況になってしまったと。
けど本人的には、王子が好きだったと。だから他のルートは極力避けてたはずなのになぜこうなったし、って感じでいいのかな…?

「けれどそれを、証明する手立てはございませんわね。」
「…はい。…私には信じて下さいと言うことしかできません。」

そしてぼちぼち不味いな。段々揚げ足取りでいじめっ子な、私の地がではじめてきた…。

いっかーん!私はエルフェミアなんだ!こんなありがちな意地悪ライバルキャラみたいなのはいかんよ!

「そうですの…。ならばわたくしが貴女に問うのはひとつだけ。王妃になる覚悟ですわ。」

この辺で軌道修正しとこう。主に私の思考回路を。

「王妃になる…覚悟…?」

ヒロインが私をハッと顔を上げた。

「えぇ、シュリウス様は次期国王。そして殿下と心を交わしたというならば、貴女は未来の王妃となるのです。
正直申し上げて、並大抵の努力ではだれも納得しないでしょうね。なぜならば、既に王妃と目されている、わたくしがいるのですから。」
「…………っ!!」

まぁ外面はともかく、中身はこれだけどね。
ヒロインは両手を、胸の前でぐっと拳を握るように抱きしめて、私を

「私は…自分が王妃になるなんて夢にも思っていませんでした。この世界に生を受け、両親に愛され、ただ当たり前の幸せを手に入れて暮らしていけるだけでよかったんです。けれど…シュリウス様に出逢い、一人の男性として生きて、悩み苦しみ前を向いて孤独を抱え込んでは笑う優しいあの方に惹かれ、この方に愛されたいと欲が出ました。そしてシュリウス様が私の心を受け取ってくださり、共に人生を歩もうとおっしゃってくださった時、私は誓ったのです。生涯この方を愛して、生涯そばにいて、味方でいてあげたいと。」

私の目をまっすぐ見つめて言いきった。
そもそも、はじめは王子ルートに行く気すらなかったらしい。
彼女の前世は、あまり幸せではなかったのだろうか?長い時間を生きることは出来なかったんだろうか?どちらにせよ、彼女が今生きて、ヒロインとしてではなく一人の女性として私に向き合っていることがうれしかった。

「そう…。それが貴女の覚悟ですか…。はっきり言って、今はまだ王妃としてはふさわしくありませんわ。ですが、貴女がその愛を貫く覚悟があるならば…。」

私は一度言葉を区切り、見えないように扇の下で深呼吸する。

「わたくしは見届けさせていただきますわ。貴女と殿下が、愛を貫いてゆけるかどうか。貴女が王妃として、この国の母として、殿下の隣にふさわしいかを常に見定め続けます。貴女はその態度で持ってわたくしに証明なさい。」

私は勝気な微笑みで、挑むように笑って言った。
いったい私は何様なのだ。侯爵令嬢様なんだよな…。めちゃくちゃ上から目線だなぁ。実際、身分や立場は今は私の方が上だから間違ってないのがまた…。
彼女は私の言葉と、その表情を噛みしめるように見つめて、そしてその頬を薔薇色に染めた。

「は、はい!ありがとうございます!私、きっと、きっとエルフェミア様に納得していただけるような、エルフェミア様のような素晴らしい令嬢になります!」

私のようにはならない方がいいけどね…。私かなり必死で外面作ってるだけだから。
私が微笑んだままそんなことを考えていると、ヒロインが泣きだした。

「ひっく、あ、あの…わ、私絶対に認めていただけないと思っていました。……エルフェミア様は本当に、シュリウス様を愛しておられないんですか…?」

信じないなー…。まだちょっとゲームの中のエルフェミアのことを考えているのか、私の卓越した演技がそう思わせてるのかどっちだろう?
私はハンカチを差し出しながら答える。

「淑女がそんなにぼろぼろと号泣してはいけませんわ。泣くならば、もっと美しくお泣きなさいな。
わたくしが殿下を愛していないのは事実です。人として、友として、人の上に立つ者としてなら尊敬し、好意を持っていますけれどね。……わたくしが自分に課した王妃の覚悟とは、私を滅することです。」

彼女は私のハンカチを受け取ってごしごしと涙を拭った。あーそんな強くこすったらだめだよ。

「私を滅する…?」
「血筋や家柄、美貌や教養なんて箔付けと、貴族を黙らせるための武器にすぎませんわ。あった方がよいとは思いますが、なくたって別にいいのです。死ぬほど努力すれば、後からいくらでも補えるものですもの。幸い私は全てに恵まれて、周囲に望まれ、王妃としてふさわしい努力もしました。だから私は王妃として一生を終え、死ぬ覚悟をしました。己の心を殺して、公につくし、国の母として、皆の手本としてあるようにと、自分に言い聞かせ続けてきました。」

滅私奉公、なんて崇高な精神を私は持ち合わせていないけれど、私はこの世界が、この国がすきなのだ。私の中身はこんな感じだ。私が私らしく振舞ったら、王妃じゃなくなっちゃう。だから自分の感情を殺して、この国にふさわしい王妃でいようと思ってたんだ。
ヒロインがただ王子にちやほやと愛されたいだけの人間だったならば、王妃の座を譲ることなんてしないと決めていたんだ。
だから彼女が、ヒロインのセリフをそのままなぞるだけの女の子じゃなくてよかった。

「貴女がわたくしのようになる必要などありませんわ。貴女は貴女らしく、貴女の理想の王妃を目指せばいいのです。ふさわしくないと思ったら容赦なく蹴落として差し上げますから安心なさいな?さぁ、殿下たちのもとに戻りましょうか。」

私の茶目っ気をたっぷり含んだ挑発的な言葉に、小さく見せた笑顔は、ヒロインとは違った一人の女の子の姿だった。
ヒロインはこんな風に、泣きそうな顔でくしゃりと笑ったりはしなかった。いつだって太陽のように笑う女の子のはずだ。けれど、これでいい。貴女という人間がちゃんといて、貴女という人間がが王子を愛したということなのだから。



王子たちの待つ隣へ向かうと、ワッと出迎えられた。…彼女が逆ハーメンバーに。
涙の痕の残る彼女の表情にみんな一瞬私を見たが、彼女の憑き物が取れたような朗らかな笑顔と、手に握られている私のハンカチを見てなんとなく察したらしい。

「お待たせいたしましたわ。彼女とのお話は終わりました。殿下との婚約は、わたくしの方から破棄させていただきますわね。」

振られたなんて冗談じゃない、私が振ってやったんだという対外的な意思表示だ。私は別にどっちでもいいのだけれど。
王子が彼女の肩を抱きながら、私に向き直って告げた。

「すまない。感謝する、エル。」
「今後はわたくしのことはエルフェミアとお呼びください。わたくしこのまま屋敷に戻りますわ。それでは御機嫌よう。」

私は優雅にお辞儀をして、彼らを置き去りに一人ですたすたと出て行った。





私が廊下を歩いていると、背後から声がかけられた。

「お待ちください。エルフェミア様おひとりでは危険です。殿下の許可はいただいてきました。私がお供いたします。」

振り向くと、銀髪の騎士がいた。殿下が一番心を許している側近、そして私とも幼いころからの付き合いのリズエンドだ。

「そうですわね…。途中で誰か騎士を捕まえようと思っていたから、ちょうどよかったですわ。お願いいたします。ですが、せっかくリズエンド様が送ってくださるというのならば、ちょっと寄り道いたしましょうか。」

私が近くの扉をちらりと見ると、リズエンドはそこに私をエスコートした。
リズエンドが扉を閉めると、私は彼にくるりと向き直り、芝居がかった口調で笑って告げた。

「さぁ、エディ!私は婚約を破棄したわよ!正確には今から伝えに帰るところだけど、そんなことは些細な問題!私は自由の身になったのよ。
……明日から社交界はこの話題で持ちきりでしょうね。私はますます注目されるでしょう!これ以上の注目なんて、されたくもないわね!」
「……エルフェミア様、本当によかったのですか?今ならまだ貴女は婚約者のままです。すべての令嬢が憧れる、女性の頂点に君臨できるのに…。私は貴女こそ、王妃として殿下の隣に立つのがふさわしいと思っていたのに…っ!!貴女だって本当は、殿下のことをお好きだったのではないのですか!?」

リズエンドは絞り出すような声で、私に婚約破棄を取り下げろと言った。
私はそんな彼を、慈しむようなまなざしで見つめる。

「まぁエディ、そんな怖い顔をしないでよ。彼女も疑っていたけど、私は本当に殿下のことは愛していなかったの。王妃として共にこの国を守る戦友のような覚悟ならばあったけれどね?」

くすくすと笑いながら、リズエンドに語りかける。

「私は王妃の地位に固執していないの。ただその地位に立つのは覚悟ある人間じゃなきゃいやだから、今まで私がなろうとしていただけ。この人なら素敵な王妃になって、立派に国を守ってくれると思える人なら、誰が王妃になっても構わないのよ、私は。」

だから殿下が選んだ彼女が、素敵な王妃様になってくれるなら私は喜んで婚約を解消するんだよ、というとリズエンドは理解できないという表情だ。
私はそんな彼がおかしくて、彼のもとに歩み寄り、両手で彼のほほを優しく包み込む。

「エディ、二人きりの時はその話し方やめてって、何度言えばわかってくれるの?貴方の方が私より5つも年上でしょ?」
「ち、近い、近いです!離れて下さい!」
「エルと呼んで。あと敬語やめて。」
「それは殿下にだけ許してた愛称だろ!?いいから早く離れて下さい!」
「…エル。敬語!」
「わ、わかった。わかったから離れろエル!…はぁ、なんでお前は俺に対してだけ態度が違うんだ…。」
「あら、光栄に思ってほしいんだけど、私が地の姿をさらけ出すのは、貴方と二人きりの時だけなんだから。」

リズエンドは私の肩を掴み、やんわりと私を引き離す。

「なぁ、エル。俺にくらい本当のことを言ってもいいんだぞ…?辛いなら辛いと、悔しいなら悔しいと言っていいんだ。お前はいつも、感情を全部飲みこんで微笑んでいるから…。今ならお前が殿下のどんな悪口言っても、全部俺の胸にしまってやるから。」

リズエンドの声には、いたわるような響きがある。私はそんなリズエンドに、ちょっと笑いながら、内緒話をするように囁きかける。

「ねぇエディ…。私、今まで誰にも言わないで、ずっと秘めてきたことがあるの…。」
「あぁ…。」
「でも、私の役目は全部終わったから、今なら言っても許されるわよね…。」

声が震えてきた。緊張で手も、じんわり汗ばんできた。
リズエンドは黙って私を見つめている。

「言えばいい。ここには俺とお前だけだ。」

私は大きく息を吸って、ありったけの想いを込めて言う。



「愛しているわ、エディ。私と結婚して下さい!」



「……は?」


普段はきりっとしてるリズエンドが、ぽかんと口を開けて目を見開くと、ちょっと間抜けに見える。
そんなところも可愛い。

「は?え?……ちょ、ちょっと待ってくれ。」
「ええ、もちろん待つわ。でも私が行き遅れる前には返事をちょうだいね?」
「違う!そうじゃない!」

国一番の騎士が、見てて面白いくらいパニック起こしてる。部下に見せてやりたい。いいえやっぱ駄目だ。こんな彼を、他の人になんか見せてあげない。

「おい、殿下に振られて自暴自棄になっているのか!?落ち着け!!お前ならいくらでも求婚者がいるだろう?自棄になるんじゃない!」

私の肩を掴んでがくがく揺さぶる。やめてーぐるぐるする!

「別に振られたわけではないんだけど…。私はずっと昔から貴方のことが好きだったのだから、他の求婚者なんていらないわ。」

今、必死で情報を処理しようとしているのだろう。私の肩を掴んで詰め寄ったまんまだ。私は距離が近くてうれしい。彼が平静を取り戻すまでこの距離を堪能しよう。

「……いつからだ?」
「何が?」
「その…俺のことを…す、好いて、いたのはいつからだっ!」
「殿下と一緒にいたところを暗殺者に襲われて、貴方に助けてもらったときからだから、殿下が7歳で私が6歳のころね…約10年の片想いになるわね。」

我ながら、なかなか年季の入った片想いだと思う。

ゲームのエルフェミアを目指すべくたくさん努力したけれど、なかなか結果が出なくて、くじけそうになりながらも、誰にもそれを打ち明けることが出来なかった時だった。
自分のふがいなさと、上手くいかない苛立ちと、将来自分が王妃になるのかならないのかについて悩んでいた時だった。
王子との定期的なお茶会の最中、暗殺者が送り込まれてきたのだ。王子と二人、震えることしかできなかった私を助けてくれたのが、行儀見習いのための見習い騎士で、王子とも親しかった為、お目付役としてそばにいたリズエンドだった。
リズエンドが、応援の騎士が到着するまで一人で私達を守り抜いたのだ。当時のリズエンドは11歳だった。ぼろぼろになっていっぱい傷を作りながら、それでも私達を背にかばい、守ってくれた。
そして私は後日、お見舞いに行ったときに彼に尋ねたのだ。「貴方は本当の騎士じゃなかったし、貴方も守られるべき公爵家の人間だ。どうして私達をかばって剣を取ったの?」と。
彼はちょっと考える様にして言ったのだ。「レディと王を守るのが騎士の仕事だ。俺の目の前には小さなレディと未来の王様がいた。本物じゃなくても、俺は騎士だから。これは騎士の義務じゃなくて騎士の誇りだから、その誇りを偽りたくはなかった。」と笑って言った。

本物じゃなくてもいいから、自分の誇りだけは偽るな。

この言葉に私は衝撃を受けたのだ。そして私は心から完璧な、素晴らしい令嬢でなくても良いのだと思えたのだ。
外面だけのハリボテの令嬢でいい。ただ私が演じる令嬢としての誇りが偽りでなければ、いいのだと。

「あの言葉があったから、私は心から素晴らしい立派な令嬢にならなくてもいいのだと、心が軽くなりました。ただ見せかけと、振る舞いだけが素晴らしい。まるで絵に描いたような立派な令嬢のように偽って、でも志と誇りだけは本物であればよいと。
そしてその言葉を体現した貴方に惹かれたんです。そこからは貴方をずっと見ていたわ。貴方の前でだけは、偽ることのない自分を見せた。貴方はそれを、笑って受け入れてくれた。偽りの立派な仮面を脱ぎ捨てた、欠点だらけの私に失望しないでいてくれた。」

お前かなり猫かぶってたんだな、けど素のお前の方が俺は話しやすいよ、と笑いながら私に告げたリズエンドに、惚れないなんて嘘だ。
これが私の恋のはじまりですわ、と告げるとリズエンドは真っ赤になっていた。

「そんなこと、俺は一度も聞いたことなかったぞ…っ!!」
「当たり前じゃない!一度も想いを伝えたことなんかなかったし、伝えようとも思わなかったもの。」

リズエンドは怪訝な顔をした。

「なぜ…言わなかった?」
「言ってどうなるのよ。私は王妃になる予定だったし、認めた女性以外には王妃を譲る気なかったわ。だから王妃になるならば、貴方への想いは封印してしまおうと思っていたの。」
「……………。」
「王の腹心に心を寄せる王妃?そんなものが許されるのはお芝居の中だけよ。私が王妃になるのならば自分の恋心を殺す。それが私の覚悟だったのだから。」

義務でも強制されたわけでもなかったけれど、それでも私は王妃となるべき身分と立場で不自由なく暮らしてきた。だから貴族の誇りとして、己の心を捨てて国と民のために優れた王妃になること、が私のすべきことだと思っていたし、それを悲しいなんて思っていなかった。

けれど、そのしがらみは終わったのだ。王子との婚約も解消し、私は王妃ではなくなる。
そんな日が訪れることがあるならばその時は、と願っていたのだ。
もし、ヒロインが心から王子を愛し、王妃となるべき覚悟を持って王子の手を取るというのなら。

私も心に偽ることなく、この愛を伝えたいと。

リズエンドは何か考え込んでいる様子なので、私は話を切り替えるべく、すらすらと話す。

「そういえばずっと疑問だったのだけれど…。エディ、貴方なんで家名を捨てたの?公爵家の嫡男だったのに…。殿下の騎士になるのに、家名を捨てる必要なんてなかったはずじゃない?」

リズエンドは気まずそうに視線をそらしながら、ぼそりと答えた。

「家督を継いだら、結婚をしなければならないから…。俺は誰とも結婚するつもりがなかったからな…。」
「え?ど、どうしよう…!わ、私と結婚してもらうには家名を取り戻してもらわないと…たぶん私の家が許さないと思うわ…。」

安易に家名を捨てて、さりげなくいっぱいいた、彼に想いを寄せていた令嬢達が、縁談を持ち込めない状況になったことにちょっと安堵をおぼえていたのに!
まさか自分が求婚する際になってこんな障害になるなんて思ってもみなかった!!

私があわあわしていると、ようやく平静を取り戻してきたらしいリズエンドが、肩から手を離し少し下がった。ちっ。

「俺はな…。好きな令嬢がいたんだがそいつとは縁がなくてな。」

リズエンドの言葉で私は真っ青になった。
好きな人いたの!?そんなそぶりなかったじゃない!
真っ青な表情で口をぱくぱくとさせている私に、リズエンドはまぁ聞け、と続きを話す。

「そいつには俺より、ずっとふさわしい地位と人格の相手がいたからな。そいつもまんざらではなさそうだったので、俺はそいつの幸せを願ってそっと身を引いた。俺は騎士だ。そいつが誰かに泣かされていたら、そいつを守る大義名分なんていくらでも作れる。」

そうだね…淑女の涙を拭うのは騎士の役目だ…。彼が涙を拭いたいと願った令嬢はどいつだよ!彼から令嬢を取り上げた相手って誰だ!リズエンドは公爵家の嫡男なのに彼より立派な身分なんて数えるほどしかいないぞ!

「だがそいつは強情な奴でな、意地っ張りで怒りっぽくて、意外と小心者で心配性なくせに強引な性格の、口の悪い女でな。」
「…どこがよかったんですその令嬢。めんどくさそうな人ですね。容姿が特上だったのですか?」

その令嬢と、器の小ささなら張り合える気がするわ…。
悪口のような惚気話に、ちょっとむっとしながら言い返すと、リズエンドは笑って答えた。

「外面のいい、見た目は完璧な令嬢だったんだよ。一生懸命微笑みの仮面をかぶって、立派にふるまって自分の感情を殺している。涙のひとつも見せやしない。誰にも本心を見せたりしない。」

ん…?なんか話しの方向性が変わった…?

「そのくせ、俺にだけ欠点だらけの本当の姿をさらけだして、感情豊かにくるくると表情を変えるんだ。怒ったり憤慨したり、爆笑したりめんどくさがったり、俺に八つ当たりしてはへこんだり、苛々と立腹して不満げな顔をしたりな。涙は絶対見せないくせにな。」

それ、ほぼ怒ってばっかりじゃないか…。

「そんなお前の涙を、拭ってやりたいと思ったんだ。自分を律して、人に見せないたくさんの努力をして、誇り高く微笑んでいる。そんなお前に惚れないなんて無理だろう?」
「わ、私…?」

大変だ…!今、口をぱくぱくと開閉させ、真っ赤になっている私は淑女失格だろう。親譲りの美貌でごまかせないくらい、ばか丸出しになっているかも知れない。
そんな私を見つめるリズエンドのまなざしには、私のうぬぼれでなければ、私への愛情が募っているように感じる。

「お前には王妃の地位がふさわしいと思っていたから俺は勝手に身を引いてしまった。殿下がエル以外の令嬢を見初めたことが腹立たしくもあり、エルの本当の魅力を知っているのが俺だけなことを喜ぶ自分もいる。…愛する女性に求婚させるなんて、男として失格だな。」

自嘲するように笑って、私の手を取り、目の前に跪く。

「まずは家名を取り戻す。そうしたら、私、リズエンド・フィシュレイと結婚していただけますか?」

嬉しくて、感極まって、涙が零れた。
私はこみ上げてくる喜びを、涙まみれの満面の笑みで伝えながら答える。きっと私の顔は今、酷いことになってるだろう。

「よろしくてよ。わたくしエルフェミア・アンスバードは、貴方様の求婚をお受けいたしますわ!」

そのままリズエンドに飛びついた。
私を抱きとめたリズエンドの腕の中で、いたずらを話す子供のようにリズエンドに告げる。

「実は我が家には、妻となる女性、夫となる男性にだけ愛称で呼ぶことを許す風習があります。だから、私をエルと呼ぶのは世界で貴方ただ一人よ。」
「……おい。お前昔から二人きりの時はずっと、俺のことをエディと呼んでいたな…?」
「リズは女みたいでいやだと言ったからエディと呼んだの。そして私は殿下を、一度も愛称で呼んだことはないのよ?」

二人で顔を見合わせて笑いあう。リズエンドは私のぼろぼろと零れる涙を優しい口づけで何度も拭い。そして私は雨のように振ってくる口づけを受け入れた。

ゲームの中のエルフェミア。私は貴女のようにはなれなかったわ。
王妃にも、立派な淑女にもなれはしなかった。

けれどこれでいいのかもしれない。



だって私は、ハッピーエンドを手に入れたのだから!

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