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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

孫馬鹿な七代目

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東支部

 ベイムでの初日は、案内人と共に観光をおこなった。

 よく使用すると思われる店が並ぶ場所、そしてベイムで人気のあるお店などを教えて貰ったのだが、立ち寄ってはいけない場所も教えて貰った。

 もっとも、丸一日で全てを回れる訳がない。

 基本的に冒険者として、ギルド、武具関係、飲食店、宿屋、そして不動産屋を紹介されたくらいだ。

 ベイムにいる間を、宿屋でそれなりの場所で過ごすと大変だ。

 出費がとんでもない事になる。

 ソロ、もしくは少数か、一回の報酬が破格という冒険者パーティーでなければ、とても宿屋生活などできはしない。

 傭兵団規模になれば、ベイムの中に拠点を持っている場合もあった。

 色々な事情があるために、一概には言えないがベイムをホームにして長期滞在の場合は宿屋では出費がかさむのである。

 大金を稼いだとしても、装備の手入れに更新、そして日々の出費と積み重なってします。

 冒険者とて、歳を取って引退する。

 その時のために貯金は必要だ。

 つまり、不動産屋は冒険者にとって必要である。

 八人でベイムの【東支部】に向かう俺たちは、朝早くから忙しそうに動き回るベイムの住人を見て少し驚いていた。

 セントラルも人は多く、それでいて忙しそうな印象だった。ベイムと比べると、落ち着いた印象を今なら持てる。

 アラムサースも同じだが、向こうは学術都市で朝は学園に向かう生徒たちが多かった。

 ダリオンは規模も小さく、活気はあったがベイムと比べるとやはり違いがハッキリしている。

 ギルドへと向かう冒険者たちの姿も多く、東側のギルドは派遣型で冒険者が少ないと聞いていたがそうでもないのか? などと思っていると……。

「ねぁ、あそこの集団なんだけど」

 アリアが声をかけてきたので、全員がアリアの視線の先を見る。

 装備の整った一団が、ギルドを目指していた。

 持っている武器、そして歩き方などを見るにどうにもただの冒険者ではない。軽装が多い冒険者にあって、金属製の武具を使用している。

 アリアが。

「物々しいわね。傭兵団かしら?」

 連れているのは二十名前後で、その後ろにはサポートの人員も付き従っていた。

 規模の小さな傭兵団、という考えも確かにできる。

 だが、宝玉の中から声を出したのは、五代目である。

『どこかの騎士だな。バンセイム以外だろうが、騎士を冒険者にしている国でもあるのか?』

 疑問を持っているのは、五代目だけではない。

 四代目も。

『確かに不自然だね。もっとも、バンセイムの方針と違う国もあるから、なんとも言えないんだけど』

 バンセイムでは、騎士が冒険者になる例はあまり好まれない。

 どうしても悪いイメージがついてしまうためだ。

 すると、ミランダが俺の肩を指で叩く。

 振り返ると、欠伸をしていた背の高い女性が同じようにギルドを目指しているようだった。

 ただ、その女性の周囲を冒険者たちは避けている。

「なんか、さっきから目につく冒険者たちが凄いわね。他だと一流とか言われるような冒険者たちが、ベイムではゴロゴロしているのね」

 ミランダはそう言って周囲を見ているが、確かに実力のある冒険者は多かった。

 雰囲気が違う冒険者が、それなりにいるのだ。

 近くを歩いているクラーラは、大きな杖が周囲の通行人に当たらないように注意して歩いている。

 地面が綺麗に揃えられた石畳であるのもあって、金属のこすれる音に多くの人が地面を踏みしめる音で声が聞き取りにくい。

「多くの冒険者がいますから、そう見えるのかも知れません。そういった冒険者たちがいるので、ベイムには依頼が集まるとも言われていますね」

 依頼が集まるから冒険者が集まるのか、冒険者がいるから依頼が集まるのか……そんな事を考えていると、目の前で何か騒ぎがあった。

 騒いでいる冒険者たちを見ると、周囲はそこを避けてギルドを目指している。

 一方は若い冒険者に成り立てのような集団で、もう一方は髭を生やした三十代くらいの冒険者が率いる集団だった。

 髭を生やし、何とも悪人面をした冒険者がからんでいるのかと思えば――。

「ぶつかっておいて悪い、の一言か! 俺たちがベイムに来たばかりだからって、舐めてんじゃねーぞ!」

 大剣を背負った冒険者は、上はタンクトップ一枚だけ。だが、下半身は腰回りに金属の鎧に、ブーツには金属の足甲が付けられていた。

 アンバランスな恰好をしているが、付き従っている若い連中は普通というか……まともな装備を持っていなかった。

 どこかで見たことがあると思えば、ベイム到着時に騒いでいた冒険者たちである。

 小麦色の健康的な肌をしており、筋肉もあって強そうだった。だが、絡んでいる相手の悪人面の冒険者は辟易していた。

 装備は使い込まれているが、手入れがされているように見える。

 何よりも、絡んでいる若者よりも太い腕――鍛えられた体をしており、更には連れている仲間もそれ相応の装備をした冒険者たちだったのだ。

「……なんだ、この状況」

 俺が逆に凄いと思っていると、それを見たシャノンが鼻で笑う。

「あいつら、戦ったら秒殺されるわよ」

 エヴァが、シャノンに確認する。

「え? あの大剣を背負った方が強いの? ちょっと見てみたいわね」

 すると、ノウェムが首を横に振るのだった。

「逆です。一瞬で倒されてしまいます。大剣を持っている方はある程度はできそうなのですが……お仲間が」

 装備からして全然違うのだ。

 どうしてそんな状況で絡んでいけるのかと、不思議でしかなかった。

 髭面の冒険者が、謝罪をする。

「悪かったよ。こっちも余所見をしていたからな。ちゃんと謝るから、もう行って良いか? お前らもギルドに用事があるだろう?」

 本当に嫌そうにしている。

 面子だとか、そんなものがどうだとか言わない理由は、すぐに理解出来た。

 周囲の冒険者たちが。

「朝から威勢が良いのに絡まれたな」
「威勢が良いのは良いことだ。長生き出来れば伸びるだろ」
「朝早くにギルドに向かったのに、あんなのに絡まれて時間のロスかよ。ご愁傷様だな」

 近くの冒険者たちがそう言っているので、きっと運が悪かった、程度にしか思われていないのだろう。

 余所でなら、このまま喧嘩になってもおかしくなさそうだ。

 俺たちもその争いを避けてギルドを目指そうとすると、大剣を背負った冒険者が俺たちの方を見た。

 視線の先を見ると、メイド服姿のモニカがいた。俺がモニカに視線を向けると、わざと両手を頬に当てて顔を赤らめる。

「もう、こんなところでどうしたんですか? 愛を囁きたいのなら、二人っきりの時にでも……」

「……お前、ローブはどうした」

 目立つからローブを着ていろと言ったのだが、モニカはローブを脱いでいたのだ。

 本人は両肩を上下させ。

「周囲の冒険者も通行人も、あまり気にした様子がないので脱いでしまいました。私、メイド服には誇りを持っているので。ローブで隠すとか我慢出来ませんし、隠す必要もないかと思いまして」

 なんでこんなオートマトンを、古代人たちは作り出したのか疑問でしかない。

 髭面の冒険者たちも、大剣を背負った冒険者が見ている先を見た。

 俺はモニカの手を取ってそのまま急いでその場を後にする。

 手を握ったら、モニカが。

「このまま愛の逃避行を」

「現実逃避ならいつでもしたいけどな! ほら、さっさと行くぞ」

 文句を言ってやりたかったが、そんな事を言っていると変なのに絡まれてしまう。残りのメンバーも俺の後ろについてくる。

 その様子を見て、四代目が言うのだ。

『色んな冒険者たちがいて、面白そうなところではあるね』

 六代目は。

『ここはどんなギルドでしょうね。アラムサースみたいでないことを祈りますよ』

 三代目が。

『案内人は教育をしているとか言っていたけど、どんなものかな? ま、ついてからのお楽しみだろうね』

 すると、後ろの方で大剣を背負った冒険者の更に後ろ。

 そこから喧騒が聞こえてきた。

「アルバーノ! またお前か!」

「おいおい、俺のせいにするなよ、クレートさんよ!」

 俺は思う。

(本当に賑やかというか、なんというか……)





 東側のギルドを、ベイムの人々は【東支部】と呼んでいる。

 ギルドの建物は大きく、それでいて宿泊出来る施設や風呂が完備されていた。

 冒険者向けのサービスが整っているのを見ると、それだけ大きな儲けを得ているのだと実感出来る。

 東側のギルドは、受付も用途によって別れていた。

 ホームの移動申請や、新人の受け入れを行なう受付は別に用意されている。

 獲物を持ち込む倉庫のような建物は別に用意されており、一階に受付があるのもベイムの特徴かも知れない。

 広いホールには看板が用意され、ギルド内の地図も用意されていた。それを見ると、はじめてベイム、東側ギルド……東支部に来た冒険者や、冒険者になろうとする者に向けた案内が書かれている。

「新人とホームの変更に関しては、二階か」

 人の出入りが激しいギルドの入口から、二階を目指して歩き始める。

 俺たちと同じように、ギルドのホーム変更を行なう冒険者。

 ベイムで冒険者になろうとする者たち。

 二階へと上がっていくと、チラチラと俺たちに視線が集まっていた。

(……まぁ、仕方ないか)

 視線が集まっているのは、俺以外が女性という点だろう。しかも、一人は幼く、一人はメイド服……なんの集団かと問われれば、大道芸と言っても通りそうだ。

(あ、大道芸でも食っていけるかも知れない)

 エルフであるエヴァを見ると、彼女は首をかしげた。

 俺は前を向くと、仲間とは違った視線を向けられている事に気がついた。

 嫉妬を含むような視線、そして哀れみを含んだような視線だった。

 三代目の声が宝玉から聞こえてくる。

『どこに行ってもライエルは人気だね』

 嫌味を言ってくるので、俺は宝玉を指先で転がしておいた。

 そして、二階へと到着すると既に行列ができている。

 綺麗な受付では、職員が冒険者に色々と説明をしていた。

 職員を見れば、全員が同じ制服を着て冒険者に対応している。

 七代目が。

『随分と金をかけているようだな。ベイムには来た事がなかったが……なんというか、もっと酷い場所を想像していたな』

 俺も七代目と同意見だ。

 聞いていた話では、ベイムは危険も多い場所だった。

 初日なのでまだ俺が理解していないだけなのかも知れないが、それでも思っていた雰囲気とは違っている。

 ホーム変更の手続きをおこなうカウンターを探すと、職員が声をかけてきた。

「ホームの変更はこちらですよ」

「はぁ、どうも。人が多いですね」

 軽く挨拶と世間話をすると、ギルドの職員は苦笑いをしていた。

「ベイムは人口も多いですし、余所からくる冒険者の方も多いですからね。昔はカウンターも狭くて手続きに時間もかかっていたんですよ」

 二枚あるギルドカードを七人分見せると、職員がモニカを見た。

 俺は、溜息を吐きつつ。

「こいつは人間じゃないんですよね。オートマトンです」

 すると、職員の女性が俺のギルドカードを装置にかざした。何をしているのかと思っていると、ソレを見て職員が頷いている。

「少し期間が空いていますけど、アラムサースにいたんですね。まさか、こんなに早くオートマトンを見られるとは思いませんでした」

 アラムサースの情報がもう伝わっているのかと思うと、職員が説明してくれる。

「ベイムからアラムサースへ行く冒険者は少ないですけど、逆は多いんですよ。それに、ダミアン教授はここでも有名人ですから。彼の作った荷運び用の人形……ポーターを求めて、今はアラムサースに行く冒険者が出始めたのが最近の事です。凄いですよね。いったい、どんな学者なんでしょうね。知っています?」

 俺は曖昧な笑みで頷いておく事にした。

(ポーターの話までもう流れてきたのか? 早いな)

 気になっている女性職員に、俺は――。

「うん、良い人だったよ。少し変わっていたけど」

 それを聞いて、女性職員は嬉しそうに頷いていた。

「ダミアン教授と知り合いなんですか? あ、でも向こうでも有名な方らしいですから、知っていても不思議じゃないのかな? ……あ、手続きを進めますね」

 女性職員が手続きを急ぐ中、宝玉の中の四代目が呆れたように。

『まぁ、嘘は言っていないね。確かにライエルにとっては良い人だったよ。魔法も教えてくれたし、オートマトンもくれたからね』

 三代目が笑いながら。

『“眠り姫にキッス”は最高だったよ。だけど、少し変わっている、というのは嘘じゃない? あれは少しですまない変人だったよね』

 俺は宝玉から聞こえる声を無視する事にした。

 七人分のギルドカードを確認した女性職員が、二枚の内一枚を預かった。

 パーティー申請も同時に行なうと、ギルドカードを返して貰う。

「これで終了です。ベイム冒険者ギルドの説明を行なうので、参加してくださいね。場所は奥の部屋になっています。ホームを変更したばかりで分からない事が多いはずですから。他のギルドと違いも多いと思いますので、本当に参加してくださいね」

 全員にギルドカードを返し、俺は頷く。

 かなり念を押してくる辺り、きっと受けない冒険者もいるのだろう。

 奥の部屋に向かうと、ホームを変更した冒険者たちが既に何組か揃っていた。

 そんな会議室の様な場所の近くでは、新人向けの説明会が行なわれていたのか聞いたような声がしてきた。

 大剣を背負った冒険者である。

 説明会に参加しながら。

(あいつ、冒険者になるためにベイムに来たの? 勇気あるな)

 俺はいきなりベイムではきついからと、他の場所で経験を積むのを選択していた。

 ただ、説明会で騒ぐような必要があるのか気にはなった。

(というか、よく会うな)





 説明会を受けた俺たちは、一階へと降りた。

 全員の表情は思っていたよりも不満があるものだった。

 特にアリアが――。

「ねぇ? 仕事を割り振られる、ってどういう事よ?」

 不満の大きな理由は、こちらから依頼を選べないという事だった。

 数多くの仕事がベイムのギルドには回ってくる。

 そして、その中から条件の良い仕事を選びたくとも、冒険者が自由に選べないようになっていたのだ。

 ノウェムがアリアをなだめる。

「仕方ありません。ベイムへの依頼は数が多く、こちらが選ぶ方式では流石に……今までのように引き受ける冒険者がいなかった、ではすまないものもあるでしょうし」

 条件があまり良くないと、依頼を冒険者が受けない。

 ギルド側もそうした依頼は引き受けないようにするのだが、希に微妙な依頼というものがあるのだ。

 クラーラはアリアを見ながら。

「ただ、ある一定の経験を積んでいる冒険者は、雑用など回さないようですから大丈夫では? 問題は、ここが派遣型という事なんですけどね」

 仲間の視線が俺に集まった。

 派遣型と言うことは、ベイム以外に移動する事がある。

 そうなると、移動時間がロスになってしまうのだ。

 俺は咳払いをする。

「いや、ほら……俺たちの目標は、冒険者じゃなくてセレスだし。ここが駄目なら西側に移動してもいいかと」

 俺の意見に、モニカがアッサリと。

「最低でも三ヶ月ですか? ベイム内でのホーム変更は制限があると言っていましたよね?」

 そう簡単に移動させないために、制限が設けられていた。

 シャノンが。

「定期的な依頼の達成も条件になっているんだけど、これってどういう事よ?」

 俺は素直に。

「……少し甘く考えてはいました。すいません」

 謝罪するとエヴァが。

「あれ? そんなにおかしいの? 冒険者の事はあまり知らないけど、結構ホームごとでやり方が違うとかよく聞くわよ」

 髪をかき上げながら聞いてくるので、ミランダが説明する。

「ギルドから仕事を押しつけてくるのよ。こっちの予定の立て方も変わってくるし、依頼を受けないタイプの冒険者なら少し厳しいかもね」

 ベイムの管理する迷宮に挑むだけなら、依頼など受けなくても問題ない。

 だが、五代目が。

『まだ依頼も受けていないし、ベイムで稼いでもいないだろうが。やってみてから判断した方が良いんじゃないか? やってみて駄目なら、さっさとホームの変更をするだけだろうが』

 実に建設的な意見だった。

「まぁ、しばらくはここをホームにして、活動して様子をみよう。やらない内から否定ばかりしていても始まらないし」

 そう言うと、クラーラが頷いていた。

「そうですね。何かしらのメリットもあるかも知れませんし」

 エヴァは。

「ここをホームにしている冒険者もいるんだし、まったくメリットがないとは言えないんじゃない? 変更出来ない理由があるなら別だけど」

 思ったよりも面倒なギルドだ。

 そう思っていると、声がかかる。

「おい!」

 振り返ると、そこには大剣を背負った男が立っていた。

「俺ですか?」

「そうだよ! お前、少し調子に乗ってないか?」

 よく見かける相手だと思っていたが、まさか向こうから声をかけてくるとは思いもしなかった。

 相手の雰囲気を察するに、どうやら友好的ではない。

 大剣を背負った冒険者の後ろでは、彼の仲間がこちらを……俺以外の仲間を見ている。

 宝玉から声がする。

 三代目だ。

『あ~、そういう事か。美人揃いだからね。羨ましくもなるかな』

 四代目は呆れている。

『何? 羨ましいから声をかけたの? この子面白いね』

 五代目の声はイライラしている。

『俺はこういった連中が嫌いだけどな。ある程度の冒険者なら、別に関わろうとしないんだろうが、新人か……本当にイライラするな、こういう連中は』

 六代目は笑っている。

『若者の特権ですよ! 無鉄砲で、こうがむしゃらで空回る。良いじゃないですか』

 七代目は淡々と。

『この手の連中はどこにでもいる。無視しなさい。下手に関わるんじゃないぞ』

 それぞれが意見を述べるので、おれは七代目の言葉に従って曖昧に笑ってその場を去ることにした。

「そうですか? では、俺はこれで。ほら、みんな行こうか」

 仲間を連れてその場を去ろうとすると、俺は肩を掴まれる。

 ギチギチと音が聞こえるほどに掴まれ、目を細めて相手を睨み付ける。

 相手は笑っており、二代目のスキルが相手のスキル使用を教えてくれる。

(力が増幅されている? 前衛系か? 支援系という可能性もあるな)

 俺は一言。

「痛いんですが?」

 そう言うと、相手は。

「だったら? ここの連中はどうも臆病でさ。腕試しをしたいのに誰も相手をしてくれないんだよ。お前、余所から来たんだろ? なら、俺の相手をしてくれよ。冒険者がどの程度なのか、それで分かるからさ」

 視線がチラチラとノウェムたちに向いており、意識しているのが丸分かりだった。

 周囲が俺たちの雰囲気を察したのか、視線が集まっていた。

 そして――。

「待たないか! 冒険者同士の私闘は禁じられているぞ!」

 黒髪をオールバックにした背の高い青年が、俺たちの間に入る。

 大剣を背負った冒険者が。

「誰だよ、お前?」

 背の高い青年が名乗る。

 背筋を伸ばし、礼儀正しそうな青年は堂々と名乗った。

「私は【クレート・ベニーニ】だ。冒険者としてここで仕事をしている。同じ冒険者として、私闘など見過ごしておけない!」

 どうやら暑苦しい感じの人のようだ。

 だが、助かったと思って胸をなで下ろしていると――。

「だから、ここは正々堂々と互いの技を競い合うために試合にするべきだ!」

 俺は顔を上げて、言ってやったみたいな表情をしているクレートという青年を驚きながら見てしまった。

「え? 試合? え!?」

 俺が驚いているのを見て、大剣を背負った冒険者が。

「いいぜ、受けてやるよ。俺は【エアハルト・バウマン】だ。流石にヒョロイ奴を殺しても後味が悪いからな」

 相手が乗り気になっており、俺は振り返って仲間を見る。

 アリアやミランダが。

「ほら、さっさとやっちゃいなさいよ」

「良いんじゃない? 試合なら死ぬこともないし。怪我をしたらちゃんと治療してあげるわよ……つきっきりで」

 クラーラやシャノンは。

「このような物語的な展開は、少しワクワクしますね。本では良く出て来ますけど、実際はあまりないので少し興奮してきました」

「女をかけて決闘的な? 私、本は読めないから理解出来ないわ」

「いえ、冒険者がベテランに絡まれるという王道的な展開です。憧れませんか?」

「ちょっと分からないというか、そうなるとライエルが悪党じゃない?」

 ――楽しそうにしている。

 周囲も新人同士の喧嘩だと思ったところで、青年が試合をすれば良いと言い出したためかこちらを見て笑っていた。

 エヴァは。

「なんかライエルはあれよね! 持っているわよね! でも、歌とか語りにするときは、こういう展開は重要だと思うの! 是非とも参加すべきよね!」

 こいつ、自分の歌のために俺に試合をしろと言いだした。

 モニカなど。

「チキン野郎の格好いいところが見てみたい~」

 歌い出してツインテールをピコピコと揺らしている。

(声が良くて微妙に上手く聞こえるから余計に腹が立つ!)

 ノウェムは困った表情で。

「あの、相手をあまり怪我させないように注意してくださいね」

 相手を怪我させないか心配しているノウェムは、やっぱり優しくて素晴らしいと思う。でも、俺の参加を止めるようには言わなかった。

 宝玉からは笑い声が聞こえる。

 歴代当主が順番に。

『持ってるよね! 確かにライエルは持っているよ! どこに行ってもこんな感じだし!』
『割と絡んでくるとかないので、逆に楽しくなりますね』
『冒険者は意外とこういうのないよな? まぁ、ボコボコにできるならそれでいいか』
『楽しくなってきたな、ライエル!』
『スキル使いのようですし、良い経験になるでしょうね。良かったな、ライエル』

 俺は頭を横に振りながら思った。

(なんで止めに入らないどころか、楽しそうなんだよ)
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