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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

孫馬鹿な七代目

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ウォルト家の男たち

 呼吸が乱れる。

 手に持ったサーベルを振るうが、感触はない。

 斬ったはずの三代目の表情は、不敵な笑みを浮かべていた。

『残念でした。外れだよ』

 そう言われた直後、俺は振り返ってサーベルで防御の構えを取る。

 一般的に片手でも振れそうな剣を突き出してくる三代目は、俺の反応を見て笑っている。

『素早いけど、それでは駄目だ』

 剣がサーベルに届こうとした瞬間に、俺は左側へと視線を向けた。

 先程から、スキル【オール】や【マップ】【サーチ】といった探知を助けるスキルを使用しているが、三代目の反応を捉えきれなかった。

 宝玉内――。

 四代目の記憶の部屋で、俺は三代目の振り下ろした剣によって斬られる。

 どこまでも続くような一本道と、青い空が広がるその景色の中で俺の赤い血が舞った。

 倒れる中でサーベルを地面に突き刺し、なんとか踏ん張ると呼吸が更に乱れた。

 痛みもあるのだ。

 斬られた箇所を見るが、既に血も流れていなければ服も斬られていなかった。

 地面からサーベルを引き抜き、構えた。

 目の前の三代目は、右肩に刃の腹の部分をポンポンと何度か当てながら俺を見ている。

『自分の五感にスキルを使いこなすんだ。そうでなければセレスの攻撃を防ぐことも、反応することもできないよ』

 溜息を吐く三代目が、ヤレヤレといった感じで顔を手で押さえていた。

 だが、口元は笑っている。

 未だに「全員に勝てば良い」などと言ったのを根に持っているのか、歴代当主一同が俺への訓練に熱が入っている。

 いや、入りすぎだ。

「反応が増えたり消えたり……それに、目の前で剣先が迫れば防御もしますよ」

 磨き上げてきた技術は、視覚の情報を元に防御の形を即座に取るようになっていた。

 だが、人の精神に干渉し、幻覚を見せるスキルを持つ三代目はそれを利用しているのだ。

 握ったサーベルが消えていく。

 三代目の持っていた剣も同じように消えていく。

 俺は、自分の手の中で消えていく懐かしいサーベルを見ていた。

 宝玉内で再現された俺のサーベルは、子供の頃に両親からプレゼントされたものなのだ。

 消えてしまうと、俺はサーベルを握っていた手を強く握りしめる。

 四代目が、俺と三代目の戦いを見て意見を述べた。

『無意識の反応の先を目指すんだね。ライエルの選んだ道は、その先の先……達人たちが超えられないような壁の向こうにあると思った方がいい』

 戦ってみて理解出来たのは、セレスと戦うという事と俺の実力だった。

 今のままではセレスに勝てないのは理解していた。

 だが、ここまで歴代当主たちに勝てないとは思ってもいなかったのだ。

 三代目には翻弄され、四代目は捉える事ができない。

 自分のスキルを使いこなす歴代当主に、俺は手も足も出なかったのだ。

 三代目が笑う。

『まったく、マークスが渋い顔でそんな事を言っても似合わないよ。昔は素直な良い子だったのに』

 四代目は咳払いをして反論する。

『三代目が亡くなってから、俺がどれだけ苦労してきたと? それに、俺は三代目よりも長く生きていますからね』

 人生経験なら三代目にも負けないと言い張る四代目だが、俺は二人を見て思った事がある。

「……そう言えば、三代目も四代目も妻というか奥さん? 俺にとっては同じご先祖様なんですけど、奥さんたちはどんな人なんです?」

 気になったので聞いてみたのだが、明らかに四代目が焦りつつ眼鏡を人差し指で押し上げて位置を正している。

 三代目が思い出しながら――。

『僕の奥さん? 良く出来た人だったよ。優しいし美人で、それにしっかりしていたから頼りになる感じだね』

 アハハハ、などと笑って、三代目は当時の思い出を語っていた。

 だが、四代目は少々顔が引きつっている。

『そ、そうだね。僕の奥さんも良く出来た人だった……よ』

 どうにも怪しいので、俺は四代目を見ていた。

 三代目は何か気が付いたのか、周囲を見ている。

『ライエル、見てごらん……周囲の風景が変わってきているね』

 ニヤニヤした三代目が言うとおり、周囲の景色に変化がおとずれていた。

「あ、なんか屋敷が見えますね。ここはもしかして」

 四代目が項垂れつつ。

『そうだよ、俺の屋敷だよ。元の場所からは移動して新しく建て直したんだ』

 俺たちがいたのは屋敷の中庭。

 鉄格子の門が開き、そこに一台の馬車が入ってくる。

 屋敷からは四代目が緊張した様子で出て来た。

 ただ、年齢的には宝玉内でいつも見ている時と同じである。

 三十台前半だろう。

 三代目が。

『誰か大事なお客様かな? 次々に馬車が中庭に入ってくるけど?』

 荷物を満載した馬車に荷馬車が屋敷の中庭に入ってくると、四代目の目の前に一人の少女が馬車から降りて挨拶をしていた。

 どう見ても十代前半であり、気の強そうな小柄な少女だった。

 顔を両手で押さえた四代目が、説明してくれる。

『……俺の奥さんだ』

 俺も三代目も、四代目と奥さんの顔を近づいて間近で何度も交互に見ていた。

 降りてきた少女の後ろを見る四代目は、目の前の少女が自分の相手なのだと知ると引きつった笑みで挨拶をする。

『初めまして、手紙でのやり取りはしていたが、俺がマークス・ウォルトだよ。会えて嬉しいよ』

 社交辞令を述べる四代目を見て、奥さんは――。

『……二十点』

『は?』

 採点をすると、両手を腰に当てて年上の四代目を見上げてない胸を張って堂々と説教を開始した。

『小さくても子爵家の名を背負った娘です。子供と侮らないで! それになんですか! 私が結婚相手の連れか何かとでも?』

 少女――奥さんの後ろを確認した四代目の行動を責める少女に、四代目はアタフタとしていた。

『失礼した。だが、あまりに可愛いので疑ってしまったんだよ』

 優しい笑顔でそういう四代目に、奥さんはまたしても――。

『十点。私は嫁いだ瞬間から女の子ではなく、貴方の妻です。子供扱いはしないで貰いましょうか』

 なんとも厳しい人だったようだ。

 だが、どう見ても自分の娘に叱られている父親にしか見えない。

 三代目が四つん這いになって地面をバンバン叩いて笑っている。

『マークスさん、流石だねぇぇぇ!』

「四代目、すいません。これは笑ってしまいます」

 俺と三代目が、四代目とその奥さんを見て笑う。

 すると、四代目は怪しく眼鏡を光らせると俺たちに言うのだ。

『……覚えておくといいよ、ライエル』

「何をですか?」

 流石に笑いすぎたと反省するが、なおも記憶の中の光景は続いており少女に採点を続けられる四代目を見て三代目が笑い転げていた。

『ウォルト家の家訓……嫁取りの家訓を覚えているね?』

 俺は微妙な表情で頷いた。

 何しろ、ウォルト家の家訓とは初代が酒の席で言ってしまし、それを周囲が本当に家訓だと思ってしまったために二百年以上も続いてしまったものなのだ。

 簡単に言えば――。

【妻に迎える女性は、第一に容姿が優れている事】
【第二に健康である事】
【第三に体が丈夫である事】
【第四に頭が良い事】
【第五に肌が綺麗である事】
【第六に魔法に優れている事】

 ――第二と第三がかぶっているなどと言ってはいけない。酔っ払いの戯言なので、本当に何も考えずに口走っただけなのだ。だから、後になってこのような解釈になっている。最後だけは、五代目が追加した家訓であるので、初代は全く関係ないのだが。

 容姿が優れ。
 病気をせず。
 体が丈夫で。
 頭が良く。
 肌が綺麗で。
 魔法が使える本物の貴族である事。

 それがウォルト家の嫁取りの家訓である。

 男児がしっかり生まれてきているので、女性版――婿取りの家訓はない。

 四代目は不適に笑うと……。

『優秀な嫁を迎える。なる程、確かに大事な事だ。今のウォルト家を作ったのは俺たちではなく、歴代の妻たち、と言っても良いかも知れない』

 転げ回って笑っている三代目を見ると、確かにそうかも知れないと頷いた。

 記憶の中の四代目は、奥さんにもう少し気の利いた台詞を言えないのかと駄目出しをされている。

 影のある笑顔で、四代目が言うのだ。

『俺の妻も優秀だった。母さんとは違った優秀さだよ。しっかりしていたし、男爵家になったばかりのウォルト家がしっかりと本物の貴族になれたのは妻のおかげだ。口は強くて厳しいが、本当に可愛いところもあるんだよ。本当だよ? ハッキリ言うけど、可愛いところは一杯あるからね! あの可愛らしい姿もそうだけど――』

 何故、四代目が可哀想に見えるのだろう。

「そ、そうなると他の歴代当主たちも、こんな光景が繰り広げられていたんですかね?」

 話を逸らすために、他の当主たちの話題を出してみた。

『多少は違いがあっても、良い感じで掌の上手に転がされたんじゃない? それがウォルト家の男たちだ! あ、でも……五代目は違うかもね』

 俺は四代目の言葉に。

(……いや、キメ顔で『妻の掌の上で、上手に転がるのがウォルト家の男!』みたいに言われても凄く微妙なんですけど)

 周囲の光景が灰色に染まり、景色が一変するとそこは屋敷の中の部屋であった。転げ回っていた三代目が、壁に激突して頭を押さえている。

『ちょっと……いきなり場面を変えないで貰える?』

『自業自得ですよ』

 頭をさする三代目に、四代目は笑顔で答えていた。

 その部屋には二十代前半の五代目が、白髪交じりの四代目と妙齢となった奥さんから一人の女性を紹介されていた。

 緊張している五代目は、口数が少ない。

『どうしたの、フレドリクス? あ、分かったわ。お相手が綺麗な子で緊張しているのね』

 どうしても気の強そうな四代目の奥さんが、五代目には甘い顔をしている。

 その横で、白髪交じりの記憶の中の四代目が文句を言う。

『少しは気の利いた事を言わないか』

 奥さんが、笑顔で四代目の腕をつねっている。

『貴方、フレドリクスに何か文句でもあるのかしら?』

『ない! ないから止めてくれ!』

 クスクスと笑う相手の女性を前に、若い五代目は簡単な挨拶をしていた。

『フレドリクスだ。冗談は得意じゃない』

『そうなんですか? 私は――』

 相手の女性が挨拶を済ませると、五代目は終始俯いて申し訳なさそうにしていた。四代目とその奥さんだけが、二人の仲を良いものにしようと頑張っている。

 三代目も俺も、その光景を笑っては見ていられなかった。

 何しろ、この後に四代目が行なったのは、妾を四人も用意して三十人近くの子供を作るという無茶な行動だ。

 一歩どころか、ウォルト家の大きな火種になりかねない問題行動である。

 周囲の景色が灰色に染まると、四代目が溜息を吐いた。

『フレドリクス……五代目の相手も、家訓に沿った良い子だったよ』

 それでも妾を用意した五代目は、四代目の奥さんに随分と可愛がられている様子だった。

 四代目が、眼鏡を取って拭き始める。

『五代目……フレドリクスは、幼い頃から素直でよく笑う子だった。今にして思えば、いつから笑わなくなったんだろうね』

 五代目は効率を重視するところがあり、歴代当主の仲で一番冷めた感じのする人だった。

 だが、同時に一番耐えた人でもある。

 後の世には見目麗しい妾を、若くして囲った好色家。

 賊や傭兵団に容赦のない殺戮者。

 言われたい放題である。

 ウォルト家が一番黒い時代の先駆けでもあった。そして、その流れは六代目まで続き、七代目で絶たれた。それが、俺が父から聞いたウォルト家の歴史である。

 三代目が、両手を頭の後ろに回し灰色になった景色の中で若い五代目を見ていた。

『ま、色々と見えていたんだろうね。だから実行した。それが必要だと思ったんだろうけど、なんでそうさせたの?』

 四代目に俺と三代目の視線が突き刺さる。

 眼鏡をかけ直した四代目は、時間が止まって灰色になり笑顔のまま動かなくなった奥さんを見て言うのだ。

『……事故ですよ。怪我で子供が産めなくなった。フレドリクスには教えていません』

 三代目が呟くのだ。

『そう』
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