挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

孫馬鹿な七代目

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

97/345

四つのギルド支部

 ベイムに到着して次の日の朝。

 俺が部屋を出て宿屋の一階に降りると、食堂になっているその場所では細目の男性が食事をしていた。

 ニコニコと食事をしている男性に、宿屋の主人は苦笑いをしている。

 朝食は宿泊客へのサービスなので、一般の客には出さないシステムだったはずだ。

 俺に気が付くと、男性は手を振ってくる。

「おはよう。一緒にどうだい?」

「こんな朝早くから待っていてくれたんですか?」

 すると、男性は片目を少しだけ開いて、朝食を指さした。

「ここの朝食は美味しいんだよ。大事なお客さんを待っていると、主人が食っていくかと言ってくれてね。良い人でしょ」

 宿屋の主人が両手を挙げてヤレヤレ、などと仕草をする。

 口の回る人であるのか、美味しそうに食事をしていた。

 宿屋の店員が俺のところにくると、朝食のメニューを確認しに来た。

 メニューはスープの種類が違うようだ。

「コーンスープで」

 そう言うと、主人が厨房へと向かい店員もテーブルから離れていく。

 細目の男性の目の前に座ると、相手はゆっくりと食事を楽しんでいた。

 パンをちぎって、スープに浸して食べている。

「コーンスープも良いよね。冒険者の中には追加で肉料理を注文する連中もいるんだけど、ライエル君は足りるのかな?」

 体を動かす多くの冒険者。

 特に戦闘を行なう冒険者たちはよく食べる。

 朝から肉料理どころかステーキを何枚も注文する冒険者も珍しくないようだ。

「今日は観光ですからね。肉料理は注文しないんですか?」

「ご厚意だから、そこまで図々しくなれないね」

 つまり、目の前の男性は朝食にお金を出すとは考えていないようだ。

 俺が苦笑いをすると、店員が朝食を持ってくる。

 パンにスープ、そしてサラダという朝食を受け取って食べる。

 温かいスープは、寒い日が続いている事もあってとても美味しかった。

 お腹の中から暖まる感じや味を楽しんでいると、細目の男性は水を飲みながら俺を観察するように見ていた。

「どうしました?」

「いや、随分と綺麗に食べると思ってね。それにしても、他の仲間は降りてこないのかな?」

 二人部屋を四つ借りて、モニカは俺の部屋で立ちながら眠っていた。

 今は掃除をしており、降りてきたのは俺だけである。

「準備に時間がかかっているか、それとも寝ているかですね。ほら、予定していた時間よりもまだ早いですから」

 男性は頷くと、俺に今日の計画を話し始める。

「なら、ライエル君に先に色々と話しておこうかな。少し聞いておきたいこともあったんだよね」

 俺に聞いておきたいこと、と言われたので首をかしげる。

「何、単純に夜の店はどうするのか、って事だよ。僕としては紹介しておきたいけど、パーティーが特殊だから前もって聞いておこうと思ってね。で、必要かな?」

 俺は咳き込みそうになるのを我慢して、首を横に振る。

 興味がないとは言わないが、現状では遊んでいる暇がなかった。

 ただ、宝玉内からは俺をからかう声がする。

 六代目だ。

『なんだ? 少しは遊びを覚えたらどうだ。病気なんぞ、魔法でどうとでもなるんだぞ』

 それを聞いた四代目が叫ぶ。

『病気を貰ったから治療して、ってノウェムちゃんに言うの? 馬鹿だろ!』

 そんな状況は俺もごめんだった。

 細目の男性はクスクスと笑う。

「だろうね。あの緑色の髪の子は少し危険そうだし、ライエル君は真面目なままがいいかもね。おっと、気になるなら門の近くでウロウロしているから声をかけてくれよ。すぐに良い場所を紹介するからさ。値段や好みに合わせていくつでも紹介しよう。それと、自分で探そうとはしない方がいいよ」

 細目の男性は、俺に忠告してくる。

 自分が儲からないというのもあるのだろうが、怪しい店が多いようだ。

「都会慣れしていない若い冒険者が、金を稼げるようになって失敗するのがギャンブルに酒、そして女だからね。適度に遊ぶというのを知らないと、後で大変なことになる。おっと、それを考えるとライエル君も遊びを知っておくべきかも知れないね」

 笑う細目の男性を見ながら、俺は食事を済ませた。

 水を飲んで一息つくと、細目の男性は俺にベイムの特徴を教えてくれる。

「ベイムは人も物も金も集まる。だけど、良いところばかりではないから気をつける事だ。場所によっては、昼間は普通でも夜になると出歩くのも危険な場所になるところもあるからね」

 複雑な都市であるベイムを歩き回るのも、注意が必要なのかも知れない。

 基本的に冒険者が利用する場所、そして立ち入らない方がいい場所を聞く。

 そうしていると、階段を降りてくる足音が聞こえる。

 ノウェムだった。

「おはようございます。案内人の方もご一緒でしたか。時間には余裕があると思ったのですが?」

 首をかしげるノウェムに、細目の男性は目を更に細める。

「いや、お客を待たせるのはいけないからね。早めに動くのは大事だからさ」

 余裕を見せる細目の男性は、ノウェムを見てから俺を見る。

 店員がノウェムに近づき、メニューを確認していた。

 細目の男性が呟く。

「……やっぱり、声をかけて良かったよ」

 そのまま水を飲む男性は、話を切り替えて俺にベイムについて教えてくれるのだった。





 夕方。

 ベイムの観光という事で、楽に考えていたがとんでもなかった。

 シャノンはモニカの背に背負われ、アリアはクタクタなのか疲れた表情をしている。

 エヴァは色んな物に興味を示し、そして疲れたのかフラフラしていた。

 ノウェムとミランダだけは普通だが、クラーラの方は人混みに疲れた上に酔ってしまったのか青い顔をしている。

 自由都市ベイムは、非常に人が多かった。

 セントラルも多いと思っていたのだが、それ以上である。

 目の前に今回の最後の目玉であるギルド支部が、俺たちの前にあった。

 ダリオン、アラムサースと二つのギルドをホームとして活動してきた俺たちだが、支部と言われているギルドの建物を見て驚いている。

 俺が。

「この規模が四つも?」

 すると、細目の男性が笑いながら説明してくれる。

「残念。一番規模が大きいのは港近くのギルドだね。他は規模的に大体同じだけど、傭兵団が使用するギルドは一番規模が小さいかな」

 傭兵団と言えば大所帯だ。

 そんなところが使用するギルド支部が、小さくて良いのかと疑問に思ってしまう。

 ミランダが、気が付いたようで会話に割り込んでくる。

「主に仲介をしている、って事?」

 細目の男性は指を鳴らし、そして正解と告げた。

「各地を移動する彼らも、魔物は倒すけど目的は傭兵の仕事だからね。魔物を倒すより、戦場で働くなり迷宮に挑む事の方が多いんだよ。場合によっては、迷宮の最奥にある財宝を持ち帰るだけで遊んで暮らせる。もっとも、ちゃんと魔石や素材の買い取りも行なっているけど、傭兵を募集するような依頼はそっちに集まるからね。逆を言えば、その他の依頼が集まらないんだ」

 港に近いギルドでは、海中にいる魔物を引き取っているようだ。

 海に出現する魔物の多くは、小型であれば脅威にならない。

 だが、大型も少なくないので獲物が大きい場合が多い。そのため、ギルド自体も規模が大きくなるらしい。

 ノウェムが確認する。

「残り二つの特徴は?」

 細目の男性がアゴに手を当てて説明する。

「サービスの質は一緒だね。職員の善し悪しもあるけど、基本は教育をしているから一緒だと思うよ? 問題は君たち次第かな?」

 俺たち次第だというと、細目の男性は俺たちを見て何度か頷く。

「ベイムをホームにして活動するにしても、いくつかのパターンがあるんだよね。ほら、他のギルドでも専門的な冒険者がいるだろ? ベイムはそういった連中は港側の支部か、もう一つのギルドを選んだ方がいいね。そうでない場合……ベイムならではだと思うけど、各地に移動する派遣型だね」

「派遣ですか?」

 ノウェムがたずねると、細目の男性は丁寧に説明してくれた。

 ベイムが他のギルドと大きく違っているのは冒険者の数と質である。

 支部を四つも持っているだけあり、ベイムにいる冒険者の数は他の都市と比べても桁違いの数字だ。

 そういった冒険者たちが、ベイム周辺だけで食べていけるのか? 答えは無理、である。

 そうなった時、ベイムが取る手段は冒険者を各地に派遣する事であった。

 自分たちでは手に負えない、または応援が必要な場所に冒険者を送りつけるのである。

 俺が気になったのは――。

「ホームを変更せずに活動出来る、と? というか、移動とか時間がかかるんじゃ」

 細目の男性は頭をかきながら、難しそうな表情をしていた。

「うん、かかる。だけど、その他の手続きを色々とやってくれるし、移動手段も確保してくれる。ベイムが管理している迷宮にも挑めるけど、基本的に回ってくる依頼をこなす義務も出てくるんだよね。だから、正直に言って人気がない」

 人気がない、と言い切る細目の男性は振り返ってギルド支部を見ていた。

「ちなみに、ここがその人気のない支部ね。あ、それと基本的に本部へは一般冒険者は行くことがないから。向こうはお偉いさんたちが働く場所」

 俺は大きな建物を見るのだが、出入り口からは引っ切りなしに人が出入りをしていた。

 周囲を見れば煙突がない。

 細目の男性がギルド支部の煙突を指さした。

「ここはお風呂も完備しているよ。宿泊施設もあるから、どうしても宿が見つからないときはここで寝られるね」

 設備は整っているようだ。

 流石は本部のあるベイムだと素直に思った。

 疲れているアリア、クラーラ、シャノン、エヴァ。

 そして、興味のないモニカは会話に加わらない。

 ミランダが溜息を吐いた。

「それで、ここに連れてきた理由はどういう事かしら? 普通に考えれば、もう一方を選んでベイムが管理する迷宮に挑む方が効率は良いんだけど?」

 細目の男性は両手を挙げて降参のポーズをした。

 どうやら、細目の男性が得ている収入は、何も店側だけからではないようだ。

(なる程、冒険者ギルド自体が、この人たちを使用して勧誘しているのか)

 俺が納得したと頷くと、宝玉から五代目の声がした。

『ま、ちゃんと事前に説明するだけ良い奴だな。もっとも、言ってないこともあるかも知れないけどな』

 五代目の言う通りである。

 細目の男性の説明を待っていると。

「別に騙すつもりもないよ。ちゃんともう一つも帰り際に立ち寄るからね。ただ、どうしても偏りがあるから、ギルド側も色々と頑張っている訳だよ」

 飄々としている細目の男性を見て、俺は考えていると三代目が言うのだ。

『いや、丁度良いね。ライエル、この支部は僕たち向きだよ』

 俺は宝玉を握ると肯定の意志を示した。

「……そうですか。帰りましょうか。流石にシャノンたちが限界です。このまま宿屋まで案内して貰えます?」

 そう言って帰る事にした俺に、細目の男性は笑顔で頷くのだった。

 俺は銀貨二枚を取り出すと、今回の報酬として手渡す。

「やっぱり、声をかけて正解だったね。おっと、大事な挨拶を忘れていた」

 細目の男性は笑顔で。

「ようこそ、冒険者の都であるベイムへ」





 宿屋へと戻った俺は、仲間たちの疲れもあって早めに眠ることにした。

 宝玉内へと顔を出すと、三代目に確認を取る。

「どうしてあの支部を勧めたんです?」

 円卓の上にアゴを乗せた三代目は、面倒そうに言うのだった。

『迷宮に挑んで実力を付けるのもいいんだけどね。ライエルの目的は強くなる事じゃなくてセレスに勝つ事、だろ?』

 眼鏡を拭きながら、四代目も会話に参加してきた。

『正直に言えばどちらにもメリットもデメリットもあるんだ。ただ、今回は自由度のある支部の方が良かったと思えた。駄目なら支部を変更してもいいんだろ?』

 選んだ理由は、どちらでも良かったが少しでもメリットのありそうな派遣型の支部、というだけのようだ。

 今回、他の歴代当主は顔を出していない。

 三代目と四代目だけが、俺との会話に参加している。

 アゴを上げて両手を頭の後ろに持っていき、三代目は俺を見ながら計画を説明するのだった。

『ベイムだけでなく、外にも出られる支部は自由度が高いと思った。想像していたのと違えば、ホームにする支部を変えればいい。今の僕たちには圧倒的に情報が不足しているからね。情報を集めつつ、自分たちで外に出て確かめてみるのも良いかも知れない。同時に、だ』

 四代目が眼鏡をかけながら三代目の説明を引き継いだ。

『少しでも味方を探すために動いて貰う。それに、外にある迷宮は倒しても問題ないんだろ? 管理されている迷宮は最奥の財宝を得られない。早急にライエルたちは装備を調える必要もあるからね』

 希少金属が存在する迷宮の最奥の間。

 問題は、それを入手すると迷宮が機能を停止してしまう事だ。

 そのため、迷宮を管理している都市では、あえて迷宮を倒さずに魔物を輩出させ続けて魔石や素材を回収するのである。

 四代目は、俺を見ながら。

『人、物、金……全てが今のライエルには足りない。今の状況からセレスを倒すためには、出し惜しみなんかしていられないからね。ここからは全力を出していこうか』

 スキルを隠して仕事をするのではなく、これからは積極的にスキルを使用して仕事をこなしていく事になる。

 三代目が立ち上がって背伸びをした。

『さて、それじゃあ始めようか』

 首の後ろに手を持って行くと、そのまま首を回し始める三代目……。

「……今日は遠慮しておきます」

 俺が下がると、先回りした四代目が俺の両肩を後ろから掴む。

 振り返ると眼鏡が不気味に光を放ち、口元が笑っている。

『いいじゃないか。ウォルト家の天才児、または麒麟児と呼ばれたライエルと戦いたいんだよ。ほら、俺たち全員に勝つんだよね?』

 俺は言い訳をする。

「あ、あれは歴代当主に勝てないなら、セレスに勝てないと思ってですね! そういう意味ではなかったんですよ!」

 俺がなんとか逃げようとすると、三代目が手招きしていた。

『ハハハ、そんな言い訳は聞かないぞ。さぁ、時間はたっぷりあるんだ。僕と四代目で交互に戦ってあげるよ』

 俺は思った。

(こいつら、まだ根に持ってやがる!)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ