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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元不良な六代目

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第六章エピローグ

 セントラルを離れる連結馬車の後部座席で、俺は空きしかない車内を見渡した後に熱狂の冷めていないセントラルを見る。

 王宮から振る舞われた酒などで、セントラルは祭りが続いていた。

 元々、連結馬車は多くの客が乗るはずだったのだ。

 だが、セントラルの熱気に当てられた客たちは、滞在期間を伸ばしてしまう。

 その結果が、貸し切りのような車内という訳だ。

 遠くに見える壁に囲まれたセントラルを見て、俺は宝玉を握りしめた。

 ファンバイユ王家の人たち。

 ――リアーヌも、セントラルを出発している。

(世話になったな。元気でいて欲しいけど)

 別れるときは、あまり会話が出来なかった。

 本当に悲しそうにしていたからだ。

 三代目の声が聞こえてくる。

『ライエル、戻ってくる時はきっと――』

(分かっています)

 俺が後ろばかりを気にしていると、エヴァが声をかけてきた。

「何してるのよ?」

「……王都セントラルを見ていたんだ。戻ってくる、って誓いを立ててね」

 そう言って近くの座席に座ると、その隣にエヴァが座る。

「ふ~ん、それならいいんだけど……そうだ! 私が参加する前の話を聞かせてよ。登場人物たちの物語も重要だし、色々と知っておく方が歌にしたときも感情がこもるから!」

 ニコニコするエヴァに、俺は苦笑いをする。

「あまり面白い話はないぞ」

「え? ダリオンで初の成長を経験して、アラムサースでオートマトンにキスをして、セントラルで貴族相手に詐欺をしたのに? ほら、私が知っているだけでもこれだけあるんだから、ケチケチしないで教えなさいよ!」

「誰から聞いた!」

「みんなから!」

 笑顔で答えるエヴァを放置し、俺は前の方に座るパーティーメンバーを見る。

 すると、モニカは笑顔で手を振り、アリアは小刻みに肩を揺らしていた。

 笑っている。笑っているのを必死に耐えている。

 ノウェムは申し訳なさそうにしており、クラーラは本で顔を隠していた。

 ミランダは投げキッスをしており、シャノンはニタニタと笑っている。

「お前ら最低だよ! なんで教えた!」

 その言葉に、アリアが言う。

「五月蝿いわね。仲間になるなら色々と知っておくべきとか、エヴァが言ったのよ。ほら、今までのあんたの行動が強烈すぎたから、つい」

 つい、で喋られてはたまったものではない!

 エヴァは嬉しそうにメモを取っている。

「おい、こんなの歌にしないよな?」

「え? いや、どうなるかは分からないわよ。最後まで見て、私がどう判断するかにかかっているわね。そういう事で……みんなの知らないライエルのお話を聞かせてくれるかしら。私だけに!」

 私だけに、などと言ってエヴァはアリアたちを見てニヤリとしていた。

(つまり、話をしないと今までの聞いた俺の話を歌にすると脅しているのか……)

 急に全員が悔しそうな表情をするが、ノウェムだけは少し勝ち誇ったような表情をしている。

 幼馴染みでもあるノウェムは、俺の幼少時代も知っているのだ。

「お前、卑怯だぞ」

「歌のためにならこれくらいするわよ。ほら、ちゃんと聞かせなさい! は、や、く!」

 急かすエヴァに、俺は溜息を吐いて少し考えた。

 そして、歌にして貰うなら、と。

「話してやるが、その前に約束をしろ」

「何? 教えても歌うな、とかだったら拒否するわよ」

 俺は違うと言って、首を横に振った。

「逆だ。歌って欲しい話がある」

「私の知らない物語? 色々と知っている方だから、ライエルが知っているなら私が知っていると思うけどね。あ、それとも歌の要望!」

 俺は――。

「ウォルト家のご先祖様たちだ。お前も知らないだろう?」

 するとエヴァは、それは確かに知らないと言って頷いていた。だが、興味が惹かれないのか、少し難色を示す。

「そういう話、って誇張とか多いのよね。歴代当主の歌を歌えとか、それなりにあるのよ。自分の実家を大きく見せるために」

 俺は笑いながら言う。

「確かにそうだろうな。ただし、別に良いところばかりじゃないからさ」

 エヴァは、それを聞いて頷く。

「そうなの? なら、聞かせて貰おうじゃない。で、どんなご先祖様だったの」

「七人いるんだが、そうだな……順番に行こうか」

 そう言って、俺は初代の話をするのだった。





 ――宝玉内。

 三代目が悔しそうにしている。

『ライエルが、僕たちの物語を歌にしようとしている件について!』

 四代目は呆れつつも。

『別に歌にされてもいいのでは?』

 理解していない四代目に、三代目が怒鳴りつける。

『ライエルの気分次第で、僕たちの物語が決定してしまうじゃないか! 変な事が伝わって歌になったら、最悪だよ! 義将とか言われた僕の気持ちなんか、お前に分かってたまるかよ!』

 両手で頭を押さえて、暴れる三代目を周囲は呆れたように見ている。

 溜息を吐きながら、四代目が話をする。

『さて、それでは他に意見はないかな?』

 ライエルがセレスと戦うと選択したのは構わない。

 だが、その方法が未だに明確ではないのだ。

 五代目が正論を口にする。

『というか、現状を理解しないと対策と言われてもな……他国がどういう状況で、バンセイムとの関係とか色々とあるからな』

 六代目は。

『現状で取れる手段は、情報を集めつつ資金稼ぎとライエルたちを鍛える事でしょうな』

 七代目が頷きながら。

『セレス個人と戦うためには、影響を受けにくい女性で固めた精鋭部隊が必要でしょうね』

 兵士を集めて軍を用意する。

 もしくは巨大な傭兵団を組織してバンセイムに挑む。

 暗殺では、勝利してもライエルは表舞台に立てなくなる。

 四代目が役に立たない三代目を放置し、話を続ける事にした。

『今はその少数精鋭部隊という刃を磨くしかないとして、問題はどんな勝利を目指すべきか、だね』

 勝利後、ライエルをどうするのか?

 下手をすれば暗殺されかねない。

 何しろ、ライエルもセレスと同じウォルト家なのだから。

 五人の中で最終的に一番立場の高かった七代目が、色々と予想する。

『まずはライエルが先頭に立つのか、それとも立たないのかが重要です。先頭に立った場合、勝利後に隠居でもしようものなら国は割れて群雄割拠の戦国時代でしょうね。誰かを立てるにしても、それだけのカリスマを持ち大国を治められる人材をどう持ってくるか』

 ライエルはどう関わるのか。

 それによっても話は変わってくる。

 六代目は。

『最悪は勝利してもライエルに不満が集まり、そのまま暗殺か……』

 不満そうな五代目は、天井を見上げながら言う。

『誰かを持ってくるのも大変だぞ。そいつがセレスに魅了されない保証はない。同性にしたとして、バンセイムはセレスに苦しめられた後に女王を容認すると思うか?』

 四代目が意見をまとめる。

『今はライエルたちに、戦えるだけの実力を付けさせますか。まぁ、今のままでは戦う場も用意出来ませんけど』

 問題は山積みだった。

 だが、全てはライエルが決めたことである。

 五代目は――。

『ライエルを鍛える必要があるな。今までのようにスキルだけを教え込んでもセレスに勝てるとは思えない。誰かが鍛えてやる必要がある』

 六代目が、頷きつつ。

『そうでしょうね。つまり――』

 三代目が急に会話に割り込んできた。

『この中で一番強い奴が鍛えてやればいい、と。なら――』

 全員が頷きつつ。

『僕だね』
『俺でしょうね』
『俺か』
『俺ですね』
『わしですね』

 一瞬にしてその場が静寂に包まれると、全員が椅子から立ち上がって笑顔を向ける。

 三代目は。

『おいおい、僕がどれだけ戦ってきたと思うんだい? あのクズ野郎な王の下でいったいどれだけ戦わされてきたと?』

 眼鏡の位置を人差し指で整えながら、四代目は笑顔で。

『移動だけのスキル使いと思って貰うと困りますね。言っては悪いですけど、三代目にも他の当主にも負ける気がしませんよ』

 五代目は呆れたように首を振る。

『俺がどれだけ周囲から攻められ、それを耐えきって基礎を作ったと思っているんだ? 賊とか兵隊、傭兵……どれだけ潰してきたと?』

 六代目は周囲を威嚇するように笑っている。

『ウォルト家を拡大したのは俺ですよ。言っては悪いですが、父である五代目にも負ける気がしませんね』

 七代目――。

『バンセイムを立て直すために幾度も戦場に参加し、そして勝利してきたわしが弱いわけがないでしょう。まぁ、ご先祖様たちは自分が強かったと思いたいだけでしょうが』

 乾いた笑い声がその場に響き、そして五代目が口を開くとそのまま――。

『ふざけんな! 家出小僧は黙ってろ! 最後まで俺に勝てなかっただろうが!』
『年寄りに本気など出せなかっただけだ! いつまでも家出のことを持ち出して……やるかこの野郎!』
『僕に勝てると? 冗談はそれぐらいにして欲しいね』
『まったくです。まぁ、四代目は文官向きでしょうから、武人の気持ちは理解出来ないでしょうね』
『ハハハ、その程度で武人気取りかな? 俺が机の上だけで戦ってきたとか本当に思っているの? そうやって認識が甘いから、セレスが黄色い宝玉を手にしたんじゃないかな?』
『言わせておけば、この眼鏡野郎!』
『眼鏡を馬鹿にするな!』


『『『俺(僕)(わし)がこの中で一番強い!!』』』


 宝玉内で騒ぎ出す一同のところに、ライエルが出現する。

 移動中にする事がないのか、宝玉内に現われたようだ。

「何を騒いでいるんですか? というか、外まで声が聞こえてきたんですけど」

 呆れるライエルを前に、三代目がエヴァのことで色々と言いたいのを我慢しながら現状を説明する。

『いやね、こいつらが、誰が強いとか言いだしてさ。ライエルなら分かるよね?』

 七代目は、孫であるライエルに。

『わしの実力をみなに教えてあげなさい、ライエル。そもそも、魔法が使えるようになったのは五代目から。わしの代でようやく形になったのを考えれば、実力などハッキリしているでしょうに』

 呆れつつライエルをチラチラ見て、周囲に誰がこの中で一番強いのかを示したい七代目。

 だが、ライエルは腕を組んで――。

「なんでそんな話になっているんです?」

 四代目は咳払いをしてから、説明する。

『何、ライエルを鍛えるなら強い奴が、って事になってね。ほら、それなら俺だろ、って勘違いした連中が多くてさ』

 笑いながら周囲を見る四代目を、ライエルは見ながら頷いていた。

 六代目も。

『分かるだろ、ライエル……さぁ、誰が強いのか言ってみなさい』

 五代目も。

『そうだ、誰が強いのか分かるだろ、ライエル』

 ライエルは何度も頷いて、そして笑顔で答える。

「じゃあ、全員を倒せば良いんですよね。なんだ、簡単な話じゃないですか。俺が全員と戦えば解決ですよ」

 その場の空気が一気に冷め、歴代当主が目配せしてライエルを囲む。

 三代目はライエルの右肩に手を置き。

 四代目はライエルの目の前に立ち。

 五代目はライエルの左肩に手を置き。

 六代目と七代目は後ろに回り込む。

「え? あの……」

 三代目が笑顔で。

『そうか。そんな風に軽く思っていたのか……まぁ、確かにセレスよりは弱いだろうね。けど』

 四代目は。

『舐めすぎだよ、ライエル』

 五代目が手に力を込めると、ライエルが痛がる。

『そうだな。いい機会だから教えてやるべきだ』

 六代目が笑いながら。

『では行こうか。俺たちが鍛えてやる』

「え、その……七代目!」

 祖父である七代目に助けを求めるライエルだが、本人は笑顔で。

『心配するな。ここでは傷を負ってもすぐに治る。胸を貫かれても現実では無傷……さぁ、久しぶりに鍛えてやろう』

 笑顔だが、目だけは笑っていなかった。

「え、でも、結果的にそういう事ですよね! 間違っていませんよね! ねぇ、ちょっと!」

 騒ぐライエルをみなで担ぎ、四代目が先導してドアの一つに入っていく。

『心配しないでいいよ。みんなと戦って貰うから。きっと楽しいぞ、アハハハ!』

「い、嫌だぁぁぁ!!」

 ドアの向こうに連れ去られていくライエルの悲鳴は、ドアが閉じると聞こえなくなるのだった――。
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