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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元不良な六代目

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狂える都

 王都セントラルの王宮前の広間には、沢山の人々が集まっていた。

 俺の周囲にいる住人たちに、この日のために遠くから来たバンセイムの民たちも目を輝かせている。

 ローブを纏ってフードをかぶっている俺を、誰も不審がらない。

 俺の隣ではフードを脱ぎながら、ピンク色の髪を軽く振って素顔を晒すリアーヌの姿があった。

「馬鹿らしい。お忍びなど意味がありませんね」

 俺もフードを取ると、同じようにノウェムもフードを取る。

 モニカだけはいつも通りメイド服だ。

 周囲をスキルで確認するが、敵意を向けている者がいない。いないというか、俺たちを誰も意識していないのだ。

「それにしても、王女殿下がこんなところに来て良かったんですか?」

 俺の質問に、リアーヌは鼻で笑う。

「歴史の立会人に憧れない? あの時、あの場所に私もいたのだと……後世に伝えたいの。バンセイムの落日はここから始まる、とね」

 俺は王宮のバルコニーを見た。

 朝早くから並んでみたのだが、それでも俺たちの前には結構な数の人たちが並んでいる。

 近くでは大道芸人や歌い手に一座が、芸を披露してお金を稼いでいる。

 屋台も並び、まるで祭りのようだった。

「……ノウェム、アリアたちとはどうなった」

 俺がそう言うと、ノウェムは首を横に振るのだった。

「未だに会話も出来ていません。私がしたことを考えれば当然だと思っています」

「そうか」

 俺はノウェムの顔を見なかった。

 俺のために集めた駒。

 それがアリアたちである。

 セレスに抵抗出来るという事は、魅了されて俺を裏切らないという事だ。

 駒扱いは酷いとも思ったが、確かに苦楽をともにした仲間がセレスに付き従う姿は見ていて気分の良いものではない。

「お前も俺がセレスに挑むと思っていたのか?」

 周囲はセレスの登場を待ちわび、俺たちになど興味がなさそうだった。

 ノウェムは俺に言う。

「挑むと確信はしておりませんでした。ただ、今後を思えば、ライエル様を裏切らない素質のある者が側にいる方が宜しいかと」

 どう転んでも良かったのだろう。

 セレスに挑もうが、逃げ出そうが、ノウェムは準備だけは進めようとしていた。

 モニカが俺たちに告げる。

「王宮内で動きがあります。出て来ますね」

 俺たちよりも遠くのものが見えているモニカの言葉通りに、バルコニーのドアが開けられそこに騎士たちが出て来た。

 その後ろからは高官や王、王妃、そして王太子である【ルーファス・バンセイム】の姿があった。

 赤く癖のある髪を短くしており、今日のために用意したのか白い服と金や銀に宝石をちりばめた数々の装飾品。

 そんな王太子の手を取って登場するのは、白いドレスにこれでもかと王太子以上に装飾を施したセレスの登場だった。

 周囲の歓声は、セレスの登場に合わせてのものである。

(凄く五月蝿いな)

 手を振るセレスを見て、失神するものたちまで出現していた。

 周囲の歓声が落ち着くまで、しばらく手でも振るつもりだろう。セレスは穏やかな表情をして、本当に美しいと思えた。

(中身は酷いんだけどね)

 レイピアを、わざわざ杖に見えるような鞘に収めて持ち込んでいる。

 隣に立つリアーヌを見れば……。

「本当に幸せそうにして……」

 無表情で王太子を見ていた。

 そして、俺はセレスの近くに立つ両親を見る。

 とても嬉しそうにしていた。

 宝玉内から声が聞こえてくる。

 三代目はイライラしながら。

『あのクソ野郎にソックリな王太子か……これはきっと、心置きなくやれ、っていう女神のお告げだよね』

 確かに、遠くからだが以前見た三代目の記憶に出て来た王に似ていた。

 四代目は衣装を見ているようだ。

『ゴテゴテしすぎだよね。悪趣味だな……きっと結婚式とか金かけるんだろうね。勿体ねー』

 五代目は周囲の歓声を聞きながら。

『ここまで熱狂するかね? ファンバイユと戦争するかも知れないのに。臨時で税を徴収されるぞ。結婚式に代替わりと戦争……笑っていられないと思うけどな』

 理由を付けて税を引き上げられ、臨時徴収を行なう事は多い。

 それは王都であるセントラルでも同じだろう。

 六代目がセレスの側にいる俺の父【マイゼル】を見ていた。

『あの潔癖のマイゼルがこうなるのか』

 父は、六代目の黒いイメージを嫌っていた。

 陞爵のために賄賂を送り、そして王宮の言いなりに動いていたのを嫌っていたのだ。何より、六代目は同じバンセイムの貴族や領主たちと戦争が多かったのも、嫌う理由だったようだ。

 孫に嫌われた六代目は、少し悲しそうだ。

 七代目は。

『……馬鹿息子が。クレアまでセレスの言いなりになりおって』

 怪物セレスの実力を実感した七代目は、一方的に父や母を責められなくなっていた。

 四六時中一緒ではなくとも、家族としてセレスとふれあう機会は他者よりも多かった。

 寄り添って嬉しそうにセレスを見守る二人を見ている俺に、三代目が言う。

『ライエル、分かっているね? 戦うということは……』

 俺は三代目の言葉を聞き終わる前に、宝玉を握りしめて肯定の意志を示した。

 周囲が落ち着きを取り戻すと、王の言葉が聞こえてくる。

 正式にセレスとの婚約を伝える言葉だ。

 そして、王太子が民衆の前に出て挨拶をした。

 無難な挨拶だったが、それを聞いていたリアーヌは俯いていた。

 涙を流しているので、背中に手を回して泣き崩れないように支える。

 そして、セレスの番が回ってきた。

 その声は透き通り、遠くまで聞こえただろう。

「私の民たちよ。喜びなさい」

 尊大な物言いなのだが、周囲は歓声を上げる。

「今日この日、バンセイムは私のものになった。さぁ、喜びなさい、貴族たち!」

 王宮の庭に並んだ法衣貴族、騎士、そして各地から集まった領主貴族たちが並んで拍手をしている。

 セレスの周りでは、王や王妃、そして王太子に大臣たちまでもが拍手をしている。

「狂っているな」

 狂っていても、それを誰もが当然と思っているようだった。

 俺ですら、自分の方が異常なのかと疑ってしまう程に。

「これよりバンセイムは更に発展するわ! でも……」

 セレスは少し悲しい表情になる。

 だが、顔を上げると笑顔になり――。

「私に逆らう国内の貴族たちがいる! 従わない連中がまだバンセイムにいるわ! それって許せない事よね!」

 両手を広げたセレスに、民衆も怒りの声を上げた――。

 ――セレスに従わない貴族たちに、である。

「さぁ、戦争の準備をしましょう。バンセイムが私一色に染まった時……私が貴方たちの王妃になってあげる」

 拍手、歓声、そして泣いて喜ぶ声――。

 俺は宝玉を握りしめながら言うのだ。

「初代……確かにこれは異常ですよ」

 傾国の美女。

 後からすれば理由があり、一つの要因でしかないとされた【アグリッサ】。

 だが、セレスを見れば理解出来る。

 かつてこんな存在がいたなら、確かに怪物は存在し、この後も続々と出現するのだろうと。

 俺は立ち向かうべきバンセイムの姿を目に焼き付ける。

 そして、こちらに気が付いたセレスが手を振ってきた。

 俺の周囲では感激して泣き始める者が出始めた。

 モニカは。

「……理解出来ませんね」

 俺は笑いながら。

「俺はお前の方が理解出来ないけどな。ただ、これでもう思い残す事もないな」

 五代目が、俺に言うのだ。

『まだ引き返せるぞ。今のあいつらを止めるという事は――』

 俺は宝玉を指先で転がして否定を示す。

 そして、こちらを向くセレスに笑顔を向けた。

「そこで待っていろ。必ずお前を止めてやる」

 狂ったような歓声の中で、俺はそれを心に誓うのだった。





 広間での重大発表とは、王太子とセレスとの婚約発表だった。

 ファンバイユへの謝罪など一切なく、屋敷では待機を命じられた騎士や兵士、そして使用人たちが怒りをあらわにしている。

 そんな屋敷の中。

 与えられた部屋で俺は意外な人物の来訪を受けていた。

 いや、意外というよりも――。

「正気ですか? 遊びじゃないんだけどね」

 銀色のプレートを持ってきたのは、歌い手のエヴァである。

 薄いピンク色の髪をかき上げ、堂々としていた。

「当然よ! あのセレス、ってお姫様に挑むんでしょ? きっとこれは英雄譚になる。私はライエルの側でそれを見て、聞いて、記憶する。いつか歌にして、世界中に広げてみせるわ。もちろん、私の名前付きでね」

 冒険者登録を行なったエヴァは、俺にギルドカードを差し出してきたのだ。

 最近の稼ぎを全てつぎ込んで、冒険者になったのだろう。

 登録するにも金がかかる。

 通常は登録後の稼ぎから差し引かれるのだ。

 冒険者登録を行なった頃を懐かしみつつ、俺はエヴァの顔を見る。

 そして、エヴァは。

「それに、ライエルが言ったんでしょ……俺の英雄譚を語り継げ、って」

 今にして思えば、語り継げと言うより歌えとかそういう言い方の方が良かったのではないか?

 などとどうでも良いことや、恥ずかしい過去を思い出して頭を抱えたくなった。

 ノウェムは、エヴァに確認を取る。

「宜しいのですか? 危険な旅になりますよ」

「平気よ。これでも旅もしていたし、移動しながら生活してきたのよ。戦い方もしっているからね」

 確かに、下手な冒険者などよりよっぽど頼りになるだろう。

 セレスに近づき、魅了されなかったのも重要だ。

「……パーティーに参加すれば、これからは予定に合わせて貰う必要も出てくるぞ。歌だって好きな時に歌えないかもしれない」

「旅をしつつ歌や物語を集め、メインの英雄譚を間近で見られる! それくらい我慢するわよ。こっちも人生かけるんだから、しっかりして貰う方がありがたいわよ」

 ノウェムは苦笑いをしていた。

「ライエル様、ウォルト家の家訓で言えば十分に合格かと思います。私も反対はいたしません」

(……家訓とか、もうどうでもいいんだけど)

 家訓が出来た理由は、初代が初恋に破れて結婚したくないとか言いだしたためだ。

 結婚したくないが、領主になったので周りがそれを認めなかったのである。

 だから、嫁取りの家訓をその場で宣言した。その場所とは宴会の場である。

 酒を飲みながら考えた言い訳が、二百年以上も厳格に守られてきた。

(歴史があると、なんでも重みを感じるのか……)

 歴代当主からして見れば、迷惑以外の何ものでもなかったこの家訓。

 それを律儀に守ろうとしているのが、ノウェムである。

「え? なに? 家訓とかあるの? それ聞きたい!」

 嬉しそうにするエヴァに、俺はいつか教えると言って二枚の内、一枚のギルドカードを預かるのだった。

 部屋にノック音がすると、モニカがドアを開ける。

「おや、アリアさんじゃないですか。お別れを言いに来たんですか?」

「なんでお前は俺も含めて煽るんだよ。よぅ、決まったか?」

 俺はアリアにそうたずねるが、アリアは無言でギルドカードをテーブルに叩き付けて部屋を出て行ってしまった。

 ノウェムが、唖然としている俺たちの中でボソリと。

「アリアさんも参加ですね」

 すると、次はクラーラが部屋にやってくる。

「……アリアさんはどうしたんですか?」

 俺は簡単に説明することにした。

「いや、なんか無言で出て行った。たぶん参加すると思うんだけど……クラーラはどうするんだ」

 すると、クラーラも俺にギルドカードを預けてくる。

「……いいのか?」

「色々と考えましたが、アラムサースはバンセイムにあります。あそこにはまだ読んだことがない本が沢山あるんですよね」

 そんな理由で参加するのか、そう思ったが俺はギルドカードを受け取る。

「手を出さないかも知れないぞ。もしくは、間に合わないかも知れない」

 俺の言葉に、クラーラは。

「何もしないよりは良いと思っていますから」

 そう言って部屋を出て行くのだった。

 そして、クラーラが部屋を出るのを見計らって、ミランダがシャノンを連れて部屋に入って来た。

 テーブルの上に置かれたギルドカードと、部屋の中にいるエヴァを見て溜息を吐く。

「私たちが最後? というか、あんた……盗み聞きとかしていたわよね」

 エヴァはそう言われると舌を出して。

「ごめんね。でも、凄く面白そうだったから。それに、もう許可は貰っているからね。家訓? とかいうのにも合格したから!」

 胸を張るエヴァを、シャノンが呆れる。

「それ、嫁取りの家訓だからね。というか、私の気持ちとか考慮されないんだけど……ねぇ、これって酷いわよね」

 シャノンが俺に助けを求めてくると、ミランダが笑顔で。

「あんた、一人でセレスから逃げられるならそうしなさい。恨まれているみたいだから、きっと丁寧に歓迎してくれるわよ」

 「ヒッ!」と言いながらシャノンは自分のギルドカードをテーブルに置いた。

 ミランダもテーブルにギルドカードを置くが、ノウェムを見ようともしない。

「……参加するなら、パーティー間の不和は困るんだが?」

 俺の言葉に、ミランダは。

「仕事はちゃんとするわ。命令なら仲良くするわよ」

 俺は首を横に振る。

「問題を起こすなよ」

「善処するわよ。ほら、シャノンも行くわよ」

「分かったから髪を引っ張らないで!」

 二人が出て行くと、ノウェムが笑顔で。

「全員参加、ですね」

 俺は少し呆れつつ。

「そうだな。予想外だ」

 すると、モニカがヤレヤレと言った感じで。

「一人増えましたけどね。ヤレヤレ、食料の調達を再計算して買い出しに行かないと」

 ヤレヤレと言いつつ、嬉しそうに見えるのは気のせいではないだろう。

 エヴァは。

「ねぇ、嫁取りの家訓って何よ。あの、結婚するつもりとかないんですけど。ねぇ!」

 慌てるエヴァに、ノウェムが言う。

「大丈夫です。時間はあるのでゆっくりとお互いを知れば――」

「おい、ハーレムとか増やすなよ。もう仲間で良いだろうが!」

 ハーレム拡大を進めるノウェムに、俺は釘を刺す。

 四代目が、これまでの流れを見て。

『全員参加、か。良かったね、ライエル』

 俺は、四代目の言葉に俯いて苦笑いをするのだった。

(いや、本当に……解散しても仕方ないと思ったんだけど。まぁ、嬉しくはあるんだが)

 ただ、これからの事を考えれば、喜んでばかりもいられなかった。
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