挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元不良な六代目

89/345

再会

 雪が降り積もる中、俺はサーベルを持って構えていた。

 相手をする五人を警戒するのだが、スキルで動きが鈍くなっているのに退こうともしない。

 それどころか――。

「支援系のスキルか。実に地味だな。お前には相応しいんじゃないか、ライエル」

 笑みを浮かべて挑発する相手は、俺に似た構えをしている。

 同門なので基本は一緒なのだ。

 白い息を吐きながら、スキルで周囲を確認する。

 誰が仕掛けてくるのか、そして誰が誰を狙っているのか。

 こちらが戦闘に集中すれば、即座に俺の後ろにいるシャノンとエヴァを守るような位置で戦う必要もあった。

 相手を軽い怪我で倒れさせようと思ったが、見通しが甘かった。

(ウォルト家の騎士や兵士が、ここまで厄介だなんて)

 俺の動きを見て、牽制までかける兵士たちは真剣な表情をしている。

 魔法を一回当てたのだが、すぐに立ち上がってくるだけのタフさもあった。

 五代目が、俺に指示を出してくる。

『ここで殺すと厄介なんだよな。出来れば避けたいんだが……まさか、こんな場所で出くわすとは思わなかった。しかも攻撃的ときたもんだ。ライエル、加減をすればこいつらは隙を突いてくる。お前も殺すつもりで戦え』

 殺せば、相手と敵対したことになる。

 馬鹿にされる程度は覚悟していたが、まさか兄弟子であるアルフレートと出くわすとは思ってもいなかった。

 三代目が言う。

『代々しっかり鍛えてきたウォルト家の兵士が敵とは、本当に厄介だよね』

 俺の真後ろにいた兵士が、一歩踏み出したので俺は反応する。

 その隙を突いて、アルフレートが踏み込んできた。

 突きを連続で急所に向けて放たれる攻撃は、以前よりも鋭さが増している。

 サーベルで弾き、そして避けると後ろから斬りかかる兵士を二代目のスキルで感知すると、そのまま後ろに飛んで左手で腰の短剣を引き抜いて見ないまま突き刺す。

 場所は太もも。

 深く刺すと相手がうめき声を上げたので、そのまま右肘を相手の顔面に撃ち込む。

 体が開いた形になると、アルフレートが踏み込んできたので雪を足ですくい上げて目つぶしにする。

 相手の攻撃が少しズレると、短剣でサーベルを弾いた。

 すぐに他の兵士を警戒すると、アルフレートが距離を取って呪文を口にしだす。

「魔法は相変わらずのようですね。ファイヤーバレット!」

 威力は低いが即効性のある魔法を周囲にばらまくと、スキルで狙いを定めているのでアルフレートや兵士たちに襲いかかる。

 魔法に当たって火達磨になる兵士たちは、そのまま地面の雪で火を消すとすぐに立ち上がって距離を取る。

 一人は太ももから血を流していた。

 ただ、アルフレートに放った火球だけは、本人の前で止まっている。

 そのままアルフレートの前で消えた。

(なんだ? まるで握りつぶされたような)

 アルフレートは、面白くなさそうにしていた。

「一人脱落か。それにスキルを使わせたのは褒めてやろう。馬鹿みたいに剣を振り回していただけはある」

 サーベルを目の前で振ると、アルフレートは構え直した。

 倒れた一人が太ももを押さえると、布できつくしばって応急処置をして俺から這うように距離を取っていた。

 流れた血の量から考えるに、もう戦闘に参加するのは難しいだろう。

(警戒はしておくか)

 後ろではシャノンが。

「逃げないと! ライエル、すぐにここから逃げないと!」

「分かっている!」

 怒鳴ると、兵士二人が俺に斬りかかる。残る一人は味方の回収に向かうと、俺は短剣を投げつけた。

 一人は右肩に深く突き刺さり、もう一人はサーベルで腕を斬りつける。

 六代目が叫んだ。

『ライエル、本気でやれ!』

 ビクリと体が反応すると、急に右腕を握られたような感触が――。

「なんだ!?」

 振りほどこうとするが、力が強く振りほどけない。

 二代目のスキルでは、何かが絡みついているように感じられた。

 そうしていると、アルフレートが斬り込んできた。

 すぐに蹴りを放つと、アルフレートの腹に渾身の一撃が入る。

 口を開いた唾が飛ぶ。

「こ、この!」

 足を掴まれると、距離が近くなってサーベルでは戦いにくかったのか、腰に下げた短剣を抜くのだった。

「待っていたよ」

 アルフレートに足を掴まれた俺は、もう片方の足で地面を蹴り上げてそのままアルフレートのアゴに蹴りを放った。

 腕を掴まれた感覚がなくなると、そのまま空中で一回転をして地面に着地する。

 落ちてきた短剣を左手で回収し、俺は仰向けに倒れて鼻血を出すアルフレートを見下ろす。

 俺の手に握られた短剣を見て、アルフレートが叫ぶ。

「か、返せ! それはセレス様から頂いたものだ! 貴様が触るな!」

「これはお前が持つ物じゃないんだよ」

 アルフレートが落としたサーベルを蹴り飛ばし、俺は怪我をした仲間を治療する兵士を一度睨み付ける。

 こちらを悔しそうな目で見ている。怪我をした連中も同じだ。

 戦意が喪失していない。

 すると、シャノンが叫んだ。

「ライエル、あいつ沢山の手を持ってる! スキルよ! 背中から四本生えた!」

 シャノンに言われ、俺はアルフレートを見た。

 腕が生えたと言われたが、アルフレートは立ち上がっただけだ。しかし、地面には何もないのに踏みしめたような――いや、手で押さえつけたような跡が出来ていた。

 人の掌の倍近いそれは、この場にいる誰の手よりも大きかった。

 四代目が言う。

『見えない手、という事かな? スキル持ちか』

 七代目が、思い出したように。

『バーデン家は、そう言えば不思議なスキルを発生させてきた家ですね。必要があってそうしたのか……そう言えば、裏組織でしたね。見えない手は、色んな場所で必要だったんでしょう』

 いかさまか、それとも暗殺か……汚れ仕事をするのに、活躍しそうなスキルではある。

 左手で顔を押さえたアルフレートは、右手を横に伸ばす。

 落ちたサーベルがゆっくりと宙に浮いて、アルフレートの手に戻った。

 シャノンは震えながら。

「あいつ、背中に四本も腕をはやして、自由に扱ってる……」

 俺には見えないが、シャノンには見えているのだろう。

 アルフレートがシャノンを見ながら。

「貴様の目は特別か? なら、セレス様にお届けしないと……ライエル、貴様の首は貰っていくぞ。斬り刻んで、骨を砕いて……」

 アルフレートが俺を見る目は、既に腐っていた。

 以前――。

 兄弟子であった頃。

 最初の頃は、優しく強い人だった。

 気さくに声をかけてきてくれて、色々と教えてくれた。

 それが、今では醜く笑っている。

「セレスか……セレスがそうさせたのか!」

 声に出た俺の気持ちに、アルフレートは見えない手で応える。

 見えはしないが、俺もスキル持ちだ。

 二代目のスキルが、相手の動きを知らせてくれる。

 曖昧にしか分からなかった魔力の塊が、シャノンの助言で腕と認識することが出来た。

 降っている雪が、見えない手によって吹き飛ばされていく。

 しかし――。

「理解してしまえば楽だな……アースハンド!」

 雪の下から茶色の腕が出現すると、そのままアルフレートがスキルで生み出した腕と掴み合う。

 ギチギチと音が聞こえてくるが、アルフレートは苦しんでいた。

「この……出来損ないがあぁぁぁ!!」

 アースハンドと見えない腕の間を走り、アルフレートにサーベルを突き刺す。

 すると――。

「ライエル、そいつの体が腕に守られて!」

 シャノンが言うと、俺はサーベルを放して距離を取った。

 狙った場所から外れたが、アルフレートの左腕には刃が刺さり、血が流れている。

 シャノンは気持ち悪そうに、俺にアルフレートの体がどうなっているのかを説明する。

「沢山の腕が体中から生えて、まるで鎧みたいに守ってる。しかもウネウネ動いて、指がワキワキ動いて……」

 エヴァはそれを聞いて。

「何ソレ……気持ち悪い」

 俺も同じ感想を持った。

 しかし、アルフレートは左手を振ると俺のサーベルが引き抜かれてそのまま宙に浮く。

「お、重い。こんな武器を使っていたのか」

 使おうとしたようだが、思っていたよりも重いのか捨ててしまっていた。

 三代目が納得したように。

『そこまで力が出ないみたいだね。スキルはどれも厄介だけど、これは戦闘と言うよりもいかさまで使うようなスキルかな。もしくは盗みとか?』

 五代目も。

『器用さもない。力もない。スキルの応用まで発現しているが、タネが分かるとこの程度だな』

 分かっていなければ怖かったが、シャノンのおかげでもある。

 同時に、俺はアルフレートへの対策が思い浮かんだ。

 形勢は一気にこちらが有利になっていた。

 アルフレートは俺の短剣をチラチラ見ており、集中出来ていなかった。きっと、取り戻すことを必死で考えているのだろう。

(宝玉を盗られていたら、危なかったか?)

 魔法で一気に仕留めようとすると、通りの先に一台の馬車が止まった。





 ――ノウェムは、帰りが遅いライエルを心配していた。

 宿屋の一階で待っているのだが、帰ってくる気配がないのだ。

「遅いですね。もうすぐ夕食なんですけど」

 頬に手を当てて溜息を吐くノウェムに、アリアはビーフジャーキーを噛みながら呆れたように言うのだ。

「子供じゃないんだから、帰ってくるでしょ」

 同じテーブルで、向かい合うように座っているミランダがアリアを見て溜息を吐く。

「あんた、同じものばかり食べて飽きないの? それから、少しは心配しなさいよ。ライエルの家族も王都にいるらしいし」

 アリアは自慢気に言うのだ。

「どこのビーフジャーキーが美味しいか食べ比べているだけでしょ。それに、出くわしそうな場所に行かなければいいじゃない。会おうと思って会える相手でもないのよ」

 モニカは、皆の近くで椅子に座らず立っている。

 アリアの態度が気に入らないのか、ボソリと。

「出会った当初よりもプラス二キロですね」

 アリアがモニカを睨み付けると、知らん顔をする。

 本を読んでいたクラーラは、モニカを見て。

「モニカさんは本当に色々と凄いですよね。どうやって体重を計算したんです?」

 モニカは、クラーラに計算方法を教えるが、アリアは出鱈目だと言って騒いでいた。

 ノウェムはライエルたちの帰りを待っていると、宿屋に人が入ってきた。

「いや~、参ったよ」

 宿屋の主人に参った、などと言う客はそのまま代金を払っていた。常連なのか、主人もなれたような感じで相手をしている。

「何かあったんですか?」

「喧嘩だよ。喧嘩。騎士と冒険者が斬り合っているとか、五対一だとか色々と騒がしかったんだが――」

 ノウェムは立ち上がると、すぐにその客に詰め寄った。

「失礼します。今の話はどこで起きたことですか?」

 相手の男性は、ノウェムが近づくと距離を取った。

 怖いと言うよりも、ノウェムの真剣な表情や雰囲気に圧倒されているようだ。

「表通りではなく、裏通りの方だ。歌い手が多いところで、どうしてあんな場所で喧嘩をしているのか不思議だったんだが……知り合いなのかい?」

 それを聞くと、ノウェムは飛び出してしまう。

 宿屋のドアから走り出すと、その後を慌ててアリアたちが追うのだった――。





 雪が降る中。

 白くフワフワしたコートを着たセレスが、地面を踏みしめて俺の前に現われた。

 手に入れたスキルが、最大限の警戒を俺に伝えてくる。

 ご先祖様たちのスキルを手に入れた今の俺には、セレスの異常さが理解出来た。

 俺の後ろで、エヴァに抱かれて震えているシャノンも理解出来ているのだろう。

「お前は誰だ」

 短剣を構えると、自分が震えているのが理解出来た。

 震えが止まらない。

 以前よりも、セレスという存在を理解出来るようになった。だが、それによって以前感じていたもの以上の恐怖を俺に植え付ける。

 エヴァが、呟く。

「人じゃない。何よ、どういう事よ……」

 セレスは金色の美しい髪をかき上げると、芝居の台詞でも読み上げるように悲しそうに。

「せっかく再会した妹に、そんな言い方はないんじゃない? 悲しいわ。本当に悲しい……それに、話題のエルフの歌い手がいると聞いて足を運んだら、まさか家を追い出された奴に出会うなんてね。生きていたの? 死ねば良かったのに」

 最後の方はクスクス笑い、可愛らしい表情で俺に死ね、などと言ってきた。

 アルフレートや兵士たちが、急いでセレスの下に集まる。

 怪我をしているのに、無理をしてセレスの側に向かう、セレスの側にいた騎士たちが睨み付けていた。

「満足にお使いも果たせないのか、このウォルト家の面汚し共が!」

 かつては騎士として尊敬していた家臣の一人は、怪我をした兵士たちに罵声を浴びせていた。

 七代目がセレスを見て。

『どういう事だ。これがセレスなのか……別人ではないか!』

 三代目は、セレスを見ていつもの余裕がなくなっていた。

『ライエル、スキルを全力で使用してこの場から逃げられるかい? 二人を連れて、すぐにでも逃げ出すんだ』

 以前。

 俺は家から追い出されまいと、セレスに挑んだ。

 今では成長を三回も経験し、以前と比べると肉体的な強さも魔力的な強さも増している。だが、勝てるイメージがわいてこなかった。

 俺よりも小柄で、華奢なセレス。

 細い手足や首は、繊細に扱わないと折れてしまいそうだ。

 無邪気に笑う笑顔は、以前よりも子供っぽさが抜けていた。

 唇を指でなぞると、そのまま近づいたアルフレートの唇に指をつける。

 その仕草が妖艶に見え、とても俺の二つ下とは思えなかった。

 外に出たから分かる。

 セレスは人ではないのだと――。

 セレスは、微笑みながらアルフレートに言うのだ。

「アルフレート、今までご苦労様」

「セレス様、私は……え?」

 シャノンは「ヒッ!」と小さい悲鳴を上げ、エヴァも視線を逸らしていた。

 いつの間に抜いたのか、柄に黄色い玉を埋め込んだレイピアがセレスの手に握られている。

 アルフレートが前のめりに倒れると、セレスのレイピアには血がついていた。

 倒れたアルフレートの地面の雪が、赤くなっている。

 アルフレートの顔はこちらを向いていたのだが、俺など眼中になかった。ただ、セレスを見て微笑んでいる。

 そして、ゆっくりとセレスはレイピアを持ち上げる。

「拭いて」

「ただいま」

 騎士たちがレイピアについた血を拭き取るのだが、誰一人としてアルフレートを見ていない。

 怪我をした兵士たちも、セレスを見ているだけだった。

 そして、微笑みながらセレスが。

「う~ん、今日はアレの相手をするから、貴方たちは殺さないでいてあげる。だから、私のために働くのよ」

「はい!」
「この命に代えましても!」
「セレス様!」
「……セ、セレス様」

 俺が太ももを刺した兵士の一人が、苦しそうにしながらセレスを見ていた。

 すると――。

「あら、酷く青い顔をして。苦しいのね……さぁ」

 左手で怪我をした兵士の顔を出ると、そのままゴキリと骨の折れる音がその場に聞こえてくる。

 首を折られた兵士は、幸せそうな表情をしていた。

 周囲へと視線を向けると、野次馬が集まっていた。

 だが、誰もがセレスに見惚れている。

「なんで……」

 四代目が俺に言う。

『ライエル、あれがお前の妹か? 本当にあれは妹だったのか?』

 六代目も同じだった。

『初代が言っていた怪物……我々は本当の意味で理解していなかったようですね。アレは危険すぎます』

 普段はあまり弱気にならないご先祖様たちが、セレスを見て危機感を覚えて逃げるように言ってくる。

 五代目が、叫ぶ。

『来るぞ! 出し惜しみをするな!』

 次の瞬間、セレスは俺のすぐ側に来て俺の顔を見上げていた。

 距離を取ろうとすると、足を踏まれて後ろに下がれない。

 背筋がゾワゾワとして寒気が襲ってくる。

「ふ~ん、少しは強くなったのかしら? それにスキルが八つ……面白いわね。私の持つ宝玉より質が悪いけど。出来損ないには相応しい出来損ないの宝玉ね」

 質が悪い。そう言われた俺は、セレスを睨み付ける。

 馬鹿にされた気分だった。

 同時に。

(こいつ、スキルの数を把握しただと。それよりも“出来損ない”だと!)

 今まで積み重ねてきたものを――ご先祖様たちから受け継いだものを、全て馬鹿にされたような気分。

 セレスの眉がピクリと反応する。

「あら、怒ったの? やっぱり、あんたは嫌いよ。私を見て虜にならない……あ、そっちの子は確か」

 セレスが俺よりもシャノンに興味を持ったのか、即座に移動してシャノンの髪を掴みエヴァを放り投げる。

「キャッ!」

 アゴを掴んで持ち上げるセレスに、シャノンはジタバタと抵抗していた。

「離して! 離してよ!」

 セレスは笑顔で。

「冷たいわね。前に会った時はあんなに声をかけてくれたのに。もっとも、随分と見えるようになったのね。少しは成長した? あ、そうそう! 貴方のお姉さんはどこにいるのかしら? 綺麗なお姉さん。私、あんなお姉さんが欲しかったの。でも、今は貴方の目も気になるわ……ねぇ、それちょうだい」

「い、いや、いやぁぁぁ!!」

 シャノンが叫ぶと、ハッとした俺はセレスに手を伸ばす。

 すると、シャノンが投げつけられそのまま吹き飛んだ。

 セレスは俺とシャノンを見て、クスクスと笑っている。

 そして、倒れたエヴァの頭を踏みつけていた。

「は、離して……」

 軽く踏んでいるだけのように見えるが、セレスよりも体の大きなエヴァが必死にもがいても抜け出せないでいる。

「聞いていたよりも声がそこまで綺麗じゃないわね。私の方がまだマシよね?」

 そう言うと、周囲の騎士や兵士たちがセレスに肯定する。

「はい、セレス様の声はそこの野蛮なエルフより素晴らしいものです」
「比べるまでもありません」
「その声を聞けるだけで、騎士となって報われた気分です」

 セレスは口に手を当てて。

「そう、ありがとう。ま、これもいらないわね」

 そう言って俺の方にエヴァを蹴って飛ばしてきた。

 うめき声をあげるエヴァの腕は、大きく腫れていた。

「お前……なんのつもりだ。なんの権利があってこんな事を!」

 二人を地面において、俺は立ち上がった。

 周囲の殺気のこもった視線を感じるが、セレスは髪の毛を指先で遊ばせると少し考え込んでいた。

 視線が一度だけ、黄色い玉に向く。

「権利というか……私が全てを受け継いだからよ。分からないでしょうね。そう、きっとお前には理解出来ない」

 セレスの憎しみのこもった視線を受けて、俺は構えた。

 黄色というよりも、黄金色の宝玉が埋め込まれたレイピアを見て、七代目が言うのだ。

『あの玉……ゼノアのものか。わしの妻の宝玉を奪ったというのか! どういう事だ! あれは厳重に保管していたはず! マイゼルにも知らせていないのだぞ!』

 七代目が混乱しているが、宝玉の持ち主はお婆さまという事になる。

 俺は、以前七代目が言っていた言葉を思い出すのだった。

 傾国の美女であったアグリッサ――三百年以上前に、国を滅ぼした一族の末裔が祖母であるゼノアお婆さまだ。

「お婆さまの宝玉……」

 俺が呟くと、セレスは頬をピクリと動かした。

「知っていたの? やっぱりそうなんだ。だから嫌いなのよ……」

 セレスは俯いた後に顔を上げると、俺の首に下がっている青い宝玉を見た。

「それにしても、その青い玉はお爺様のものよね? どこで盗んだのかしら。ま、あっても誰も使わないだろうけど。あ、でも……あの老いぼれがいたわね」

 老いぼれと言われ、俺は助けてくれたゼルを思い出す。

 俺の反応を見て、セレスは面白そうに言うのだ。

「もう死んでいたわよ。邪魔だから小屋ごと燃やしちゃったけど」

 それを聞いた俺は、スキルを全力で使用するのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ