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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元不良な六代目

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四代目の記憶

 三代目に連れられて入った部屋で、俺は記憶を見ている。

 普段は飄々とした三代目が、どうして戦場で活躍したのかを知ることができた。

 五十名にも満たない兵士を引き連れ突撃をかける三代目は、スキルを使用する。

 周囲には数千の兵士が、三代目と共に――というよりも、目立つ恰好をした騎士に付き従っている。

 そんな中に、三代目たちは紛れ込んでいた。

「これは……」

 俺がその光景を見ていると、四代目が地面を見ていた。

『影すらも作り出したんですか?』

 すると、三代目が自慢気に胸を張るのだった。

『そうだよ。これが僕のスキル……最終形態【ドリーム】だ。現実と思えるような幻を見せるスキルだね。殺傷能力は……ないと思うかな?』

 そう言った三代目の顔を見て、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

「……以前読んだ本に、目隠しをした人にただの鉄を当てて火傷させるというのを読みました」

 すると、三代目は頷いていた。

『ま、極端な話だね。実際、成功するとは限らないし。それに……』

 戦っているレムラントの兵士たちが、幻だと気が付き始めていた。

『おい、こいつら幻だ!』
『どこかにスキルを使った奴がいるぞ!』
『怪我人はどこだ! スキル持ちはどうした!』

 敵の騎士や兵士たちが、幻だと気が付くとすぐに体勢を立て直し始めた。

 三代目は、そんな中で敵の総大将を発見すると剣を抜いていた。

 馬上から飛び上がり、そのまま剣を振り下ろしている。

 その様子を、俺の隣にいる三代目が説明してくれた。

『初代のスキル、二代目のスキル……どれも受け継いでいたんだ。口伝でね。何かに書き記すと怖いから。でも、それが仇になってね。相手が強かった。僕だと一撃では無理だったんだよ』

 斬りかかった三代目により、馬上から落ちる総大将は叫ぶ。

『卑怯な手を! バンセイムの腰抜け共が!』

『否定はしないけどね、それでも負けられないんだよ!』

 周囲に群がる精鋭を斬り伏せ、三代目が総大将と戦っていた。

 周囲に自分の幻を作り出し、そして翻弄して戦っている。

 俺は周囲を見て違和感に気が付く。

「レムラントの兵士たちが……」

 三代目は言う。

『味方同士で戦っている、だろ。これもスキルの【コントロール】おかげ』

 四代目が顔を手で押さえつつ。

『本当にえげつないですね』

 三代目は「仕方なかった」と呟く。

『使わなければ負けていたよ。使いたくなかったけど……戦場が僕の領地に近かったんだ。相手が勢いをそのままに攻め込めば、全てが蹂躙されていたからね』

 それだけの事を、当時のバンセイムは行なっていたのだ。

(正義のために戦ったとか、嘘だったわけだ)

 俺はどうしようもない気持ちになると、周囲の状況が変化する。

 次々と味方は討ち取られていく。

 元から数が違うのだ。それに、余裕のなくなった三代目が、幻を作れなくなっていた。

 そうして戦斧を振り下ろす敵の総大将の攻撃に、三代目の右腕が空を舞った。

 だが――。

「いや、幻?」

 三代目は真面目な顔で。

『そういう使い方もあるね』

 すると、敵の総大将の胸に三代目の剣が深々と刺さるのだった。

 周囲の敵意が三代目に集まる。

 魔力が尽きたのか、三代目がフラフラとしていた。

 もう、このままでは討ち取られるだけだ。

 総大将が討ち取られたレムラント軍が、混乱し始める。

 そんな時だ。

『坊ちゃん!』

 血だらけの兵士数名が、馬を引いて三代目のところに駆け寄ってきた。そして、無理矢理三代目を馬に乗せると。

『行ってください!』

『……あぁ』

 うつろな表情をした三代目が、最後の力を振り絞って幻で敵を翻弄する。魔法が幻に降りかかり、矢が幻を貫く。

 そして、三代目を逃がした兵士たちは――。

「どうして……あんなに、二代目の時は」

 笑いながら死んでいた。

 三代目が言う。

『ライエル、彼らは僕のために死んだんじゃない。僕が治めている領地のため、自分たちの故郷のために死んだんだ。個人的に彼には理由があるだろうが、それでも僕を助けるのは領地のためになるからさ』

 冷めた意見だと思っていると、周囲で囲んでいたバンセイムの軍団がレムラントの軍を囲んでいく。

 三代目は、そんな光景を見て拳を握っていた。力を入れて強く握りしめている。

 未だに納得がいかないようだ。

(だからあんなに嫌って……)

 正面からも、立て直しが出来た本陣が騎馬を中心に突撃させていた。

 魔法がレムラントの兵士たちを襲うと、陣が乱れてまともに動けないようだ。

 そのまま包囲され、レムラント軍は壊滅的な打撃を受けた。

 そうして場面が変わると、そこはウォルト家の陣だった。

 戦争から時間が経っているようだ。

 横になる三代目は、矢や魔法を受けてボロボロだった。

 貴族や王がテントに入ってきては、まともに返事を出来ない三代目にお礼を言っていく。

 三代目は自分の姿を見ながら。

『休ませて欲しいよね。まったく……』

 呆れたようにしている。

 四代目はテントの入口を見ていた。

 そうして、三代目が最期の時が近づくと……。

『父さん!』

 十代の四代目がテントに入ってきた。

『……マークス……ごめんな。本当に……ごめん……これを……』

 三代目が手渡した青い玉を受け取ると、肩で息をした四代目が泣きながら握りしめる。そして、三代目は動かなくなった。

 そこで周囲の風景が灰色に染まると、三代目が言う。

『あいつのためになんか死んでない。僕は自分の領地を守るために、他を犠牲にして戦争に勝つ最善策を実行したんだ。他の人では無理だったのは分かっていたからね。だまし討ち出来るのが僕だけだったんだよ』

 おどけて言う三代目に、四代目は何か言いたそうにしていた。

 三代目は言う。

『さて、僕の話は終りだ。綺麗事じゃないのは理解出来たかな? そして、僕が守りたかったのは……はぁ、もういいか。十分に理解出来ただろうし』

 そう言って俺たちは丸いテーブルのある部屋に戻っていた。

 部屋にいるのは四代目と俺だけ。

 三代目は、どうやら部屋にこもっているらしい。

 四代目が、眼鏡を外して拭いていた。

『……ライエル、ついでだから俺の記憶も見て行くんだ』

 俺は拒否出来なかった。

「はい」





 四代目の部屋に入った俺が見た光景は、三代目たちが危険という報告を受けている若い四代目の姿だった。

 そこでは、泥だらけ、そしてフラフラした騎士が突撃した三代目のことを語っている。

 泣きながら語っているのは、三代目に殴られた若い騎士だった。

『スレイ様が敵陣に突撃を……数の差は絶望的で……申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!』

 泣き続ける騎士を下がらせたのは、三十代の女性だった。

 三代目の奥さんだろう。

『休ませなさい。あの人は本当に……マークス、覚悟を決めなさい。戦争の状況によっては、ここにも敵が来るかも知れません』

『か、母さん?』

 状況を理解出来ない四代目は、唖然として言うのだ。

『嘘だよね。だって、父さんはいつも帰ってきたよ。文句を言いながら、一生分働いたから後はお前が頑張れ、って……いつも……』

 すると、次の伝令が到着する。

 騎士は屋敷に駆け込んでくると、鎧を脱いでいた。

『バンセイム軍が勝利しました! スレイ様が敵を足止めし、時間を稼いでいる間に味方が体勢を立て直しました!』

 三代目の奥さんが。

『あの人はどうしたのです?』

 すると、騎士は――。

『戻ってこられましたが、怪我が酷く……私には知らせに行けとだけ』

 すると、四代目に奥さんが。

『マークス、すぐに供を連れてあの人のところに行きなさい』

 四代目は言われるままに、周囲の者たちに囲まれて準備を始めるのだった。

 場面は変わり、四代目が馬に乗って数名の騎士たちと共に駆けていた。

 焦りを見せている若い四代目を見ていると。

『この時だったんだよね。俺のスキルが発現したのは。ただ、速く到着したかった。父さんに会いたかったんだ。そう思っていると、スキルが発現してさ』

 予定よりも早く到着した四代目が、三代目に駆け寄っていた。

 その様子を見終わると、四代目は周囲の光景を変化させる。

 そこはどこまでも続く道だった。

『戦場が近かったからね。本当に迷惑な話だよ。元凶に恩を感じていたのも馬鹿らしいけどさ』

「あ、あの……」

 四代目は眼鏡を人差し指で位置を正す。眼鏡が光る。

『次のスキルを教えようか。もう、ライエルには使いこなせると思うから』

「は、はい!」

 俺は四代目にスキルを教えて貰う事になった。

 だが、難しい話しでもなかった。

『ま、単純に移動速度の上昇の次は、相手の速度を落とすだけなんだけどね』

 四代目がそう言うと、スキルを使用して見せてくれる。

 すると、俺は急激に足が重く感じるのだった。

 まるで水の中――いや、それ以上の抵抗を感じる。

『スキル【アップダウン】ね。速度の上昇も下降も思いのままだよ。敵の速度を落として、自分たちが速度を上げる。単純だけど、その差は大きく開くから』

 三代目のような派手さはないのだが、それでもこのスキルは凄かった。

 集団戦で二代目のスキルと同時に使用すれば、一気に優位に立てるスキルである。

「凄いですね」

『……三代目程でもないけどね』

 そして、俺は聞きたかったことをたずねる。

「あの、三代目が口伝でスキルをどうとか」

『あぁ、どんなスキルがあるのかは聞いていたんだけど、三代目が伝える前に亡くなったから……初代、二代目、三代目のスキルの応用はウォルト家に伝わらなかったんだよ。けど、効果的だからね。その後も苦労はしなかった』

 そう思うと、俺がこうしてスキルを教えられているのは幸運だった。

 失われていくはずだったスキルが復活し、当時の記憶も知ることができたのだ。

 全ては、あの時だ。

 ゼルの家で声を聞いた時に始まっていたのだろう。

 四代目がスキルの使い方を説明し終わると、俺に言う。

『ライエル、俺は領地を取り戻して欲しいと思っている。愛着があるからね』

「……それは」

 俺が答えにくそうにしていると、四代目は続ける。

『今はそれでいい。三代目はライエルの自由にさせるつもりみたいだ。五代目もそうだろうね。ただ、俺や六代目、そして七代目はお前に領地を継いで欲しいと思っている』

 俺は追い出された身だ。

 そう思っていると、四代目が言う。

『ただ、俺も三代目の記憶を見ると思うところもある。お前の好きにして良いけど、大事なものは守れるようになるんだよ』

「……はい」

 すると、四代目は笑顔になる。

『そうか。ま、ノウェムちゃんや他の面子もいるから、大変だろうけど』

「それは俺の意思じゃ! ……はぁ、なんでもないです」

 そう言ってふて腐れると、四代目は笑うのだった。

 俺も、おかしくなって笑い始める。





 朝。

 目を覚ました俺は、軽い疲れを感じていた。

 昨日の晩に見た三代目や四代目の記憶を思い出せば、嫌でも考えさせられる。

 英雄譚のような戦いではなかった。

 三代目は自分の守りたいものを守るため、四代目はそんな父の最後に間に合うためにスキルを発現していた。

 上半身を起こして背伸びをすると、外を見る。

 朝日が眩しく、ベッドから出るとそのまま窓を開ける。

 セントラルは騒がしく、色んな声や生活音が聞こえていた。

「さて、今日はどうするかな」

 ベイム行きの準備に取りかかっているが、特に問題はなかった。

 情報収集もしているが、特に危険というわけでもない。

 気になるのは、王都であるセントラルの方である。

 ミランダとシャノンが言うには、以前と違って違和感があるらしい。

 俺には分からないが、住んでいた二人は何か感じているのだろう。

(アリアは特に何も言っていないんだよな……そう言えば、今日はアリアが買い出しに行くとか言っていたような)

 アリアが買い出しに行くというのを思いだした俺は、身支度を調えると手伝いにでも行こうかと思うのだった。

 ノウェムは荷物の整理をしているし、クラーラは今日も書店巡りだ。

 モニカの方はポーターの改造のために、貸倉庫で寝泊まりをして作業を進めている。

「あいつのところにも行かないと」

 暴走していないか心配になりつつも、俺は笑顔になるのだった。

(守りたいもの、ね……)





 ――王都近くの街道。

 そこでは、ボロボロの集団に炊き出しをしているウォルト家の兵士たちの姿があった。

 自分たちの後ろについてきた集団のために、食料を提供しているのである。

 ボロボロになった理由は、魔物の襲撃を受けて多くの死者を出したためだ。

 怪我人も多く、何よりも荷物の大半を失った者たちもいる。

 商人など、青い顔をしている者までいた。

 そんな集団の中を歩くセレスは、白くフワフワしたコートを着ていた。

 暖かそうな恰好と同じような笑みで、周囲に手を振っている。

「助けて頂きありがとうございます」
「まるで女神様だ」
「本当に感謝しております」

 周囲はわざわざ自分たちの下に来てくれたと、感謝の言葉を口にしている。

 セレスは上機嫌だった。

 その後ろを、セレス以上に上機嫌な騎士が歩いている。

 アルフレートだった。

 彼の腰には、セレスの褒美である短剣があった。

 セレスは思う。

(誰が襲わせたのかも知らないで、私に感謝して……本当に面白いわね。良いことをした後は気分が良いわ)

 感謝され、崇められ――セレスは上機嫌だった。

 両親に頼んで魔物を自分たちについてきた集団を襲わせた。

 そして、ウォルト家の騎士や兵士たちが魔物を討伐すると、感謝されたのだ。

 セレスは笑いたいのを我慢しつつ、腰に下げたレイピアの柄を撫でた。

 いや、撫でているのは黄色い玉の部分だった。

 そうしてご機嫌に笑顔を振りまくセレスに、アルフレートが声をかける。

「セレス様、お時間です」

「もう?」

 セレスが小首をかしげると、周囲では唾を飲み込むような音が聞こえた。

 アルフレートが周囲に殺気のこもった視線を向けると、セレスは笑うのだ。

「駄目よ、アルフレート。これからはバンセイムの民は、私の民でもあるのだから」

 表情を真剣なものに戻し、アルフレートは言う。

「流石は慈悲深いセレス様です。さぁ、お二人がお待ちです」

 セレスは少し呆れつつも。

「まったく。お父様とお母様にも困ったものね」

 アルフレートが言う。

「大事な時期ですので。それに、王都でのセレス様の晴れ姿……我々も楽しみにしております」

 セレスは黄色い玉を撫でながら、笑顔で――。

「そうね。何しろ……バンセイムが私のものになる日、だものね」
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