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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元不良な六代目

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歌い手

 ――ニヒルのエヴァ。

 ニヒルという一族の三女で、セントラルには旅をする一族を飛び出して来た。

 セントラルで場所代を払って歌っていた彼女は、今は物語を伝えていた。

「グリフォンの出るジオニ村に到着するノーマ率いる遠征部隊。ヒッポグリフと思って連れてきたのは僅か百名の部下たち!」

 これで何度目になるか?

 用意した缶には、小銅貨や銅貨、時には大銅貨も投げ込まれて盛況さを物語っていた。

「ジオニ村を捨て置けないと立ち上がったのは、なんと遠征部隊の隊長であるノーマだった!」

「あのノーマが……」
「嘘っぽい」
「でも、実際にヒッポグリフを持って帰ってきたぜ」
「グリフォンはいないんだろ?」

 エヴァはそれを聞くと、笑顔で言う。

「グリフォン退治に参加した凄腕の冒険者、彼が逃げようとするなかでノーマは彼を説き伏せる! 討伐したグリフォンはお前の物だ! 私に代金を支払え! ノーマの真剣な説得に折れた冒険者は、協力を約束して金貨五百枚でグリフォンを買い取る権利を得た!」

 楽器を持っていないエヴァは、近くにいた吟遊詩人に頼んで演奏をして貰っている。

 周囲にも儲けを分け与え、周囲では人の集まりが途切れることはなかった。

(こんなに盛り上げるなんて思っていなかったわ。やっぱり、新鮮な話題って大事よね!)

 話を聴いて貰い嬉しくなるエヴァは、商売用の衣装を着て周囲に物語を聞かせる。

 本当は歌で伝えたいが、まだ完成していないのでこんな形である。

 ノウェムからは報酬を貰っており、詳細は他の歌い手たちにも教えるように言われていた。

 代わりに、エヴァが求めたのは真実だった、という訳だ。

(私だけが知る真実……いつか歌にしてやるんだから!)

 笑顔で物語を語るエヴァの周囲には、大勢の人たちが集まっていた。

 遠征部隊が帰ってきた事もあって、事実と知ると周囲ではエヴァの話を聞いた歌い手がそれらを真似して物語を語っている。

 噂が広がれば良いので、エヴァにとっては何も問題ない。

 話が終盤に来て――。

「こうしてグリフォンを撃ち取った遠征部隊。たった百名前後の勇者たち……貴方たちも見たわね? 彼らがグリフォンを撃ち取った英雄たちよ!」

 遠征部隊が戻ってくると、多くの人がその姿を見ようと集まっていたのだ。

 話が終わると。

「おい、そう言えばグリフォンを門で運び込む一団を見たとか聞いたよな」
「アレか! なら、本当にグリフォンを討ち取りやがったのか」
「あのノーマが? 今でも信じられないぜ」

 エヴァは笑顔で。

「個別の英雄たちの話が聞きたいなら、明日もよろしくお願いしますね!」

 今日は短い時間だけだったが、稼ぎとしてはいつもの何倍もあった。

 解散する人たちは、新しい話題を聞いて嬉しそうに戻っていく。

 演奏を頼んだ歌い手のエルフに、エヴァは報酬を支払う。

 背の高いエルフの青年二人は、エヴァに言うのだ。

「声が良いな。明日もここで仕事をするのか?」

「俺たちはもうセントラルを出るからな。ニヒル族のエヴァだったか? 一緒に仕事が出来て楽しかったぜ」

 そう言って楽器を持って去って行く二人を見送り、エヴァは手に入れた報酬で今日は何を食べようかと悩むのだった――。





 ――王宮。

 遠征部隊の報告書を提出し、ノーマは疲れた表情をしていた。

 副官のクラークも同様だ。

「陛下にお褒めの言葉を貰うのはありがたいが、どうにも堅苦しいな」

 ノーマがそう言うが、貰った勲章を見てニマニマしていた。

 クラークはソレを見て溜息を吐く。

 同じように勲章を貰ったが、素直に喜べないようだ。

「どうした? 出世も確実。これ以上のことはあるまい。お前も正式に十騎長だぞ」

 クラークは言う。

「ありがたいことです。ですが、あれだけの集団が出世。加えて世襲ではない一代限りととはいえ、騎士が誕生しました。毎年の年金も馬鹿になりませんよ」

 ノーマは言う。

「それは文官共の仕事だ」

 クラークは言う。

「その文官たちが今回の一件を仕組んだとは思えませんか? これだけの人間に支払うお金を、どこから持ってくると?」

 ノーマは気に入らないのか視線を逸らす。

 クラークは嫌なことがおきそうだと気持ちが沈んでいる。

(根暗め。だから出世出来ないんだ。だが、これで私は正式な百騎長……ようやくこの地位に戻ってきた)

 ノーマに両親はいない。

 幼い時に亡くなった母。

 戦死した父。

 そして、家格が下げられ周囲が離れていく中、ノーマは幼い弟のためになんとしても元の家格に戻そうとしていた。

 一つ違えば大きく違う。

 かつての栄光を取り戻し、家の名誉を――。

 そう思って必死に出世を目指してきた。

(報酬で弟に代替わりをさせ、そのまま私は後見に回れば良い。私の不評も何もかも弟の邪魔になるものは引き受ければ……)

 アーネット家は、また武門の家として周囲に認められる――そう、ノーマは思っていた。

 家格を下げられたのは不満だった。

 任務に殉じた父が、不当な評価を受けたからだ

 騎士団に入って、その辺の事情にも詳しくなった。

 アーネット家の格が下がり、新しい家が誕生している。

 しかも、法衣貴族――爵位持ちの次男や三男が、独立するために用意されたのだ。

(陛下がお褒めくださったのだ。今度は私が奪う側だ)

 ノーマの暗い笑みを見て、クラークは溜息を吐いていた――。





「……なんで、俺は同じ過ちを」

 宿屋のベッドの上で、膝を抱えて座っている俺はお腹が痛いのもあるが精神的なダメージも受けていた。

 朝から誰とも会いたくなかった。

 商人にグリフォンを売り渡してからは、暗い表情でボンヤリとしていた。

 ノックが聞こえると、返事をする。

「ノウェムか? 入ってくれ」

「失礼します。ライエル様、お腹の調子はどうですか?」

 食べ過ぎてお腹が痛い。

 ついでに胃が重い感じがする。

 精神的にも追い詰められたせいか、今の俺は暗い表情をしているだろう。

「……いろんな意味で最悪だ」

「そ、そうですか」

 ノウェムは俺の状態を理解しているのか、持ってきたものをテーブルの上に置いた。

「スープを用意しましたから、食べてください」

「……食べたくない」

 膝に顔を埋めると、ノウェムは皿を持ってスプーンを持つ。

「少しでも良いので食べましょう。食べ過ぎに効く薬草も入れていますから。さぁ」

 そう言ってノウェムが「アーン」というと、口を開けてスープを飲む。

 飲みやすくて美味しい。

「……あんなテンションでさえなければ」

 悔しそうに言う俺に、ノウェムは苦笑いをしていた。

「誰だってそういう時はありますから」

「ノウェムにはないよね?」

 そう言うと、ノウェムは――。

「まぁ……あまり変化がない体質なので」

 キッパリと言われ、俺は更に落ち込むのだった。

 六代目が。

『ライエル、お前は本当に面倒臭いな。多かれ少なかれ誰しも経験するんだ。開き直れ』

 すると、七代目が。

『そうだぞ、ライエル。かく言う六代目は、家を飛び出して戻ってきて開き直ったお方だ。普通は戻ってこないぞ。それを平気な顔で……』

 五代目も。

『あったよな。それは俺が教えたのか?』

 七代目が言う。

『はい。お爺さまに聞いております』

 六代目が慌てる。歴代当主の記憶は、最後に触れた時までのものが残っている。最後に死ぬ時までの全ての記憶を持ってはいない。

『それを言うなぁぁぁ!!』

 家出した不良少年の六代目。

 からかうには良いネタだろうが、俺はそれ以上のネタを提供しているのでどうする事もできない。

 忘れたい。

 全てをなかった事にしたい。

「さぁ、ライエル様……あ~ん」

「あーん」

 パクッ、とスプーンを口に含むとスープを飲む。

 四代目がイライラしながら言う。

『……落ち込みつつイチャイチャしてんじゃねーよ』





 夕食時。

 恥ずかしいのを我慢して、宿屋の一階に降りて全員で食事をしていた。

 ションボリしているモニカは、自分のツインテールを両手に持ってイジイジしている。

 俺が寝込んだのが相当なショックというか、自分の不甲斐なさがどうとか言っていた。

(まぁ、モニカだからいいか)

 昨日とは違い、少量の食事をする俺は全員に言う。今後の方針である。

「俺はこのまま自由都市ベイムに行こうと思う。冒険者の都でもあるし、商人が多く品物も豊富だ。荷物を整理したら連結馬車に乗って移動をするつもりだが……何か意見は?」

 シャノンは関係ないと思っているのか、食事を続けていた。

 お前はそれで良いのか? などと思っていると、ミランダがシャノンに話しに参加するように言う。

「ほら、あんたも参加しなさい!」

「叩かないでよ! ちゃんと聞いてるわよ。ベイムでしょ? 自由都市ベイム。私だって知っているわ」

 どこの国にも所属していないというよりも、所属をハッキリさせないことで成り立っている。

 小さな国だと思えば良い。

 港もあって交易も行なわれ、冒険者や傭兵団も数多く滞在している。

 クラーラが言う。

「ベイムにはギルド本部があります。もっとも、冒険者の数も傭兵団も多いので、受付をする場所は四つほどありますね。本部に行くことはないでしょうし、どこで受付を行なうか考えておかないといけないらしいですよ」

 食料を自給出来ない都市だが、そこは周囲の国や領主から買っているのだ。

 バンセイムとは国境を接しておらず、連結馬車で行けるのはバンセイムと他国の国境まで、だ。

 アリアがハムを噛みながら。

「治安が悪いのよね? 女だらけに男は一人……狙われない?」

 男らしくなったアリアに「お前は大丈夫」と言おうとしたら、睨まれたので黙っていることにした。

 ノウェムが言う。

「前からベイム行きは決まっていました。仲間は少ないでしょうが、それでもこれ以上の規模になると維持費も必要になりますからね。狙われる心配はゼロではないでしょうが、数名増えても変わらないと思いますよ」

 金に関して言えば、最近の稼ぎは調子が良かった。

 何しろ、ヒッポグリフに金貨五百枚を出してくれる貴族様がいたのだ。

 人数の問題に関してだが、これ以上の人数を抱えるなら本格的にサポートを用意する必要がある。

 戦闘時の交代要員も必要だ。

 クラーラが言う。

「このパーティーは実力的にもそうですが、特殊なので男性は難しいですね。女性を集めるにしても、セントラルでは難しいと思います」

 アリアは食事を終えて飲み物に手を出している。

「どこかで募集しないの?」

 クラーラは首を横に振る。

「ベイムに行くまでには、小さなギルドがいくつかあります。そこで仕事をしている多くの冒険者は、地域密着型ですから難しいですよ」

 冒険者にも地元思考はいる。

 旅をして迷宮に挑み、仲間を集めて更に冒険を――。

 そういう冒険者ばかりではないのだ。

 ミランダが言う。

「ベイムに行く前に荷物の整理は必要よね。向こうではここより品揃えが良いでしょうし……チケットを買ったら、国境まで移動してそこからは」

 ノウェムが言う。

「調べたと言うよりも、エヴァさんに聞いたのですが、連結馬車はバンセイムやベイムで運用されているようで、ない場所の方が多いと」

 徒歩での移動なのだろう。

 モニカが復活して。

「ではポーターの出番ですね! このモニカがしっかりと改造をしておきましょう!」

 シャノンが言う。

「もう決まり? あ……」

「なんだ?」

 何か言いたそうにするシャノンは、俺を見ていた。

「今まで聞いてこなかったんだけど」

「だからなんだよ」

 シャノンは俺に言う。

「このパーティーの目標ってなんなの? 普通は何かあるでしょ。傭兵団規模になりたいとか、名を上げてどこかの国に仕官したい、とか」

 それを言われて、俺は黙る。

 ミランダが。

「……聞いてこなかったけど、まさかないの?」

 アリアは。

「わ、私は冒険者として一流になりたい、って……他は知らない」

 クラーラは。

「まぁ、サポートとして経験を積めそうですし、このパーティーについて行けば色々と経験は積めそうですね。将来は本屋でも開ければと思っています」

 ノウェムは言う。

「ライエル様の目標は、一流の冒険者になって多くの女性を囲う事ですから。目標の達成は近いですよ」

 俺は両手で顔を塞いで耳まで真っ赤にする。

「違うんだ。確かに言ったけど、本気にするとは思ってなかったんだ」

 周囲の冷たい視線を受けている俺に、モニカは。

「安心しろ、チキン野郎。私はずっとお側にいますよ。離れないからな……絶対に離れないから覚悟しろよ!」

 迫ってくるモニカの頭部を叩く。

「急にテンションを上げるな。怖いだろうが」

「……くっ、色々と通じないから面倒ですね。これがジェネレーションギャップ」

 俺は思った。

(何か言っているけど、絶対に間違っていると思う)

 話が逸れたので、俺は意見をまとめる。

「え~、では、ベイム行きのために準備をするという事で。しばらくは休んで英気を養いつつ、ベイムの情報を集めていきましょう」

 特に反対意見が出ないので、俺はベイム行きを決める。

(そう言えば、しばらく暇になったけどどうやって時間を潰そう)

 情報を集めるといっても、ベイムへ行くためのものだ。

 現在のベイムの様子や、それまでの道が安全かどうか。

 それらを調べるだけである。

(……趣味でも見つけようかな。それに、遊んでみるのも悪くないかも)

 そう思う俺だった。
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