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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

動物大好き効率厨な五代目

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心を掴め

 ジオニ村に到着したら、待っていたのはヒッポグリフではなくグリフォンだった。

 ヒッポグリフを率い、騎士団でも精鋭が相手をする魔物である。

 そんな相手がいるとは知らなかった俺たち遠征部隊――。

 俺は、クラークさんと今後の事を話し合っている。

「ノーマさんの説得を頼めますか?」

 大事なのは指揮権である。

 ここで俺たちだけで対処するのも、ご先祖様たち曰く可能である。しかし、それでは王宮貴族たちの思惑通りで面白くない。

 民家の裏で話し合っているのだが、クラークさんは難しい表情をする。

「ハッキリ言えば難しい。今まで組んだことがない上に、相手が……」

 悪い噂ばかり聞こえてくる女性騎士ノーマ。

 俺も戦闘をしている様子を見たが、あれでは嫌われるというのも理解できた。

 見た目が良いのだから、もっと落ち着いて指揮官らしくして欲しいとも。

 低い声を出す三代目は――。

『サクッと行っちゃおうか』

 それに五代目も同意する。

『無能な指揮官は全体を危険にさらす。運が良さそうにも見えない……ここは名誉の戦死という流れで』

 こいつら怖い!

 俺は難しそうな表情をするクラークさんに、騎士や兵士たちの様子を聞く。

「クラークさん、もしも今の段階でグリフォンがいると知られると、ノーマさんはどう動くと思いますか」

 一番困るのは騒ぎだし、逃げ出すことだ。

 そんな事をすれば、賊になるしか道がなくなってしまう。

 クラークさんは首を横に振る。

「ヒッポグリフを軽く見ているところもある。悪ければ逃げだし、良くて倒して名を上げようと……いや、現実を見ているところもあるから難しいね。私としても逃げ出せるなら逃げたいくらいだよ」

 予想できない、というのは理解できた。

 そうなると、全体が浮き足立ってしまう。

 本気になったご先祖様たちは、クラークさんの話を聞いて即断する。

 四代目が言う。

『ライエル、指揮権を奪おうか』

 俺は少し目を見開いた。

 俺の様子を見て、クラークさんがビクリと体を反応させた。

 怖がられているのが、微妙に傷つく。

(奪えたら苦労しないんだけど……)

 俺は冒険者で、相手は騎士たちだ。

 七代目が冒険者を嫌うほどではないにしても、騎士たちからすれば格下に見られてもおかしくない。

 有名な冒険者や傭兵団ではないので、知名度もセントラルではまったくないのだ。

 二代目が言う。

『……ライエル、村長に話をしに行くぞ。ノーマにはクラークの方から話をして貰おうか。逃げるなら逃げて貰う。おい、お前の出番だぞ』

 そう言って任されたのは、四代目だった。

『こういう時は派手に使う方が良いんだよね……数からして……全部で金貨は五百枚あればいいかな? グリフォンの値段が分からないのは痛いよね。クラーラに聞いてみるとして……いや、セントラルに売りつけようか。言い値で買ってくれそうだね。よし、ライエル――』

 四代目が楽しそうだった。金を貯めるのが好きで、使うのは嫌いなイメージがあったのだ。

『――ゴブリン一体につき、金貨一枚を支払おうか。それから、オークとかその辺は金貨五枚で。ヒッポグリフは金貨五十枚で、グリフォンは金貨百枚だ!』

 報酬としては破格である。

(使う時は大胆に使うんだな)

 そう思っていると、四代目が――。

『回収目標は金貨七百枚以上だ!』

 ――やはり、いつもの四代目だった。

(この守銭奴)

 俺はクラークさんにノーマさんの説得を頼む。

「グリフォンがいる事を伝えて貰えますか。俺を疑うなら、スキル持ちですから証明も可能です。それと、俺の方から話しもありますので、騎士たちにも集まって貰います」

 クラークさんは難しい表情をしたままだ。

「何を考えているのかな? 一箇所に集めて、全員で攻め込むという事はないよね?」

 不安そうにしている。自棄になって、全員で突撃をしようと思われたのか……。

 そこまで言われ、俺は笑うことにした。

 自信を持つ。

 でなければ相手が不安になる。

(そう言えば、ダリオン以来だな……)

 笑顔を向け、クラークさんに言うのだ。

「指揮権を貰います。大丈夫ですよ。終われば全部が貴方たちと義勇兵のものです。グリフォン退治の報酬を期待していてください」

 そう言うと、クラークさんが口をパクパクさせていた。

 六代目が言う。

『よし! そこで止めだ!』

 俺はクラークさんの肩に手を置いて言う。

「大丈夫です。最高の状況に持って行きます。俺は王宮の人たちが喜ぶ姿が見たいんですよ。帰ってくるとは思わなかった遠征部隊が帰還し、グリフォンを運び込んでくる姿……門をくぐって王都の大通りを整列して歩きましょうよ」

 クラークさんは顔が青いままで、泡を吹きそうな感じだった。

「いや、王宮……凱旋と言われても……」

 俺は続ける。

「切り捨てた王宮の貴族たちを困らせ、自分たちは手柄を……乗りませんか?」

 俺が真剣な表情になると、クラークさんは悩んでいた。

 割と真面目そうな人なので、色々と考えているのだろう。

 そして、肩を落とす。

「……話が本当なら、生き残れる確率はない。だが、どうやってグリフォンを倒すのかね? こちらは準備と言えば、弩が少々あるだけだよ」

 弩を持ってきていると聞いて、ご先祖様たちが喜び出す。

 二代目は。

『この騎士は有能だな。少しは見習って欲しいぜ』

 俺に対して、準備不足なところを言っているのだろう。

「見せますよ。皆の見ている前で、ですけどね」

 クラークさんと別れ、俺は村長の下へと歩き出すのだった。





 村長を探していた俺は、村人に指示を出している姿を発見する。

 テントの設営の手伝いに加え、食事の用意を村の住人に頼んでいた。

 全員が暗い表情をしている。

 二代目が言う。

『小さな村に百人規模の遠征部隊。ついでに村の住人は四十人近く、か……絶望してもおかしくないな。しかも遠征部隊が役立たずの集まりだからな』

(……そう言えば、二代目の時はまだウォルト家の領地は集落がいくつかあって、村という形だったよな)

 初代が切り開き、蛮族を従えた。

 基礎を作ったのは、本当の意味で言えば二代目である。

 領民に初代と比べられ、文句を言われても形を整え計画的に村を大きくした人だ。

 三代目は、そんな二代目の計画通りに仕事をしていただけだと言っていた。

 俺は指示をしている村長に、声をかける。

「少し宜しいですか?」

「え? あ、はい。何の用ですか、騎士様」

 騎士様と言われ、俺は笑う。

「冒険者ですよ。遠征部隊に参加した騎士に依頼を受けて参加したんです。話を聞いても宜しいですか?」

 嫌そうな顔を村長がしていた。

 忙しいのだろう。

 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 懐から銀貨の入った小さな袋を取り出すと、村長に手渡す。

 中身を見て、村長は近くにいた若者に「少し離れる」と言って話を聞いてくれることになった。

(お金を渡してばかりだ)

 四代目が言う。

『金の力は偉大だね。ま、この村の今後を思えば少しでも持っていないと大変だろうね』

 そうして村長と二人で話せる場所に来ると、俺は事情を確認する。

「セントラルから送り出された時には、俺たちは魔物がヒッポグリフだと聞いていました。間違いないですか?」

 村長は目を見開く。

「そんな! こちらはちゃんと『グリフォン』と名を書きました! 村の中には近くの林でその姿を見た者もいます! どうしてそんな事に……」

 聞けば、代官は逃げ出してしまって戻ってこないようだ。

 確かに、グリフォンと聞けば逃げたくもなる。

「……逃げるのですか。貴方たちもこの村を見捨てて」

 鬼気迫る表情で俺を見る村長。

 だが、俺は笑顔で言う。

「いえ。退治しますよ。ただ、俺にも思うところがあるんですよ……あの隊長。女性騎士ですが、被害が出ても倒せば良いと思っているところがありましてね。俺もこの村に被害が出るのは心が痛い。そこで、です」

「そ、そこで?」

「協力して貰いますよ、村長。大丈夫ですよ。村も守ってグリフォンを倒す。それだけの事です。ただ、指揮官が相応しくない」

「……私たちに何を? それに、もしもそんな事が上に知られたら」

 上とは代官やこの辺りを管理する者たちだろう。

 セントラルの怒りを買い、人間によって……騎士たちに滅ぼされるかも知れないと、村長は恐れている様子だった。

「安心してください。すでに副官とは話がついています。反対すれば、隊長は立派に戦った名誉の戦死ですから」

 自分で言っていて、嫌な気分になってくる。

 すると、村長は俺を見ていた。

「……貴方の見返りはなんですか? ここまでの事をして、失敗でもすれば」

 失敗すれば死んでしまうが、一番の目的は……。

 俺は思い浮かべたのはラルフさんの顔だった。

 真面目な父親だと思っていたら、とんでもない食わせ者である。

 よく考えれば、宮廷貴族として生きている相手だ。

「少し許せない人がいます。セントラルにいるんですけど、そいつに痛い目に遭って貰うのが目的ですね」

「は、はぁ?」

 分かったような、分からないような表情をする村長に、俺は頼み事をするのだった。

(なんか、段々と世間を知るのは嫌になるな)

 ご先祖様に言われたとおり仕込みを終えると、俺はノウェムたちの下へと向かうのだった。





 ――ノーマが休憩していた民家。

 持ち主がいなくなった空き家で、クラークはノーマの叱責を受けている。

「グリフォンだと? 馬鹿も休み休み言え! 私たちは王宮からヒッポグリフの討伐を依頼されてここに来ている。そんな怪しい冒険者の言を真に受けて……だからお前は出世できないんだ!」

 自分よりも若い女性騎士に叱られているクラークは、我慢をしながら説明を続ける。

「しかし、いくら何でもおかしすぎます。その冒険者はスキルを持っていますし、証明しても良いと……スキルを晒すのは、冒険者だけでなく、騎士にとっても大きな意味があるのは分かっているはずです」

 ライエルがスキルで証明すると言うことは、自分のスキルを教えるという意味だ。

 自分の情報を知らない相手に知らせるのは、冒険者ではなくともリスクがある。

 それに気が付いたのか、ノーマは微妙な表情になる。

「仮にグリフォンだった場合、我々の任務ではない。すぐに帰還する! その冒険者を連れてこい! スキルを証明すれば、このまま撤退だ!」

 ノーマにとって、手柄は欲しいが命も大事なのだろう。

 危険と思えば退いてしまうのだ。

(その臆病さを、もっと準備の段階で出していれば……)

 悔やむクラークだったが、逃げた場合の事を説明する。

「このまま逃げれば、我々は臆病者として騎士として生きていけません。グリフォンがいた事を証明しても、ずっと逃げたことを責められます。それに、最近の噂をご存じのはずでは?」

「噂? なんだ、それは」

 ノーマは本当に知らない様子だった。

 クラークは思いだす。

(しまった。この娘……同僚にも煙たがられていた)

 出世を急ぐあまり、周囲を敵として見ているようなノーマは味方が少ない。

 いや、いないと言った方が良いだろう。

 手柄を奪う行為を繰り返し、若くして出世してきた女性騎士だ。

 周囲は敵ばかりである。

(そうか。だから選ばれたんだろうな。そんな奴の副官に選ばれた私も、人のことは言えないか)

 落ち込むクラークは、王宮での噂を説明する。

 貴族や騎士の家が多すぎる事。

 そのため、人を減らす必要があるという事。

 その面子に自分たちが選ばれている、と。

「仮にグリフォンであったとしても、責められ官位を下げられる可能性もあります。そればかりか汚名まで背負えば、騎士として生きていくことはもう……」

 ノーマは、それを聞いて叫ぶ。

「ど、どういう事だ! 何故だ! 何故、私が選ばれるんだ!」

 混乱するノーマを見て、クラークは言う。

「落ち着いてください! 今はいかにこの状況から勝利を得るのかを――」

「勝利!? 馬鹿か貴様は! グリフォン相手に戦い、勝利を得られるなら私は十騎長ではなく百騎長……いや、千騎長だったはずだ! こんな状況で落ち着いてなど――」

 狼狽するノーマを見て、クラークは今まで補佐してきた誰よりも指揮官に向かないと思った。

 同時に、このままノーマの下で戦えば負けるというのも、理解できる話だ。

 一人の騎士として見れば優秀だ。

 もっと周りを見てくれれば、彼女の言うとおりに千騎長も可能だったかも知れない。

 すると――。

「隊長! 副長! 住人たちが集まっています! マーカスとか言う奴が雇った冒険者が、広場に来るように言っています! それに、住民はヒッポグリフではなく、グリフォンを見たとか……どうなっているんですか!」

 「取り押さえますか?」そう言ってくる騎士に、クラークは首を横に振るのだった。

 混乱している若い騎士を見て、クラークは言うのだ。

「隊長も行きましょう。全員を集めるんだ」

 どのみち、逃げ場などないのだ。

 自分が指揮をして勝てる確率は低い。

(あの少年に賭けるのか……)

 クラークは、未だに悩んでいた――。





 広場に並んだ村の住人を前に、俺は演説をしていた。

 やりたかったのではない。

 ただ、お腹から声を出し、ご先祖様の声の後に続けていた。

 担当は六代目である。

 村の住人を集め、住人の協力が必要だと訴えたのだ。

 だが、自分たちのためなのに全員が乗り気ではなかった。

 そこで、六代目の言った通りに口にする。

『よし、そこで子供たちを見て言え! あの子たちに自分たちの親や祖父は情けなかったと、思われていいのか、とな』

 嬉しそうな六代目の指示通りに、俺は言う。

「自分の子供たちに、情けない姿を見せるのか。俺の親や祖父は、魔物から逃げ出した腰抜けだと笑われたいのか! 仇も討てなかったと、蔑まれたいのか!」

 身振り手振りを使用し、俺は持っている中で見栄えのする装備に身を包んでポーターの上に乗って叫ぶ。

 住民から声が上がる。

「お、俺たちが戦えるわけがないじゃないか!」
「そうだ! 悔しくても、戦う力なんか……だから騎士様を呼んだのに」
「代官だって逃げ出した! お前たちだって逃げ出すだろうが!」

 住民たちの声を聞き、周囲には騎士や兵士たちが集まっていた。

 グリフォンがいるとは知らなかったために、慌てて逃げ出す準備をしている者たちまでいる。

 逃げても遅いと思う。それに、逃げてしまえばどのみち、待っているのはろくな人生ではない。

 セントラルから逃げて、どこへ行こうというのだろうか。

 俺はサーベルを引き抜いて空に切っ先を向けると、魔法を使用する。

 派手に使用するために、初代のスキルである【リミットバースト】を使用した。

 派手に行くために、わざと広場の一部を開けさせている。

 そこに魔法を使用した。

「サンダークラップ」

 曇り空だったこともあり、雷鳴が響き渡り開いた場所に雷を落とす。

 激しい音が周囲に響き渡り、住人たちの中には座り込んで震えている者までいた。

(こ、怖がらせたよな? というか、ここまでするのか)

 俺は不安を悟らせないようにサーベルを肩に担ぐと、淡々と言う。

「逃げても地獄。残っても地獄。なら……戦うしかないだろうが」

 六代目がニヤニヤしながら周囲を見ている姿が思い浮かんだ。

『騎士たちが集まってきているな。仕込みも済ませている。ライエル、ここからだぞ』

 俺は六代目の続くように演説を続けた。

「セントラルに……王宮に見捨てられ、ここですり潰されるか賊にでもなるか道がないんだ。悔しくないのか? 王宮でお前らが死ぬのを待っている連中に、全滅したと知らせが届いて満足か? 生き残れば臆病者と笑われ、逃げ出せば騎士の恥さらし。兵士だろうが関係ない。ずっと笑われ、軽蔑される……お前ら、それで満足か?」

 全員の視線が俺に集まっている。

 派手に魔法を使用し、中には俺を怯えた目で見ている者もいた。

 ダリオンで見せた貴族の馬鹿息子ではない。

 今はライエルとして、この場で演説を行なっている。

 下を向いている者。

 膝から崩れ落ちる者。

 様々だが、全員が諦めた表情をしている。

「……ここで戻って王宮の連中に斬りかかる。それなら大義名分を与え、俺たちは殺される。あいつら、喜ぶだろうな。だが、どうせなら奴らが悔しがる顔を見たくないか」

 誰かが声を上げる。

「悔しがるって……」

 俺は続ける。

「グリフォンを倒す。村を救う。全てをこなして王都に凱旋だ! 俺たちは一躍有名人だ。王宮の貴族たちも、グリフォンを倒した英雄に報酬を与えない訳にはいかない。きっと吟遊詩人が俺たちの事を王都で歌うだろうな。もしかすれば、国中で歌われるかも知れない。英雄になって凱旋し、俺たちは堂々と奴らの前に立つ! 最高の復讐だ。手に入れろ、金を! 手に入れろ、地位を! 手に入れろ……全てを!」

 住人の中で、数人の若者が立ち上がる。

 そして、どこからともなく声がした。

「お、俺はやるぞ! 全てを手に入れる! こんなところで終わってたまるか!」

 すると、また一人二人と立ち上がる。

 その数が多くなると、騎士や兵士たちも立ち上がっていた。

 ポーターの上から見れば、隊長であるノーマや副長のクラークさんが俺を見ていた。

「一世一代の大勝負だ。グリフォンを倒せば英雄だ。お前たちの家族も語り継ぐ! ……この戦いに勝って、全てを手に入れろ!」

 多くが立ち上がり、声を上げる。

「金が欲しいか!」
「「「おう!!」」」

「地位が欲しいか!」
「「「おう!!」」」

「名誉が欲しいか!」
「「「おう!!」」」

「ならば戦え! 俺がお前らを勝たせてやる!!」

 住人、騎士や兵士たちが叫び、拍手をしてくる。

 もっとも――。

『いや~、やっぱりこういう時にサクラ、って大事だよね』

 三代目が最後にネタバレをする。

 最初から、立ち上がって賛同する者たちは、こちらで用意していたのである。

 六代目が言う。

『仕込みは大事ですからな。魔法を見て驚くだけとなると、後で白けますし』

 確かにそうだが、何か間違っている気がする。

 そして、五代目がノーマさんやクラークさんが俺を見ているので、言ってくるのだ。

『さて、心を掴んだなら、次は利だな』

 利――利益。つまりは、金である。





 演説の後に、俺は広場に前もって用意していた机を村長に並べて貰った。

 そして、ミランダさんに運んで貰った箱を、その上でひっくり返して貰う。

 中からは用意していた金貨五百枚が、山のように積み上げられた。

 周囲には、奪われないようにアリアやマーカスさん、そしてブレッドさんに助けた三人組みが囲んでいる。

 ノウェムとモニカは書類を書いていた。

 シャノンはモニカの作成した看板を持っている。

「お、重いから早くして……」

「お前、本当に体力がないな」

 プルプルとしているシャノンに呆れつつ、俺は全員に言う。

「俺の指揮下で戦うなら、魔物一体につき金貨一枚を出す! ある程度の人数で固まっているな? 指揮官には別で報酬を用意した。もっとも倒した集団のリーダーには、別で報酬を出してやる」

 シャノンが持つ看板には、一番で金貨十枚。二番で八枚。三番で五枚――そう書かれていた。

「ゴブリンでも金貨一枚! オークやオーガなら金貨五枚!」

 それを聞いて、兵士や騎士たちが金貨を見てゴクリと唾を飲んでいた。

 そして、住人にも――。

「俺の手伝いをするなら、報酬を出す。女も大歓迎だ。料理に雑用、仕事は山のようにある」

 色めき立つ住人たち。

 二代目が言う。

『やっぱり、報酬があると違うな』

 五代目も言う。

『目に見える報酬というのは、大事だからな。結果的に良くなる、って言葉だけだとやる気が違うからな』

 その姿を見て、俺は自分の認識が甘かったのをまた実感するのだった。

 俺にとってはすぐにでも稼げる金だとしても、それを手に入れることが難しい人たちもいる。

 目先に囚われる人たちを、悪いとは言わない。

 だが、ご先祖様たちが言いたいことを理解した。

「契約書を書いてやる。支払いもしっかりする。俺が嘘をついたとしても、後から請求できるぞ」

 すると、騎士の一人が手を上げる。

「あ、あの……俺は文字がその」

 俺は言う。

「全員同じ書類だ。読める奴に確認して貰え。契約したい者は並べ」

 ミランダさんが金貨をしまい込むと、クラークさんが俺の前に来た。

「ライエル君……少し良いかな」

 その後ろには、ノーマさんがいた。

 全員の視線がノーマに集まっている。





 村長の家を借り、俺はノーマさんとクラークさんの三人で話をしていた。

 今回のグリフォン退治に関して、である。

 だが、俺の予想とは違っていた。

 七代目が呆れている。

『なんという奴だ。まぁ、暴れて貰うよりはマシだな。手間が省ける』

 俺としては、ノーマさんに手を出さなくて良かったと思う反面、呆れてしまう自分がいた。

 机を挟んで向き合うノーマさんは、真剣な表情だ。

「つまり、今回の指揮権は最終的に私……成果も私のもの、という事だな」

 真剣な表情で交渉をしているが、元からこちらはセントラルでの栄誉などいらない。邪魔になるだけだ。

 ノーマさんが駄目なら、クラークさんに全ての功績を持って帰って貰うつもりだった。

「隊長、そんな言い方は」

 クラークさんが割り込むと、ノーマさんは言い放つ。

「大事な事だ! グリフォン退治の功績だぞ! それをやって貰える上に、失敗すればこいつの独断だ。私にはなんのデメリットもない!」

 現状を考えれば、デメリットは少ないという事だろう。

 逃げ帰ることも出来ないのは、ノーマさんも同じだ。

 だが、失敗して死んだとしても、戦って死んだ名誉の戦死である。

 五代目が言う。

『……即座に思考を切り替え、こだわらないのは評価できるな。邪魔をしないだけマシだ』

 俺は頷いた。

「こちらの指示に従って貰えるなら、全ての功績は貴方のものです。ただし、参加した者たちの働きも報告して貰う。それをしなければ、どうなるか分かっていますね? ここにいる全員が、今後は貴方の敵となる」

 流石に理解しているのか、ノーマさんも頷いていた。

「わ、分かっている。報告書には全員に手柄があったと書く! それで私が出世できるのなら……」

 俯いて暗い笑みを浮かべるノーマさんを放置し、俺はクラークさんを見た。

「クラークさんもそれで宜しいですね? 俺としては、従って欲しいんですけど」

 溜息を吐くクラークさんは、首を横に振る。

「ここから私が指揮権を認めないと言えば、隊長共々なぶり殺しに合いますよ。ただ、私は自分の働いた分だけで結構です。報告書にも事実を書いて貰えるなら、従いましょう」

 それを聞いて、ノーマさんが鼻で笑う。

「馬鹿が。正直者が馬鹿を見る、という典型だな」

 そう言われたクラークさんは、悲しそうに呟くのだった。

「そう、かもしれません」

 こうして指揮権の問題は片付くと、俺は仕事もあるのでその場を後にする。

(正直者、か……)

 クラークさんも賄賂は受け取る。

 そうするように仕組んだが、頑固で真面目だけ、という人間でもない。

 だが、嫌いにはなれない人だった。

(なんで、この遠征部隊に選ばれたんだ?)

 不思議に思うしかなかった。

 王宮側が、誰でも良かったと言えばそれまでなのだろうが。





 ノウェムたちの下に戻ると、そこでは何やら問題が起きていた。

 ノウェムが困った顔をしている中で、隣のモニカは次々に契約を済ませていく。

 相手は子供だった。

「僕も戦いたいんだ! お父さんは死んじゃったし、お母さんしかいないから、僕が戦わないと……」

 短い茶色の髪をした少年は、ボサボサ頭だった。

 年齢的には十歳にも届いていないだろう。

 しっかりしているが、流石のノウェムも断っている。

「まだ幼いので、村のお手伝いはどうかしら? それに、戦うと言っても……」

 困惑している理由は、相手が真剣だからだろう。

 真剣な表情で、必死に訴えかけている。

「流石にあの年齢は無理だな」

 そう言って近づこうとすると、三代目が普段の陽気な口調ではなく。

『……兄さんに、似ているね』

 真剣というか、シンミリとした声だった。

 悲しさが混じっており、二代目も――。

『そっくりだ。声も、容姿も……それに、あの真っ直ぐさも』

 懐かしむような二代目の口調。

 俺はどうするべきか悩んでいると、二代目が言う。

『なぁ、ライエル……あの子の面倒を少しでいい。本当に少しで良いから、見てやってくれないか』

 二代目の絞り出すような声に、俺は反対できなかった。
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